白狐とラーメン

テイク

文字の大きさ
9 / 14
伊津野さんの事情

9

しおりを挟む
「替え玉、粉落としで」
 粉落としを注文できるラーメン屋は少ない。
 大抵がバリカタである。しかし、これにも疑問である。
 バリとは博多弁である。意味はとってもとか、そんな感じの意味である。
 それを全国的に使っているのは一体どういうことなのだろうか。
 これこそはラーメンの聖地が博多であるという証明なのではないかと、個人的解釈はあったりするが、今は関係ない。
「はいよ」
 今関係があるのは替え玉である。
 ラーメン屋に行けばわたしは必ず替え玉をする。
 替え玉がない店は二度と行かないだろうくらい、わたしは替え玉を愛している。
 それは満足感だけの問題ではない。
 そのラーメン屋の麺の美味さを知るためには必要な行為であるからだ。
 ラーメンを作る都合上、最初の麺は必ず頼んだ硬さよりも柔らかくなる。スープを入れ、麺を入れ、トッピングという工程をするが故の仕方のないことである。
 しかし、カタメン至上主義のわたしは、それでは満足できない。
 何よりも硬くコシのある麺を食べるために、わたしは替え玉をする。替え玉は必ず注文通りの硬さになるからだ。
 まだ、その時に初めて、何にも侵されていない麺本来のうまみも感じ取ることが出来る。
 スープに長時間浸かった味ではない、本当の麺の味を味わうことが出来るのだ。
「よく食べるのですね」
 替え玉をしたわたしにそう聞いてきたのは、伊津野さんである。
 彼女も食べ終えているようだ。
「ああ、替え玉は必ずする」
「そうですか。私も良いですか」
「ああ、良いぞ」
 ダメとは言えないのがわたしである。
 いいかっこしたい思いがあるが、これは決して彼女だけのことではない。わたしは誰にでもいいかっこがしたいのである。
「替え玉二つ、お待ち」
 やってきた替え玉をスープに投入。ラーメンタレを適量かけて即座にかっこむ。
 この歯ごたえ、このコシ、これがたまらない。
「ん……おいしいです」
 伊津野さんもその虜であるようだ。彼女は相当行けるクチなのかもしれないなどとわたしの楽観回路が思い始めている。
 いかんいかん、思い出せわたしはいったいここに何をしに来たのかを。
 ただ後輩にラーメンを奢りに来たわけではないのだ。
 しかし、それはそれとしてうまいラーメンを食べなくてはならない。神の食べ物ではあるが、食べる最適な時間というものがあるのだ。
 ラーメンの寿命は短い。どのような料理以上に儚いものなのである。
 数分もしないうちに熱いうちに、ただ食べろ。その間、話すことは許されない。
「…………」
「ふぅ……おいしかったです。これがラーメンですか」
 まるで始めた食べたようなもの言いである。
 もしかしたら伊津野さんは初めて食べたのかもしれない。そんなことがありえるだろうか。
 神の食べ物たるラーメンを今まで食べたことがないだなんて、そんなことあり得るだろうか。
 信じられない思いであるが、もしかしたら彼女は相当なお嬢様とかそういうものかもしれない。
「ありがとうございます、先輩。お腹が空いていたので、助かりました」
「あ、ああ、わたしもなんか助けられたし」
「はい、危なかったですね。妖怪の捕食シーンに出くわすなんてとんだ不幸です」
「妖怪……? あの昆虫怪人みたいなのが……?」
「はい。実際は色々分類があるようですが、面倒なので全てひとくくりにして妖怪と呼んでいます」
 なるほどあれは妖怪、あやかしの類であったか。
 伊津野さんの言葉には説得力がある。
 もとより彼女は歯に衣着せぬ物言いをする御仁であるという風の噂がある。
 そのおかげで同回生の間では遠巻きにされているのだとか。それでもその美貌を狙う者は多いとも聞くが。
 ともかくそんな信じがたいことでも彼女の言葉ならば信じてしまいそうになる。
「それじゃあ、君は……?」
「はい、わたしは白狐の先祖返りです」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...