白狐とラーメン

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わたしは見てはいけないものを見てしまった

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 伊津野香織という人物は誰がどう見ても、十人が十人美人というくらいの美人さんである。
 二次元を愛好するわたしが見てもすごい美人だな、と思う程度には美人である。
 彼女を語る言葉はわたしの語彙の中にはないが、少し癖の強いショートヘアは非常に素敵であることだけは告げることにしよう。
 わたしはああいう癖の強い髪が好きである。
 好きといえば彼女の足もである。
 下半身、特に腰から足に変えてのラインは、近年まれ見る脚線美である。
 無論、こんな下劣極まる最低な評価など伊津野さんを侮辱するだけなので、絶対に心の内から外には漏らさない。
 わたしのような品性最悪極まる駄目人間にこのようなことを想われるだけでも嫌悪すべき対象となるだろう。
 わたしは紳士的である。
 故にわたしは一切、彼女には触れないのは当然として、彼女と話はしなかったし、なるべく目線も向けなかった。
 甚だ、底辺をさ迷うカースト最下位なわたしの隣に座るような人物ではないのである。
 彼女はカーストの最上位、イケメンとかそういう連中といるべき高嶺の花なのだ。
 それが何を間違えたのかわたしの隣に座ってくる。
 もしこれが普通の人間ならば、自分に気があるのでは? などと思い込み、お近づきになるだろう。
 しかし、わたしは筋金入りの童貞である。彼女いない歴イコール年齢をまい進するわたしが女性と話など出来ようはずもない。
 彼女はきっと何かやむにやまれぬ事情があってわたしの隣に座っているだけなのだ。
 このようなわたしに好意を持つ人間などいようはずがない。そう確信を持っているわたしは、安易な勘違いなどしないのである。
 したがって、彼女が入学して以来、というか彼女がわたしの隣に座ってくるようになって以来、わたしは本当に彼女と口をきいたことがない。
 名前は、彼女が使っているノートに書いてあったからチラりと見ただけである。
 また、入学式で、新入生総代としてあいさつをしたことも吹奏楽部に所属している友人から聞いていた。
 頭が良いらしくよく、掲示板で彼女の名前を見る。運動神経も良いのか、彼女を勧誘しに来る運動部の陽キャたちは後を絶たない。
 容姿端麗、学業優秀、運動神経抜群。
 彼女はおよそ人間として最高のスペックを誇っているといえよう。
 まさしく、主役というのは彼女のような者なのだ。
 さぞや人生は楽しいものであろうとわたしは愚考するわけなのだが、どうにも彼女が笑っているさまをわたしは見たことがない。
 クールで表情のさほど変わらない彼女は、毎日休み時間にわたしの隣に座っては書物を読みふけっている。
 文芸からライトノベル、海外ハードカバーなどなど……。
 どんなものでも読むらしい乱読家である。好きな作家でもいるのかと思えば、単純、作品で読むらしく、同じ作家の書を次々読むということはあまりないようだ。
 休み時間が終わる五分前にきっちりと書物を閉じて、そのまま次の講義に向かっていく。
 そんな非の打ち所がない究極完全真面目の権化たる彼女が今、わたしの目の前でラーメンを食べている。
 それも笑顔で。
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