パライソ~楽園に迷い込んだ華~

エウラ

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33 騎士団長と王太子の密会 2

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防音結界の室内は、殿下とルイーズの叫び声で溢れていた。

「おいおい! 質の悪い冗談だな?!」

驚きすぎて言葉遣いがやや崩れていますよ、殿下。
エンドルフィン、笑いを堪えきれてないぞ。

「殿下、冗談ではありませんよ。いたって真面目な話です。私は了承しましたが、婚約の為にはジェイドの報告を上げて身元をはっきりとさせねばなりません。・・・仮にも公爵家ですからね、許可が必要でしょう?」

こういう時、貴族ってヤツは面倒くさい。
やれ力関係で政略結婚だの王族からの許可だのと・・・。

「ですから、王太子殿下にご報告申し上げたのですよ。必要書類はすでに用意してありますので、王太子殿下のサイン一つで如何です?」
「---お前、本当に容赦ないなあ。王太子にする態度じゃないぞ。・・・まあ、事情が事情だし、サインしてやらんこともないが・・・」

---きたな。

王太子殿下がニヤリと笑って言った。

「その高位森人ジェイドとやらに会わせろ」
「---だと思いましたよ」
「今日、仕事終わりにここに来るから、一緒に公爵家に連れて行け」
「畏まりました。ではその様に」
「頼んだぞ」

そういって鼻唄でも歌いそうな感じで執務室を去って行った。

「・・・良いのか?」

エンドルフィンが心配そうに言った。

「何、想定内だ」
「・・・いや、ジェイドがさあ・・・精神的に大丈夫かなと・・・」

うーん、確かに引き篭もりっぽいが、アルト達と話してるのを見る分には心配なさそうだが。

「まあ、仕方ない。許可を貰うためだ」
「---何もなきゃいいがな」


その後、淡々と仕事を片付けて就業時間になり、約束どおり殿下とルイーズがやって来て、公爵家の馬車で帰宅した。

ちなみに息子達には話を通して、一足先に邸に戻って貰った。
色々と準備があるからな。

ただ、ジェイドには王太子殿下が来ることは告げていない。
変に構えて緊張したら可哀想だからだ。

・・・ただ、この事がきっかけになってしまった事を後悔する事になるとは、この時は思いもしなかったのだ・・・。


「アルト、フレッド、シルヴィ、お帰りなさい。お疲れ様!」
「「「ただいま」」」
「お帰りなさい。さあ、早く着替えていらっしゃいな」

三兄弟が一緒に帰って来て、お出迎えしたらマリアお母さんが急き立てるように声をかけた。

「? 忙しいの? 何かある? 手伝う?」
「あらあら、ごめんなさい。まあ、少し用事があるけど、手伝って貰うような事じゃないから大丈夫よ」
「なら、良いんだけど」
「それより一旦中に入りましょうか」

そう言われて玄関から中に戻る。
お父さんはもう少し後に帰って来るらしい。
その時にまた出迎えだ。


しばらくして帰ってきたようで、着替えをして戻って来たアルト達と玄関まで行って待っていた。

「「「「「お帰りなさい(ませ)」」」」」

玄関から入ってきたフルクベルトに声をかけると、後ろに誰かいるのに気が付いた。

---エンドルフィンと・・・誰?

カムイが警戒していると、スッと横にずれたその青年は何とも言えない高貴なオーラを放っていて・・・。

「私はこの国の王太子のイクシードと言う。初めましてだね、高位森人ハイエルフ殿」
「私は殿下付きの護衛騎士、ルイーズと申します」

そういって挨拶をしてくれたが、カムイはそれどころじゃなかった。

---王太子・・・?

見るからに王族の気品溢れる好青年なのだが、カムイには失っている記憶を呼び起こすキーワードになってしまった。

カムイの喉がひゅっと鳴った。

「・・・・・ぃや・・・」
「カムイ?」

異変にいち早く気付いたのはすぐ側にいるアルトで。
真っ青な顔でガタガタと震えだしたカムイを見て、皆も異変に気付きだした。

「---や! 来ないで! やだっ・・・!」
「・・・カムイ?! しっかりして、こっち見て」

虚ろな目でどこか違うところを見つめるカムイにはアルトの声も聞こえなくなっていた。

「・・・や---王子も王様も、勇者も来んな! 触んないで・・・・・っやだ!」
「カムイ、カムイ! 落ち着け!」
「や---!」

カムイの叫びに呼応して空気がビリビリと震えた。
このままじゃマズいと、アルトは『スリープ』の魔法で強制的に眠らせた。

「---今のは一体・・・・・」

呆然と呟く王太子殿下に、ひとまず中へ、と促すとアルトにはジェイドを寝室に連れて行ってついていてくれと言う。

ぐったりと力の抜けたカムイを抱き上げてアルトはその場を去って行った。

マリアも心配そうについていく。

「---だから言ったろう? 大丈夫なのかって・・・・・」

渋面のエンドルフィンに言われて、ああと思い出した。
あれはこういう意味だったのか。

「---やはり、国のトップの輩が絡んでいたのだな」


フルクベルトは深い溜息を吐いた。



    
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