93 / 125
陰謀
不審な植物
しおりを挟む
「何かの中毒ですな――皮膚に炎症のようなものも見られる」
医者の言葉に、ランドルフとギルベルトは顔を強張らせた。南の国から帰ってきて、しばらくは普通に過ごしていた。ヴェンデルガルトが体調を崩し始めたのは、最近だ。
「食事は、ビルギットかカリーナが運ぶ。コックは疑っても、メイドの彼女たちの事は疑うべきではないだろう。食事、お茶、……どこで混入したんだ?」
ランドルフが眉を寄せると、ギルベルトは少し目を細めた。
「確か、ビルギットは夜中に異臭がすると言っていたそうですね」
「ああ、毎日ではないそうだ。夜中に異臭があった時は、朝に残り香を嗅ぐと言っていた」
ランドルフとギルベルトの視線の先には、白い肌が青く見えるほど体調が悪そうなヴェンデルガルトだ。回復魔法は、本来自分にはかけられないのだという。『人々を救う為』という、治癒女神である豊穣と処女と癒しの女神アレクシアの教えだからだ。ビルギットも龍から教わったのは『盾』である魔法だけだ。
「……」
薄く目を開けたヴェンデルガルトは、ランドルフとギルベルトを見ると何か言いたそうに口を開いた。
「何か言いたいのですか?」
二人が顔を寄せると、ヴェンデルガルトは荒い呼吸で二人に謝った。
「ごめんなさい、ご心配おかけしまして……」
「心配するな、俺達が傍にいる。絶対に元に戻してやる」
「可哀想に……あなたが苦しむのなら、私が代わりたいです。ヴェンデル、気を強く持ってください。絶対に付き止めます」
「口に入れるものが毒とは限らん」
不意に、医者が口を挟んだ。その言葉に、ギルベルトが顔を上げた。
「儂もあまり覚えていませんが、炙って効果が出る毒草があったような……何かの本で読んだ気がしますな」
ランドルフは何かを思い出したように、ヴェンデルガルトの部屋のテラスの窓を開けた。そうして、よく観察をする。
「ギルベルトーーこの植物はなんだ? 枯れそうだし、何カ所か切られている」
呼ばれたギルベルトがテラスに向かうと、よく知らない植物が植えられた鉢があった。薄い桃色の花が咲いていたようだが、枯れそうに茶色に変色しかかっていた。確かに、その枝は所々切られている。
「なんだ、この枯れそうな花は。俺は、ヴェンデルの部屋には綺麗な花だけ置くようにしている。何時からあったんだ?」
「それにこれは――本当に枯れそうですね。もう夏も終わりに近づいていますが、植物が枯れるには早い……先ずは、この植物を調べてみましょう」
それから二人はヴェンデルガルトの部屋を調べてみたが、他には気になる事はなかった。その植物の鉢を持って、ギルベルトは図書室に向かった。
「時々……幻が見えます」
心配そうにヴェンデルガルトの頬を撫でていたランドルフは、怪訝そうな顔をした。
「あの変な焦げ臭い匂いがすると……妖精が舞っていたり、もういない家族が私に話しかけてくるのです……南の恐ろしい戦いの風景の中に立っていたり……私は、おかしくなったのでしょうか……?」
不安そうな声のヴェンデルガルトの目は、虚ろだった。何も出来ないランドルフは、彼女の身を案じるしかなかった。
「秘密裏に、ヴェンデルガルト嬢の部屋を変えようと思う」
ジークハルトの言葉に、四人の薔薇騎士団長は頷いた。
「何が原因か分からないから、匿った方がいい。城の中にも、フロレンツィアの一族がどこかに紛れている。あまり護衛を付けても、目立つだけだ。彼女の護衛にしたロルフは、東の出身だが剣の腕前は良い。今の所、彼だけを傍に置いておく」
「東なら、ヴェンデルには危害を加えないんじゃないかな――何となくだけど」
カールは、ぼんやりとした感想を言う。東での龍の存在が、どうなのかがはっきり分からないからだ。
「もし彼が何か加担しているなら、すぐに処分する――それでは、城に戻ろう。俺達がまた不在だと、怪しまれるからな」
騎士団員の中にすら、ラムブレヒト公爵家に関わっている者がいるかもしれない。城下町の食堂、教会、町はずれの森などで彼らは話すことが増えていた。自分たち以外に話が聞けないようにするためだ。
そうして、五人が揃って城に帰ってくるとあの聞き慣れたヒステリックなフロレンツィアの怒鳴り声が響いていた。
「会わせないって、どういう事よ!? 私は、わざわざお見舞いに来たのよ!?」
どうやら、ヴェンデルガルトに会いに来たらしい。彼女がヴェンデルガルトを嫌っているのは、城の誰もが知っている。ロルフを先頭に、ビルギットとカリーナが必死に部屋の前を護っていた。
「残念ながら、ジークハルト様の命です。お会いに来て下さった事は、ヴェンデルガルト様にお伝えします」
毅然としてフロレンツィアにそう答えているロルフの姿を見て、五人は少し安堵したそして彼女が抱えている花束――それを見て、カールとイザークは何処かで見た花だと記憶を探った。
「あら、金の悪魔の奴隷たちが揃ってお出ましなのね」
五人の姿を見たフロレンツィアは、ふんと鼻を鳴らした。
医者の言葉に、ランドルフとギルベルトは顔を強張らせた。南の国から帰ってきて、しばらくは普通に過ごしていた。ヴェンデルガルトが体調を崩し始めたのは、最近だ。
「食事は、ビルギットかカリーナが運ぶ。コックは疑っても、メイドの彼女たちの事は疑うべきではないだろう。食事、お茶、……どこで混入したんだ?」
ランドルフが眉を寄せると、ギルベルトは少し目を細めた。
「確か、ビルギットは夜中に異臭がすると言っていたそうですね」
「ああ、毎日ではないそうだ。夜中に異臭があった時は、朝に残り香を嗅ぐと言っていた」
ランドルフとギルベルトの視線の先には、白い肌が青く見えるほど体調が悪そうなヴェンデルガルトだ。回復魔法は、本来自分にはかけられないのだという。『人々を救う為』という、治癒女神である豊穣と処女と癒しの女神アレクシアの教えだからだ。ビルギットも龍から教わったのは『盾』である魔法だけだ。
「……」
薄く目を開けたヴェンデルガルトは、ランドルフとギルベルトを見ると何か言いたそうに口を開いた。
「何か言いたいのですか?」
二人が顔を寄せると、ヴェンデルガルトは荒い呼吸で二人に謝った。
「ごめんなさい、ご心配おかけしまして……」
「心配するな、俺達が傍にいる。絶対に元に戻してやる」
「可哀想に……あなたが苦しむのなら、私が代わりたいです。ヴェンデル、気を強く持ってください。絶対に付き止めます」
「口に入れるものが毒とは限らん」
不意に、医者が口を挟んだ。その言葉に、ギルベルトが顔を上げた。
「儂もあまり覚えていませんが、炙って効果が出る毒草があったような……何かの本で読んだ気がしますな」
ランドルフは何かを思い出したように、ヴェンデルガルトの部屋のテラスの窓を開けた。そうして、よく観察をする。
「ギルベルトーーこの植物はなんだ? 枯れそうだし、何カ所か切られている」
呼ばれたギルベルトがテラスに向かうと、よく知らない植物が植えられた鉢があった。薄い桃色の花が咲いていたようだが、枯れそうに茶色に変色しかかっていた。確かに、その枝は所々切られている。
「なんだ、この枯れそうな花は。俺は、ヴェンデルの部屋には綺麗な花だけ置くようにしている。何時からあったんだ?」
「それにこれは――本当に枯れそうですね。もう夏も終わりに近づいていますが、植物が枯れるには早い……先ずは、この植物を調べてみましょう」
それから二人はヴェンデルガルトの部屋を調べてみたが、他には気になる事はなかった。その植物の鉢を持って、ギルベルトは図書室に向かった。
「時々……幻が見えます」
心配そうにヴェンデルガルトの頬を撫でていたランドルフは、怪訝そうな顔をした。
「あの変な焦げ臭い匂いがすると……妖精が舞っていたり、もういない家族が私に話しかけてくるのです……南の恐ろしい戦いの風景の中に立っていたり……私は、おかしくなったのでしょうか……?」
不安そうな声のヴェンデルガルトの目は、虚ろだった。何も出来ないランドルフは、彼女の身を案じるしかなかった。
「秘密裏に、ヴェンデルガルト嬢の部屋を変えようと思う」
ジークハルトの言葉に、四人の薔薇騎士団長は頷いた。
「何が原因か分からないから、匿った方がいい。城の中にも、フロレンツィアの一族がどこかに紛れている。あまり護衛を付けても、目立つだけだ。彼女の護衛にしたロルフは、東の出身だが剣の腕前は良い。今の所、彼だけを傍に置いておく」
「東なら、ヴェンデルには危害を加えないんじゃないかな――何となくだけど」
カールは、ぼんやりとした感想を言う。東での龍の存在が、どうなのかがはっきり分からないからだ。
「もし彼が何か加担しているなら、すぐに処分する――それでは、城に戻ろう。俺達がまた不在だと、怪しまれるからな」
騎士団員の中にすら、ラムブレヒト公爵家に関わっている者がいるかもしれない。城下町の食堂、教会、町はずれの森などで彼らは話すことが増えていた。自分たち以外に話が聞けないようにするためだ。
そうして、五人が揃って城に帰ってくるとあの聞き慣れたヒステリックなフロレンツィアの怒鳴り声が響いていた。
「会わせないって、どういう事よ!? 私は、わざわざお見舞いに来たのよ!?」
どうやら、ヴェンデルガルトに会いに来たらしい。彼女がヴェンデルガルトを嫌っているのは、城の誰もが知っている。ロルフを先頭に、ビルギットとカリーナが必死に部屋の前を護っていた。
「残念ながら、ジークハルト様の命です。お会いに来て下さった事は、ヴェンデルガルト様にお伝えします」
毅然としてフロレンツィアにそう答えているロルフの姿を見て、五人は少し安堵したそして彼女が抱えている花束――それを見て、カールとイザークは何処かで見た花だと記憶を探った。
「あら、金の悪魔の奴隷たちが揃ってお出ましなのね」
五人の姿を見たフロレンツィアは、ふんと鼻を鳴らした。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?
木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。
彼女は国王の隠し子なのである。
その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。
しかし中には、そうではない者達もいた。
その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。
それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる