二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜

文字の大きさ
72 / 125
南の国の戦

後方援護

しおりを挟む
 国王と王妃である火龍のカサンドラ、宰相などが数人の兵を連れて城の奥に向かった。それを確認すると、ヘートヴィヒが口を開いた。
「レーヴェニヒ王国の援軍の後に、バルシュミーデ皇国の騎士団の部隊が来ます。この部隊は、手薄になっているはずのアンゲラー王国に攻撃して貰うと大将軍から連絡が来ました。私が今から、薔薇騎士団のイザークに連絡をします」
「イザークに? 龍の姿で向かうのですか?」
 ジークハルトは、水龍のヘートヴィヒに訊ねた。すると彼女は首を横に振った。
「イザークに、魔法をかけていました。あなたも見たでしょう? 大将軍コンラートにも同じ魔法をかけています。私の声が直接届き、彼らの言葉も私に直接聞こえる様に」

 「祝福を」と言いながら、古の言語を唱えていた。あれが、龍の魔法だったのか。ジークハルトは別れ際の時の事を思い出して、納得した。

「聞こえますか? イザーク。私は水龍のヘートヴィヒです」
 水龍は、敢えて声を出してイザークに話しかけた。ここにいる者に、直接馬が砂漠を駆ける音が聞こえた。
『え? 声が? さっきの龍なのか?』
 確かに、イザークの声だ。ジークハルトを始め薔薇騎士団とアロイスとその部下達も驚いた声を上げた。
「アンゲラー王国の多数の兵は、ヘンライン王国に攻めてきています。あなた達はバーチュ王国を通らず、手薄になっているアンゲラー王国に直接攻め込んで下さい。こちらは、バーチュ王国を通過したレーヴェニヒ王国の援軍が来るまで何とか耐えます。頼みます、アンゲラー王国の王を捕らえて下さい」
『分かった、急ぎ南東に方角を変えるよ。ねぇ、ヴェンデルガルトは大丈夫なの?』
「彼女はアンゲラー王国の罠によって攻撃を受けた兵士たちを治療して下さいました。安全です、目的を忘れず向かってください」
『分かったよ、彼女を助ける為にもアンゲラー王国の国王を捕まえる。了解した――ねえ、カール!』
 そこで、声は途切れた。
 
「隣町、撃破されました! アンゲラー王国の軍は、止まらずこちらに向かって来ています!」

 再び激しい鐘の音と共に、物見兵の声が大きく城に響き渡った。
「皆様、武器を手に」
 ヘートヴィヒの言葉に、全員が剣を手にした。大きな盾を手にした兵たちが、門の前に並ぶ。
「火を使う魔法使いも合流しているかもしれません。私が水で消します、恐れずに戦ってください」
「あなたは龍の姿にならないのか?」
「龍の姿で人間と戦う事は許されていません。これは、あくまでも人間同士の戦いです。東の国の民以外の人間の為に戦ったと他の龍たちに知られると、龍との争いになるかもしれません」
 アロイスの問いに、ヘートヴィヒが静かにそう話した。龍や東の国の決まりなのかもしれない。そういえば、レーヴェニヒ王国の大臣たちも剣を手にしていた。
「あなた方も戦うのですか?」
「大臣でありますが、武人ぶじんでもあります。我々も戦う為に参りました、お気になさらず」
 赤色のリボンの青年が答えた。それなら守らずにいいと、アロイスは安心した。
「アンゲラー王国は、刃に毒物を塗る事も多い! 傷を受けたら、気を付けてくれ!」
 アロイスは、アンゲラー王国が育てている毒草の事を思い出した。確か、バルシュミーデ皇国の騎士も斬られたはずだ。効果は知っているだろう。
「ランドルフのあれか……分かった、アロイス王子有難う」
 毒の効果は報告を受けているのか、ジークハルトが頷いた。そう会話をしている間にも、駱駝が疾走する音が次第に聞こえて来た。
「我々に勝利を!」
 ジークハルトが、大きな声でそう言った。その声に、薔薇騎士団たちが同じように「勝利を!」と繰り返して士気を高めた。そうしてそれは、レーヴェニヒ王国の大臣たちも繰り返し、アロイスも「勝利を!」と声を上げた。

 次第に明るくはなってきたがまだ暗い空の下、所々に置かれた篝火が迫って来たアンゲラー王国の軍の姿を映し出す。

「おおおお!! 攻め込めー!!」
 戦闘の駱駝に乗っているのは、アンゲラー王国の王子でランドルフを斬った男だ。門は、鉄の扉で封じられている。用意して来たらしい破城槌はじょうついという門を壊す丸型の大きな木を真っ直ぐに門にぶつけて衝撃で門を壊す道具で、何度も門を壊そうとぶつけて来る。
 その合間にも、火の塊が飛んでくる。ヘートヴィヒが、水の魔法でそれらを消している。

 門が、破壊された。わっとアンゲラー王国の兵士たちが攻め込んで来る。

「向かい打て!」
 ジークハルトの言葉に、ヘンライン王国を護る男たちが門前で剣を振り上げた。夜明けまで、後僅かだ。
 援軍が来るまで、持ち堪える――それを胸に、アロイスも門を潜ろうとした兵士に斬りかかった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。 彼女は国王の隠し子なのである。 その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。 しかし中には、そうではない者達もいた。 その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。 それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

処理中です...