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第六章 魔物なんて狩れません!
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翌朝早速、真純とフィリッポ一行は、魔物が棲むという森へ向かった。二人を先頭に、背後にはジュダが控え、次にコッサートとペサレージ、さらにその後ろには、国王が派遣した近衛騎士団の面々が付き従うというものものしさだ。ペサレージは騎士団に属していないが、誰も不審がらないところを見ると、事前にルチアーノから説明があったのだろう。
「足元に気を付けてくださいね」
石だらけの道に四苦八苦している真純に、フィリッポはスッと手を差し出した。
「それから、今日は全部私に任せてください。間違っても、協力しようなんて思わないように」
それを聞いたジュダは、くすりと笑った。
「殿下並みの過保護だな」
ドキリとした。フィリッポに想いを寄せられていることが、バレた気がしたのだ。だがジュダは、けろりと続けた。
「ま、それが無難だろ。マスミは、下手にしゃしゃり出ない方がいい。大惨事になりかねないからな……。で、そう言うあんたは、大丈夫なんだろうな?」
ジュダが、フィリッポをチラと見る。フィリッポは、当然といった様子で頷いた。
「準備は完璧です。失敗などあり得ません」
自信に満ちた口調で語るフィリッポだったが、真純はおやと思った。彼の顔色は、今ひとつ冴えないのだ。ジュダも、同じことを考えたようだった。
「その割には、青い顔だぜ? 緊張し過ぎたんじゃないのか」
「緊張なんてしてませんよ」
フィリッポは、じろりとジュダをにらんだ後、小さく呟いた。
「ただ……、喉の調子があまり良くありません。気候のせいだと思うのですが」
確かに、ここクオピボの空気はひどく乾燥している。真純は、しまったと思った。
(事前に、気候を知っていたら……)
それなら、ショウガを持って来たのだが。王都なら、きっと手に入ったに違いないのに。それというのも、慌ただしく派遣されたせいだ。
(詠唱、ちゃんとできるだろうか……)
不安に駆られ始めたその時、フィリッポが足を止めた。鋭い眼差しで、周囲を見回している。
「瘴気が感じられます。そろそろでしょう」
いつの間にか、一行は森の奥深くまで到着していた。木々は鬱蒼と生い茂り、日はほとんど射さない。それだけでなく、空気もどことなく澱んでいる。背筋がぞわぞわとするような嫌な感覚を覚えて、真純は顔をしかめた。これが、フィリッポの言う瘴気だろうか。
その時だった。フィリッポが叫ぶ。
「現れました!」
一団が、いっせいに身構える。真純は、あっと思った。木々の間から、赤い目が光っているのに気付いたのだ。薄暗いせいでよく見えないが、毛むくじゃらで不気味な外見だった。
(あれが、魔物……?)
ジュダ、コッサート、ペサレージの三人は、フィリッポと真純に素早く張り付いた。フィリッポは、一つ深呼吸をすると、真っ直ぐなダークブラウンの髪を、背後で一つにくくった。真剣な眼差しで、やおら呪文を唱え始める。
フィリッポの態度は、非常に落ち着いていた。詠唱もよどみない。だが真純は、ふと気付いた。最初に土魔法を披露してもらった時と比べ、声に張りが無い気がしたのだ。
(やっぱり、喉の調子が……?)
その時、真純はぎょっとした。赤い目の数が、いつの間にか増えているではないか。木陰に潜む魔物は、少なくとも十匹はいるだろう。そして、ついにそのうちの一匹が飛び出して来た。
「足元に気を付けてくださいね」
石だらけの道に四苦八苦している真純に、フィリッポはスッと手を差し出した。
「それから、今日は全部私に任せてください。間違っても、協力しようなんて思わないように」
それを聞いたジュダは、くすりと笑った。
「殿下並みの過保護だな」
ドキリとした。フィリッポに想いを寄せられていることが、バレた気がしたのだ。だがジュダは、けろりと続けた。
「ま、それが無難だろ。マスミは、下手にしゃしゃり出ない方がいい。大惨事になりかねないからな……。で、そう言うあんたは、大丈夫なんだろうな?」
ジュダが、フィリッポをチラと見る。フィリッポは、当然といった様子で頷いた。
「準備は完璧です。失敗などあり得ません」
自信に満ちた口調で語るフィリッポだったが、真純はおやと思った。彼の顔色は、今ひとつ冴えないのだ。ジュダも、同じことを考えたようだった。
「その割には、青い顔だぜ? 緊張し過ぎたんじゃないのか」
「緊張なんてしてませんよ」
フィリッポは、じろりとジュダをにらんだ後、小さく呟いた。
「ただ……、喉の調子があまり良くありません。気候のせいだと思うのですが」
確かに、ここクオピボの空気はひどく乾燥している。真純は、しまったと思った。
(事前に、気候を知っていたら……)
それなら、ショウガを持って来たのだが。王都なら、きっと手に入ったに違いないのに。それというのも、慌ただしく派遣されたせいだ。
(詠唱、ちゃんとできるだろうか……)
不安に駆られ始めたその時、フィリッポが足を止めた。鋭い眼差しで、周囲を見回している。
「瘴気が感じられます。そろそろでしょう」
いつの間にか、一行は森の奥深くまで到着していた。木々は鬱蒼と生い茂り、日はほとんど射さない。それだけでなく、空気もどことなく澱んでいる。背筋がぞわぞわとするような嫌な感覚を覚えて、真純は顔をしかめた。これが、フィリッポの言う瘴気だろうか。
その時だった。フィリッポが叫ぶ。
「現れました!」
一団が、いっせいに身構える。真純は、あっと思った。木々の間から、赤い目が光っているのに気付いたのだ。薄暗いせいでよく見えないが、毛むくじゃらで不気味な外見だった。
(あれが、魔物……?)
ジュダ、コッサート、ペサレージの三人は、フィリッポと真純に素早く張り付いた。フィリッポは、一つ深呼吸をすると、真っ直ぐなダークブラウンの髪を、背後で一つにくくった。真剣な眼差しで、やおら呪文を唱え始める。
フィリッポの態度は、非常に落ち着いていた。詠唱もよどみない。だが真純は、ふと気付いた。最初に土魔法を披露してもらった時と比べ、声に張りが無い気がしたのだ。
(やっぱり、喉の調子が……?)
その時、真純はぎょっとした。赤い目の数が、いつの間にか増えているではないか。木陰に潜む魔物は、少なくとも十匹はいるだろう。そして、ついにそのうちの一匹が飛び出して来た。
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