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十二星座団 リリア・ユピテル

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 十二星座団 総団長 リリア・ユピテル 
 
 十二星座団はクリスタ様、ニーア様に拾われた孤児の少女達の戦闘集団である。 
 
 クリスタ姉さまの後継者、次期聖女候補アテナ守る守護十二星座、私達は子供の頃からアテナの不思議な力に守られてた。 
 
 孤児でも女なら体で稼げるって?この世界はそんなに甘くない、見た目的に美しくても孤児や浮浪者なんか相手にされない、元からこっちだってそんな方法で生き延びたいとは思っていない、力が手に入るなら自分の力で生き抜いてやる。 
 
 邪神の影響で魔物が強く、そして凶暴な世界、作物が育たない、育ちにくい土地、それもこれも全部邪神の影響のせい、私達の親が死んだのも、大人たちが自分が生きるので精一杯なのも、孤児がこんなに多いのも、全部邪神のせい。 
 
 他の国も同じような状況になり、人類は追い詰められる。 
 
 邪神が討伐されてから、作物がまともに育つようになり、前線から大人たちが帰ってきて、魔物が弱体化を初め、貧しいながらも孤児や浮浪者にも食事を分け与えるような元の世界が戻ってきた。 
 
 私達は奇跡的にぎりぎりで勝利し、生き延びた。 
 
 それからクリスタ様に拾われ、次代を担う者達の育成が始まった。 
 
 そんなこんなで集まった十二人、お互いが望むべき未来の為に、この世界を生き抜くために、姉妹ではないけど家族の様な存在だと思っていた。 
 
 クリスタ姉さまとニーア姉さまが毎日通う八百万、この店に通う様になってみんな変わった。 
 
 アテナが八百万にこっそりとイールを食べにいった日、店で泣いてるアテナを見た。 
 
 アテナの初めて泣きじゃくる姿を見た。 
 
 それを八意斗真、八百万の店主は慰める様に頭を撫でていた。 
 
 その場にいる他の冒険者や大人達も泣いていた。 
 
 どんなに辛くても、泣きごと言わず前を向いて歩いてた。 
 
 でも本当は叫びたかったんだ。 
 
 辛い!苦しい!痛い!逃げたい!楽したい!休みたい!生きたい!幸せになりたい!腹いっぱいになりたい!守りたい!愛されたい! 
 
 みんながみんな思ってた。 
 
 頑張って頑張って頑張って、頑張って生きて何になる?この辛い世界で生きて何になる?人間も魔物も等しく食い食われ、いつ死ぬか分からないこの世界で頑張って何が残る?何のため?何の目的があって?意味は?意味はあるの?私達が生きる意味?この世界で生きる意味?誰もわからない、わかろうともしない、怖いから見ない、見えてるけど、見えないふりをする。 
 
 それでも立ち上がって、歯を食いしばって今日を生きる。 
 
 八百万でご飯を食べた。 
 
 食べた人は気づかされる、生きる意味を知らされる、私が私達が知らなかった生きる意味、そんなもん。 
 
 食う飯がうまいからよ。 
 
 十年と数何年生きてきて、初めて知った。 
 
 誰かが誰かを思って作ってくれる飯は美味いんだって、その人が今日を生きる分だけのちょっと勇気を分け与えてくれる飯、思い、私達の健康を祈り、楽しいと思わせ、美味いって笑えるように作ってくれた飯は、涙が出る程愛に溢れていて、明日頑張るんじゃなくって、今日!今!この時だけを頑張る為の飯、幸せだと思う飯。 
 
 そこに生きる意味はあった。 
 
 頑張った意味があった。 
 
 耐え忍んだ意味があった。 
 
 楽しみが増えた。 
 
 機械的に腹が鳴るから食べるわけでもなく、満たされるだけに詰め込むのではなく、作ってくれた人に感謝して思いを込めてくれた人に感謝して、命を分けてくれた魔物にすら感謝して。 
 
 八百万に通う様になって、アテナも他の子達も、街全体も変わった。 
 
 八百万店主、八意斗真、十二星座団にとって父の様な、兄の様な、私達だけじゃないく、この街にいる全員の幸せを願っている様な、それでいて、それをどこか当たり前の事の様に、なんでもない事の様に振舞う人、本人は気づいてない、八百万が出来て、ここでご飯を食べる様になって、どれだけの人間が救われたか、どれだけの人間が斗真さんを大切にしているか、どれだけ教えられたか、本人は気づいてない、笑って俺は飯作っただけだからなぁ~なんて言うんだ。 
 
 正直アテナが羨ましかった、思いっきり泣きついて、頭撫でてもらえて。 
 
 ニーア姉さまなんか居候してる。 
 
 食べる以外にも多くの人の心の支えになっている物がもう一つ、リリちゃんとねねちゃんがオーナーだと言うが、実質色々考えて建てられた宿、八百万別館。 
 
 これには私達以外にも大勢の人が喜んだ。 
 
 娯楽のない世界に子供も大人もはしゃげるテーマパーク、庶民でもお茶や花を楽しめるし、モンスターレースに馬たちのレースなどもあり商業ギルドと国が運営に携わっていると言われている国営ギャンブル、ここので手に入った資金は国の為、国民の生活を豊かにする為に使われていると言う。 
 
 八百万別館が出来てからは、圧倒的に人間達の娯楽が増えた、楽しみが増えた。 
 
 理性ある魔物を受け入れる様に始めたのだって、斗真さんの助言だ。 
 
 魔物と言われている種族との取引も増えた。 
 
 人族では必要ないが、魔物達にとって価値のある物など、それぞれの違いを生かし、不公平感なく平等に取引する。 
 
 これにより人型の魔物と人間の対立がかなり減った。 
 
 全ての魔物と上手く生きていけてるわけではない、個人個人が違う人間である通り、オーガでもオークでもゴブリンでも集落や魔物の街によって人間を受け入れるか、自分達を狩る敵と判断するかは違ってくる。 
 
 それに魔物は魔石を核として持っている為に、邪神などの影響で凶暴化する事もあるので完全に安全とは言えないのだが、それでも人間の言葉で意思疎通を図ろうとする理性ある魔物は受け入れる方針で国は、少なくともウェールズではそういう風に進んでいる。 
 
 今の所は悪い結果は出ていない。 
 
 人間の言葉を当たり前の様に喋る魔物も沢山いる。 
 
 中には「オイラが暴走したら遠慮なく切ってくれていいぜ、昔みたいに理性なく暴れる様な状態に戻るのはごめんだからな」なんて言う魔物もいるくらいだ。 
 
 疲れ切った時代の終焉。 
 
 生きる意味を亡くした人達を、もう一度立ち上がらせた人、娯楽に食べる事の楽しさを教えてくれた店、八百万。 
 
 私達はこれからなのだ。 
 
 もっと豊かになって、もっと楽しみを増やして、もっと娯楽を増やして、生活を楽にして、幸せになり、愛し愛され、この生活を揺るぎないものに変え、後世に伝えていく義務が生まれた。 
 
 そうだ、もっともっと楽しまなきゃいけない、今まで大変だった分を取り戻す様に、楽しまなければいけない、幸せにならなければいけない、例え歳をとって老人になろうとも、同じ日はこない、始めると言う事に遅いなんて言う事は、ただの言い訳でしかない。 
 
 今ある中で最善の生き方を、今掴める幸せを掴むのは自分でしかないのだから。 
 
 もちろんよぼよぼになってから冒険者やろうにも無理だろうけどさ、きっとそんな歳になっても掴める何かが、目標にする何かがあると思う。 
 
 「ご馳走様!今日も美味しかった~」 
 
 「は~い!リリアさん、いつもありがとうね!おにーちゃ~ん、リリアさん帰るよ~」 
 
 「あいよ、いつもありがとうね、リリアちゃん他の子達も、毎回列並んでまで食べに来てくれてさ」 
 
 「感謝するのは私達ですよ。いつも美味しい食事ありがとうございます。斗真さんの愛情たっぷりの料理で今日も頑張れるわ」 
 
 「かぁ~たく、他の店でもいってんだろ?」 
 
 「もちろん笑」 
 
 「今度またみんなできなよ。デザートも作ってやるから」 
 
 「アテナに言ってまた夜の部貸し切りにさせてもらいますね」 
 
 「ああ、それに宿も空いてるから、安心して遊びにきな」 
 
 「わぁーぉ高いのに宿も空けてくれんの?」 
 
 「お得意様だし、リリとねねも喜ぶよ。お姉ちゃんいっぱい増えたーって、遊んでやってよ」 
 
 「そんなことなら喜んで!それじゃあご馳走様~」 
 
 私は今日を生き抜く。
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