わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

文字の大きさ
49 / 68

衛兵の目撃談 3

しおりを挟む

  ……正直なところ、このときロアナは非常に緊張していたのだ。

 はじめて訪れた一の宮は、イアンガードがおおらかに治めるのどかな二の宮とはまた違った雰囲気。
 厳格そうなその空間のどこかに、君主たる国王とその王妃がいるのだと思うと……。
 ロアナは、緊張のあまり身体の震えがずっと止まらない。
 しかも時は夜間。
 その独特の静けさは、ちょっぴりビビりなロアナの想像力を掻き立ててしまう。

(……こんな静寂のなかで……もしわたしが何か失敗して大きな音でも響かせてしまったら……そこら中から衛兵がとんできて、即刻捕縛されてしまうのでは……)

 先日、リオニー妃にかなり横暴な理由で罰せられたトラウマもあったのだろう。ロアナは考えただけでも恐ろしい。
 そんなことになれば、ここまで連れてきてくれた侍女頭にもきっと迷惑がかかってしまう。
 そう考えるとよけいにプレッシャーを感じて緊張は高まる。吸う息も次第に浅くなっていくようで苦しかった。

 ……しかし。そんなときにかぎってトラブルは起こってしまうもの。
 ある理由で廊下で一人きりになってしまったロアナは、とたんに衛兵に絡まれて涙目になるはめに。

「い、いえ……ですから! 違うんです! わたしは不審者では……」

 ウルツの私室前で、ロアナは半べそで主張した。
 彼女の前には衛兵が三名。屈強な男たちに囲まれたロアナの緊張はもはや頂点にまで達する。

(ど、どうしたらいいのっ⁉)
 
 ──このような事態になってしまった経緯はこうだった。

 ウルツに会うために、イアンガードに頼み込んで一の宮を訪れる許可をもらったロアナ。
 もちろん一人ではない。ここまでは侍女頭のマーサが付き添ってくれた。

 しかし、待てども暮らせどもウルツは部屋に帰ってこない。(※階下で周回中)
 これには時間に厳しく短気な侍女頭が眉をひそめた。
 
『……おかしいわね……すでに執務室を出られたという話だったのに……』
『すみません、わたしのお願いのせいで……』

 恐縮するロアナに、しかし、この件のだいたいがイアンガードの企みによるものだと知るマーサは、きっぱりと首を振る。

『いいえお前のせいではないわ。……しかたないわね。ちょっと様子を見てくるわ』
『それならわたしが……』

 行く、と、申し出ようとしたロアナを、侍女頭は再び首を振って制止。

『一の宮のことを何も知らないお前には無理よ、いいからそこで待ってなさい』

 そういって、侍女頭は廊下にロアナを置いていってしまった。
 だが確かにそれはその通りである。
 美しく整えられた一の宮は、整然としていてどこを見ても同じに見えるし、それにとても広い。
 右も左もわからぬロアナでは、きっとかどを二つも曲がれば道に迷ってしまうだろう。

 そういうわけでロアナは、こうしてひとり、ウルツの私室前でその主の帰りを待っていたのだが……。

 ぽつんと所在なさげに立っていたロアナは、マーサと別れてすぐにこうして衛兵たちに怪しまれることに。
 これはロアナも悪かった。衛兵が巡回に来たとたん、オロオロし過ぎなのである。

「ほ、ホントに違うんですぅ……!」

 ただあなたたちが怖かっただけ……とは言えないロアナはどうしていいか分からずなかばパニック。
 なんとか釈明したいロアナを、しかし衛兵たちは慌てたように小声で制する。

「おい! お、お前やめろよ……! ここをどこだと思ってんだ!」
「第三王子殿下の部屋の前で大きな声を出すな! 第四王子殿下のお部屋はあっちだと何度言ったらわかるんだ……!」

 小声で叱責されたロアナは、鼻をすすって首を傾ける。

「だ、第四……王子殿下……?」

 なぜそこでまったく面識のない王子が出てくるのかが分からず、ロアナはハテナ顔。

「ち、違うんです、わ、わたしがお会いしたいのは第さ……」
「いい、いい。言い訳は。分かってんだ、どうせまた殿下の悪い癖が出たんだろ? 俺たちはなぁんにも見てない。見てないから、さっさとあっちへいけ! しっし!」
「⁉ ⁉」

 まるで犬にでもするように、しっしと手で追い払われたロアナは目を白黒させている。
 どうやら衛兵たちは、何か思い違いをしているらしい。男たちは呆れたような、迷惑そうな顔でため息。

「……なんでよりによってウルツ殿下の部屋と間違うかねぇ……」
「殿下に見つかると、またロスウェル様と険悪に──」
「ん? わたしが何?」
「「「!」」」
「⁉」

 その瞬間、衛兵らがそろってギョッとして、ロアナはその衛兵らの顔面に驚いた。

「ど、どうし……?」

 と、ロアナは気がつく。何やら肩がずしりと重い。
 えっと思って横を向くと、いつの間にやら自分の肩に誰かの腕が乗っている。

「……へ?」

 その腕をたどっていくと、ごく間近に見知らぬ誰かの空色の瞳。その主は、ぽかんとする彼女を、興味深々という目で見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

処理中です...