二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
31 / 125
赤薔薇 ジークハルト

温かな光

しおりを挟む
「ジークハルト様が、微笑んでいる……」
 テーブルに二人のお茶と菓子を用意しながら、小声でカリーナが驚いたように小さな声でそう零した。
「珍しいのですか?」
 あまり大きな声で話してはいけない事だと悟り、ビルギットも声を殺して訊ねた。
「ええ、特に女性に微笑まれるなんて、私はこのお城で働いてから初めて見ました」
 二人の視線の先で、二人がぎこちないながらも会話をしていた。

「ジークハルト様、少しお疲れではありませんか?」
「……君にはそう見えるのか?」
「はい。ジークハルト様の光が、少し陰っています」

 ヴェンデルガルトは、その意味を簡単に説明した。
「疲れや怪我をしていると、その人から放たれる光がおかしく見えるんです。ジークハルト様は、お怪我や病気をされているようには見えません。そうなると、お仕事でお疲れなのかしら?」
「君には、その光が見えるのか?」
「はい。すぐに終わります――癒しハイルング
 ヴェンデルガルトは、ジークハルトの額辺りに手をかざした。ぽわ、と光がその白い手から産まれて、光が自分の身体を走り抜けるような感覚がした。
「いかがですか?」
 少し窺うようにヴェンデルガルトが自分を覗き込む。頭がスッキリとして、心なしか身体が軽くなったような気がする。何より、彼女から産まれた光はとても気持ちが良かった。

「――有難う。身体が軽くなった」
 初めて、魔法を体験した。イザークの言葉は、間違ってはいない。ジークハルトに礼を言われると、安心した様にヴェンデルガルトは笑みを浮かべた。
「ジークハルト様、温かい内にガヌレット……食べませんか?」
 甘い香りが、ヴェンデルガルトを誘っているようだった。ドレスや宝石を望まず、素朴なお菓子をねだる少女は新鮮だった。
「そうだな、折角だから頂こう」
 ジークハルトは椅子から立ち上がると、ベッドから降りようとしたヴェンデルガルトに手を差し伸べた。昨日気を失っていたので、ドレスのままだった。それに気付きもせず、また寝ぐせの様にくるりと撥ねた髪も可愛らしい。自分の手を取りベッドを降りたヴェンデルガルトの手を握ったまま、テーブルにエスコートする。
「これは、ビルギットが作ったのね?」
「勿論です。ヴェンデルガルト様のガヌレットは、私が作ると決まっていますから」
 二人が席に着くと、カリーナがお茶をカップに注いだ。爽やかな香りのお茶らしい。
「この茶葉は?」
「ジャバか? もしそうなら、俺の好きな茶だ」
「そうでございます」
 酸っぱい実のなる葉で作られたお茶だ。葉にもその爽やかさが移るので、甘いものと一緒に食べるのに相性がいい。
「ジークハルト様、ビルギットが作るガヌレットはとても美味しいんです。カリーナさんも、是非食べて欲しいわ」
「ヴェンデルガルト様、ご安心を。先に味見をさせて頂きました。とても美味しかったです」
「まあ! ふふ、なら良かったわ」
 もう一人のメイドは、彼女が目を覚ましてから付けたメイドの筈。こんなにも仲良く、楽しげに話している様子を、ジークハルトは少し驚いて眺めた。茶会などでメイドに親しげに話す淑女レディを、見た事が無い様な気がする。メイドが主に親しげに話すこと自体珍しいのだが。
「さあ、ジークハルト様」
 ヴェンデルガルトは、どうしても自慢のメイドが作るお菓子を、ジークハルトに食べて貰いたいらしい。促されて、「では」と口に運ぶ。
「……美味い」
 素朴な食べ物なのに、ジークハルトはそのお菓子は今まで自分が食べてきたものと違うような気がした。なにか、香辛料のような香りがする。
「今の時代は、ラズナーを入れないみたいですね。ヴェンデルガルト様の時代は、ラズナーを入れていたんです」
 ビルギットが頭を下げてジークハルトに説明をした。確か、ラズナーとは木の皮から採れる香辛料だ。独特の風味があり、料理にも多く使われる。バターと砂糖だけでは甘いだけでその甘さにすぐ飽きが来るが、これならスッキリ食べられる。
「気に入ってくださってよかったです――うん、美味しい」
 ジークハルトの感想に満足したのか、ヴェンデルガルトもガヌレットを食べ始める。
「これを食べ終わったら、ヴェンデルガルト嬢に頼みがある」
 お茶を一口飲んで、ジークハルトはすまなそうに口を開いた。
「何でしょう?」
「昨夜負傷した騎士に、治癒魔法をかけて欲しいのだが……」
 魔法は、使いすぎると身体に負担がかかると聞いていた。ジークハルトはこんな小さなか細い少女に負担をかける事を願うのは、心苦しかった。
「まあ、大変! 分かりましたわ、私はお世話になってるのですから、必要な時は遠慮なさらず言ってくださいね」
 ジークハルトの気持ちを理解したのか、ヴェンデルガルトは彼を安心させるように微笑んだ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。 彼女は国王の隠し子なのである。 その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。 しかし中には、そうではない者達もいた。 その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。 それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...