【完結】水と夢の中の太陽

エウラ

文字の大きさ
28 / 90
第一章 フォレスター編

アルカスは非常識の塊 1(sideウィステリア)

しおりを挟む
相変わらず枯渇に近い魔力欠乏状態のアルカスがクラビス達と塀外へ魔物を倒しに行く事になったらしい。

レベルアップすれば肉体強化されて、魔力に耐えられるのでは? という考察の元、グラキスが許可を出したようだ。

確かにステータスにはレベルの表示がなかった。

生まれたての赤子が歩けるようになって漸くレベル1になる。
これは生活していくうちに自然とレベルアップしていき、魔物を倒さなくとも年齢に比例して上がっていくので、成人するときには最低でも15前後あるのが通常である。

それまでに魔物を倒したり体を鍛えたりしていればもっと高くなる。
成人を過ぎると、年齢に比例して上がっていたレベルは、徐々に上がりにくくなるので、自己鍛錬や魔物の討伐などで得る経験値が必要になる。

しかし、魔法の存在しない異世界ではこれが当てはまらず、生まれたての赤子のようにレベルが全くない状態。
赤子の体に膨大な魔力を詰め込もうとしても許容量を越えて危険だ。
体が自己防衛で無意識に魔力量を押さえているのだろう。

ーーーというのが、クレインやフェイ、私の導き出した結論だった。
ならば、レベルアップしていけば許容量も戻っていくのでは、と提案すればそれはそれは迅速に防具一式を揃えて、早速とばかりに駆け出し冒険者が行く平原に出かけていったらしい。

らしい、というのも、実は私が伝達魔導具で呼び出されたのが事後で、今しがたフォレスターの邸に着いて説明を受けたところだからだ。

「・・・なるほど。状況は分かったが原因としては憶測の域を出ないね。でも加護が関係している可能性はかなり高い」
「そうですか。やはり加護がどういったモノか調べないことには分かりませんか」
「アルカス待ちだろうね。・・・まあ、加護のせいなら悪いことにはならないと思うよ。心配だろうけど」
そう言ってグラキス達を宥めて、
「どれ、孫(アルカス)の顔でも見てきましょうか」
と笑って言えば、幾分柔らかくなった表情の皆とアルカスの部屋へ向かう。



聞いた話だと痛みに耐えられないように気を失ったそうだが、今は落ち着いて見える。
穏やかな顔だ。これなら心配要らないだろう。

そうして今夜はこのまま泊まる事になった。
だがまあ、暫くは泊まる事になるだろうな。目覚めてから聞く話もあるし、何より私がアルカスの側で様子を見ていたい。

明日には目覚めるとよいな。
そう願いながら部屋で休んだ。



そして次の日の昼前に無事目覚めたようだ。
クラビスと食堂に来るそうだ。
先に席に着いていると元気そうな顔を見せてくれたが・・・。

「ごめんなさい」
と申し訳けなさそうに謝ってきた。
おそらくイグニス達も揃っていたので、心配をかけてしまったと思ったのだろう。

だから、無意識に声に出して呟いた言葉に、そこにいた皆が絶句してしまった。

迷惑ばかりかけている、自分がいなくてもよかったんじゃないかと。



なんということ・・・。

私達はそんなこと一欠片も思ってなどいないのに。
むしろ今までの不幸せの分、思いっきり甘えて我が儘を言って欲しいのに。

笑顔の裏にそんな気持ちを隠していたなど・・・・・・。

私達は誰も気付いていなかった。



・・・・・・いや、1人いるな・・・。

クラビス。お前のソレは『ヤンデレ』と言うんだよ。
前にアルカスが教えてくれたが、『ヤバいヤツ』だと言っていたぞ。

まあ、アルカスが許しているなら外野は何も言うまい、が。
爺様の立場としては些か物申したい・・・が、しかし!

ここは堪えて余裕を見せよう。

アルカスが幸せならいいのだ。



かくして、賑やかな昼餉の後のお茶の時間。
アルカスから告げられた内容に、皆、顔には出さないがかなりの衝撃を受けた。

そもそも、神が夢渡りされたことも有り得ないが、教会で詳しく話すということは、神託を下すということで。

だが、異世界から連れ戻した神のことだから、アルカスは加護もあるし、有り得るのか。

などなど考えているうちに、アルカスがレベルの話をした流れでステータスを見ることになり・・・・・・。

レベルは確かに10と表記されていて、ホッとしたのも束の間。

称号に何故か『クラビスの嫁』
もう一度言う。『クラビスの嫁』

・・・・・・。

皆の気持ちは一つだった。

エストレラ神、何故に称号に・・・?!




教会へと連絡を出し、ひとまずお開きとなった。

アルカスが例によって寝落ちしたからだ。

レベルが上がってもまだまだということか?
この辺りも教会へおもむけばおのずと知れよう。

取りあえず、アルカスよ。
クラビスの重い愛に潰されぬよう。
称号の『クラビスの嫁』で暴走しなければよいが・・・。

爺様は心配なのだ。




翌日、教会から何時でもどうぞという返事が来たので、明日、皆で行こうということになった。

そして当日。お忍びということで皆ラフな格好だったが、徒歩で向かううえに顔バレしているため、やたらと視線が飛んでくるが慣れたもので一向に気にしない。
アルカスだけはキョロキョロと周りを伺っている。

こちらは来たことがないようだ。

教会の所在地を不思議に思ったアルカスに返答すれば、800万の神がいるという衝撃の話に一同唖然。

全く想像もつかない。


そうこうしているうちに教会へと辿り着き、司祭と挨拶を交わして奥の神託の間へと案内された。

神聖な空気を感じたらしいアルカスは、司祭の言葉に頷くと。

「おーい。エストレラ神、来たよー!」

全員、ギョッとした。さすがのクラビスも目を瞠った。
そして一瞬にして神域へと移動していた。



しばらくの後、元の部屋へと戻されたがたいした時間経過もなく、皆、しばし呆然としたが、アルカスがクラビスに横抱きにされて眠っているのだ。

取りあえず護衛達がいる部屋へと移動する。

戻ったら戻ったで驚きと感嘆を口々に言い、護衛達もギョッとしていたが、取りあえずひと安心と、教会を後にした。



それからアルカスが目覚めるまでおよそ1週間。



クラビスの『ヤンデレ』具合は推して知るべし。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

世界が僕に優しくなったなら、

熾ジット
BL
「僕に番なんていない。僕を愛してくれる人なんて――いないんだよ」 一方的な番解消により、体をおかしくしてしまったオメガである主人公・湖川遥(こがわはる)。 フェロモンが安定しない体なため、一人で引きこもる日々を送っていたが、ある日、見たことのない場所――どこかの森で目を覚ます。 森の中で男に捕まってしまった遥は、男の欲のはけ口になるものの、男に拾われ、衣食住を与えられる。目を覚ました場所が異世界であると知り、行き場がない遥は男と共に生活することになった。 出会いは最悪だったにも関わらず、一緒に暮らしていると、次第に彼への見方が変わっていき……。 クズ男×愛されたがりの異世界BLストーリー。 【この小説は小説家になろうにも投稿しています】

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

処理中です...