33 / 42
33 騎士団長と王太子の密会 2
しおりを挟む防音結界の室内は、殿下とルイーズの叫び声で溢れていた。
「おいおい! 質の悪い冗談だな?!」
驚きすぎて言葉遣いがやや崩れていますよ、殿下。
エンドルフィン、笑いを堪えきれてないぞ。
「殿下、冗談ではありませんよ。いたって真面目な話です。私は了承しましたが、婚約の為にはジェイドの報告を上げて身元をはっきりとさせねばなりません。・・・仮にも公爵家ですからね、許可が必要でしょう?」
こういう時、貴族ってヤツは面倒くさい。
やれ力関係で政略結婚だの王族からの許可だのと・・・。
「ですから、王太子殿下にご報告申し上げたのですよ。必要書類はすでに用意してありますので、王太子殿下のサイン一つで如何です?」
「---お前、本当に容赦ないなあ。王太子にする態度じゃないぞ。・・・まあ、事情が事情だし、サインしてやらんこともないが・・・」
---きたな。
王太子殿下がニヤリと笑って言った。
「その高位森人とやらに会わせろ」
「---だと思いましたよ」
「今日、仕事終わりにここに来るから、一緒に公爵家に連れて行け」
「畏まりました。ではその様に」
「頼んだぞ」
そういって鼻唄でも歌いそうな感じで執務室を去って行った。
「・・・良いのか?」
エンドルフィンが心配そうに言った。
「何、想定内だ」
「・・・いや、ジェイドがさあ・・・精神的に大丈夫かなと・・・」
うーん、確かに引き篭もりっぽいが、アルト達と話してるのを見る分には心配なさそうだが。
「まあ、仕方ない。許可を貰うためだ」
「---何もなきゃいいがな」
その後、淡々と仕事を片付けて就業時間になり、約束どおり殿下とルイーズがやって来て、公爵家の馬車で帰宅した。
ちなみに息子達には話を通して、一足先に邸に戻って貰った。
色々と準備があるからな。
ただ、ジェイドには王太子殿下が来ることは告げていない。
変に構えて緊張したら可哀想だからだ。
・・・ただ、この事がきっかけになってしまった事を後悔する事になるとは、この時は思いもしなかったのだ・・・。
「アルト、フレッド、シルヴィ、お帰りなさい。お疲れ様!」
「「「ただいま」」」
「お帰りなさい。さあ、早く着替えていらっしゃいな」
三兄弟が一緒に帰って来て、お出迎えしたらマリアお母さんが急き立てるように声をかけた。
「? 忙しいの? 何かある? 手伝う?」
「あらあら、ごめんなさい。まあ、少し用事があるけど、手伝って貰うような事じゃないから大丈夫よ」
「なら、良いんだけど」
「それより一旦中に入りましょうか」
そう言われて玄関から中に戻る。
お父さんはもう少し後に帰って来るらしい。
その時にまた出迎えだ。
しばらくして帰ってきたようで、着替えをして戻って来たアルト達と玄関まで行って待っていた。
「「「「「お帰りなさい(ませ)」」」」」
玄関から入ってきたフルクベルトに声をかけると、後ろに誰かいるのに気が付いた。
---エンドルフィンと・・・誰?
カムイが警戒していると、スッと横にずれたその青年は何とも言えない高貴なオーラを放っていて・・・。
「私はこの国の王太子のイクシードと言う。初めましてだね、高位森人殿」
「私は殿下付きの護衛騎士、ルイーズと申します」
そういって挨拶をしてくれたが、カムイはそれどころじゃなかった。
---王太子・・・?
見るからに王族の気品溢れる好青年なのだが、カムイには失っている記憶を呼び起こすキーワードになってしまった。
カムイの喉がひゅっと鳴った。
「・・・・・ぃや・・・」
「カムイ?」
異変にいち早く気付いたのはすぐ側にいるアルトで。
真っ青な顔でガタガタと震えだしたカムイを見て、皆も異変に気付きだした。
「---や! 来ないで! やだっ・・・!」
「・・・カムイ?! しっかりして、こっち見て」
虚ろな目でどこか違うところを見つめるカムイにはアルトの声も聞こえなくなっていた。
「・・・や---王子も王様も、勇者も来んな! 触んないで・・・・・っやだ!」
「カムイ、カムイ! 落ち着け!」
「や---!」
カムイの叫びに呼応して空気がビリビリと震えた。
このままじゃマズいと、アルトは『スリープ』の魔法で強制的に眠らせた。
「---今のは一体・・・・・」
呆然と呟く王太子殿下に、ひとまず中へ、と促すとアルトにはジェイドを寝室に連れて行ってついていてくれと言う。
ぐったりと力の抜けたカムイを抱き上げてアルトはその場を去って行った。
マリアも心配そうについていく。
「---だから言ったろう? 大丈夫なのかって・・・・・」
渋面のエンドルフィンに言われて、ああと思い出した。
あれはこういう意味だったのか。
「---やはり、国のトップの輩が絡んでいたのだな」
フルクベルトは深い溜息を吐いた。
136
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に巻き込まれた料理人の話
ミミナガ
BL
神子として異世界に召喚された高校生⋯に巻き込まれてしまった29歳料理人の俺。
魔力が全てのこの世界で魔力0の俺は蔑みの対象だったが、皆の胃袋を掴んだ途端に態度が激変。
そして魔王討伐の旅に調理担当として同行することになってしまった。
一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
偽物勇者は愛を乞う
きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。
六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。
偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
鬼神と恐れられる呪われた銀狼当主の元へ生贄として送られた僕、前世知識と癒やしの力で旦那様と郷を救ったら、めちゃくちゃ過保護に溺愛されています
水凪しおん
BL
東の山々に抱かれた獣人たちの国、彩峰の郷。最強と謳われる銀狼一族の若き当主・涯狼(ガイロウ)は、古き呪いにより発情の度に理性を失う宿命を背負い、「鬼神」と恐れられ孤独の中に生きていた。
一方、都で没落した家の息子・陽向(ヒナタ)は、借金の形として涯狼の元へ「花嫁」として差し出される。死を覚悟して郷を訪れた陽向を待っていたのは、噂とはかけ離れた、不器用で優しい一匹の狼だった。
前世の知識と、植物の力を引き出す不思議な才能を持つ陽向。彼が作る温かな料理と癒やしの香りは、涯狼の頑なな心を少しずつ溶かしていく。しかし、二人の穏やかな日々は、古き慣習に囚われた者たちの思惑によって引き裂かれようとしていた。
これは、孤独な狼と心優しき花嫁が、運命を乗り越え、愛の力で奇跡を起こす、温かくも切ない和風ファンタジー・ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる