二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
50 / 125
南の国の戦

赤い目

しおりを挟む
「私が?」
 ビルギットの言葉に意図が分からず、ヴェンデルガルトは首を横に傾げた。
「まずは、水を汲んできましょう」
 ビルギットが言うと、騎士たちは不思議そうな顔をしながらも横に流れている川から水を汲んできて、二つの馬車の分の水瓶を一杯にした。
「ヴェンデルガルト様、治癒魔法をお願いします」
「そう言う事ね!」
 ようやく、ビルギットも言葉の意味が分かった。治癒魔法を使い、水を綺麗にするのだ。水瓶二つを浄化するのにそんなに力は必要ではないし、何度か停まって行えばいい。
ゼーレンライニグング
 ぽわっとした光が現れると、その光は二つの水瓶を包み込んだ。
「なんだか、少し甘い。砂糖の甘さではなく、落ち着く感じがしてまろやかです」
 ディルクが水瓶の水を口にして、ほっとした顔になる。
「では、急いで戻りましょう。ランドルフ様は、横になりやすいこちらの荷馬車へ。こちらの馬車の乗車室ヴァーゲンは出来る限り血を拭って、綺麗にしましょう」

 ランドルフの血が乗車室を汚していたので、川の水で手早く洗った。そうして念の為、乗車室に乗っていたグルベルトや騎士たち、馬たちにもヴェンデルガルトは治癒魔法をかけた。そうして、出来る限り血を拭った乗車室にも魔法をかける。荷馬車にはランドルフと医者、ビルギット。そして騎士三名。ギルベルトの方の馬車に、ヴェンデルガルトと残りの騎士が乗る事になった。

 火を消し、ギルベルトはヴェンデルガルトが乗るのを助ける様に、腕を伸ばした。ヴェンデルガルトがその手を取ろうとした時だ。
 何かが勢いよく走り寄ってきてヴェンデルガルトの身体を抱き、その場からさらった。
「ヴェンデル!」
 ギルベルトの声が上がる。その声にみんなが、ヴェンデルガルトの姿を探した。少し離れた所に、青年がヴェンデルガルトを抱き締めて立っていた。
 白に近い銀髪に、赤い瞳。肌は浅黒く整った顔立ちだが、険しい顔をしている。その彼を見たギルベルトは、ハッとして声を上げた。
「あなたは、バーチュ王国の第三王子、アロイス様! 彼女をお放しください、そのお方は――!」
「治癒魔法を使う、二百年前の王女らしいな。この戦で、活躍して貰う」
 そう言うと、彼は指を口に当てて甲高い指笛を吹いた。すると、十余名の戦士と駱駝らくだが現れた。ヴェンデルガルトはというと、突然の事と自分を抱く強い力に身動き出来ずにいた。
「ヴェンデルガルト様!」
 ビルギットが悲鳴に似た声を上げる。その言葉にようやく状況を理解して、ヴェンデルガルトは身動みじろぎをする。
「ヴェンデルガルト様を離せ!」
 商人姿の黄薔薇騎士が刀を構えてアロイスに向かうが、彼はそれを避けると腰に下げていた僅かに曲がった細身の片刃剣で逆に切りつける。ヴェンデルガルトを抱いたままなので反撃しないだろうと思っていた騎士は、不意を突かれて腕を大きく斬られた。
治療ベハンドルング!」
 反射的に、ヴェンデルガルトはその騎士に治癒魔法をかけた。怪我は、瞬時に治る。その様子を見て、アロイスは唇を歪めて笑った。
「そうだ、この力だ。皇国の貴族にこの話を聞いて、手に入れられないかと様子を窺っていた。申し訳ないが、戦が終わるまで王女は俺たちと一緒にいて貰う」
 彼の部下が駱駝を連れてくると、アロイスはヴェンデルガルトを抱いたまま綺麗姿勢で駱駝の背に乗った。ヴェンデルガルトが捕まっているため、騎士たちは手が出せない。

「あなた、目が赤い――龍の血を引いているの?」

 ようやく真っ直ぐアロイスを正面から見たヴェンデルガルトが、驚いた声を上げた。そう声をかけられたアロイスも、驚いた顔になる。ビルギットもその言葉に彼をまじまじと見る。

「コンスタンティンが言っていたわ――龍の血を引く者は、目が赤いと……」

 コンスタンティンも、人間の姿になると金の髪に赤い目をしていた。
「行くぞ!」
 アロイスはその言葉に何も言わず、部下に指示する声を上げた。
「いいか? もし追ってくるのであれば――王女の命はないと思え」
 それが脅しではないと、その場にいたバルシュミーデ皇国の騎士たちには分かった。南の国の者は、気性が荒い者が多い。下手をすれは、今ここで戦いが起こっても不思議ではない。

「ヴェンデルガルト様!」
 ビルギットの言葉を背に、ヴェンデルガルトは攫われてしまった。残った騎士団は、それを見送るしかなかった。

「馬鹿ども……早く、国、へ……ヴェンデルを、救いに……準備、を……」
 荷台の中から、ランドルフの弱弱しいが叱咤する声が聞こえた。
「バルシュミーデ皇国に急ぎ戻り、ヴェンデル奪還作戦を立てましょう! 皆早く!」
 珍しく取り乱したギルベルトの声に、全員が慌てて馬車に乗り込んだ。そうして、急いで国へと戻った。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。 彼女は国王の隠し子なのである。 その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。 しかし中には、そうではない者達もいた。 その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。 それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...