白狐とラーメン

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五月 万の店の仕事

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 店に一歩踏み入れたわたしの第一印象は、わけがわからない、である。
 外観に似合わず、いや、ある意味お似合いで田舎の駄菓子屋めいた商店具合を発揮しているのはまだわかる。
 だが、そこに置いてあるものはわけもわからないものばかりである。
 まるでおとぎ話の魔女の家のよう。よくわからない蜥蜴の死体のようなものが干してあったり、お札が無造作に陳列されていたりする。
 水晶玉やら宝石やらが無造作に放置されていれば、巨大な招き猫やタヌキがスペースを占領している。
 そして、そのどれにも深い埃が降り積もっていた。
 もしやここは新手の廃墟なのでは、とわたしに思わせるには十分すぎる構えである。
「ここ、やっているのか……?」
 そう伊津野さんに問うたのは必然のことであろう。
「やっています。ただ、あまり片付けなどを自分でやる人ではないのです」
 なるほど、店主はまともな人物ではなさそうである。スピリチュアル界隈の重鎮方にはお会いしたことないが、アニメなどでは大抵まともではない。
 現実でもその法則が働いているのかもしれない。帰りたい。
 しかし、今更、帰ることはできないであろう。毒を食らわば皿までともいうではないか。
 これから食すのが毒という前提は非常に偏見じみた悪い決めつけであろうが、しかしてこんな惨状を放置している万事屋というものを信用できるかといえば出来るはずもない。
 わたしは良識的な駄目人間なのである。誰かを家に上げるときには、必ずと言っていいほど掃除をする。
 もちろん収納スペースに限りなく見られたくないものを詰め込む。猥褻図書も無論そこに詰め込み、清廉潔白を演出するのである。
 そういうこともしない、この惨状を見てわたしの中でこの店の店主の評価がわりと下方修正されて行った。
 しかし、伊津野さんの知り合いという点を考慮しなければなるまい。彼女は見る限り常識をわきまえた人物である。
 その人が信用しているというのなら、信用するに値するだけの何かがあるのではないかと考えるべきではないか。
 そう答えがすぐ目の前にある不毛な考えを延々としているうちに、伊津野さんの先導でわたしは店の奥へと歩みを進めることになる。
 どうやらあのような埃も積もりに積もった散々たる惨状なのは店先だけであるらしい。
 奥の廊下はきいきいと良い音を鳴らす軋みがあるものの、しっかりと雑巾がけがしてあるらしく、足跡が付くようなことはなかった。
 廊下に物はなく、綺麗に片付いているではないか。埃ひとつない古びた廊下というのは実に趣深くわたし好みであった。
 旧い建物の匂いというのは熟成されたワインのように芳醇な香りをしている。田舎の親戚の家を思わせどこか落ち着くが、こちらはさらに深みがあるようであった。
 熟成に熟成を重ねた芳醇極まるその匂いはともすれば酔っぱらいそうになるほどである。
 廊下を右へ左へ、どこへ曲がるのか複雑怪奇な廊下を進む。
 ここらでひとつ気が付いたことなのだが、外で見たこの店の大きさと明らかに一致していない。
 これまた奇怪なと思うが、まあ、そういうこともあるだろうと受け入れ体勢である。
 スピリチュアルな現場ならばそういうことも起こるだろう。学校の怪談と同じである。
 よくある階段の段数が変わるというあれと似たようなものだ。まだ実害がない分、むしろ有用とすら思える。
 利用できる空間は大いに越したことはないのである。
「ここです」
 おそらくは最も奥の部屋だろうに通される。
 襖を開いたわたしたちを最初に向かえるのは煙たさであった。
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