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第21話 絶世の美女

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「天下無差別ハーレム流、〝千手観音〟!」
「おおっ! 妾のパンティがズレ落ちてきよる!」
「圧倒的技術ね!」

 僕の千手観音でリリスとランランのパンティが少しずつだが下がっていく。
 太ももにパンティちゃんが掛かっている姿はとてもエロティックで素晴らしい!

 それなのに……。

「ぜ~んぜんッダメじゃの~! まったく持ってダメダメじゃな。そもそもタタリよ、お主のそれは千手観音ではない」
「どこからどう見ても千手観音じゃないですか!? 一体何が違うんですか?」

 きっとお師匠さまはいとも簡単に僕に千手観音を会得されたのが嫌だから、いちゃもんをつけてきてるんだ。
 なんて大人気ない年寄りなんだッ!

「では、問う。お主は女子おなごのパンティを剥ぎ取るとき、片手で脱がせるのか?」
「ハッ……!? そ、それは……」

 確かに……僕はお師匠さまとは違い、まだ千手観音を2本しか創り出せない。
 それに比べてお師匠さまの千手観音は……。

「こ、コレッ!? よさぬか無礼者ッ! 妾の体に気安く触れるでないわッ! あっ!? タタリのために買った妾の高級ランジェリーがッ!!」
「アイヤーッ!? ワタシのパンティ返すアルよ! 高かった紐パンね!」

 お師匠さまは無数の千手観音を瞬時に繰り出して、リリスとランランのパンティを瞬く間に剥ぎ取ってしまった。
 その手際の良さも数も制度も、何もかも僕の千手観音とはまるで違う。
 別物だ!

 お師匠さまの千手観音はまるで意思を持ち、生きているようにも見える。

「おおっ! スウィーーーーーートッ! この手触りたまらんの~、儂のコレクションに加えてやるからの~」
「ふッ、ふざけるなッ! 妾の高級パンティを返すのじゃ!」
「ワタシのお気に入りの紐パン返すアルよ!」
「愚か者めッ! パンティとは男に剥ぎ取られるために存在するのじゃ! それに一度儂の手に来たものはすべて儂の物じゃ! このパンティちゃんたちも儂のような聡明な者に可愛がられて喜んでいるではないか~」
「もッ、もう勘弁ならぬわッ! タタリがお師匠さまと慕っているから我慢してきたがッ、こう毎日パンティを盗まれておったらパンティ代が馬鹿にならんッ!」
「圧倒的同感ね! 今日という今日は妖怪ドスケベ仙人を退治してくれるね」

 や、やはり強い。
 お師匠さまは本気になったリリスとランランを2人相手にしているのも関わらず、胸やお尻を触りながら華麗にあしらっている。

 が……僕のリリスとランランの体を気安く触るこのドスケベをこのまま放置して置くのは危険だ!
 というか……鬱陶しい!!

 お師匠さまは食事代はもちろんのこと、寝床の宿代なんかも全部弟子が出すのが当然だとふざけたことを言い、僕を財布代わりに使ってくる始末。

 お陰でプレイに集中できず、僕はここしばらく欲求不満なんだ。

 天下無差別ハーレム流、千手観音もある程度習得したし、そろそろこの邪魔者をゴミ箱に捨てる頃合だな。

 なのでその晩――

 ――ガチャ――ン、ドンッ!!

「離さんかッ! 一体何のつもりじゃタタリよ!」
「黙るですよこの変態ッ! 僕のリリスとランランの体を触ったり、パンティを盗むクズを成敗するのは冒険者の勤めなのですよ」
「チン・ジャオ・ロースッ! いや、連続下着泥棒〝剥ぎ取り魔〟ッ! 貴様を度重なる窃盗罪の罪で逮捕する!」

 憲兵団が僕たちの宿泊する部屋になだれ込んでくる。
 頭のいい僕は予め憲兵に通報しておいたんだ。

 お師匠さまことチン・ジャオ・ロースは身動きが取れずにいた。
 当然だね!

 寝ている隙に体をこれでもかというほど縄で拘束した上、ランランの結合結界で周囲を囲ってあるんだ。

 ランランの結合結界は強力で、結界の中から結界外のマナを操作することが不可能なことも予め検証してある。
 結果、お師匠さまは千手観音を使用して縄を解くことも結界から逃げ出すこともできない。

 ざまあみろ!
 僕のリリスとランランのマシュマロを好き勝手散々触ってくれたバツだッ!

「おのれタタリッ! 師匠である儂を裏切り、こともあろうに憲兵に引き渡すとは……貴様今に見ておれよ!」
「犯罪者は一生牢獄で過ごすですよ。クスクス」

 負け惜しみの言葉を投げつけて、お師匠さまはそのまま憲兵にどこかへと連れて行かれた。

「これでこの街にも、僕たちの夜にも平穏が戻りましたね」
「さすがはタタリじゃの。これでシェリルとの約束でもあった、剥ぎ取り魔を捕まえると言う依頼も無事クリアじゃな」
「圧倒的作戦勝ちね! あの妖怪ドスケベ仙人はきっともう二度と、ワタシたちの前には現れないよ!」
「「「アハハハハ――」」」

 僕たちは勝利に笑い合い、久々に熱く激しい夜を過ごすことができた。



 ◆



「あっ! タタリちゃん! 聞きましたよ。見事に剥ぎ取り魔を捕まえてくれたみたいですね。さすがオークロードを倒したBランク冒険者さんですね」

 ギルドにやって来た僕たちは、シェリルにもう剥ぎ取り魔は二度と現れないと報告しに来たのだが……どうやら既に知っていた様子だ。

 瞳を輝かせて尊敬の眼差しで僕を見やるシェリルは、首から下げた金のタグ、Bランク冒険者の証をチラッと見て褒めてくれる。

 そう、僕たちはオークロードを討伐した功績を認められてEランクから飛び級でBランク冒険者に昇格していた。

「あんなドスケベ妖怪を退治するくらい、朝飯前ね」
「妾たちもあの剥ぎ取り魔には相当頭にきておったからな。憲兵に突き出せて清々しておるところじゃ」
「2人の言う通りですよ! 僕はいつだってお姉さんたちの味方なんです」
「それにしてもタタリちゃんのお肌は一段と艶が張っていて、とても羨ましいです」

 シェリルは僕のほっぺたをツンツンしながらお肌を褒めてくれる。
 そのシェリルはなぜか興奮したように頬を赤らめてもじもじしていた。

 僕は昨夜久々にベッドの上で大暴れできたから絶好調なんだ。
 もちろん、僕だけじゃなくてリリスもランランも絶好調のご様子。
 その証拠にほら、2人のお肌も宝石のように輝いている。

 一瞬、シェリルに顔を見られた2人がポッと頬を染めてそっぽを向くと、シェリルは悔しそうに歯ぎしりをしていた。
 よし、いつかはシェリルも混ぜて3人でしよう!

 なんて妄想にフケながら両手を口元に当てて肩を弾ませていると、シェリルが何かを思い出したように話し始めた。

「そういえば……タタリちゃんは絶世の美女を見には行かないんですか?」
「絶世の美女!?」
「なんじゃそれは?」
「絶世の美少女ならここにワタシがいるね」

 シェリルの絶世の美女と言う言葉に思わず声を荒げてしまう。
 リリスもなんだそれはと首を傾げているが、ランランは自分を指差して自分こそが絶世の美女だと胸を張っている。

「その、絶世の美女って何のことですか? めちゃくちゃ気になります! 是非詳しい話しを聞かせて下さいです」
「うむ、妾を前に絶世の美女と言われれば確かに気になるの」
「だから、絶世の美少女ならここにいるね」
「実はですね……」

 僕たちはランランを無視して、顔を近づけて来たシェリルの話しに耳を傾けた。
 なんでもシェリルの話によると、ことの始まりは二ヶ月以上前まで遡るという。

 丁度、僕たちがオークの群れからお姉さんたちを救出していた頃、この街に有名な一組の冒険者パーティーがやって来た。

 そのパーティーは〝うるは〟と呼ばれ、この国でも5本の指に入るほどの女冒険者パーティーだという。

 麗はこれまでに数多くのダンジョンを踏破したことを認められ、勇者級を意味するSランク冒険者、ベアトリクス・オルヴァーナなる人物がリーダーを務めるパーティーらしい。

 麗に所属するメンバーは最低でもAランク冒険者で構成されており、彼女たちの目的はダンジョンの最下層に眠るゴッズ級と言われるアイテムを集めることだという。

 そんな麗がついにこの大都市カルプスのダンジョン攻略へとやって来た。
 麗はダンジョンに潜るや否や、ものの数日でダンジョンの最深部へとたどり着いた。

 しかし、ダンジョンから戻ってきた彼女たちはとても不満そうな顔色を窺わせたのだ。
 なんでもダンジョンの最深部までたどり着くことはできたのだが、それ以上先へは封印が施されており、進むことが不可能だった。

 その封印は麗のリーダー、ベアトリクスですら解くことができないほど強力なものらしい。
 そして、問題の絶世の美女はその結界の中で眠るように封じ込められていたと言う。

「封印の中に絶世の美女ですか?」
「何やら面白そうな話じゃの」
「ワタシは絶世の美少女なのでどうでもいいね。それよりゴッズ級とかいうアイテムの方が圧倒的興味津々ね」

 シェリルの話しを聞いた僕は腕を組み、瞼を閉じて瞑想する。

 もしも、本当にシェリルの言うようにダンジョンの奥深くに絶世の美女がいるなら見てみたい。
 いや、僕がこれから築くエロエロパーティーに是非とも加わってもらいたい!

 しかし、問題もある。
 シェリルの話しが事実だとするなら、絶世の美女を見たというのは女性パーティー。

 早い話しが信用に欠けるということだ。

 なぜなら、女性が同性に対して言う可愛いとか美人とかいう言葉はまったく持って信じられないというのが僕の見解だ。

 現に村にいた頃、長生きおばあさんがよくジャミコに「あんたは本当に可愛い子だね」と嘘ばっかり言っていたのを僕は知っている。

 なので今回はあまり乗り気がしないのもまた事実。
 せっかく苦労して最深部までたどり着いても、美女じゃなかったらくたびれ儲けだ。

 だが……非常に気になる!

「そういえば……ランランさんの元パーティーメンバーでもある、レイン・ディープスカイさんも絶世の美女を手に入れるべくダンジョンに潜っていますよ?」
「へっ……!? あのバカまた無茶してるか……ムムとレレが可哀想ね」

 まっ、ランランが不安がるのも仕方のないことかもしれない。
 今は僕と行動を共にしているランランだが、元パーティーメンバーが危険なダンジョンの奥深くに潜っていると知れば、心配するのは当然だろう。

 それにレインたちのパーティーには現在タンカーが不在だ。
 常に危険と隣り合わせのダンジョンで守りが疎かになるということは、それだけ死神が背後に迫るというリスクを抱えていることでもある。

「しっ、死んでしまったら骨くらいは拾って……やるね」

 僕とリリスに悟られたくないと思い笑っているが……その笑顔はどこか痛々しい。
 本当は今すぐにでもレインたちの元に駆けつけたいんじゃないだろうか?

 もしもそうだったら……僕やリリスに気を遣うことなく言って欲しい。
 レインたちのパーティーを去ったランランだが、彼らと友達であることは変わりないのだから。

「ランラン……」
「何あるか、リリス?」
「本当はレインたちのことが心配なのではないか? 妾たちに気を遣っておるつもりならやめるのじゃな。不愉快じゃ」
「ッ!? そ、そんな言い方ないねッ!」

 リリスのぶっきらぼうな態度に、ランランは肩に置かれていた手を払い、怒りをあらわにしている。
 不穏な空気が漂い、2人の間に軋轢が生じ始めた。

 僕はそんな2人のやり取りを見て聞いて、ついクスッと笑ってしまう。

「なぜ笑うねッ! ワタシ怒ってるよ!」

 ランランが怒るのも無理はない。
 だけど……。

「違いますよランラン。リリスは仲間なのに本心を打ち明けてもらえずに隠されるのが不愉快だと言っているんです。リリスもそんなにぶっきらぼうに言わず、もう少し素直に言ってあげたらどうなんですか? ランランが行きたいのなら、仲間なんだから遠慮せずに言えばいいと」
「わっ、妾は別に……その……」
「リリス……?」

 リリスはこれまで同性の友人があまりいなかったのか、顔を真っ赤に染めてそっぽを向いてしまった。
 そんなリリスの態度を見て、ランランの口元が僅かに綻びた。

「リリスの言う通りね! ワタシは本当はあのバカたちがちょっと……本当にちょっとだけ心配ね。ワタシのわがままに付き合ってもらえるか?」
「もちろんですよ! ね、リリス」
「はッ、初めから素直にそう言わんかッ!」
「リリスもワタシに素直に言うよろしい。ワタシたちは友達ね!」
「カッーーーーーーッ! そんな小っ恥ずかしいことを堂々と口にするでないわ!」
「リリスの耳は真っ赤ね! トマト餃子みたいで美味しそうね」

 笑う僕とランランに対し、リリスはもの凄い剣幕で怒っていた。
 シェリルは2人のやり取りを見て、「いいな~」と小さく漏らしている。

 僕はレインたちのことなどどうでもいいが、〝絶世の美女〟のことは気になる。
 もしも本当に絶世の美女なら……レイン何かに取られたくはない。

 なので……。


「それじゃあ、ダンジョンに潜るとしますよ」
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