極度の男性恐怖症悪役令嬢は配役変更を希望します!

SAKURA

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第一章 極度の男性恐怖症な少女は悪役令嬢に転生する

第一話 転生なんてしたくなかった

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「……ん」

あぁそうです……私……『転生』したんでしたっけ……。
……いまいち実感がわかないです。

「今度はどこでしょう……見た感じお部屋みたいですが……」

子供には広すぎる大きな部屋。
可愛らしいぬいぐるみに、質のいい家具。
今寝ているベッドも子供には大きすぎるくらいの大きさで柔らかくて暖かい。
何もかもが大きくて……私には不相応な上等なものばかりでした。
その中の一点に目を止めた。

「鏡……」

大きな姿見で、美しい装飾が施されている。
映ってるのは五才くらいの女の子。

「あれが……今世の私……なんですね」

静かに青白く輝く銀色の髪に、ガラスのような大きな瞳。
色白な肌、華奢な体、可愛らしいネグリジェ。

「ファンタジーな見た目ですねえ……さすが異世界」

縁のなかった世界、色彩。
なにもかもが違う。
そう……なにもかも。
その全てが、私の転生を表していました。
目の前の少女は人形のように可愛らしかった。

「……きっとあなたは愛されて育ったのですね」

“私と違って……。”

その言葉は飲み込んだ。
それだけはいっちゃいけない。
だっていくら転生したからといって、私が起きる前は………年相応の子供だったのでしょうから。
私は………この子の未来を奪ったも同然だから……。
そんなことを言う権利……ないんです。

「女神様も酷な方ですね」

その言葉は、彼女に向けてなのか……私に向けたのか……。
きっと……両方なんだと思う。
だって、今の私が幸せになんてなれるはずがないから。
この子は確かに“私”じゃなかった。
前のこの子は消えてしまった。
私が転生なんかしなければ、この子はこの子なりの幸せをつかめていたでしょうにね。
私はこの子を幸せになんてできない。
だって私自身が幸せになる方法なんてわからないのですから……。

「ごめんね」

それしか……言えませんでした。
この子のご両親はどうするでしょうか。
ふと、そう思った。
私を恨むでしょうか。
この子のことを悲しんであげるのでしょうか。

「……なんて。意識も曖昧な五才の子の変化なんてわかるわけないですね」

きっと誰も気づかない。
私たちの変化なんて。
大人はそう言うものだから。

「……何を考えているのでしょうか……私は」

もしかして、気づいてほしかったのでしょうか。
“私”という存在に。
この子を奪った私にそんな権利ないのに。

「こんなの………転生なんかじゃないです。ただの………乗っ取りですよ」

自嘲気味にそう溢した。

「……これから、どうしましょうね」

だって今になって転生よ!お幸せに!なんて言われてもどうしたらいいのかわからない。 
私みたいな人間はきっと存在してはいけないから。
また、周りを不幸にしてしまうから……。
居場所なんて……もうどこにもないのに……。

「本当に……なくなっちゃいました。私の居場所」

過去を悔いたって意味はない。
そんなの自分がよくわかってます。
それでも、思わずにはいられませんでした。
なぜ、自分がこんな目にあってしまったのか。
転生なんて望んでいなかった。
ただ……母と共にいられれば。
母のもとに戻れれば……それで良かったんです。

「本当に酷い人です……女神様は」

誰にも届かない思いは、静かな部屋のなかで消えていきました。
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