森で出会った狼に懐かれたので一緒に暮らしていたら実は獣人だったらしい〜俺のハッピーもふもふライフ〜

実琴

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本編

2.狼の恩返し?

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絶滅したと思われていた狼の生き残りと森で遭遇してから1週間後。俺の部屋には大量の狼のぬいぐるみが量産されていた。

……まずは、言い訳させてほしい。
俺も最初はこんなはずではなかったんだ。
帰宅して暫くはあの恐怖体験を思い出して身震いしたり、今生きている奇跡に呆然としたりで忙しかったさ。でもそういう諸々が落ち着いて、次に湧き上がった感情は「本物の狼カッケェ!」である。現金という勿れ。無事帰還したからこそ言える言葉なのは自分でも分かってる。

しかし、しかしだ。
前世からずっと憧れていた本物の動物、しかもイヌ科の代表とも言える狼を生で見れた上に、夢のナデナデまで体験してしまったのだ。そりゃテンションも上がるでしょうよ。

ちゃっかり収穫してきたペルの実は全て狼のぬいぐるみに費やした。え、試作予定のラグはどうしたのかって?そんなもの、この部屋を見れば分かるだろう。

最初はあの肌触りやビジュアルを忘れないようにと大急ぎで仕上げた1匹目。もっとクオリティを上げたくて作り始めた2匹目。今度はもう少し大きいのが欲しくて3匹目。どうせなら色違いがあってもいいよなと4.5.6匹………。
アイデアが思いつくまま欲望のままに作り続けた結果、俺の部屋には大小さまざま色とりどりな狼のぬいぐるみが大量に敷き詰められている。

もともと動物のぬいぐるみは作ってみたかったのだが、例の獣人問題があった為に、万が一人目に触れたらマズイよなぁと我慢していた反動も少なからずあった。
この工房を訪ねてくるのは両親くらいで、依頼なども直接俺のところではなく両親を介してもらう形式にしているから、見られる心配は限りなくゼロに近い。どうせ部屋から出さないし個人的に楽しむ分には良いよね!とつい暴走してしまった。

そのせいでペルの実は底をつき、結局また森に出かけなければならなくなった。
普段ならあの量で1ヶ月は持つのに流石に作りすぎたなぁと反省はしてる。

ぬいぐるみの制作に夢中になるあまり外に出るのはあの日以来だった。また出会ったらどうしようかなと思わなくもないが、そんな事を言っていたら商売にならないので覚悟を決めて準備を終わらせたのがついさっきのこと。

さぁ気合を入れて出かけるぞ!と玄関扉を開けた瞬間、ガコンと鈍い音と衝撃を感じた。
開かない。ドアノブをガチャガチャと回してもうんともすんとも言わない。どうやら扉の前に何か重いものが置かれているようで、それ以上開かず、完全に出鼻を挫かれてしまった。

「え、なになになに。なんか頼んでたっけ?」

配達員か誰かが荷物を扉の前に置いていったのだろうか。それにしても扉の真ん前に置き去りになんてしたら、扉が開かなくなることなんて少し考えれば分かるだろうにと若干苛立ちながら裏口から外に出る。

全く、どこのどいつだよ…と裏庭から正面玄関に回って、そこに置かれたものを見て固まった。

「ペルの実……しかもこんなに⁉︎」

そう、そこには大量のペルの実が扉の前に積み上げられていたのだった。ペルの実は中身は綿のように軽いがその殻はとても丈夫で、それなりに重さがある。そんなものが山積みになっていたら、そりゃ開かないわと納得すると同時に、では一体誰がこんな事を?と首を傾げる。

ペルの実は制作費節約のため基本的に自分で採りに行くから、わざわざ店で買ったりはしないし両親もそれを知っているからこんなことをするとは思えない。ますます謎は深まるばかり。

「なんかよく分かんねぇけど……ペルの実に罪はないしな。せっかくだから貰っとこ」

出所不明ではあるが、これだけあれば暫く収穫に行かなくて済む~!とすっかりご機嫌になった俺は家の中へ舞い戻った。


*****


ガコン!

「……またか」

あれから数日後、今日も今日とても扉の前に置かれたペルの実を見て思わずため息を溢す。実はあの大量ペルの実事件以来、毎朝扉の外にペルの実が積まれているのだ。
最初の2日くらいは、誰か分かんないけど助かる~と楽観的だった俺も、流石にこうも連日続くと話は変わってくる。

「えーー……マジで誰なんだろ。父さん達に聞いても知らないって言ってたしな」

心当たりはないかと尋ねてみたものの首を横に振られたのは記憶に新しい。ついでに町の人達にも聞いて回ってみたが手掛かりは見つからなかった。

こうなったら自分で確かめるしかない。

いつも就寝時間の際に行う戸締りチェックのときにはペルの実はまだ置かれておらず、翌朝になると置かれていることから、犯行は23時から7時までの約8時間のあいだに行われている。そこまで分かれば話は早い。早速、今夜の見張りに備えて昼寝をたっぷり済ませることにした。

そして迎えた23時。
いつものように戸締りを済ませ、部屋の電気を消したあと、物音を立てないように裏口からこっそりと外に出る。そして玄関がちょうど見える物陰に隠れてその時を待った。

どれくらいの時間が経っただろうか。
暇潰しに持ってきた裁縫セットで狼のミニぬいぐるみ用の洋服が2着ほど新たに完成したころ、ガサガサと物音がしてハッと息を殺した。

物音を立てないようこっそり物陰から顔を覗かせると、茂みの中から暗闇の中を歩いてくる一つの影。

月明かりに照らされて姿を現したのは、あの日森で出会った狼だった。その口にはペルの実を咥えており、玄関の前にゴトリと落とすとまた森の中へと戻っていった。そうして暫くするとまたペルの実を咥えて戻ってきて、また玄関の前に置く、という作業を何度も繰り返していた。

(嘘だろ……もしかして、鶴の恩返しならぬ狼の恩返し⁉︎)

感動のあまり両手で口を押さえる。
その健気な姿にキュンキュンと胸が締め付けられた。いつ、どうやって知ったのかは分からないが、食べ物や木の実でもなくあえてペルの実だけを持ってきているということは、それを俺が必要としていると理解しての行動なのだろう。

(ええええ……なんて賢いんだ……!)

直接対峙したときはあんなに恐ろしかったというのに、その記憶がまるっと吹き飛ぶほど衝撃の光景だった。

可愛い……今すぐ駆け寄っていい子いい子してあげたい。でもそんな事をしたらもう2度とここへは近づいてくれないんじゃないかと思うと行動に移せないし、下手したら逆に襲われる可能性もあるのは否めない。流石にリスキーか。

そうして今日のノルマを達成したのか、狼は満足そうに尻尾を揺らしたあと、森の奥へと帰っていった。暫く待ってみても戻ってくる気配がなかったので、物陰から出て玄関の前へと向かえば、やはりそこにはここ最近恒例となっていたペルの実の山が出来上がっていた。

「そうか……お前が持ってきてくれてたんだな」

確かにペルの実をよく見ると僅かに歯形が刻まれている。なんで気付かなかったかな俺。
胸の中にじんわりと広がる温かさに、自然と笑みが溢れていた。

「怪我、治ったみたいで良かった」

やっぱりあの時狼を助けて良かった。
独りよがりの自己満足だったのではないかと、後悔していた部分もあったから。そんな俺の気持ちを掬い上げてくれた狼に、俺からも恩返しがしたかった。

「狼って何が好きなのかな、やっぱり肉?」

仮眠を取ったら久しぶりに街に出かけて、狼の為に沢山お肉を用意しよう。玄関の前に置いておけば、食べてくれるだろうか。まだ朝も迎えてないというのにもう明日の夜が待ち遠しい。

腕いっぱいの恩返しの品を抱えて、家の中へと戻る。また狼のぬいぐるみが増えてしまうかもしれないなぁと、小さく溢しながら。
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