悪魔と契約した僕は伝説の『ブルオーガ』を右手に宿し、やがて世界最強。

葉月

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第8話 魅惑の藁人形

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 リリスのスカートに顔を忍ばせてクンクンしたお陰か、僕の気分はとても良かった。

 1、2階層ではゴブリンやコウモリ型の魔物バッドなどを次々と屠り、スキップなんかしながらここまでやって来たのだが……。

 「ブギィィイイイイイイイッ!!」

 せっかくの気分を台無しにする不愉快極まりない雄叫びを辺りに響かせる醜い魔物、オークが現れた。

 3階層までやって来ると、魔物のレベルもやはり上がっている。

 オークはゴブリンなどと違い体格も大きい。

 ゴブリンの平均身長が95センチなのに対し、オークの平均身長は180を超えている。
 個体にもよるが、大きなモノだと優に2メートルを超えるオークもいる。

 ゴブリン同様異種交配する魔物だが、決定的な違いはその行為の意味にある。
 子孫を残すために子種を植え付けようとするゴブリンとは違い、オークは単純に性欲を満たすためだけに行為に及ぶ。

 女性がオークに捕まれば死ぬまで性奴隷として弄ばれてしまうのもこのためだ。
 オークは絶倫で有名な魔物だからね。

 目前のオークはこちらを睨みつけるように顔を向けて、器用に鼻先を動かして臭いを確認している。
 これはオーク独特の初動だ。

 オークは視力が悪く、一説にはほとんど見えていないとも言われている。
 そのためオークは特徴的な大きな鼻で臭いを嗅ぎ分けて敵か味方か、オスかメスかを判断する。

 オークにとって臭いはとても重要。
 だから、その体からはなんとも言えない独特の臭いが漂ってくる。

 すぐに同胞に仲間だと気づかせるためだ。

 目の前のオークは匂いを嗅ぎ分けて醜い顔をさらに歪ませた。
 その反応を見る限り、メス――つまりリリスから分泌される女性フェロモンに気づいたのだろう。

「不愉快じゃ!」

 そのことに気がついたリリスは眉根を寄せて不快感を示している。
 当然の反応だ。

 オークに女として見られて喜ぶ者などいるはずがない。
 だから……。

「お前さまよ、お前さまにも妾の力を少し見せておくとするかの」
「リリスは戦闘が苦手じゃないんですか? 無理しなくてもオークの一匹や二匹、僕が片付けますよ?」
「吐かすでないッ! 確かに妾は戦闘が苦手と言ったが、何度も言うように戦えぬ訳ではないのじゃ。戦闘向きの上位悪魔ではないというだけで、中級悪魔程度までなら楽勝じゃ」

 中級悪魔と上位悪魔、その戦闘面においての差がどの程度なのか僕にはわからないが、少なくてもオークとは比べ物にならないということだろう。

「ブギャッ、ブヒィィィイイイイイイイッ!!」

 目前のオークは完全に発情し、その興奮を隠そうともしない。
 握りしめた曲刀をリリスに突きつけ威嚇している。

 リリスを痛めつけて動けなくしてからから堪能しようとしているのだろう。

 獣を狩るとき、まず一番めんどくさいことは警戒心からくる防衛。
 警戒心の強い獣を狩るのと、興奮して冷静な判断能力が低下した獣を狩るのとでは、言うまでもなく後者を狩る方が断然楽だ。

 もちろんそれは単体、もしくは少数だった時に限ったことなのだが……今回は単体。
 正直楽勝だろう。

「獣の分際で身分をわきまえず、妾にイヤらしい視線を向けるとは……身の程を教えてくれるわ!」

 そう言うと、リリスはヒールでコツンと音を鳴らした。

 すると黒い光が走り出し、瞬く間に魔法陣を形成する。
 そこから淡く黒い光がふわふわと綿毛のように宙を舞い始めた。

「なんですか……これは?」

 見たこともない幻想的な光が弾けると、そこから小さな藁人形が3体召喚された。
 藁人形はそれぞれ異なる武器を所持している。
 ノコギリに大鎌、それに巨大なハンマー。

「こやつらは妾の命令に忠実に従う魅惑の藁人形じゃ」
「……どこが魅惑なんですか? ただの汚い藁人形じゃないですか」
「…………お前さまは細かいことを気にしすぎじゃ」

 一瞬、足元の藁人形をチラ見したリリスが誤魔化すように咳払いをした。
 絶対に自分でもどこが魅惑なのだろうと思ったに違いない。

「えーい、うるさいの~! 黙って見ておれッ! 魅惑の藁人形共よッ! あの世間知らずの豚を始末するのじゃ」

 曲刀を振り回しながら向かって来るオークに対し、3体の藁人形は飛び跳ねるような動きで襲いかかった。

「ブギャッァァアアアアアアアアッ」

 それは本当に刹那の出来事だった。

 巨体を揺らして直線状に単調な動きで走り込んでくるオーク――その得物を持つ手をノコギリで切り落とすと、もう一体が大鎌で素早く両足を切断し、最後にハンマーを振りかざした藁人形が餅つきのようにオークをぺしゃんこに叩き潰したんだ。

 断末魔の叫びがダンジョン内に木霊すると、鈍い重低音が響き渡る。
 それと同時に辺りは血の海と化す。

「妾も中々であろう?」
「そう……ですね……」

 リリスは自慢げにこれでもかと大きな胸を突き出して、得意げにそう言うとドヤ顔を決めている。

 確かに藁人形に命令を下して魔物を倒すのは凄いが……正直それほど強くないというのが僕の素直な感想だ。
 と言うのも、僕は今の藁人形の一連の動きを見てその欠点に気づいてしまった。

 欠点その1、藁人形はリリスの命令を忠実に遂行するが、藁人形自体が状況を把握した上で考えて行動することはない。

 その2、意思のない藁人形の動きはどうしても短調になりがちで、戦闘が得意な相手だとそのことに気づき、簡単に対処されてしまうだろう。

 その3、リリスの命令とは違う出来事が生じた際、また敵が複雑な動きをしたとき、藁人形では対応できなくなってしまう。

 僕が気づいたこれらをリリスに指摘すると……。

「だからッ! 妾は戦闘が得意ではないと言っておるじゃろうが!」

 と……頬を膨らませていじけてしまった。
 今の今までこれでもかと胸を張り上げていたのに……なんて大人気ない悪魔なんだ。

 だけど、僕はこれらの欠点を補う対策を閃いていた。

「リリス! 僕ならひょっとしたらその藁人形を強化することが可能かもしれません。試してみてもいいですか?」
「へっ……? 妾の魅惑の藁人形を強化じゃと……」

 リリスは僕を見て首を傾げている。
 そんなリリスを尻目に、僕は3体の藁人形に〝肉体憑依〟を施した。

 魔法陣から半透明な3人の美少女を黄泉の国から喚び出した僕は、3体の藁人形に彼女たちを憑依定着させる。

 すると、小さな藁人形は大きくなるにつれ、ボンキュッボンな女体へと変貌を遂げた。

「なっ、なんじゃこれは!? 一体何をしたんじゃ?」
「簡単なことですよ。藁人形はリリスの魔力――マナを元に具現化されたものです。マナを元に具現化されたものだったらその姿をより複雑なものに変化させることも可能です。ただ問題は人間のように複雑なものを完璧にイメージしきれません。そのためリリスは人の形に近い藁人形を連想して具現した、違いますか?」
「た、たしかに……その通りじゃが」

 リリスは瞠目している。
 それはリリスの魔法、魅惑の藁人形を僕が瞬時に見極めたことと、自身の藁人形が美少女に変わってしまったからだろう。

「なら話しは簡単です。リリスはマナを提供することだけに専念し、姿形は藁人形自身に想像させれば済む話しなんですよ」
「藁人形自身に!? ちょっと待つのじゃ! そもそも妾の藁人形には意思など存在せん!」
「だからッ! 肉体憑依でリリスの藁人形に死霊を憑依させることで意思を持たせたんですよ。そうすることによって藁人形には意思が芽生え、リリスの命令だけを忠実に聞く人形から、意志ある美少女お姉さんに変身したんです!」
「そんな……バカな」

 リリスは未だ信じられないと言った様子で3人の美少女ちゃんをガン見している。

 もちろん、これにも欠点はある。
 それは藁人形と違い、マナの消費量が膨大になってしまうということ。

 しかし、リリスは上位悪魔だ。
 そのマナ総量は人間なんかとは比べ物にならないはず。

 そう、これは上位悪魔リリスだから可能だと言っても過言ではない。

「感激です! 黄泉の国からこの姿のまま喚び出してもらえるなんて! 神に……いえ、タタリマスターに感謝です」
「間違いない! 間違いなくこれは慣れ親しんだ僕の体だ! おっぱいの柔らかさももちろん、この弾力も……間違いなく僕のものだ!」
「ああ~、このスベスベのお肌……わたくしのもので間違いありませんわ」

 リリス同様、3人の美少女ちゃんも興奮を隠せずにいた。
 自身の体を確かめるために武器を足元に置いて、おっぱいをモミモミしながらその体の感触を確かめている。

 なんてスケベな確かめ方なんですか。
 美少女お姉さんたちのスケベな手の動きを見ていると、堪らずもっこりテントが張られてしまう。

 ノコギリお姉さんは赤髪のシスター、アイリス。聖職者とは思えないエッチな体つきがたまらない。
 ハンマーお姉さんは青髪のショートヘアーがよく似合うビキニアーマーを着用した女戦士、オルマ。ハレンチ極まりない恰好が最高すぎる。
 大鎌お姉さんはオレンジ色の巻き髪が特徴的な令嬢、クラリス。黒のゴシックドレスが妙にエロティックで僕の敏感な場所が唸りを上げる。

 3人共タイプは異なる美少女なのだが、黒で統一された衣装が抜群の連帯感を醸し出していた。

「ああー神よ、いえ……タタリマスター! 私を導いて下さい」
「ぼっ、ぼくのスケベな体は全部君のものだよ、マスター」
「私をいつでもお喚び下さいマスター」

 僕の腕に腰にしがみつき、大きなマシュマロをぷにゅぷにゅ押し当ててくるお姉さんたちはとてもスケベで素敵だ。
 うん、僕好みだな。
 まっ、エッチなことに未練のある者を喚び出したのだから当然だな。

「ちょッ、ちょっと待つのじゃ! お前たちのマスターはその者ではなく妾であろうッ!!」
「リリスは空気の読めない悪魔ですね。リリスはお姉さんたちの肉体を維持するための原動力に過ぎません。喚び出したのは僕なんですから、僕がマスターと呼ばれるのは当然ですよ」
「はぁ……? そんなの理不尽じゃッ!」

 地団駄を踏むリリスを無視して、僕は3人のお姉さんたちのぷにゅぷにゅを楽しみながら来た道を引き返し始めた。

「リリス、一旦街に戻りますよ。僕たちの力を合わせれば無限にお姉さんを喚び出せるんだから……すぐに宿に行き契約が果たせるか試すのが先決です」
「…………したいだけであろう」


 奥歯を噛み締めて悔しそうな顔を見せるリリスだが、とにかく僕はおっきした僕を静めるために足早に移動した。

 それにお姉さんたちも早く楽しみたいご様子だ。
 女性を待たせるのは男らしくない。

「ああ~これは神の……いえ、タタリマスターの情けです。一度も経験のない私に貴重な経験を与えてくれるのですね。非常に楽しみです」
「僕は戦士として育てられて、一度も男性と経験しないまま戦場で散っちゃったんだ。早くしてみたいよマスター」
「私も家の事情で80過ぎのミイラみたいなおじいさまと結婚させられ……そのせいで一度も経験なく……。でも、これから初めてを経験するのですわね。楽しみですわ」

 僕は哀れなお姉さんたちの顔を見て力強く頷いた。

 僕はシャーマンだ!
 シャーマンにとって本来最も大切なこと、それは生前報われなかった魂を救済することにある。

 あの世にはスケベなことに未練を残した美少女が山のようにいる。
 僕はできることなら彼女たちの力になってあげたい。

 そうか!
 僕はこのためにこの世に生を受け、シャーマンになったのかもしれない。


 僕たちはダンジョンを出て入手した素材などをギルドで換金し、すぐに宿場街へと足を向けた。
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