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第四章 時に愛は、表現を間違えがち

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「ちょっ……、ジュダさん!」

 真純は、思わず大声を上げていた。ルチアーノも、慌てたように立ち上がり、ジュダの肩に手を置く。

「何を申す? それほど怯えていたにもかかわらず、ユリアーノは手紙を出して来なかったのだ。処分したというのは、きっと真実であろう。不可抗力だ。そなたが責任を感じる必要は無い」

 ジュダは、困ったように髪をかきむしると、かぶりを振った。

「ありがたいお言葉ですが……、任務を果たせなかったのは事実。恩恵にあずかる資格はありません」
「ジュダ、考え直せ」

 ルチアーノは、ため息をついた。仮面を取り去り、素顔でジュダを見つめる。

「あの時はカッとなったが、マスミ殿の話を聞いて、私は自分にも非があると悟った。一応、手紙の入手という条件は課したが、お前に引き続き傍にいてもらう気持ちは固まっていたのだ。それなのに……、そなたは、私から去ると申すか?」

 ジュダは、一瞬沈黙したが、そっとルチアーノの手を外した。立ち上がり、うやうやしく礼をする。

「これまでのご厚情に、感謝を」

 そう言うとジュダは、あっという間に部屋を飛び出した。目にも留まらぬ速さだった。

「ジュダさん! 待って!」

 ルチアーノはと見れば、引き留める様子は無い。仕方なく真純は、一人でジュダを追いかけた。
      
「ジュダさん!」

 必死で廊下を走っていると、向こうからフィリッポが歩いて来た。

「おや、お話はお済みですか? 煎じ薬ができあがったと、エレナさんが」
「ごめんなさい。マルコ君の家には行けません。お薬、持って行ってあげてください!」

 今は、ジュダとの話が先だ。フィリッポにそう告げると、真純は引き続きジュダを追った。彼は、まさに部屋に入ろうとしている。真純は、閉まろうとする扉の間に、とっさに足を挟んだ。振り向いたジュダは、顔をしかめたものの、強引に追い出すことはしなかった。仕方ないといった様子で、部屋に入れる。

「ジュダさん、一体何であんな……」
「お前さ」

 ジュダは、不意に真純の言葉を遮った。未だかつて無いほど真剣な眼差しで、真純を見つめる。

「俺がいなくなったら、代わりに殿下のお傍にいてくれるか?」
 
  真純は、息を呑んだ。ジュダが、ふふっと笑う。

「そりゃお前は、有能さじゃあ俺の百分の一程度だ。けど、お前なら殿下を裏切らないだろ? 王都に戻って、いずれ宮廷に行かれることになっても、ずっとお傍にいて差し上げて欲しいんだ」

「ずっと……、ですか」

 ルチアーノと離れたくないのはやまやまだが、それは無理だろうと真純は思った。元々自分は、異世界の人間だ。ルチアーノの呪いを解くために、呼ばれただけの存在。いつまでも居ていいわけは無い。ジュダも、同じことを考えたのか、軽くため息をついた。

「悪い。無茶を言ったな。お前には、元の世界の生活があるってのに」
「ジュダさん……」

 もしや、と真純は思った。

「もしかしてジュダさん、本当は手紙を手に入れたんじゃないんですか。殿下にお見せできない理由でもあるんですか?」
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