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第一章 コウセツって何だろう
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「いかがでございます?」
相変わらず後ろを向いたまま、ボネーラが尋ねる。ルチアーノは、軽く小首をかしげた。
「特段、変化は無いな……。マスミ殿、私の顔を見てどう思う?」
「はあ、その……。綺麗な方だな、と」
とりあえず、真純は浮かんだ感想を口にした。すると、横で見守っていたジュダが目を吊り上げた。
「綺麗、だと?」
「すみません! 何か、まずかったでしょうか?」
女性扱いされたようで、気を悪くしたのだろうか。それとも、もっと丁寧な表現をすべきだったのだろうか。悩んでいると、ジュダは真純の腕をつかんだ。揺さぶるようにして、問いかける。
「お前、何か変化は無いのか? 体温が上がってくるとか、意識がぼうっとするとか」
「は? いえ、別に」
ジュダの質問の意図がわからず、真純は当惑した。一方、それを聞いたルチアーノは、なぜか微笑みを浮かべた。元通りに仮面を装着すると、ボネーラに向かって呼びかける。
「聞いたか、ボネーラ殿。どうやらマスミ殿は、本物の回復魔術師のようだぞ」
「ああ、安心いたしました」
ボネーラは、ようやくこちらへ向き直った。ルチアーノが、歌うように言う。
「疑ってすまぬ。勝負は、そなたの勝ちのようだ」
「ですが! こいつは、自分が回復魔術師だという自覚すら無いみたいじゃないですか。本当に、殿下をお治しできるのですか」
ジュダが、食ってかかる。ルチアーノは、眉をひそめた。
「ジュダ。まずは、彼から手を放せ。それから、こいつ呼ばわりは控えよ。失礼だ」
渋々といった様子で、ジュダが真純の腕を解放する。それを確認すると、ルチアーノは改めてボネーラを見た。
「さて。ジュダの申すことも、一理あるのだが。マスミ殿は、回復魔術師という自覚が無いようだが、一体どうやって呪いを解くというのだ?」
ボネーラは、再び青ざめた。
「それは……。一般的には、回復呪文を唱えるとされていますが。呪文までは私も知らず……」
ボネーラが、真純の方をチラと見る。真純は、ぷるぷると首を横に振った。
「僕、呪文なんて知らないですよ?」
ルチアーノとジュダの眼差しが、そろって険しくなる。ルチアーノは、うなるように言った。
「ボネーラ殿、そなた……」
「もう一つございます!」
ボネーラは、焦ったようにルチアーノの言葉をさえぎった。
「今の殿下は、禁呪により全身が魔力に冒された状態。ですが回復魔術師は、生まれながらに解毒体質と聞きます。殿下をむしばむ魔力を、マスミ殿が取り込み中和することで、殿下のご状況は回復しましょう」
ボネーラの口から飛び出す言葉の意味がわからず、真純はただ呆然としていた。一方ルチアーノの方は、ある程度理解したらしい。少し思案した後、ボネーラに尋ねた。
「いかにして、マスミ殿に取り込ませると?」
「交接が、手っ取り早い手段かと」
「なっ……」
ジュダが、血相を変える。ルチアーノは、そんな彼を制すと、チラリと真純を見た。仮面の奥の瞳は、悪戯っぽい笑みをたたえている。
「ふむ。他に手段が無いのであれば、仕方ないな。急を要することでもあるし……。マスミ殿、いかがか。ご協力いただけるか?」
「えーと。ちょっと、確認させてもらってもいいですか」
真純は、必死で頭を整理した。
「細かいことはわかりませんが、ルチアーノ殿下は呪いをかけられていて、解かなければいけないってことですよね。それが解けたら、僕は元の世界へ帰してもらえるんでしょうか」
一刻も早く日本に帰りたいのはやまやまだが、困っている人間を放っておくなんて、気がとがめた。それも、呪いに苦しめられているなんて、気の毒すぎる。
「もちろんですよ。責任を持って、お帰しします」
ボネーラが、力強くうなずく。真純は、ほっと胸を撫で下ろした。
「それなら、ご協力します。僕にできることであれば、何なりと」
ボネーラが、ほっとしたような笑みを浮かべる。一方ジュダは、呆れたように口をあんぐりと開けている。二人の正反対のリアクションを見比べて、ルチアーノはくっくっと笑った。
「何とも、潔い若者であるな。では、早速今宵より始めるとするか。ボネーラ殿、ジュダ、頼んだぞ」
そう言い残すと、ルチアーノはマントを翻して部屋を出て行った。真純は、こてんと首をかしげた。
(そういえば、『コウセツ』って何だろう)
相変わらず後ろを向いたまま、ボネーラが尋ねる。ルチアーノは、軽く小首をかしげた。
「特段、変化は無いな……。マスミ殿、私の顔を見てどう思う?」
「はあ、その……。綺麗な方だな、と」
とりあえず、真純は浮かんだ感想を口にした。すると、横で見守っていたジュダが目を吊り上げた。
「綺麗、だと?」
「すみません! 何か、まずかったでしょうか?」
女性扱いされたようで、気を悪くしたのだろうか。それとも、もっと丁寧な表現をすべきだったのだろうか。悩んでいると、ジュダは真純の腕をつかんだ。揺さぶるようにして、問いかける。
「お前、何か変化は無いのか? 体温が上がってくるとか、意識がぼうっとするとか」
「は? いえ、別に」
ジュダの質問の意図がわからず、真純は当惑した。一方、それを聞いたルチアーノは、なぜか微笑みを浮かべた。元通りに仮面を装着すると、ボネーラに向かって呼びかける。
「聞いたか、ボネーラ殿。どうやらマスミ殿は、本物の回復魔術師のようだぞ」
「ああ、安心いたしました」
ボネーラは、ようやくこちらへ向き直った。ルチアーノが、歌うように言う。
「疑ってすまぬ。勝負は、そなたの勝ちのようだ」
「ですが! こいつは、自分が回復魔術師だという自覚すら無いみたいじゃないですか。本当に、殿下をお治しできるのですか」
ジュダが、食ってかかる。ルチアーノは、眉をひそめた。
「ジュダ。まずは、彼から手を放せ。それから、こいつ呼ばわりは控えよ。失礼だ」
渋々といった様子で、ジュダが真純の腕を解放する。それを確認すると、ルチアーノは改めてボネーラを見た。
「さて。ジュダの申すことも、一理あるのだが。マスミ殿は、回復魔術師という自覚が無いようだが、一体どうやって呪いを解くというのだ?」
ボネーラは、再び青ざめた。
「それは……。一般的には、回復呪文を唱えるとされていますが。呪文までは私も知らず……」
ボネーラが、真純の方をチラと見る。真純は、ぷるぷると首を横に振った。
「僕、呪文なんて知らないですよ?」
ルチアーノとジュダの眼差しが、そろって険しくなる。ルチアーノは、うなるように言った。
「ボネーラ殿、そなた……」
「もう一つございます!」
ボネーラは、焦ったようにルチアーノの言葉をさえぎった。
「今の殿下は、禁呪により全身が魔力に冒された状態。ですが回復魔術師は、生まれながらに解毒体質と聞きます。殿下をむしばむ魔力を、マスミ殿が取り込み中和することで、殿下のご状況は回復しましょう」
ボネーラの口から飛び出す言葉の意味がわからず、真純はただ呆然としていた。一方ルチアーノの方は、ある程度理解したらしい。少し思案した後、ボネーラに尋ねた。
「いかにして、マスミ殿に取り込ませると?」
「交接が、手っ取り早い手段かと」
「なっ……」
ジュダが、血相を変える。ルチアーノは、そんな彼を制すと、チラリと真純を見た。仮面の奥の瞳は、悪戯っぽい笑みをたたえている。
「ふむ。他に手段が無いのであれば、仕方ないな。急を要することでもあるし……。マスミ殿、いかがか。ご協力いただけるか?」
「えーと。ちょっと、確認させてもらってもいいですか」
真純は、必死で頭を整理した。
「細かいことはわかりませんが、ルチアーノ殿下は呪いをかけられていて、解かなければいけないってことですよね。それが解けたら、僕は元の世界へ帰してもらえるんでしょうか」
一刻も早く日本に帰りたいのはやまやまだが、困っている人間を放っておくなんて、気がとがめた。それも、呪いに苦しめられているなんて、気の毒すぎる。
「もちろんですよ。責任を持って、お帰しします」
ボネーラが、力強くうなずく。真純は、ほっと胸を撫で下ろした。
「それなら、ご協力します。僕にできることであれば、何なりと」
ボネーラが、ほっとしたような笑みを浮かべる。一方ジュダは、呆れたように口をあんぐりと開けている。二人の正反対のリアクションを見比べて、ルチアーノはくっくっと笑った。
「何とも、潔い若者であるな。では、早速今宵より始めるとするか。ボネーラ殿、ジュダ、頼んだぞ」
そう言い残すと、ルチアーノはマントを翻して部屋を出て行った。真純は、こてんと首をかしげた。
(そういえば、『コウセツ』って何だろう)
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