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アロイス編
バール兄妹
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アロイスは本当に具合が悪そうだったので、一応ヴェンデルガルトは治癒魔法を彼にかけてからお風呂へと向かった。以前来た時にも聞いたが、火山があることから温泉が湧き、国民の娯楽になっていた。独特の匂いがあるが、湯舟に入ると二日ほどだが旅の疲れが出ていたのが嘘のようになくなる。
「は、恥ずかしいです……本当に、このような服で生活するのですか」
「これ着てるなら、体系維持する為に食べ過ぎ出来ないですね」
ビルギットは、最初のヴェンデルガルトの時のように臍が出た辺りを隠すよう身を屈めている。カリーナは、特別恥ずかしがらずに鏡に映った自分の身体を眺めた。
ヴェンデルガルトの下はスカートのようになっているが、ビルギット達の衣装はズボンだ。これは、身分の関係があるのかもしれない。お風呂から出て落ち合ったロルフは、こちらの兵士のように袖がない上着に北の国とは少し形が違うズボン姿だった。お互い目新しい姿だったので、顔を合わせると笑い合った。
それから、豪華な宴が大きな広間で始まった。ビルギット達三人は使用人だが、今日は新しい仲間だということでヴェンデルガルトと並んで座らせて貰っていた。北の国の食事とは違うので、食べてみないと味が想像できない。ビルギットはヴェンデルガルトがよく話していた『ラルラ』に興味があるようで、遠慮しながらも口にしていた。カリーナは食べることが大好きなので、目に付くものを口にしてニコニコとしていた。
ヴェンデルガルトの横にツェーザルが座っているが、反対側が空いていた。婚約者の席だろう。遅れて来るのだろうかとヴェンデルガルトはツェーザルに聞こうとしたが、そこに長い銀髪に青い瞳の女性が入ってきた。
「ガブリエラ、ここよ」
同じようにその女性に気が付いたのだろう、ツェーザルが声をかけた。ガブリエラと呼ばれたその女性は、大人しくこちらの席に座った。あまり表情が変わらず、ヴェンデルガルトはかつて一緒に生活をしていたアンゲラー王国の王女を思い出した。
「遅かったわね――まさか、またアロイスの所にいたの?」
「――そうです。早くお元気になるように、祈ってきました」
声音を落としたツェーザルの問いに、彼女は無表情のままそう返した。彼女がそう言った事に、ツェーザルはヴェンデルガルトに向き直り明らかに胡麻化すような愛想笑いを浮かべた。
「紹介するわ。彼女は、ガブリエラ・バール。あたしの婚約者よ。あたしたち兄弟と彼女は、年が近いから幼いころから一緒に育ったの。ヴェンデルガルトが以前ここにいた時、彼女は北西の部族に避難させていたの。こちらは、アロイスの婚約者のヴェンデルガルトよ」
ツェーザルがそう紹介すると、ガブリエラはじっとヴェンデルガルトを見つめた。まるで、値踏みをするかのように。
「私は親の言いつけでツェーザル様と結婚しますが、心はアロイス様のものです。あなたは、名ばかりのアロイス様の婚約者でいてください」
表情を変えずにガブリエラはそう言った。ツェーザルは青い顔をして、ヴェンデルガルトはびっくりして丸い瞳で彼女を見つめた。辺りにいた貴族たちも、聞かなかった振りをしていた。
「あ、相変わらず冗談がお上手ね。まあ、そんなことよりゲルバーを飲みましょう。今日は宴なんだから」
ゲルという果実で作った酒を、ツェーザルはガブリエラに勧めた。口当たりが甘く、女性に人気がある南の国のお酒だ。ガブリエラはそのお酒が入った銀食器を受け取ると、黙って飲み干した。
ツェーザルがどうにか雰囲気を変えようとしたが、ガブリエラは表情を変えず黙ったまま食事をしている。ヴェンデルガルトは勿論だが、会話が聞こえていたビルギット達は心が穏やかではなかった。ツェーザルの辺りの空気は、少し緊張したものになっている。
「これ、美味しいですねー! ヴェンデルガルト様も、みんな食べましょうよ! この薄いパンみたいなものは、どうやって食べるんですか?」
カリーナもツェーザルを助けようとしたのか、明るい声でそう言った。
「これは、パテというんだ。肉やラルラや野菜を巻いて食べるといい」
そこに、若い男の声がした。いつの間にか、カリーナの横に座っている。銀髪に緑の瞳をしていた。整った顔立ちで、南の国の体格らしく筋肉質だ。
「あら、ルードルフ! 帰っていたの?」
その男を見て、ツェーザルが少し驚いた顔になった。ヴェンデルガルトも驚いた――先の戦で怪我をしたのを、治癒魔法で治した男だったからだ。
「さっきだよ。腹が減っていたから、部下たちも参加させて貰ってるぜ。ヴェンデルガルト様、お帰りなさい」
ルードルフはそう言いながら、カリーナに野菜とペンパという鳥の玉子焼きと香草で焼いた牛の肉をパテで巻いてあげた。嬉しそうにカリーナは受け取った。
「自己紹介が遅れました。俺は、第一兵団兵長、ルードルフ・バールです。ツェーザルたちの幼馴染で、ガブリエラの兄です。冬の間、ヘンライン王国に兵士訓練に行ってました」
そう名乗ると、ルードルフは笑った。
「は、恥ずかしいです……本当に、このような服で生活するのですか」
「これ着てるなら、体系維持する為に食べ過ぎ出来ないですね」
ビルギットは、最初のヴェンデルガルトの時のように臍が出た辺りを隠すよう身を屈めている。カリーナは、特別恥ずかしがらずに鏡に映った自分の身体を眺めた。
ヴェンデルガルトの下はスカートのようになっているが、ビルギット達の衣装はズボンだ。これは、身分の関係があるのかもしれない。お風呂から出て落ち合ったロルフは、こちらの兵士のように袖がない上着に北の国とは少し形が違うズボン姿だった。お互い目新しい姿だったので、顔を合わせると笑い合った。
それから、豪華な宴が大きな広間で始まった。ビルギット達三人は使用人だが、今日は新しい仲間だということでヴェンデルガルトと並んで座らせて貰っていた。北の国の食事とは違うので、食べてみないと味が想像できない。ビルギットはヴェンデルガルトがよく話していた『ラルラ』に興味があるようで、遠慮しながらも口にしていた。カリーナは食べることが大好きなので、目に付くものを口にしてニコニコとしていた。
ヴェンデルガルトの横にツェーザルが座っているが、反対側が空いていた。婚約者の席だろう。遅れて来るのだろうかとヴェンデルガルトはツェーザルに聞こうとしたが、そこに長い銀髪に青い瞳の女性が入ってきた。
「ガブリエラ、ここよ」
同じようにその女性に気が付いたのだろう、ツェーザルが声をかけた。ガブリエラと呼ばれたその女性は、大人しくこちらの席に座った。あまり表情が変わらず、ヴェンデルガルトはかつて一緒に生活をしていたアンゲラー王国の王女を思い出した。
「遅かったわね――まさか、またアロイスの所にいたの?」
「――そうです。早くお元気になるように、祈ってきました」
声音を落としたツェーザルの問いに、彼女は無表情のままそう返した。彼女がそう言った事に、ツェーザルはヴェンデルガルトに向き直り明らかに胡麻化すような愛想笑いを浮かべた。
「紹介するわ。彼女は、ガブリエラ・バール。あたしの婚約者よ。あたしたち兄弟と彼女は、年が近いから幼いころから一緒に育ったの。ヴェンデルガルトが以前ここにいた時、彼女は北西の部族に避難させていたの。こちらは、アロイスの婚約者のヴェンデルガルトよ」
ツェーザルがそう紹介すると、ガブリエラはじっとヴェンデルガルトを見つめた。まるで、値踏みをするかのように。
「私は親の言いつけでツェーザル様と結婚しますが、心はアロイス様のものです。あなたは、名ばかりのアロイス様の婚約者でいてください」
表情を変えずにガブリエラはそう言った。ツェーザルは青い顔をして、ヴェンデルガルトはびっくりして丸い瞳で彼女を見つめた。辺りにいた貴族たちも、聞かなかった振りをしていた。
「あ、相変わらず冗談がお上手ね。まあ、そんなことよりゲルバーを飲みましょう。今日は宴なんだから」
ゲルという果実で作った酒を、ツェーザルはガブリエラに勧めた。口当たりが甘く、女性に人気がある南の国のお酒だ。ガブリエラはそのお酒が入った銀食器を受け取ると、黙って飲み干した。
ツェーザルがどうにか雰囲気を変えようとしたが、ガブリエラは表情を変えず黙ったまま食事をしている。ヴェンデルガルトは勿論だが、会話が聞こえていたビルギット達は心が穏やかではなかった。ツェーザルの辺りの空気は、少し緊張したものになっている。
「これ、美味しいですねー! ヴェンデルガルト様も、みんな食べましょうよ! この薄いパンみたいなものは、どうやって食べるんですか?」
カリーナもツェーザルを助けようとしたのか、明るい声でそう言った。
「これは、パテというんだ。肉やラルラや野菜を巻いて食べるといい」
そこに、若い男の声がした。いつの間にか、カリーナの横に座っている。銀髪に緑の瞳をしていた。整った顔立ちで、南の国の体格らしく筋肉質だ。
「あら、ルードルフ! 帰っていたの?」
その男を見て、ツェーザルが少し驚いた顔になった。ヴェンデルガルトも驚いた――先の戦で怪我をしたのを、治癒魔法で治した男だったからだ。
「さっきだよ。腹が減っていたから、部下たちも参加させて貰ってるぜ。ヴェンデルガルト様、お帰りなさい」
ルードルフはそう言いながら、カリーナに野菜とペンパという鳥の玉子焼きと香草で焼いた牛の肉をパテで巻いてあげた。嬉しそうにカリーナは受け取った。
「自己紹介が遅れました。俺は、第一兵団兵長、ルードルフ・バールです。ツェーザルたちの幼馴染で、ガブリエラの兄です。冬の間、ヘンライン王国に兵士訓練に行ってました」
そう名乗ると、ルードルフは笑った。
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