32 / 90
第一章 フォレスター編
病めるときも健やかなるときも
しおりを挟む
昨日寝てしまった後に、俺の結婚が決まった。
いや、何言ってるのか分かんないって。
ーーー遡ること2時間前。
朝起きたら、隣にはクラビス。
にこやかな笑顔にクラクラした。
「おはよう」
「お、おはよう」
いつになっても慣れない。眩しい。
いつの間にかずっとクラビスに引っ付いて寝るのが当たり前になってて、この前、ちょっとクラビスに聞いてみたら、至極当然のように『アルカスが離れたくないって言ったから』と言われた。
『魔の一週間』か?! と羞恥に悶えたのは記憶に新しい。
「アルカスが覚えてなくても俺が覚えてるから心配ない」
苦笑して言うが、いやそれ、何の心配?!
てか、朧気ながら何となく覚えてるんだよぉ!
「・・・俺、めちゃくちゃ甘えてた気がするんだけど・・・・・・」
ぽそっと呟いたら、クラビスがソレはいい笑顔で笑っていた。
「うん。凄く可愛くて凄く幸せだった。俺の理性、よく保ったなってくらい」
・・・うん?
イマイチよく分からない。
理性を試すような事したっけ?
頭の上に?マークを浮かべている俺をにこやかに見つめながら支度を整えて朝食を食べに行くと、すでに勢揃いした家族とフェイ、ウィステリアが座っていた。
「おはよう、アルカス。夕べ食べずに寝たからお腹空いたろう? クラビスもおはよう」
「おはよう。うん、さすがに空いた。昨日はごめんなさい」
母さんに挨拶して、昨日のやらかしを謝った。
「悪気がないのは分かってる。ただ、なるべくこれからもクラビスや我らがいるときにしてくれ。・・・不自由かもしれんが」
「はい、大丈夫。もっと色々勉強して、『常識人』目指します!」
たぶん、バレるとかなりヤバい案件なんだろうな。やっぱり常識大事!
そう思って決意表明したんだが。
「ふはっ! 『常識人』!! アルカスが?! 想像つかない!」
・・・フェイが思いっきり吹き出して笑い、つられた皆も笑い出した。
「フェーイー?」
半目で睨んでいたら、クラビスに頭を撫でられた。
「アルカス、頑張ろうな?」
そんな生温かい目で見るのは止めろ。
そして朝食後のお茶の時間。
母さんから告げられた言葉がこれ。
「アルカスとクラビスの婚姻届だ」
「・・・・・・はい?」
これが冒頭に繋がるわけ。
「昨夜お前が寝た後に皆と相談した結果、早急に婚姻を、という結論に達した。クラビスには事後になったが。もちろんイグニス達にも了承を得ておる」
至極真面目な顔の母さん。冗談ではないことがよく分かる。
「・・・・・・昨日の俺のやらかしのせい?」
「それもあるが、神の称号ですでに番扱いになっているのだ。籍だけでも入れておけば外野は黙ろう」
ウィステリアがほのほのと言う。
「・・・王家辺りですか」
クラビスが渋い顔でポツリと零す。
王家って、この国の王族って事?
「そうさの。何か言われても突っぱねる気でおるが、外堀を埋めておくに越した事はない」
「俺のことが漏れるとマズいって事だよね? ・・・俺、やっぱり」
「そこまで。前も言ったよね? 全然問題ないって。迷惑じゃないって。・・・・・・まだ分からない? 信じられないならこれからしっぽり、ガッツリ体に教え込ませようか」
「止めんか! この変態!!」
フェイがクラビスの頭をスパコーンと叩いた。
ありがとう、フェイ!!
そんでクラビス。ソレってボディトークってヤツですか??!
怖え・・・・・・!!
それ絶対監禁されるやつ!!
「ゴホン!」
グラキスの咳払いでハッとする。
皆して居住まいを正す。
「ともかく、式は後で好きにやるなりしてよいから、入籍だけでもすぐにしなさい。書類に記名して教会で受理されたら王都の神殿に送られる。そちらで書類は保管される。控えが出るのでそれを各自保管する感じだ」
なるほど。
でも、こんなにすぐにしなさいって事は厄介ごとがあるって事だよね?
チラッとクラビスを見るが、しれっと笑顔で流された。
今は言うことじゃないのかな?
仕方ない。俺にはどうすることも出来ないし、取りあえず記名してしまおう。
「ここにアルカスの名前を。俺はここに書くから」
そう言われて、届の用紙を頭から終わりまで隅々読んだ。
うん。普通の婚姻届だ。
特別変わったところもヘンな文言もない。
「・・・・・・言われたところに記入だけかと思ってたが、しっかりしてんな。上から下まで全部読んで確認してるよ」
フェイが意外そうに呟いている。
当然。
詐欺まがいの契約とか普通にあるんだから、そこは身内でも確認するに決まってる。
俺は警戒心強いのよ?
てな事を言ったら、皆に微妙な顔をされたけど、ソレってどういう意味の顔なんだ?
記入し終えた届けを教会に持っていって、すぐに受理されて控えを渡された。
俺とクラビスと、フォレスター家とフォルター家に1部ずつ。
「そういえば、俺、クラビスのお父さんにまだ一度も会ってないんだけどいいの? 結婚が先になっちゃったけど『息子さんを俺に下さい』って言う気満々だったんだけど?」
「ぶはっ」
・・・・・・そこかしこで吹き出す音が聞こえる。
「アルカスはそのままでいい。そうだな、近いうちに顔を出すか」
クラビスが微笑みながら言った。
「ん、分かった。なあ、こっちの結婚式って、神様の前で誓いの言葉とか言うの?」
「まあ、決まった文言はないかな? 結婚しましたって報告するような感じだ。向こうでは違うのか?」
「誓う神様によってちょっと違うかな。でもわりと多いチャペル、えと、教会での式の時は確か神父さんが新郎新婦に『病めるときも健やかなるときも、共に歩んでいく事を誓いますか?』って事を聞いて、2人とも『誓います』って答えるの」
それで、お互いの薬指に結婚指輪を嵌めあってキスするんだよ。
恋愛結婚で、子供も望まれて産まれてくる。皆に愛されて幸せに暮らすんだ。
この世界に還ってきて、スローライフが一番の望みだったけど、ソレって好きな人がいて周りに愛されて、自分も愛して。だからこその望みだったんじゃないかなって思う。
「クラビス?」
クラビスが抱きしめてきた。
「アルカス。愛してるよ。病めるときも健やかなるときも、死んでも愛している」
・・・・・・クラビスが言うと別な意味で『病めるとき』が過ぎるから。
ギュッと抱きしめてくれるの嬉しいけど。
周り見て!
皆、引いてるから!!
いや、何言ってるのか分かんないって。
ーーー遡ること2時間前。
朝起きたら、隣にはクラビス。
にこやかな笑顔にクラクラした。
「おはよう」
「お、おはよう」
いつになっても慣れない。眩しい。
いつの間にかずっとクラビスに引っ付いて寝るのが当たり前になってて、この前、ちょっとクラビスに聞いてみたら、至極当然のように『アルカスが離れたくないって言ったから』と言われた。
『魔の一週間』か?! と羞恥に悶えたのは記憶に新しい。
「アルカスが覚えてなくても俺が覚えてるから心配ない」
苦笑して言うが、いやそれ、何の心配?!
てか、朧気ながら何となく覚えてるんだよぉ!
「・・・俺、めちゃくちゃ甘えてた気がするんだけど・・・・・・」
ぽそっと呟いたら、クラビスがソレはいい笑顔で笑っていた。
「うん。凄く可愛くて凄く幸せだった。俺の理性、よく保ったなってくらい」
・・・うん?
イマイチよく分からない。
理性を試すような事したっけ?
頭の上に?マークを浮かべている俺をにこやかに見つめながら支度を整えて朝食を食べに行くと、すでに勢揃いした家族とフェイ、ウィステリアが座っていた。
「おはよう、アルカス。夕べ食べずに寝たからお腹空いたろう? クラビスもおはよう」
「おはよう。うん、さすがに空いた。昨日はごめんなさい」
母さんに挨拶して、昨日のやらかしを謝った。
「悪気がないのは分かってる。ただ、なるべくこれからもクラビスや我らがいるときにしてくれ。・・・不自由かもしれんが」
「はい、大丈夫。もっと色々勉強して、『常識人』目指します!」
たぶん、バレるとかなりヤバい案件なんだろうな。やっぱり常識大事!
そう思って決意表明したんだが。
「ふはっ! 『常識人』!! アルカスが?! 想像つかない!」
・・・フェイが思いっきり吹き出して笑い、つられた皆も笑い出した。
「フェーイー?」
半目で睨んでいたら、クラビスに頭を撫でられた。
「アルカス、頑張ろうな?」
そんな生温かい目で見るのは止めろ。
そして朝食後のお茶の時間。
母さんから告げられた言葉がこれ。
「アルカスとクラビスの婚姻届だ」
「・・・・・・はい?」
これが冒頭に繋がるわけ。
「昨夜お前が寝た後に皆と相談した結果、早急に婚姻を、という結論に達した。クラビスには事後になったが。もちろんイグニス達にも了承を得ておる」
至極真面目な顔の母さん。冗談ではないことがよく分かる。
「・・・・・・昨日の俺のやらかしのせい?」
「それもあるが、神の称号ですでに番扱いになっているのだ。籍だけでも入れておけば外野は黙ろう」
ウィステリアがほのほのと言う。
「・・・王家辺りですか」
クラビスが渋い顔でポツリと零す。
王家って、この国の王族って事?
「そうさの。何か言われても突っぱねる気でおるが、外堀を埋めておくに越した事はない」
「俺のことが漏れるとマズいって事だよね? ・・・俺、やっぱり」
「そこまで。前も言ったよね? 全然問題ないって。迷惑じゃないって。・・・・・・まだ分からない? 信じられないならこれからしっぽり、ガッツリ体に教え込ませようか」
「止めんか! この変態!!」
フェイがクラビスの頭をスパコーンと叩いた。
ありがとう、フェイ!!
そんでクラビス。ソレってボディトークってヤツですか??!
怖え・・・・・・!!
それ絶対監禁されるやつ!!
「ゴホン!」
グラキスの咳払いでハッとする。
皆して居住まいを正す。
「ともかく、式は後で好きにやるなりしてよいから、入籍だけでもすぐにしなさい。書類に記名して教会で受理されたら王都の神殿に送られる。そちらで書類は保管される。控えが出るのでそれを各自保管する感じだ」
なるほど。
でも、こんなにすぐにしなさいって事は厄介ごとがあるって事だよね?
チラッとクラビスを見るが、しれっと笑顔で流された。
今は言うことじゃないのかな?
仕方ない。俺にはどうすることも出来ないし、取りあえず記名してしまおう。
「ここにアルカスの名前を。俺はここに書くから」
そう言われて、届の用紙を頭から終わりまで隅々読んだ。
うん。普通の婚姻届だ。
特別変わったところもヘンな文言もない。
「・・・・・・言われたところに記入だけかと思ってたが、しっかりしてんな。上から下まで全部読んで確認してるよ」
フェイが意外そうに呟いている。
当然。
詐欺まがいの契約とか普通にあるんだから、そこは身内でも確認するに決まってる。
俺は警戒心強いのよ?
てな事を言ったら、皆に微妙な顔をされたけど、ソレってどういう意味の顔なんだ?
記入し終えた届けを教会に持っていって、すぐに受理されて控えを渡された。
俺とクラビスと、フォレスター家とフォルター家に1部ずつ。
「そういえば、俺、クラビスのお父さんにまだ一度も会ってないんだけどいいの? 結婚が先になっちゃったけど『息子さんを俺に下さい』って言う気満々だったんだけど?」
「ぶはっ」
・・・・・・そこかしこで吹き出す音が聞こえる。
「アルカスはそのままでいい。そうだな、近いうちに顔を出すか」
クラビスが微笑みながら言った。
「ん、分かった。なあ、こっちの結婚式って、神様の前で誓いの言葉とか言うの?」
「まあ、決まった文言はないかな? 結婚しましたって報告するような感じだ。向こうでは違うのか?」
「誓う神様によってちょっと違うかな。でもわりと多いチャペル、えと、教会での式の時は確か神父さんが新郎新婦に『病めるときも健やかなるときも、共に歩んでいく事を誓いますか?』って事を聞いて、2人とも『誓います』って答えるの」
それで、お互いの薬指に結婚指輪を嵌めあってキスするんだよ。
恋愛結婚で、子供も望まれて産まれてくる。皆に愛されて幸せに暮らすんだ。
この世界に還ってきて、スローライフが一番の望みだったけど、ソレって好きな人がいて周りに愛されて、自分も愛して。だからこその望みだったんじゃないかなって思う。
「クラビス?」
クラビスが抱きしめてきた。
「アルカス。愛してるよ。病めるときも健やかなるときも、死んでも愛している」
・・・・・・クラビスが言うと別な意味で『病めるとき』が過ぎるから。
ギュッと抱きしめてくれるの嬉しいけど。
周り見て!
皆、引いてるから!!
251
あなたにおすすめの小説
【完結】その少年は硝子の魔術士
鏑木 うりこ
BL
神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。
硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!
設定はふんわりしております。
少し痛々しい。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
世界が僕に優しくなったなら、
熾ジット
BL
「僕に番なんていない。僕を愛してくれる人なんて――いないんだよ」
一方的な番解消により、体をおかしくしてしまったオメガである主人公・湖川遥(こがわはる)。
フェロモンが安定しない体なため、一人で引きこもる日々を送っていたが、ある日、見たことのない場所――どこかの森で目を覚ます。
森の中で男に捕まってしまった遥は、男の欲のはけ口になるものの、男に拾われ、衣食住を与えられる。目を覚ました場所が異世界であると知り、行き場がない遥は男と共に生活することになった。
出会いは最悪だったにも関わらず、一緒に暮らしていると、次第に彼への見方が変わっていき……。
クズ男×愛されたがりの異世界BLストーリー。
【この小説は小説家になろうにも投稿しています】
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる