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南の国の戦
ジークハルトとアロイス
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アンゲラー王国は、北東からそのままの勢いでヘンライン王国に向かい進撃していた。ヘンライン王国の北東の村は焼け野原と化していた。
夜が開けるまでに、首都に向かう。駱駝に乗ったアンゲラー王国の兵は、急ぎ南へと異動していた。
「もうすぐ着くわ」
大勢がいるのに静まり返った部屋で、突然カサンドラが立ち上がった。王がそれに続き、部屋にいたアロイス達も剣を手に続いて立ち上がった。
「アンゲラー王国の兵より先に、ヘートヴィヒが来る」
「水龍と、レーヴェニヒ王国の大臣とバルシュミーデ皇国の騎士団だな?」
王の言葉に頷き、カサンドラは城の外に向かう。全員が彼女に続いた。交信しているのか、その赤い瞳はキラキラと輝いていた。
「アンゲラー王国の兵の中に、火の魔法使いがいる。気を付けて下さい」
「火を使う?」
その言葉に、アロイスは眉を寄せた。先日火を纏った杭付きの馬車と火矢……その火を使う魔法使いが、関わっているかもしれない。だが、アンゲラー王国の兵に魔法を使う者がいるとは聞いていなかった。もしかすると、金で雇った周辺の部族の中にいたのかもしれない。
「来たわ」
夜の闇の中、水色の龍が羽ばたき降りてくる。
――これが、龍……。
大きな巨体は、城と変わらない大きさに見える。羽ばたきをすると、辺りに強い風が吹き、飛ばされないように踏ん張り耐えた。大きな目は、カサンドラや自分と同じ赤い色だった。
その水龍は、首から籠のようなものを下げている。まさか、この中に人を入れて飛んだというのか? だが、早く来るにはそれが最善だろう。
「間に合いました、ヘートヴィヒ! 有難う」
カサンドラは水龍にそう声をかけて、宰相たちに籠を支える様に命じた。すると中から、人が降りてくる。昔見た衣装は、東の国の者だろう。よく似た顔の二人の男が王に挨拶をしていた。そして最後に降りてきたのは、この戦を仲裁する様に願いに行った国の王子――ジークハルトと薔薇騎士団たちだ。
全員が降りると籠が消えて、水龍の身体が光る――そうして、水色の髪と赤い瞳の女の姿に変わった。
「心配していたのよ、間に合ってよかったわ」
ヘートヴィヒは、腹に気を付けながらカサンドラに抱き着いた。カサンドラも、その彼女の背に手を回して抱き返した。
龍たちが挨拶をかわす横に、アロイスは進んだ。真っ直ぐに、ジークハルトを見つめて。それに気が付いたジークハルトも、アロイスに視線を向けた。
「久し振りだな、アロイス王子」
「先日は、世話になった――話したい事は、分かっている。だが今は、この戦いを終わらせてからにして欲しい」
「無論だ。だが――無事なのか?」
ジークハルトは、真剣な面持ちでアロイスを見つめた。アロイスは、ジークハルトの真面目過ぎるところを気に入っていた。
「勿論だ。大切にしている――心から」
僅かに、ジークハルトが動揺した顔を見せた。利用すると言って連れ去ったヴェンデルガルトを、心から大切にしている。そう言った彼の心を、ジークハルトは理解したようだ。この場に彼女がいないのも、その言葉の意味のままだと。戦いに巻き込まないように、バーチュ王国で護っている、そう判断した。
「ならば、勝ってから話し合いをしよう。彼女は、我が国の宝だ」
「魔法目当てって事か?」
アロイスの問いに、ジークハルトは首を横に振った。
「彼女の存在そのもの、という意味だ。彼女が魔法を使えなくとも、彼女を大切に思っている者が多い――アロイス王子も、分かるだろう? この意味を」
最初は、魔法が欲しかった。だが、その力を利用するのではなく――本当は寂しがり屋で優しい彼女を、自分が護りたい。ジークハルトは、そう言っている。彼女自身を愛する者が、バルシュミーデ皇国に沢山いる、と。
「話し合いは、難航しそうだな」
アロイスはそう言って、話を終えた。ジークハルトの元から、レーヴェニヒ王国の大臣の元へ行き軽く挨拶をした。
「二万の援軍は、バーチュ王国に入ったわ。ここまで来るまで、一日ほどね。アンゲラー王国の一万と五千弱の兵たちの移動距離も同じくらい。でも、馬で砂漠の地を走るのは遅い……ヘンライン王国全ての兵と、今ここにいる者達でその時間差を埋めて止めないといけない。お願い、この国を守って」
「王と王妃は、宰相を連れて城の奥に。戦いは、我々に任せて下さい」
ヘートヴィヒはここまで来る間に、援軍がバーチュ王国の北の国境辺りに居たのを確認している。火樽を投げられ、騒ぎになった事も。年老いた男が魔法で火を放つ様子も――ヴェンデルガルトが、彼らを治療した事も。
それを共有したカサンドラが、戦いに備える全員に声をかける。ヘンライン王国は、八千ほどの兵。アンゲラー王国の兵の方が早ければ、苦戦になる事は間違いない。その言葉を受けて、ジークハルトは王に隠れるように促した。
「北東を捨てて南下した兵が、首都との間にある町で時間を稼いでくれたら――」
宰相の言葉は弱弱しい。圧倒的な兵力差で、それは難しいと分かっているからだ。
夜が開けるまでに、首都に向かう。駱駝に乗ったアンゲラー王国の兵は、急ぎ南へと異動していた。
「もうすぐ着くわ」
大勢がいるのに静まり返った部屋で、突然カサンドラが立ち上がった。王がそれに続き、部屋にいたアロイス達も剣を手に続いて立ち上がった。
「アンゲラー王国の兵より先に、ヘートヴィヒが来る」
「水龍と、レーヴェニヒ王国の大臣とバルシュミーデ皇国の騎士団だな?」
王の言葉に頷き、カサンドラは城の外に向かう。全員が彼女に続いた。交信しているのか、その赤い瞳はキラキラと輝いていた。
「アンゲラー王国の兵の中に、火の魔法使いがいる。気を付けて下さい」
「火を使う?」
その言葉に、アロイスは眉を寄せた。先日火を纏った杭付きの馬車と火矢……その火を使う魔法使いが、関わっているかもしれない。だが、アンゲラー王国の兵に魔法を使う者がいるとは聞いていなかった。もしかすると、金で雇った周辺の部族の中にいたのかもしれない。
「来たわ」
夜の闇の中、水色の龍が羽ばたき降りてくる。
――これが、龍……。
大きな巨体は、城と変わらない大きさに見える。羽ばたきをすると、辺りに強い風が吹き、飛ばされないように踏ん張り耐えた。大きな目は、カサンドラや自分と同じ赤い色だった。
その水龍は、首から籠のようなものを下げている。まさか、この中に人を入れて飛んだというのか? だが、早く来るにはそれが最善だろう。
「間に合いました、ヘートヴィヒ! 有難う」
カサンドラは水龍にそう声をかけて、宰相たちに籠を支える様に命じた。すると中から、人が降りてくる。昔見た衣装は、東の国の者だろう。よく似た顔の二人の男が王に挨拶をしていた。そして最後に降りてきたのは、この戦を仲裁する様に願いに行った国の王子――ジークハルトと薔薇騎士団たちだ。
全員が降りると籠が消えて、水龍の身体が光る――そうして、水色の髪と赤い瞳の女の姿に変わった。
「心配していたのよ、間に合ってよかったわ」
ヘートヴィヒは、腹に気を付けながらカサンドラに抱き着いた。カサンドラも、その彼女の背に手を回して抱き返した。
龍たちが挨拶をかわす横に、アロイスは進んだ。真っ直ぐに、ジークハルトを見つめて。それに気が付いたジークハルトも、アロイスに視線を向けた。
「久し振りだな、アロイス王子」
「先日は、世話になった――話したい事は、分かっている。だが今は、この戦いを終わらせてからにして欲しい」
「無論だ。だが――無事なのか?」
ジークハルトは、真剣な面持ちでアロイスを見つめた。アロイスは、ジークハルトの真面目過ぎるところを気に入っていた。
「勿論だ。大切にしている――心から」
僅かに、ジークハルトが動揺した顔を見せた。利用すると言って連れ去ったヴェンデルガルトを、心から大切にしている。そう言った彼の心を、ジークハルトは理解したようだ。この場に彼女がいないのも、その言葉の意味のままだと。戦いに巻き込まないように、バーチュ王国で護っている、そう判断した。
「ならば、勝ってから話し合いをしよう。彼女は、我が国の宝だ」
「魔法目当てって事か?」
アロイスの問いに、ジークハルトは首を横に振った。
「彼女の存在そのもの、という意味だ。彼女が魔法を使えなくとも、彼女を大切に思っている者が多い――アロイス王子も、分かるだろう? この意味を」
最初は、魔法が欲しかった。だが、その力を利用するのではなく――本当は寂しがり屋で優しい彼女を、自分が護りたい。ジークハルトは、そう言っている。彼女自身を愛する者が、バルシュミーデ皇国に沢山いる、と。
「話し合いは、難航しそうだな」
アロイスはそう言って、話を終えた。ジークハルトの元から、レーヴェニヒ王国の大臣の元へ行き軽く挨拶をした。
「二万の援軍は、バーチュ王国に入ったわ。ここまで来るまで、一日ほどね。アンゲラー王国の一万と五千弱の兵たちの移動距離も同じくらい。でも、馬で砂漠の地を走るのは遅い……ヘンライン王国全ての兵と、今ここにいる者達でその時間差を埋めて止めないといけない。お願い、この国を守って」
「王と王妃は、宰相を連れて城の奥に。戦いは、我々に任せて下さい」
ヘートヴィヒはここまで来る間に、援軍がバーチュ王国の北の国境辺りに居たのを確認している。火樽を投げられ、騒ぎになった事も。年老いた男が魔法で火を放つ様子も――ヴェンデルガルトが、彼らを治療した事も。
それを共有したカサンドラが、戦いに備える全員に声をかける。ヘンライン王国は、八千ほどの兵。アンゲラー王国の兵の方が早ければ、苦戦になる事は間違いない。その言葉を受けて、ジークハルトは王に隠れるように促した。
「北東を捨てて南下した兵が、首都との間にある町で時間を稼いでくれたら――」
宰相の言葉は弱弱しい。圧倒的な兵力差で、それは難しいと分かっているからだ。
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