白狐とラーメン

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伊津野さんの事情

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「ラーメンおまちどう!」
 無言の待ち時間を終えて救世主店長がラーメンを運んできた。
 素晴らしきとんこつラーメンである。
「わぁ……」
 チラリと伊津野さんを一瞥してみれば、なんとも良い顔である。
 いつもクールで無表情な彼女しか知らないわたしからしたら驚天動地の出来事である。
 どうやらラーメンで正解を引いたらしい。
 あのようにキラキラとした笑顔を浮かべる者がラーメン嫌いなはずがない。むしろあれはラーメン好きではなかろうか。
 などと楽観的なことを考えながら、わたしは無言で食べ始めている。
 まずはトッピングから食べるはであるところのわたしはさっさとチャーシューとメンマを処理してしまう。
 ラーメンは麺とそれに絡んだスープを味わうこと至高としている麺×スープ派のカプ厨であるわたしは、トッピングという厄介ものたちを早々に退場させ麺とスープの二人っきりの状況を作り上げることに邁進する。
 博多ラーメンはその点、非常にやりにくい。
 なぜならばきくらげがいるからである。
 博多ラーメンは大大好きであるが、あのきくらげはそこまで好きではない。
 チャーシューネギ、ゴマとともにわたしもトッピングの一員ですよと大きい顔をしているやつをわたしは嫌悪している。
 あらかじめ言っておくが、わたしはきくらげが嫌いというわけではない。
 ただそのカプは解釈違いなのだ。
 麺とスープで幸せになってもらうべきであって、きくらげが麺とスープの間に挟まるなど合ってはならないというと思っているだけなのである。
 何度も言うが、きくらげが嫌いというわけではないので勘違いはしないでほしい。
 きくらげ業者の方がいたら、真に申し訳ないと謝るほかない。
 しかし、ラーメン好きを自称する上でわたしの主張としていうだけは言わせてほしい、きくらげと麺、きくらげとスープは甚だ解釈違いであると。
 故にわたしはいつも通りトッピングを平らげ麺を啜る。今回はめんまであるので非常にやりやすい。
 ラーメンのトッピング諸兄らはみなメンマを見習うように。
 それはさておき、濃厚なとんこつスープがパンチするように味覚中枢を刺激する。
 とんこつとにんにく、二つが揃ってパンチのきいたスープになっている。
 二回目だからどうしたというのが、こんなうまいものは他にはありえない。
 うまいものならいくらでも食える、飽きは来ない。飽きるということは愛が足りないということだ。
 我がラーメン愛は圧倒的であると自負している。
 わたしはいつまでもラーメンを喰い続けられるが、ごくたまに健康を気に使ったりもする。
 この辺りもわたしが中途半端な駄目人間である由縁であろう。振り切れてしまえば、人生はラーメン色一色だったであろうに。
「おいしいです、先輩」
 さて、それはそうと伊津野さんもラーメンをすすっている。
 上品さを感じさせる食べ方であるが、きちんとラーメンの作法に則って啜っているところは非常に好感が持てるというものだ。
「それは良かった」
 伊津野さんはラーメンを喜んで食べている。
 笑顔である。はじめてみた彼女の笑顔がラーメンを食べている姿とは、彼女のことが好きな男子諸兄らには悪いことをしているようにも思える。
 クールな彼女が破顔しているさまを見るというのは、なんだかいけないものを見ているような気分にもなるし、優越感が浮かんでくるような気すらしてくる。
 いやいや、わたしはそんな気分に浸れる人間ではない。
 思い出せ、わたしはなんだ?
 わたしは、意志薄弱、優柔不断、薄志弱行、三拍子揃った駄目人間である。
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