白狐とラーメン

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伊津野さんの事情

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 先祖返り。
 言葉通りにわたしが知っている意味を述べるならば、親に現れていない、先祖の遺伝形質が、子に現れることである。
 あの狐の耳と尻尾は彼女の先祖から受け継がれたものであるらしい。つまり、彼女の祖先はどこかで妖怪か妖狐などと交わったらしいのである。
 どこの神話の世界だろうか。
 それを確認の意味で言ったら。
「はい、概ねその認識で間違いありません」
 とのお墨付きをもらえた。
 いつものわたしならそんなうそっぱちと内心で笑い飛ばすところである。
 しかし、実際に見てしまった以上、それを否定することはいわれもない批評であり、難癖に他ならない。
 いいかっこをしたいわたしとしては難癖は格好悪い行為である。
「そうか……」
「あまり驚いていませんね」
「まあ、幽霊がいることは知っていたから」
 それにわたしはそんな不思議があることを実際に知っているのである。
 いつの頃だったか、とにかく昔、わたしは幽霊に憑りつかれたことがある。低級の獣霊だったらしいため、それほど大変なことにはならなかった。
 せいぜいが、度を越した睡魔という弊害しかなかった、受験前の学生にとってはその睡魔ほどの大敵はなかったわけだが。
 そう幽霊に憑かれると眠くなるのである。それはただの寝不足では? と思われるかもしれないが、存分に眠ったあと、疲れはなにもない状態で異常に眠いのである。
 愛すべき両親から真面目を受け継いだわたしは、授業中に寝ることなどありえない。
 先生への評価を気にする駄目人間だからである。
 そのわたしが、とにかく眠かった、寝るしかないと思ったのである。どんなに手をつねっても効果はない。
 コーヒーもなにも効かず、ただ異常な眠気が襲っていたのである。
 明らかな異常事態である。異常事態だったのだ。
 その時は知り合いに祓ってもらった。塩は本当に幽霊に効くらしい。
 頭からぶっかけられたが、そのおかげで睡魔は消え失せたのである。しばらくの間、わたしは塩味だった。
 わたしの周りにはそういうスピリチュアルな方々がたくさんいるのである。類は友を呼ぶのか、あるいはわたしの体質やら運命がそうさせるのか。
 どうにもわたしは幽霊やらそういうものを引き寄せる体質であるらしいのである。
 しかも自覚のない無自覚に引き寄せてしまう。
 霊感自体はそれほどないため幽霊を見ることはできないが、感じ取ることは出来る。
 なんかヤバいと思うことは多々あったりする。
 知り合いは落ち武者と戦ったりしたこともあるらしい。落ち武者は温かく、生きているとのこと。死んでいるのに生きているとはこれ如何に。
 まあ、そういうわけで、世の中スピリチュアルが隠れていることを知っているのだ。
 そんなわたしは、伊津野さんの話を一蹴することが出来ない。
 そういうこともあるのだろうと思ってしまっている。なによりあるべきものはそのまま受け入れた方が面倒がない。
 わたしは面倒くさがりなのだ。高尚な考察は、別の誰かに任せるとしよう。
「なるほど、先輩は幽霊に憑りつかれたことがあると」
「そういうこと。それに色々と見てしまった」
 見てしまったのならもうそれは信じなければならない。見てしまったものを否定しては、もう人間として終わりである。
 見たものを信じられないのならわたしはわたし自身を信じられなくなってしまう。
 待ち受けているのは孤独な死であろう。
 死にたくないわたしは、断固として自分自身だけは信じ続ける所存だ。
「それで、君は何をしているのだ」
「……私はこの土地の調停者をしています」
「調停者?」
「はい、先輩も見た通り、この世には妖怪あやかし、幽霊など人の身ならざる者がいるのです。そいつらは時折、問題を起したり、騒ぎを起こしたりします」
「なるほどその問題解決を君がしているのか」
「はい」
「なぜ、そんなことを……」
「母から引き継いだ仕事ですので」
 なるほど、それならば仕方ない。
 得てしてこの業界。スピリチュアルな業界は、誰からか、祖母か、母親か、そういうものから引き継ぐ場合が多いのである。
「とりあえず、先輩は関わってしまったのでひとつお付き合いしてほしい場所があるのですが」
「まあ、それで今後、大丈夫になるのなら」
 スピリチュアル騒ぎを舐めてはいけない。
 何事も全て終わりまでいっておかなければならない。
 中途半端をしては大変なことになる。それがこのスピリチュアル界隈の鉄則である。
「ありがとうございます。では、こちらへ」
 わたしは、彼女についていくことにした。
 まだまだこの夜は続くようである。
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