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第三章 君の声を、取り戻したい

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 カキン、カキンという金属音が響き渡る。やがて、ジュダが剣を下ろした。

「休憩にしようぜ」
「まだ頑張れます!」

 真純は意気込んだが、ジュダはかぶりを振った。

「初日から飛ばしすぎるな」

 真純とジュダは、今朝早くから、宿の庭で剣のレッスンをしているのである。とはいえ、剣など初めて持つ真純にとっては、構えを覚えるのすら一苦労だった。

「この地域は寒いが、これだけ体を動かすと、さすがに汗ばむな」

 ジュダは、地面に腰を下ろすと、額の汗を拭った。うっとうしそうにラフを外すと、彼は真純を見やった。

「お前も、楽な格好したら? 暑苦しいんじゃないか?」
「大丈夫です」

 真純は、ぷるぷると首を振ると、ジュダの向かいに座った。真純の首には、ルチアーノが早速用意させた、新しいラフが巻かれている。これは、絶対に外すわけにはいかなかった。昨夜、ルチアーノが最後に激しく吸ったせいで、真純の首筋にはそれとわかる痕が付いているのだ。

 幸いにも、ジュダはそれ以上こだわることなく、剣術の話題に戻した。

「それにしても、お前って本当に動きが鈍いな。剣の構えができないのはともかくとして、何もスポーツはしてこなかったのか?」
「何もってことはないですよ」
 
  真純は、口を尖らせた。

「泳ぎだけは、得意なんです。結構いい成績を残したんですよ?」

 本当である。中学、高校時代は、大会で注目される存在だったくらいだ。だがジュダは、肩をすくめた。

「あいにくだったな。泳ぎができても、この国で役に立つことは無いだろう」
「川とか、無いんですか?」
「いや」

 ジュダは、かぶりを振った。

「むしろ、他国と比べて川の数は多い方だ。けど、とてもじゃないが泳げる水質ではない。汚れきってるんだ。最近、疫病が流行ったって話は聞いたろ? あれだって、川の汚染が原因らしいからな」
「パッソーニって人が、予言できなかったって話ですよね」

 真純は、前に聞いた話を思い出した。

「それにしても、そんな人がどうして、占星術師として認められたんでしょう?」

 今さらながら、真純は疑問に思った。すると、ジュダが説明し始めた。

「ボネーラ様から聞いたところによると、とある地方領主のお嬢様の結婚を予言したのが、きっかけだったらしいな。縁談にお悩みではありませんか、とか言って彼女に近付いて、この舞踏会に出れば運命のお相手と出会えるでしょう、なんて予言したそうだ。お嬢様はその舞踏会に出かけ、とある商人の息子に求愛された。そしてその後、無事結婚に至った。……けどなあ」

 ジュダは、眉をひそめた。

「その求愛劇は、パッソーニがあらかじめ仕掛けたものだったらしい。結婚相手の商人の家は、貴族の家との繋がりを欲しがっていた。パッソーニはそれを聞きつけて、舞踏会でお嬢様に接近するようけしかけたそうだ。逆にお嬢様の家は、金に困って没落しかかっていたらしいからな。そりゃ、トントン拍子に進むさ。そもそも、年頃の娘なら、たいていは縁談のことを悩んでる。占いなんてもんじゃないさ」

 なるほど、と真純は頷いた。

「あとは、天災をいくつか言い当てたとか。けどその地域は、元々災害が多かったらしいからな。外れたら、領主様の心がけがおよろしいから、時期がずれたのだ、とか言って誤魔化しついでにヨイショしたらしい。ったく、立ち回りの上手い奴だぜ」

 やれやれとため息をつくと、ジュダは服の埃をパンパンと払って立ち上がった。

「さて、もう少し練習するか?」
「いえ、やめときます」

 真純は、かぶりを振った。

「午後からは、フィリッポさんの家に行きたいですし。早めに昼食を取ろうかと。ジュダさんは?」
「俺は行かない」

 ジュダは、あっさりと答えた。

「お前が行きたいなら勝手だが、俺はもう、あの男には期待してない。理由はわからないが、俺たちに真実を語る気は無いんだろ」
「だからこそ、心を開いてもらうんじゃないですか」

 真純は説得しようとしたが、ジュダは頑なに行かないと言い張る。真純は、遂に折れた。

「だったら、僕一人で行きます! マルコ君の容態も、心配ですし」
「せいぜい、頑張んな。親戚の男用の金なら、用意しとくから。あと、騎士団は連れてけよ。もう殿下に怒られるのはごめんだ」

 ジュダは、ひらひらと手を振ると、宿の中へ戻って行った。

 
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