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第一章 コウセツって何だろう
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「あの……」
仕方ないので真純は、あとの二人に尋ねようとした。だがそれよりも早く、ボネーラが真純の手をがっしりと握った。顔は、歓喜に満ちあふれている。
「マスミ殿、感謝いたします! なにとぞ、早急に殿下をお治ししてくだされ。何分、時間が無くてですな」
「時間が無い?」
真純は、おうむ返しに尋ねていた。ボネーラが、深刻そうにうなずく。
「このアルマンティリア王国は、現在、危機に瀕しておるのです。国王陛下はご体調が優れず、近隣諸国は不穏な動きを見せ、いつ戦争が始まるかわからぬ状況。しかし、国王陛下のご長男たる王太子殿下は、最近亡くなられました。そこで、今年二十歳になられる第二王子・ルチアーノ殿下に、新王太子になっていただこうというわけです。とはいえ、まずは呪いを解かないことには、それもままならりません。というわけでマスミ殿、お頼み申しますぞ」
この国が何やら困った状況にあることは理解したが、肝心な部分が不明だ。真純は追及しようとしたが、ボネーラはさっさと踵を返した。
「あの! お待ちください。もう少し、詳しく……。呪いとは、具体的に何なのですか?」
「すみませんが、国王陛下に早くご報告せねばならないのです。詳細は、そこにいるジュダに尋ねてくれますか」
それだけ告げると、ボネーラはあっという間に退室してしまった。思わずジュダを見ると、彼は肩をすくめた。
「とりあえず、付いて来い」
ぶっきらぼうに言い捨てると、ジュダもまた部屋を出て行く。他に頼る人間もいないので、真純は仕方なく彼に従った。
ずんずん廊下を歩いて行くジュダの後を、真純は必死で追った。ずいぶん狭い廊下だった。あちこちに傷みが見られ、歩くたびにギイギイと音がする。周辺の壁も、ひどく古ぼけて薄汚い。ここは一体どういう建物なのだろう、と真純は不思議に思った。
(王子ともあろう人が、こんな所に住んでるはず無いものな。隠れ家、とか……?)
すると、不意にジュダが足を止めた。こちらを振り返る。
「みすぼらしい建物だろう? ここが、ルチアーノ殿下のお住まいであるぞ」
「ええ!?」
真純は、仰天した。ジュダが、口元をゆがめる。
「驚いたか。やはりな。だが事実だ。れっきとしたこの国の第二王子でありながら、殿下は一歳の時より、ここに住まわれている。『忌み子』と呼ばれてな」
『イミ』は『忌む』の意味だろうかと、真純は想像した。ジュダが、ぽつぽつと語り始める。
「お前は先ほど、殿下を綺麗と言ったな? その通りだ。殿下はお生まれになったその時より、男女問わず、見る者全てを虜にする美貌の持ち主であられた。……それが、問題だったんだ」
「どういうことです?」
真純は、眉を寄せた。ジュダが、深いため息をつく。
「お美しすぎるのだ。そのため、殿下のお顔を一目見た者は、失神したり、熱に浮かされたような状態になる。果ては恋煩いで、食事が喉を通らなくなる。そして衰弱し、最後には死に至ってしまうのだ」
そんなことがあるのか、と真純は信じられない思いだった。
「それを病と判断なさった国王陛下は、聖女を呼んでは、治療させようとされた。だが、誰一人成功しなかった。それどころか、殿下のお顔を見ただけで他の者と同じ状態になり、治療どころではない。このままでは国内の聖女が全滅してしまうと危惧された国王陛下は、ついに決断なさったのだ。ルチアーノ殿下に仮面を着けさせ、この離宮に幽閉することを……」
真純は、胸が締め付けられる思いに駆られた。ルチアーノ本人に、責任は無いというのに……。道理で、先ほどルチアーノが仮面を外す時、ボネーラが後ろを向いたわけだ。だがそこで、真純はふと気付いた。
「でも、ジュダさんもさっき、殿下のお顔をご覧になってましたよね? ジュダさんは、平気なのですか?」
ジュダは、クスリと笑った。
「ああ。理由はわからないけどな」
そう答えると、ジュダは再び歩き始めた。やがて、小部屋に連れて来られる。奥の空間には、浴槽が見えた。どうやらここは、浴室のようだ。
「綺麗に清めておけよ。その変てこな服は、脱いでその辺に置いておけ。着替えを用意しておく」
「はあ……。でも、なぜ入浴を?」
そう尋ねると、ジュダは呆れたような顔をした。
「とぼけてんのか? あいにく、冗談に付き合っている暇は無いんだ。さっさとしろ」
そう言うとジュダは、バタンと扉を閉めたのだった。
仕方ないので真純は、あとの二人に尋ねようとした。だがそれよりも早く、ボネーラが真純の手をがっしりと握った。顔は、歓喜に満ちあふれている。
「マスミ殿、感謝いたします! なにとぞ、早急に殿下をお治ししてくだされ。何分、時間が無くてですな」
「時間が無い?」
真純は、おうむ返しに尋ねていた。ボネーラが、深刻そうにうなずく。
「このアルマンティリア王国は、現在、危機に瀕しておるのです。国王陛下はご体調が優れず、近隣諸国は不穏な動きを見せ、いつ戦争が始まるかわからぬ状況。しかし、国王陛下のご長男たる王太子殿下は、最近亡くなられました。そこで、今年二十歳になられる第二王子・ルチアーノ殿下に、新王太子になっていただこうというわけです。とはいえ、まずは呪いを解かないことには、それもままならりません。というわけでマスミ殿、お頼み申しますぞ」
この国が何やら困った状況にあることは理解したが、肝心な部分が不明だ。真純は追及しようとしたが、ボネーラはさっさと踵を返した。
「あの! お待ちください。もう少し、詳しく……。呪いとは、具体的に何なのですか?」
「すみませんが、国王陛下に早くご報告せねばならないのです。詳細は、そこにいるジュダに尋ねてくれますか」
それだけ告げると、ボネーラはあっという間に退室してしまった。思わずジュダを見ると、彼は肩をすくめた。
「とりあえず、付いて来い」
ぶっきらぼうに言い捨てると、ジュダもまた部屋を出て行く。他に頼る人間もいないので、真純は仕方なく彼に従った。
ずんずん廊下を歩いて行くジュダの後を、真純は必死で追った。ずいぶん狭い廊下だった。あちこちに傷みが見られ、歩くたびにギイギイと音がする。周辺の壁も、ひどく古ぼけて薄汚い。ここは一体どういう建物なのだろう、と真純は不思議に思った。
(王子ともあろう人が、こんな所に住んでるはず無いものな。隠れ家、とか……?)
すると、不意にジュダが足を止めた。こちらを振り返る。
「みすぼらしい建物だろう? ここが、ルチアーノ殿下のお住まいであるぞ」
「ええ!?」
真純は、仰天した。ジュダが、口元をゆがめる。
「驚いたか。やはりな。だが事実だ。れっきとしたこの国の第二王子でありながら、殿下は一歳の時より、ここに住まわれている。『忌み子』と呼ばれてな」
『イミ』は『忌む』の意味だろうかと、真純は想像した。ジュダが、ぽつぽつと語り始める。
「お前は先ほど、殿下を綺麗と言ったな? その通りだ。殿下はお生まれになったその時より、男女問わず、見る者全てを虜にする美貌の持ち主であられた。……それが、問題だったんだ」
「どういうことです?」
真純は、眉を寄せた。ジュダが、深いため息をつく。
「お美しすぎるのだ。そのため、殿下のお顔を一目見た者は、失神したり、熱に浮かされたような状態になる。果ては恋煩いで、食事が喉を通らなくなる。そして衰弱し、最後には死に至ってしまうのだ」
そんなことがあるのか、と真純は信じられない思いだった。
「それを病と判断なさった国王陛下は、聖女を呼んでは、治療させようとされた。だが、誰一人成功しなかった。それどころか、殿下のお顔を見ただけで他の者と同じ状態になり、治療どころではない。このままでは国内の聖女が全滅してしまうと危惧された国王陛下は、ついに決断なさったのだ。ルチアーノ殿下に仮面を着けさせ、この離宮に幽閉することを……」
真純は、胸が締め付けられる思いに駆られた。ルチアーノ本人に、責任は無いというのに……。道理で、先ほどルチアーノが仮面を外す時、ボネーラが後ろを向いたわけだ。だがそこで、真純はふと気付いた。
「でも、ジュダさんもさっき、殿下のお顔をご覧になってましたよね? ジュダさんは、平気なのですか?」
ジュダは、クスリと笑った。
「ああ。理由はわからないけどな」
そう答えると、ジュダは再び歩き始めた。やがて、小部屋に連れて来られる。奥の空間には、浴槽が見えた。どうやらここは、浴室のようだ。
「綺麗に清めておけよ。その変てこな服は、脱いでその辺に置いておけ。着替えを用意しておく」
「はあ……。でも、なぜ入浴を?」
そう尋ねると、ジュダは呆れたような顔をした。
「とぼけてんのか? あいにく、冗談に付き合っている暇は無いんだ。さっさとしろ」
そう言うとジュダは、バタンと扉を閉めたのだった。
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