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人生初の口づけは、幾ら待っても訪れ無かった。
キャスが恐る恐る片目を開くと。2人の間にはいつの間にか防御壁が出来上がっていた。
氷で出来た冷たい壁に見覚えのあるキャスが慌てる。
「タンタン!?」
『キャス、攻撃された?大丈夫?』
いつの間にか、タンタンがキャスの側にいて、ラリエスに対して防御壁を展開していた。
そのせいかラリエスは吹き飛ばされた様に地面に尻もちをついていた。
「……」
せっかくのチャンスを邪魔されたラリエスは笑顔なのに青筋が立っている。タンタンに対してかなり怒ってるのが分かった。
「タンタン大丈夫だ。いつもの勝負だ。私が負けてもう決着はついた」
『そうなの?』
よくあるキャスの決闘だと分かってタンタンは氷の防御を解除した。そのままピタとキャスの肩に乗る。
『キャスに兄弟紹介するね!』
「あ、ああ」
とてもじゃないが甘い雰囲気は吹き飛んでいた。
ラリエスは更にこめかみの青筋を増やした。
まずい。実力から言って、タンタンなんか一捻りだ。
「彼もいいか?」
『いいよ!』
「…キャス?」
キャスの提案にラリエスは怪訝そうな表情だ。
先に立ち上がったキャスは、まだ不機嫌そうに座り込んでいるラリエスの元へ行くと手を差しのべた。
「さっきの話」
告白に対して、全く色気の無い返事。そんなの自分だって分かってる。でも他のやり方を自分は知らない。
まだ怪訝な表情を浮かべて、ラリエスがキャスの手を取った。
その手をキャスがぎゅうと握り返す。年頃の異性と手を繋ぐのはほとんど初めてに近い。
キャスが照れているその様子に、ラリエスの胸は期待に膨らむ。彼女が明らかに自分を意識してくれているのがわかる。もしかしてー。
「完敗だ。だから…よろしく」
最後は消え入りそうな小さな声だった。
でもラリエスの耳にはちゃんと届いた。
「もちろんです」
ラリエスも優しくキャスの手を握り返した。
不器用な女冒険者と、女たらしとして有名な騎士のカップルが誕生した瞬間だった。
この2人の恋が。
この後、大陸を滅亡の危機にさらしていくなど。知るよしも無かったー。
◇◇◇
翌日。王国騎士団にキャスを加えた一向は王都へ向かって旅立った。
王都への旅は快適だった。キャスはラリエスの馬に便乗させてもらった。
ラリエスの馬は一際大きく、足も早い馬だった。2人で乗ってもビクともしない安定感がある。
「キャス。左手に銀狼達がいますよ」
キャスの背後からラリエスが声をかける。後ろから抱きしめてられている格好なので、その距離は極めて近い。
進行方向の左手は銀狼一族が収める森だ。暖かくなると木の実や果実が豊富に実る。
木々の合間に美しい毛並みの狼達が垣間見えた。
「キャス、ほら見てください。毛波が美しいですね」
「あ、あぁ」
すぐ耳元で囁かれる低く甘い声が、キャスの耳をくすぐる。
何だかその状況が恥ずかしくて、キャスは何となく話題を変えた。
「団長、例の異変は北だけなのか?」
「あぁ。キャス達も噂を聞いたんですね」
今の所は北だけです、とラリエスは答えた。
それを詳しく調査する為、数人の団員をキタンの村へ残して来た、と続けた。
「大丈夫です。万が一魔王が復活しても、どんな手を使ってでも私はキャスを守って、キャスと結婚します」
「け、けっこ…ん」
付き合ったのも昨日の事で。
そもそも男女の付き合いという物を知らない。
結婚なんて…とても想像出来ない。
ぐるぐる思考が回るキャスの耳元に、ラリエスが再び囁く。
「大丈夫。もう私の覚悟は決まりました」
「わ、私はまだー」
「あきらめてください」
チュッ
どさくさに紛れて、他の団員からは見えない様に、ラリエスはキャスの耳にキスを落とした。
リップ音が耳に響いてー。
「~~~っ」
「フフ、赤くなる所も好きですよ」
終始、ラリエスに翻弄されながら王都への旅は続いたのだった。
本来、北の大陸から中央の王都へ向かうには少なくとも1泊する必要がある。距離的に。
ところがラリエスはそれを、まるっと無視した。
「貴方達の馬は休ませないと可哀想ですからね。この村で休んで行ってください」
「え?団長は?」
「私の馬はまだ平気ですから先に帰ります。では明後日、城で」
「え?え?団長ぉ~!?」
「副団長、後は任せましたよー」
笑いながら団長ラリエスは部下を放置して馬を走らせた。キャスを連れて。
団員と別行動したラリエスの馬はその速さを加速した。グングンとスピードを上げ、真夜中になる頃には王都の近くに着いていた。
だが彼は都には入らず、脇道を逸れる様に進むと、緑に囲まれた立派な館に着いた。
「ここは?」
「私の別荘です」
さすが名家の息子は違う。キャスはぽかーんと、その立派さに呆れた。これで別荘なら本宅は凄まじいに違いない。
馬を小屋へ戻すと、ラリエスはキャスを伴って館に入った。
中は広く、灯りを灯すとセンスの良い調度品が揃っていた。だが人の気配が全く無かった。
「召使いとかはー」
「いませんよ。ここには2人きりです」
驚くキャスを背後からラリエスが抱擁する。緊張に身体を強張らせる恋人に、ラリエスがふふ、と笑った。
「そうです。明後日、城に向かうまでこの家に私と貴女の2人きりです」
「ふ、2人きり…」
「覚悟はいいですよね?」
半泣きでキャスは、背後のラリエスを振り返った。
翌朝。珍しくグッスリ休んだキャスが目覚めると、美しい顔がドアップで飛び込んで来た。
一瞬、その造形美に見惚れ、息を飲む。
なんでココに団長が…と昨夜を回想して、思い出す。
そうだ。
昨夜ラリエスに後ろから抱きしめられたキャスは、動揺のあまりラリエスを投げ飛ばした。
見事に着地を決めたラリエスは「すみません。もうしません」と、キャスのペースに合わせてくれる事を約束してくれたのだ。
その後は軽い夕飯をとって、ベッドが1つしかないからと、そのまま一緒に横になったのだ。そして旅の疲れもあって、すぐ寝てしまった。
互いに昨日の着衣のままだが、苦しかったのか、ラリエスのシャツはボタンが外れていて、その厚い胸元が微かに見えていた。
窓から入る日差しに、ラリエスの色素の薄い茶髪が透けてとても綺麗で。なのに、身体はしっかり鍛えられていて女ぽいわけではない。
なんだか…胸がドキドキする。
こんなに何でも持っている男が自分の恋人だなんて。それがいまだに信じられなくて、キャスがボーと見惚れていると。
パチリとラリエスが目を開けた。薄い茶色の瞳がすぐにキャスを捉えて、幸せそうに微笑んだ。
「…キャス、おはようございます」
「お、おはよう、ございます」
突然のラリエスの笑顔に、何故だかキャスの心臓がバクバクと早まった。
「あぁ…朝からこんなに真っ赤になって…可愛いですね」
「え?」
ラリエスの腕がキャスに伸びてきたと思うと。
次の瞬間、キャスはラリエスの腕の中にいた。抱き込まれて、キャスはラリエスの胸元に縋りつく様な格好になる。
「このまま…私の物にしてしまいたい」
見た目より厚い胸元が。
見た目より逞しい腕が。
そして、相変わらずの良い香りが。
更にバクバクとキャスの心臓を高鳴らせる。
「だ、団長…」
「…キャス?」
か細いキャスの声に、ラリエスが腕の中のキャスを見て、軽く息を呑んだ。
そして、そのまま、はぁー、と深いため息を吐きながら片手で自身の両目を覆った。
「あー…もう…」
「団長、どうした?」
「…………何でもないです」
ラリエスはキャスを離すと、朝ごはんにしますか?と伸びをしながら起き上がった。
そんなラリエスに続こうとして、キャスは身体に違和感を覚えた。
何だか普段痛くない所が、痛い。
「どうしました?」
「いや、身体がちょっと…」
「あぁ。丸一日馬に乗ってましたからね」
ラリエスはニヤリと笑うと、ベッド横の棚から何かを取り出した。擦り傷とかに効く軟膏だった。
「普段痛くない所が痛む事もありますよ。どうぞ」
「ありがとう」
「少しひんやりしますが良く効きますよ。たっぷりと塗ってくださいね」
何故だか、ラリエスは機嫌良さそうに、その軟膏をキャスに手渡した。
そして、朝食の準備をしておきますね、と先に寝室を出て行った。
やはりラリエス位になると、馬に長時間乗る機会も多いのだろう。キャスは特に疑問に思う事なく、ヒリヒリするその場所に軟膏を塗った。
ーーー
夜中にラリエスはこっそりキャスにイタズラをしました。不自然な場所が痛いのにウブなキャスは気づきません(^^)
キャスが恐る恐る片目を開くと。2人の間にはいつの間にか防御壁が出来上がっていた。
氷で出来た冷たい壁に見覚えのあるキャスが慌てる。
「タンタン!?」
『キャス、攻撃された?大丈夫?』
いつの間にか、タンタンがキャスの側にいて、ラリエスに対して防御壁を展開していた。
そのせいかラリエスは吹き飛ばされた様に地面に尻もちをついていた。
「……」
せっかくのチャンスを邪魔されたラリエスは笑顔なのに青筋が立っている。タンタンに対してかなり怒ってるのが分かった。
「タンタン大丈夫だ。いつもの勝負だ。私が負けてもう決着はついた」
『そうなの?』
よくあるキャスの決闘だと分かってタンタンは氷の防御を解除した。そのままピタとキャスの肩に乗る。
『キャスに兄弟紹介するね!』
「あ、ああ」
とてもじゃないが甘い雰囲気は吹き飛んでいた。
ラリエスは更にこめかみの青筋を増やした。
まずい。実力から言って、タンタンなんか一捻りだ。
「彼もいいか?」
『いいよ!』
「…キャス?」
キャスの提案にラリエスは怪訝そうな表情だ。
先に立ち上がったキャスは、まだ不機嫌そうに座り込んでいるラリエスの元へ行くと手を差しのべた。
「さっきの話」
告白に対して、全く色気の無い返事。そんなの自分だって分かってる。でも他のやり方を自分は知らない。
まだ怪訝な表情を浮かべて、ラリエスがキャスの手を取った。
その手をキャスがぎゅうと握り返す。年頃の異性と手を繋ぐのはほとんど初めてに近い。
キャスが照れているその様子に、ラリエスの胸は期待に膨らむ。彼女が明らかに自分を意識してくれているのがわかる。もしかしてー。
「完敗だ。だから…よろしく」
最後は消え入りそうな小さな声だった。
でもラリエスの耳にはちゃんと届いた。
「もちろんです」
ラリエスも優しくキャスの手を握り返した。
不器用な女冒険者と、女たらしとして有名な騎士のカップルが誕生した瞬間だった。
この2人の恋が。
この後、大陸を滅亡の危機にさらしていくなど。知るよしも無かったー。
◇◇◇
翌日。王国騎士団にキャスを加えた一向は王都へ向かって旅立った。
王都への旅は快適だった。キャスはラリエスの馬に便乗させてもらった。
ラリエスの馬は一際大きく、足も早い馬だった。2人で乗ってもビクともしない安定感がある。
「キャス。左手に銀狼達がいますよ」
キャスの背後からラリエスが声をかける。後ろから抱きしめてられている格好なので、その距離は極めて近い。
進行方向の左手は銀狼一族が収める森だ。暖かくなると木の実や果実が豊富に実る。
木々の合間に美しい毛並みの狼達が垣間見えた。
「キャス、ほら見てください。毛波が美しいですね」
「あ、あぁ」
すぐ耳元で囁かれる低く甘い声が、キャスの耳をくすぐる。
何だかその状況が恥ずかしくて、キャスは何となく話題を変えた。
「団長、例の異変は北だけなのか?」
「あぁ。キャス達も噂を聞いたんですね」
今の所は北だけです、とラリエスは答えた。
それを詳しく調査する為、数人の団員をキタンの村へ残して来た、と続けた。
「大丈夫です。万が一魔王が復活しても、どんな手を使ってでも私はキャスを守って、キャスと結婚します」
「け、けっこ…ん」
付き合ったのも昨日の事で。
そもそも男女の付き合いという物を知らない。
結婚なんて…とても想像出来ない。
ぐるぐる思考が回るキャスの耳元に、ラリエスが再び囁く。
「大丈夫。もう私の覚悟は決まりました」
「わ、私はまだー」
「あきらめてください」
チュッ
どさくさに紛れて、他の団員からは見えない様に、ラリエスはキャスの耳にキスを落とした。
リップ音が耳に響いてー。
「~~~っ」
「フフ、赤くなる所も好きですよ」
終始、ラリエスに翻弄されながら王都への旅は続いたのだった。
本来、北の大陸から中央の王都へ向かうには少なくとも1泊する必要がある。距離的に。
ところがラリエスはそれを、まるっと無視した。
「貴方達の馬は休ませないと可哀想ですからね。この村で休んで行ってください」
「え?団長は?」
「私の馬はまだ平気ですから先に帰ります。では明後日、城で」
「え?え?団長ぉ~!?」
「副団長、後は任せましたよー」
笑いながら団長ラリエスは部下を放置して馬を走らせた。キャスを連れて。
団員と別行動したラリエスの馬はその速さを加速した。グングンとスピードを上げ、真夜中になる頃には王都の近くに着いていた。
だが彼は都には入らず、脇道を逸れる様に進むと、緑に囲まれた立派な館に着いた。
「ここは?」
「私の別荘です」
さすが名家の息子は違う。キャスはぽかーんと、その立派さに呆れた。これで別荘なら本宅は凄まじいに違いない。
馬を小屋へ戻すと、ラリエスはキャスを伴って館に入った。
中は広く、灯りを灯すとセンスの良い調度品が揃っていた。だが人の気配が全く無かった。
「召使いとかはー」
「いませんよ。ここには2人きりです」
驚くキャスを背後からラリエスが抱擁する。緊張に身体を強張らせる恋人に、ラリエスがふふ、と笑った。
「そうです。明後日、城に向かうまでこの家に私と貴女の2人きりです」
「ふ、2人きり…」
「覚悟はいいですよね?」
半泣きでキャスは、背後のラリエスを振り返った。
翌朝。珍しくグッスリ休んだキャスが目覚めると、美しい顔がドアップで飛び込んで来た。
一瞬、その造形美に見惚れ、息を飲む。
なんでココに団長が…と昨夜を回想して、思い出す。
そうだ。
昨夜ラリエスに後ろから抱きしめられたキャスは、動揺のあまりラリエスを投げ飛ばした。
見事に着地を決めたラリエスは「すみません。もうしません」と、キャスのペースに合わせてくれる事を約束してくれたのだ。
その後は軽い夕飯をとって、ベッドが1つしかないからと、そのまま一緒に横になったのだ。そして旅の疲れもあって、すぐ寝てしまった。
互いに昨日の着衣のままだが、苦しかったのか、ラリエスのシャツはボタンが外れていて、その厚い胸元が微かに見えていた。
窓から入る日差しに、ラリエスの色素の薄い茶髪が透けてとても綺麗で。なのに、身体はしっかり鍛えられていて女ぽいわけではない。
なんだか…胸がドキドキする。
こんなに何でも持っている男が自分の恋人だなんて。それがいまだに信じられなくて、キャスがボーと見惚れていると。
パチリとラリエスが目を開けた。薄い茶色の瞳がすぐにキャスを捉えて、幸せそうに微笑んだ。
「…キャス、おはようございます」
「お、おはよう、ございます」
突然のラリエスの笑顔に、何故だかキャスの心臓がバクバクと早まった。
「あぁ…朝からこんなに真っ赤になって…可愛いですね」
「え?」
ラリエスの腕がキャスに伸びてきたと思うと。
次の瞬間、キャスはラリエスの腕の中にいた。抱き込まれて、キャスはラリエスの胸元に縋りつく様な格好になる。
「このまま…私の物にしてしまいたい」
見た目より厚い胸元が。
見た目より逞しい腕が。
そして、相変わらずの良い香りが。
更にバクバクとキャスの心臓を高鳴らせる。
「だ、団長…」
「…キャス?」
か細いキャスの声に、ラリエスが腕の中のキャスを見て、軽く息を呑んだ。
そして、そのまま、はぁー、と深いため息を吐きながら片手で自身の両目を覆った。
「あー…もう…」
「団長、どうした?」
「…………何でもないです」
ラリエスはキャスを離すと、朝ごはんにしますか?と伸びをしながら起き上がった。
そんなラリエスに続こうとして、キャスは身体に違和感を覚えた。
何だか普段痛くない所が、痛い。
「どうしました?」
「いや、身体がちょっと…」
「あぁ。丸一日馬に乗ってましたからね」
ラリエスはニヤリと笑うと、ベッド横の棚から何かを取り出した。擦り傷とかに効く軟膏だった。
「普段痛くない所が痛む事もありますよ。どうぞ」
「ありがとう」
「少しひんやりしますが良く効きますよ。たっぷりと塗ってくださいね」
何故だか、ラリエスは機嫌良さそうに、その軟膏をキャスに手渡した。
そして、朝食の準備をしておきますね、と先に寝室を出て行った。
やはりラリエス位になると、馬に長時間乗る機会も多いのだろう。キャスは特に疑問に思う事なく、ヒリヒリするその場所に軟膏を塗った。
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夜中にラリエスはこっそりキャスにイタズラをしました。不自然な場所が痛いのにウブなキャスは気づきません(^^)
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