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第六章 魔物なんて狩れません!

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「出たぞ!」

 皆が、剣に手をかける。だがその時、突如砂嵐が巻き起こった。それは、光線のごとく真っ直ぐな直線状となり、魔物を直撃した。……正確には、その目を。

「ギャァァァッ」

 絶叫しながら、魔物が地面に倒れる。目を潰されたことが相当の打撃だったらしく、魔物は悶え苦しんでいた。よく見ると、真っ黒な毛むくじゃらで、動物で言えば猿に似ている。

「油断すんな」

 ジュダが、真純をつつく。確かに、早くも二匹目が飛び出して来た。うなり声を上げながら、突進して来る。その背後には、三匹目、四匹目も続いていた。

  フィリッポは、詠唱を続けている。続いて出て来た魔物たちも、次々と砂で目をやられて倒れた。

「……あ」

 安心しかけた真純だったが、そこでハッとした。二匹目以降に気を取られている隙に、最初に倒れた一匹目が、よろよろと体を起こしたのだ。牙を剥きだして、跳躍する。
 
  だがフィリッポは、それを見逃さなかった。魔物をキッとにらみつけると、何やら違う呪文を素早く唱える。

 次の瞬間、真純は息を呑んだ。周囲にあった岩が、宙に浮いたのだ。相当な大きさだというのに、その岩は軽々と回転すると、魔物の上に落下した。容赦なく、押し潰す。

「ギエエエエエエエッ!」

 断末魔のごとき声を上げて魔物が絶命するのを、真純は呆然と見つめていた。だが、事態はそれだけに留まらなかった。次から次へと岩岩が舞い、魔物たちを襲う。彼らは、続々と落命していった。

「すごいですぞ、フィリッポ様!」
「見事な、土魔法です!」

 コッサートとペサレージが、口々に賞賛の声を上げる。ルチアーノの庇護があるからではなく、心から感嘆しているのが見てとれた。

「いえ。まだ終わりではありません。念のために」

 そう言うとフィリッポは、また違う呪文を唱え始めた。今度は、砂も岩も動かない。何が起きるのだろうかと、真純はきょろきょろしながら待った。すると、ジュダがあっと声を上げた。

(何……?)

 ジュダの視線は、上方へ向かっている。つられて見上げて、真純は仰天した。

 木の枝から、蔦がにょろにょろと降りて来たのだ。フィリッポの呪文のリズムに合わせるように、それはしなやかに回転すると、魔物の体に絡みついた。あっという間に、全ての魔物を縛り上げる。フィリッポは、騎士団の方を振り返ると、にっこり笑った。

「連れて帰りやすいでしょう?」

 騎士団は、おののいたような表情で、こくこくと頷いた。ジュダが、心底感心したように首を振る。

「植物まで操るとはな」
「これも、土魔法に含まれるんですか?」

 真純は尋ねた。ジュダが頷く。

「土から生み出されるものなら、土魔法で操れるんだ。ただし、上級。フィリッポがここまでとは思わなかった」

 騎士たちが駆け寄り、用意してきた馬車の荷台に、魔物の死骸を積み込んでいく。ほっと一息ついた真純だったが、フィリッポはまだ険しい表情をしていた。

「もう少し、進んでみましょう。魔物は、これだけではないはず。領主様によれば、二十匹はいるとのことでした」
 
 つまり、まだ十匹も残っているのか。真純がぞっと体を震わせたその時、フィリッポがはっと顔色を変えた。彼の視線は、森の奥の、少し小高くなった小道に注がれている。そして次の瞬間、不気味なうなり声が聞こえた。

「ギイイイイイッ」

 声と共に、何かが小道から走り降りて来る。それを見て、真純は目を疑った。先ほどの倍ほどの大きさをした、巨大な魔物たちが、次々と突進して来たのだ。鳴き声も大きく、迫力は比べものにならない。魔物の親玉たち、といったところか。

 フィリッポは、即座に呪文を唱え始めた。瞬く間に、再び砂嵐が舞い起きる。だが、はらはらしながら見守っていたその時、詠唱は唐突に止んだ。フィリッポはと見れば、真っ青な顔をして、口元を押さえている。真純は呆然とした。

(やっぱり、喉が……!?)

 魔物たちが、すぐそこまで迫って来た。
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