101回目の人生で、俺が初めて好きになった相手は破滅確定の皇女殿下!?

葉月

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第15話 誰が為に

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「相変わらず静かな村だな」

 徒歩で村までやって来たが、村は相変わらずどんよりとした雰囲気で閑散としていた。

「……?」

 俺たちを見た村人は外套を深くかぶり、小走りで遠ざかっていく。どこか怯えているようにも見えた。

「ここの村の住人はみんな人見知りなのか?」
「そんなことはないと思うのだが……」

 レーヴェンは眉をひそめた。皇女殿下がここに来たのだから、跪く必要はないけれど、少なくとも挨拶くらいはあってもいいと思う。でも、それすらないのが状況だ。

「以前、この村の領主は相当に粗暴な人だったと聞いております」

 村の人々は貴族や皇族に対してあまり良い印象を持っていないかもしれない、とハーネスは推測していた。

「それにしても、これは皇族に対してあまりにも無礼ですね」

 珍しくメイド長と意見が一致した。場合によっては、村長が責任を取り、不敬罪に問われることもあるかもしれない。

「この辺りはもともとブゼル国の領土で、敗戦後に植民地となり、現在はブゼル公国となった経緯がある」

 この地域の住民は帝国に対する嫌悪感が強いようだ。

 気持ちは分からなくもないが、弱い者や、国は遅かれ早かれ淘汰される運命にある。それを嘆いたところで弱者に術はない。この世界は弱肉強食なのだから。

 戦争に負け、従属したなら、潔く従うことも必要だと思う。それによって得られるメリットも少なからずあるはずだ。

「大丈夫か?」と、慌てて駆け出した子供が派手に横転した。レーヴェンは厳しい軍服姿とは対照的に、意外と子供好きのようだ。急いで子供に駆け寄り、優しく抱き上げた。

「どこも怪我はないか?」と尋ねながら、レーヴェンは深くかぶった外套に手をかけた。

「「「「!?」」」」

 太陽の光に照らされた少女の顔を見た瞬間、俺たちは一斉に息をのんだ。陽の光を反射して輝く美しい金髪とは対照的に、病弱なほどに白い少女の頬には鱗のようなものが見えていた。

「――――っ!?」

 外套をかぶった母親らしき女性が駆け寄り、急いで外套を少女にかぶせた。そして、少女を抱きかかえた女性が怯えた様子で逃げていく。

「レーヴェン様、すぐにここを離れてください!」
「うっ、何をするのだ、ロレッタ!」

 ロレッタはレーヴェンの背後から鼻と口を布で覆っていた。

「レーヴェン様、あれは石化病でございます」

 すかさずハーネスが事情を説明する。

「ご存知かと思いますが、石化病は人から人へ感染する致命的な病気です。一度感染すれば治療が難しく、回復の見込みは薄いのです」
「恐らく、この村の住人たちはすでに……」

 ハーネスに続いて、ロレッタが冷静に状況を分析する。

「そんな……」
「それを隠すために、あのような外套を頭からかぶっているのでしょう」

 石化病とは、硬化した皮膚が鱗のように硬く変化し、触れると石のような手触りになることからその名が付けられた。一般的に、石化病は空気感染すると考えられており、感染拡大を防ぐために感染者のいる村や街が焼き払われることがある。

 つまり、大規模な鎮圧作戦が行われることは、珍しくなかった。

 この村が焼き払われずに済んでいるのは、辺境の地にあることが大きく影響しているのだろう。

「まあ、そう慌てるなよ。そうやって俺たちが取り乱していたら、彼らも一層不安になってしまうだろう?」

 騒ぎを聞きつけた村の住人たちが、物陰からこちらの様子を窺っている。

「何を呑気なことを言っているのですかっ! レーヴェン様が石化病に感染したらどうするのです!」
「しないよ」
「なぜそのような事があなたに分かるのです! 石化病は空気感染する恐ろしい病なのですよ!」
「だからしないって」

 この石化病について、世界一詳しい俺が断言する。石化病は空気感染などしないということを。

「レーヴェン様……?」
「よい、私は大丈夫だ、ロレッタ」
「しかし!」

 今すぐにこの村から退去しようとするロレッタの手を、レーヴェンは優しくふり解いた。
 そして――

「感染しないのだろ?」

 曇りのない赤い瞳が俺を見つめた。

「ああ、しないよ」
「適当なことを言うのはおやめなさい! レーヴェン様のお命に関わる問題なのですよ!」

 普段は感情の起伏がほとんど見られないロレッタだが、レーヴェンに関わる事となると、途端に目の色が変わる。

「ロレッタが心配するのは当然だ。だけど、石化病は本当に空気感染などしないんだ」
「ではなぜ、この村の者たちは皆、頭から外套をかぶって姿を隠しているのです! 皆すでに感染しており、それを隠すため、それ以外に何があると言うのですか! それこそが空気感染する証拠ではありませんか!!」

 たしかに、この村の人々はすでに全員が石化病を患っていると思われる。しかし、それが空気感染によるものとは限らない。

「空気感染じゃないんだよ」
「まだそのような戯言をいうのですか」
「俺は事実を口にしているだけだ」
「……っ」

 俺を睨みつけるロレッタを手で制するのは、レーヴェンだ。

「私はお前を信じよう」
「レーヴェン様!?」

 驚きに震えるロレッタに、レーヴェンは冷静に声をかけた。

「ロレッタはランスの医師としての腕を見ておらんから、信じられんのだ。しかし、私はこの目で確かに見たのだ。ポーションを使わずにテレサを助けた、此奴の姿を」
「お言葉ですがレーヴェン様、単なる切り傷と、石化病ではまったくの別ものです。今日に至るまで、帝国の医師ですら治せぬ死の病なのです」
「だからこそ、私は信じたいのだ」
「……信じる? 何をですか?」
「ロレッタよ、此奴の目を見てみよ」
「――――!?」

 諭されるように、俺へと顔を向けたロレッタの目が、大きく見開かれた。

「これは勝利を確信した者の目だ」

 レーヴェンは俺の目を見つめて、それからゆっくりと村を見渡した。物陰に隠れてこちらを窺う人々にも目を向ける。そして再び、俺に向き合った。

「治せるのだろ?」
「ああ」

 力強く頷くと、レーヴェンはとても嬉しそうに微笑んだ。

「わかりました。ただし、石化病を治せず、レーヴェン様が石化病に掛かったその時は、ランス、悪いが私はお前を殺す。そして、私も死ぬ」

 その眼はとても暗く、冷たい。まるで無限に近い井戸へ落ちるような激しい恐れが感じられる。

「うむ。その時は三人仲良く冥府へと旅立つとしよう」

 屈託のない笑顔で、彼女はそう言った。

 俺のこれまでの人生に何らかの意味があったとするならば、きっとこの101回目の瞬間に、そんな風に思ってしまう。
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