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第3部 呪いの館 それぞれの未来へ
第0話
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その光る小鳥は突然現れた。
ピィーと鳴きながら、旋回して彼の伸ばした人差し指に止まった。
そのメッセージをしっかり受け取る。それに見届け安心したように、ピィと小さく鳴いて鳥は指から落ちた。
床に落ちると同時に小鳥は光の粒になり消えた。
◇◇◇
晴れやかな青空の下でその婚約パーティーは行われた。
といっても、故郷から遠い国へ来ている為、親戚はいない。身内とせいぜい仲の良い村人くらいだ。
婚約者の髪と瞳と同じ色の指輪。それを見て少女は、今日何度めかの笑みを浮かべた。
「ーどうした?」
ご機嫌そうな少女に婚約者が優しく話しかける。美しいサラサラの金髪に澄んだ碧い瞳。彼女の婚約者は類を見ない美形だ。
今まで家族同然だと思っていた時は気にならなかったが、恋人になってからは近くに寄られるとドキドキして仕方ない。
「指輪が嬉しくて」
頬を桃色に染めて、少女は照れた様に笑った。
「お別れ前にこの指輪を、はなちゃん達にも見せたいわ」
仲の良い兄妹を思い浮かべる。
近く帰国が決まったので、婚約報告と一緒に伝えるつもりだ。
「…行かないで欲しい」
婚約者が少女の手を取って懇願した。いつもは、そうか、としか言わない彼が行くなと言った事に驚く。
「どうしたの?急に」
「急じゃない。いつも思っていた。オレじゃない男に会いに行くのを嫉妬していた」
縋る様に言い募る婚約者に少女は言葉に詰まった。
少女はちょっと前に村長の息子に失恋した。国も人種も違う恋だ。それでも真剣だった分、とても傷ついた。
そんな彼女を愛して支えてくれたのが今目の前にいる彼だった。
彼を傷つけたくない。
「姉さん、ボクもそうした方がいいと思う」
弟が声をかけてきた。
彼女と同じ癖っ毛の金髪に碧い瞳。優しい顔立ちの少年だった。
「ね?義兄さん」
そう言って、いたずらっ子の様な表情で彼を見た。
「お前…」
「呼んで欲しかったんでしょ?名前じゃなくて義兄さんて」
婚約者の顔が桃色に染まった。
図星だった様だ。
そういえば、弟は彼女を姉さんと呼ぶが、養子の彼の事はいつも名前で呼んでいる。
「そうなの?」
「…だってその方が家族っぽいだろ?」
ぷいと背けた顔が喜んでるのがわかる。ワタシの婚約者は何て可愛いのかしら!
トキメキながら、わかったわと頷いた。仲の良い友達に会えないのは辛いが、この2人を悲しませてはダメだと思った。
午前中でパーティーはお開きになった。
父親と仲の良い村長が、最後に挨拶にやって来た。
「本当におめでとう。息子達にもワシから伝えておくから。国に帰っても元気でな」
「ありがとうございます」
はな達にも言伝を頼んで別れた。
最後の客を見送ってから、おもむろに父が言った。
「よし!じゃあ出発するか」
「まあ、今から仕事に行くのですか?」
近々父親が仕事で遠出をするとは聞いていたが、いきなり今日とは。
「いや、お告げであの仕事はキャンセルしたよ」
「え?ではどちらに?」
「姉さん、国に帰るんだよ」
そう言っていつの間にか外出用の服に着替えた弟が現れた。手荷物も持っている。
「え?どういう事?」
「これもお告げだよ、行くよ、姉さん、義兄さん」
彼女にはよくわからないが、一族の術の一つに「お告げ」という物があるらしい。それは当主しか使えない秘術で、数日前にそれがあったらしい。
そこで急遽、父親は予定をキャンセル。婚約パーティーも前倒しにして、すぐさま国に帰る事にしたらしい。
「いくらなんでも急すぎるわ~!」
仕方なくドレスから外出用のワンピースに着替える。広間に出ると、いつもの白シャツとベージュのパンツに着替えた彼が待っていた。
「やっぱりその格好が1番素敵ね。いつも見ていた筈なのに懐かしい気がするわ」
「そうか?」
「はいはーい急いで!日が暮れちゃうよ!」
弟に追い立てられて馬車に乗り込む。全員乗った事を確認して出発した。
住み慣れた洋館がどんどん小さくなっていく。
何故こんな急に逃げる様に。不思議に思うが、何となくこれが正しい気がした。
木々を抜け村外に出ると、小高い丘の上に人影が見えた。黒髪の青年と少女だった。
彼女と弟に良くしてくれた仲の良い兄妹が、彼女達家族を見送りに来てくれていた。大きく手を振ってくれている。
思わず馬車から身を乗り出した。
「ありがとうー!貴方達の事、忘れないわー!」
見えなくなるまでお互いに手を振り続けた。
気づいたら彼女の瞳から涙が溢れていた。
自分でもよくわからないが、突然胸の奥から深い感謝が込み上げて来たからだ。
沢山の人の想いと願いと、いくつかの奇跡が自分を守ってくれている気がした。
さようなら。
優しい村。
大好きな人達。
感謝が胸に溢れて、涙が止まらなかった。その横で婚約者は静かに彼女に寄り添ってくれていた。
その後。
婚約者を含めた彼女達家族は無事に国に戻り、2人は母国で結婚式を挙げた。
結婚式では母国の親戚が集まり盛大に祝ってくれた。
本当の家族になりたいと願い続けてきた婚約者は、愛しい彼女やその弟、そして育ての父と本当の家族になった。
そして、ずっと寂しさを胸に抱えていた少女は、やっと唯一彼女だけを見て寄り添ってくれる存在と結ばれたのだった。
呪いの館と名無しの霊(仮)
完。
ーーー
以上で完結です。
異国の3人には、ちゃんと設定上の名前がありますが、読んでくれた方のイメージを壊したくないので伏せる事にしました。
最後に登場人物一覧を更新しました。補足的な物になりますので、もし良ければ併せてご覧頂けたら嬉しいです。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。
ピィーと鳴きながら、旋回して彼の伸ばした人差し指に止まった。
そのメッセージをしっかり受け取る。それに見届け安心したように、ピィと小さく鳴いて鳥は指から落ちた。
床に落ちると同時に小鳥は光の粒になり消えた。
◇◇◇
晴れやかな青空の下でその婚約パーティーは行われた。
といっても、故郷から遠い国へ来ている為、親戚はいない。身内とせいぜい仲の良い村人くらいだ。
婚約者の髪と瞳と同じ色の指輪。それを見て少女は、今日何度めかの笑みを浮かべた。
「ーどうした?」
ご機嫌そうな少女に婚約者が優しく話しかける。美しいサラサラの金髪に澄んだ碧い瞳。彼女の婚約者は類を見ない美形だ。
今まで家族同然だと思っていた時は気にならなかったが、恋人になってからは近くに寄られるとドキドキして仕方ない。
「指輪が嬉しくて」
頬を桃色に染めて、少女は照れた様に笑った。
「お別れ前にこの指輪を、はなちゃん達にも見せたいわ」
仲の良い兄妹を思い浮かべる。
近く帰国が決まったので、婚約報告と一緒に伝えるつもりだ。
「…行かないで欲しい」
婚約者が少女の手を取って懇願した。いつもは、そうか、としか言わない彼が行くなと言った事に驚く。
「どうしたの?急に」
「急じゃない。いつも思っていた。オレじゃない男に会いに行くのを嫉妬していた」
縋る様に言い募る婚約者に少女は言葉に詰まった。
少女はちょっと前に村長の息子に失恋した。国も人種も違う恋だ。それでも真剣だった分、とても傷ついた。
そんな彼女を愛して支えてくれたのが今目の前にいる彼だった。
彼を傷つけたくない。
「姉さん、ボクもそうした方がいいと思う」
弟が声をかけてきた。
彼女と同じ癖っ毛の金髪に碧い瞳。優しい顔立ちの少年だった。
「ね?義兄さん」
そう言って、いたずらっ子の様な表情で彼を見た。
「お前…」
「呼んで欲しかったんでしょ?名前じゃなくて義兄さんて」
婚約者の顔が桃色に染まった。
図星だった様だ。
そういえば、弟は彼女を姉さんと呼ぶが、養子の彼の事はいつも名前で呼んでいる。
「そうなの?」
「…だってその方が家族っぽいだろ?」
ぷいと背けた顔が喜んでるのがわかる。ワタシの婚約者は何て可愛いのかしら!
トキメキながら、わかったわと頷いた。仲の良い友達に会えないのは辛いが、この2人を悲しませてはダメだと思った。
午前中でパーティーはお開きになった。
父親と仲の良い村長が、最後に挨拶にやって来た。
「本当におめでとう。息子達にもワシから伝えておくから。国に帰っても元気でな」
「ありがとうございます」
はな達にも言伝を頼んで別れた。
最後の客を見送ってから、おもむろに父が言った。
「よし!じゃあ出発するか」
「まあ、今から仕事に行くのですか?」
近々父親が仕事で遠出をするとは聞いていたが、いきなり今日とは。
「いや、お告げであの仕事はキャンセルしたよ」
「え?ではどちらに?」
「姉さん、国に帰るんだよ」
そう言っていつの間にか外出用の服に着替えた弟が現れた。手荷物も持っている。
「え?どういう事?」
「これもお告げだよ、行くよ、姉さん、義兄さん」
彼女にはよくわからないが、一族の術の一つに「お告げ」という物があるらしい。それは当主しか使えない秘術で、数日前にそれがあったらしい。
そこで急遽、父親は予定をキャンセル。婚約パーティーも前倒しにして、すぐさま国に帰る事にしたらしい。
「いくらなんでも急すぎるわ~!」
仕方なくドレスから外出用のワンピースに着替える。広間に出ると、いつもの白シャツとベージュのパンツに着替えた彼が待っていた。
「やっぱりその格好が1番素敵ね。いつも見ていた筈なのに懐かしい気がするわ」
「そうか?」
「はいはーい急いで!日が暮れちゃうよ!」
弟に追い立てられて馬車に乗り込む。全員乗った事を確認して出発した。
住み慣れた洋館がどんどん小さくなっていく。
何故こんな急に逃げる様に。不思議に思うが、何となくこれが正しい気がした。
木々を抜け村外に出ると、小高い丘の上に人影が見えた。黒髪の青年と少女だった。
彼女と弟に良くしてくれた仲の良い兄妹が、彼女達家族を見送りに来てくれていた。大きく手を振ってくれている。
思わず馬車から身を乗り出した。
「ありがとうー!貴方達の事、忘れないわー!」
見えなくなるまでお互いに手を振り続けた。
気づいたら彼女の瞳から涙が溢れていた。
自分でもよくわからないが、突然胸の奥から深い感謝が込み上げて来たからだ。
沢山の人の想いと願いと、いくつかの奇跡が自分を守ってくれている気がした。
さようなら。
優しい村。
大好きな人達。
感謝が胸に溢れて、涙が止まらなかった。その横で婚約者は静かに彼女に寄り添ってくれていた。
その後。
婚約者を含めた彼女達家族は無事に国に戻り、2人は母国で結婚式を挙げた。
結婚式では母国の親戚が集まり盛大に祝ってくれた。
本当の家族になりたいと願い続けてきた婚約者は、愛しい彼女やその弟、そして育ての父と本当の家族になった。
そして、ずっと寂しさを胸に抱えていた少女は、やっと唯一彼女だけを見て寄り添ってくれる存在と結ばれたのだった。
呪いの館と名無しの霊(仮)
完。
ーーー
以上で完結です。
異国の3人には、ちゃんと設定上の名前がありますが、読んでくれた方のイメージを壊したくないので伏せる事にしました。
最後に登場人物一覧を更新しました。補足的な物になりますので、もし良ければ併せてご覧頂けたら嬉しいです。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。
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