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第六章 魔物なんて狩れません!

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  翌朝、自室に戻って帰り支度をしていると、ノックの音がした。フィリッポだった。

「昨夜は、さっさと寝てしまったので、改めてお礼をと思いまして」

 フィリッポは、神妙に語った。

「見事な水魔法でした。マスミさんのおかげで、助かりました」
「いえ。あれだけしかできないので、もっと頑張ろうと思います」

 そう答えると、フィリッポはにっこりした。
 
「期待していますよ。王都へ帰ったら、魔術書をお貸ししますから。是非、他の魔法もお教えしましょう。……ああ、出発時刻が迫っていますね。では、また後ほど」

 時計を確認して、フィリッポが踵を返そうとする。真純は、そんな彼を引き留めた。

「ごめんなさい、少しだけいいですか。その、フィリッポさんを待たせていた件です」

 真純の表情から、フィリッポは内容も答も察したらしかった。顔を曇らせる。真純は、そんな彼の目を見て告げた。

「僕、決心したんです。この世界へ残り、ルチアーノ殿下と共にいようと。たとえ、殿下が誰のお子であったとしても、です。昨夜、殿下とお話ししました。殿下も、僕と同じ気持ちでいてくださいます」

 妃は迎えない、たとえ国を追われても守るとルチアーノが言ったことを、真純はフィリッポに語った。
 
「フィリッポさんのお気持ちに応えられず、ごめんなさい! それに、返事を引き延ばしてしまって……」

 真純は、深々と頭を下げた。しばらくの沈黙の後、フィリッポは軽くため息をついた。

「恐らく、そう言われるのではと思っていました。昨夜、殿下と共にいらしたことも、気が付いていましたよ」

 バレていたのか、と真純はうろたえた。この屋敷の壁は、モーラントの宿と違って厚いし、第一フィリッポの部屋は、遠く離れていた。声が聞こえたはずは無いのだが……。

「そのベッド。使った痕跡がありませんよ」

 フィリッポはクスリと笑うと、真純のベッドを指した。整然と整えられた様子に、真純はカッと顔を赤くした。

「ま、しかしですね」

 フィリッポが、不意に真剣な表情になる。

「決断を下すのは、時期尚早では? 少なくとも、殿下が誰のお子であるのか判明するまでは、待たれた方がよい。国王陛下のお子であるなら、私はもう、何も申しません。本当にお妃を迎えられないかどうかは疑問ですが、ルチアーノ殿下のことだ、マスミさんには今後も良くしてくださるでしょう。しかし」

 フィリッポは、眉間に皺を寄せた。

「パッソーニの子であると判明した暁には、私は全力で反対します。国を追われても守るなどと、口で言うのはたやすいこと。異世界から来たあなたが、さらに他国へ移る羽目になれば、想像を絶する苦難が待ち受けていることでしょう。あなたを、そんな目に遭わせたくありません」

 フィリッポの口調は激しかった。

「そしてそもそも、パッソーニの子だとすれば、ルチアーノ殿下は私にとって敵です。昨日は命を救っていただきましたが、それでも憎い気持ちに変わりは無い。そんな方に、マスミさんを奪われたくはありません」

 フィリッポは、真純の手を取ると、ぎゅっと握りしめた。

「覚えておいてください。パッソーニの子と判明した暁には、私は殿下と全面対決してでも、あなたを私のものにします。これだけは譲れません」
 
  そう言い捨てると、フィリッポは真純の手をパッと放し、部屋を出て行った。
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