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第2部 呪いの館 救出編

12話

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「うう…」

 それまで倒れていた男がうめき声を上げ、モゾモゾ動き出した。意識を取り戻したかもしれない。

「華、聞いていい?」
「え?うん」
「この男に襲われたの?」
「…うん。押し倒されたけど、これで殴って助かったの」

 華がメリケンサックを嵌めた右拳を見せた。そう…と呟くと、怜は華から離れて、おもむろに大きい石を両手で掴んだ。

「怜ちゃん…?」
「華は離れていて。コイツはココで殺す」
「…え?殺す?」
「華に手を出したんだ。許さない。それに元々死人だ。殺人罪にもならない」

 目が本気だった。

 石を上から振りかぶり、男の頭を打ちつけた。ガツッと音がして、また男が動かなくなった。

 それでも怜はやめる様子はない。更に石を振りかぶる。

 怜の迫力に圧されていた華も、ハッと正気を取り戻す。

「待って!殺さないで!」
「……何で?」
「今回は、事件をちゃんと調べたいの!だから証言が聞けそうな村人が居なくなったら困る!」
「……」
「…お願い、怜ちゃん」
「…………ふぅ」

 身体に渦巻く怒りを放出するように、怜は深いため息を吐いて石を放り投げた。

『そこに蔦があるって伝えて。それで男を縛れる』

 それまで静かだった少年の声が聞こえた。

 それを怜に伝えると、彼は辺りを見回して、ボディバッグから取り出したサバイバルナイフで蔦を取って来た。

 そのまま男を拘束し、近くの大木に縛り付ける。ついでに大声を出せない様に口に布を詰めて口まわりも細めの蔦で拘束した。

 その手早さに驚く。

 元々器用だとは思っていたが…頼りになる存在が助けに来てくれた事にホッとした。

「…何?」

 怜は不機嫌そうだ。

 よほど華を害した存在が許せなかったのだろう。

「私1人ではこんな風に縛れないから。頼りになるなぁって思ったの…。怜ちゃんが来てくれて、本当に良かった!」

 華の笑顔に、怜の顔がボボボと赤く染まった。

 照れを隠すように顔を背けると、そのままエコバッグを広げてサツマイモを拾い始めた。

「すごい、エコバッグまで!」
「…あると便利だろ」
「怜ちゃん…お母さんみたい…ふふっ」

 怜の相変わらずなオカンな行動に思わず笑うと、華も一緒にサツマイモを拾った。



◇◇◇



 一旦男をそのままにして2人は洋館に戻る事にした。

 広間に戻ると、出入り口の扉が祭壇になった。これまでの状況報告を兼ねて、2人は食堂へ向かった。

「ここは初めて入ったな」

 怜が食堂内を観察する。

 そんな怜をよそに華は卓上BOXからドリンクを取り出した。

 怜が好きなアイスカフェラテと華の好きなアイスティー。シロップとミルクもある。

 よく学校近くのカフェで飲んでたメニューだ。ちょっとオシャレなグラスまで一緒で怜がびっくりしている。

 そんな怜に、華は卓上BOX万能君の凄さを力説した。ふんふんと、怜はアイスカフェラテを飲みながら華の話を聞いてくれる。

 そのまま華は1人残った後の出来事を報告する。

 男性2人の幽霊は同化できたが、女性の幽霊に拒否された事。
 祭壇の声は彼らの父親で事件の真相を解明する事を望んでいた事。
 まず出来る事からと、近辺の村人に話を聞いていた事。
 それに、この世界で死んだ場合、元の世界に戻れず目覚めず衰弱死してしまう事。

 話を一通り聞いて、怜は顎を触りながら何か考える。

「じゃあ僕が2つの腕輪をつけて、華が彼女を受け入れた方がいいかもしれないね」
「私が2つでもいいけど…」
「彼女が同化したら、彼らの剣と盾が使える。それは僕の方が適役だ」
「そっか…そうだね」

 確かにその役は男性の怜に任せた方がいいだろう。

 だけど、華は決めていた。
 もう役立たずには…守られてばかりの存在にはならないと。

「わかった。じゃあ大変だけど思うけど、2つをお願い。ただ、私も守られてばかりはもう嫌なの。私が出来ることは、ちゃんと私に任せて」

 怜と勇輝は、基本的に華を甘やかす。特に怜はその傾向が強い。

 今まではそれが当たり前になってしまって、いつの間か人任せにする癖がついてしまっていた気がする。

 でも、もうその甘えは捨ててしまわなければいけない。自分自身の成長の為にも。

「…そうだね。いつまでも甘やかしちゃダメだね」
「そうよ!私を甘やかさないで!…というか、同じ歳なんですけど!」

 むくれる華に、怜はハハっと笑った。その表情は少し淋しそうに見えた。
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