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伊津野さんの事情
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「替え玉、粉落としで」
粉落としを注文できるラーメン屋は少ない。
大抵がバリカタである。しかし、これにも疑問である。
バリとは博多弁である。意味はとってもとか、そんな感じの意味である。
それを全国的に使っているのは一体どういうことなのだろうか。
これこそはラーメンの聖地が博多であるという証明なのではないかと、個人的解釈はあったりするが、今は関係ない。
「はいよ」
今関係があるのは替え玉である。
ラーメン屋に行けばわたしは必ず替え玉をする。
替え玉がない店は二度と行かないだろうくらい、わたしは替え玉を愛している。
それは満足感だけの問題ではない。
そのラーメン屋の麺の美味さを知るためには必要な行為であるからだ。
ラーメンを作る都合上、最初の麺は必ず頼んだ硬さよりも柔らかくなる。スープを入れ、麺を入れ、トッピングという工程をするが故の仕方のないことである。
しかし、カタメン至上主義のわたしは、それでは満足できない。
何よりも硬くコシのある麺を食べるために、わたしは替え玉をする。替え玉は必ず注文通りの硬さになるからだ。
まだ、その時に初めて、何にも侵されていない麺本来のうまみも感じ取ることが出来る。
スープに長時間浸かった味ではない、本当の麺の味を味わうことが出来るのだ。
「よく食べるのですね」
替え玉をしたわたしにそう聞いてきたのは、伊津野さんである。
彼女も食べ終えているようだ。
「ああ、替え玉は必ずする」
「そうですか。私も良いですか」
「ああ、良いぞ」
ダメとは言えないのがわたしである。
いいかっこしたい思いがあるが、これは決して彼女だけのことではない。わたしは誰にでもいいかっこがしたいのである。
「替え玉二つ、お待ち」
やってきた替え玉をスープに投入。ラーメンタレを適量かけて即座にかっこむ。
この歯ごたえ、このコシ、これがたまらない。
「ん……おいしいです」
伊津野さんもその虜であるようだ。彼女は相当行けるクチなのかもしれないなどとわたしの楽観回路が思い始めている。
いかんいかん、思い出せわたしはいったいここに何をしに来たのかを。
ただ後輩にラーメンを奢りに来たわけではないのだ。
しかし、それはそれとしてうまいラーメンを食べなくてはならない。神の食べ物ではあるが、食べる最適な時間というものがあるのだ。
ラーメンの寿命は短い。どのような料理以上に儚いものなのである。
数分もしないうちに熱いうちに、ただ食べろ。その間、話すことは許されない。
「…………」
「ふぅ……おいしかったです。これがラーメンですか」
まるで始めた食べたようなもの言いである。
もしかしたら伊津野さんは初めて食べたのかもしれない。そんなことがありえるだろうか。
神の食べ物たるラーメンを今まで食べたことがないだなんて、そんなことあり得るだろうか。
信じられない思いであるが、もしかしたら彼女は相当なお嬢様とかそういうものかもしれない。
「ありがとうございます、先輩。お腹が空いていたので、助かりました」
「あ、ああ、わたしもなんか助けられたし」
「はい、危なかったですね。妖怪の捕食シーンに出くわすなんてとんだ不幸です」
「妖怪……? あの昆虫怪人みたいなのが……?」
「はい。実際は色々分類があるようですが、面倒なので全てひとくくりにして妖怪と呼んでいます」
なるほどあれは妖怪、あやかしの類であったか。
伊津野さんの言葉には説得力がある。
もとより彼女は歯に衣着せぬ物言いをする御仁であるという風の噂がある。
そのおかげで同回生の間では遠巻きにされているのだとか。それでもその美貌を狙う者は多いとも聞くが。
ともかくそんな信じがたいことでも彼女の言葉ならば信じてしまいそうになる。
「それじゃあ、君は……?」
「はい、わたしは白狐の先祖返りです」
粉落としを注文できるラーメン屋は少ない。
大抵がバリカタである。しかし、これにも疑問である。
バリとは博多弁である。意味はとってもとか、そんな感じの意味である。
それを全国的に使っているのは一体どういうことなのだろうか。
これこそはラーメンの聖地が博多であるという証明なのではないかと、個人的解釈はあったりするが、今は関係ない。
「はいよ」
今関係があるのは替え玉である。
ラーメン屋に行けばわたしは必ず替え玉をする。
替え玉がない店は二度と行かないだろうくらい、わたしは替え玉を愛している。
それは満足感だけの問題ではない。
そのラーメン屋の麺の美味さを知るためには必要な行為であるからだ。
ラーメンを作る都合上、最初の麺は必ず頼んだ硬さよりも柔らかくなる。スープを入れ、麺を入れ、トッピングという工程をするが故の仕方のないことである。
しかし、カタメン至上主義のわたしは、それでは満足できない。
何よりも硬くコシのある麺を食べるために、わたしは替え玉をする。替え玉は必ず注文通りの硬さになるからだ。
まだ、その時に初めて、何にも侵されていない麺本来のうまみも感じ取ることが出来る。
スープに長時間浸かった味ではない、本当の麺の味を味わうことが出来るのだ。
「よく食べるのですね」
替え玉をしたわたしにそう聞いてきたのは、伊津野さんである。
彼女も食べ終えているようだ。
「ああ、替え玉は必ずする」
「そうですか。私も良いですか」
「ああ、良いぞ」
ダメとは言えないのがわたしである。
いいかっこしたい思いがあるが、これは決して彼女だけのことではない。わたしは誰にでもいいかっこがしたいのである。
「替え玉二つ、お待ち」
やってきた替え玉をスープに投入。ラーメンタレを適量かけて即座にかっこむ。
この歯ごたえ、このコシ、これがたまらない。
「ん……おいしいです」
伊津野さんもその虜であるようだ。彼女は相当行けるクチなのかもしれないなどとわたしの楽観回路が思い始めている。
いかんいかん、思い出せわたしはいったいここに何をしに来たのかを。
ただ後輩にラーメンを奢りに来たわけではないのだ。
しかし、それはそれとしてうまいラーメンを食べなくてはならない。神の食べ物ではあるが、食べる最適な時間というものがあるのだ。
ラーメンの寿命は短い。どのような料理以上に儚いものなのである。
数分もしないうちに熱いうちに、ただ食べろ。その間、話すことは許されない。
「…………」
「ふぅ……おいしかったです。これがラーメンですか」
まるで始めた食べたようなもの言いである。
もしかしたら伊津野さんは初めて食べたのかもしれない。そんなことがありえるだろうか。
神の食べ物たるラーメンを今まで食べたことがないだなんて、そんなことあり得るだろうか。
信じられない思いであるが、もしかしたら彼女は相当なお嬢様とかそういうものかもしれない。
「ありがとうございます、先輩。お腹が空いていたので、助かりました」
「あ、ああ、わたしもなんか助けられたし」
「はい、危なかったですね。妖怪の捕食シーンに出くわすなんてとんだ不幸です」
「妖怪……? あの昆虫怪人みたいなのが……?」
「はい。実際は色々分類があるようですが、面倒なので全てひとくくりにして妖怪と呼んでいます」
なるほどあれは妖怪、あやかしの類であったか。
伊津野さんの言葉には説得力がある。
もとより彼女は歯に衣着せぬ物言いをする御仁であるという風の噂がある。
そのおかげで同回生の間では遠巻きにされているのだとか。それでもその美貌を狙う者は多いとも聞くが。
ともかくそんな信じがたいことでも彼女の言葉ならば信じてしまいそうになる。
「それじゃあ、君は……?」
「はい、わたしは白狐の先祖返りです」
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