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第十章 異世界召喚された僕、牢獄に入りました

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「補佐役にこだわるつもりが無いなら、なぜそこまで反対する!」
「しかもそなたは、ルチアーノ殿下の側近だったはず。殿下に、何か恨みでもあるというのか!」
                              
  王族たちの声音は、次第に激しくなっていく。そこへ、ルチアーノの声が響き渡った。

「静粛に。私から、意見を述べさせていただきたいのですが」

 一同が、静まり返る。ルチアーノは、皆の顔を見回して告げた。

「第一に、王位継承権証明書類の存在は絶対です。国王陛下の最後のお言葉とも併せ考え、私には王位を継承する資格があると考えます。なお、あの時の陛下の意識ははっきりしておられました」

 皆が、ほっとしたような表情になる。だがルチアーノは、こう続けた。

「第二に、殿のご主張も、真っ当でございます。私が王位を継ぐことで、本来正統なお血筋であるファビオ殿下が弾かれてしまうのは、アルマンティリア王室の将来を考えても、よろしくありません」
 
 ルチアーノの意図がわからないのか、一同は怪訝そうな表情になった。「ではどうしろと?」という囁きも聞こえる。するとルチアーノは、不意に真純の方を振り返った。手招きする。

(僕……?)

 怪訝に思いながらも、真純はルチアーノのそばへ近付いた。するとルチアーノは、真純の肩を抱いた。ひときわ大きな声で、宣言する。

「最も重要な、三点目でございます。実は私は、女性を愛することができません」

 真純は、ぽかんと口を開けた。一瞬の沈黙の後、その場がどよめく。その騒がしさたるや、ミケーレ二世が瀕死の状態に陥った時以上だ。だがルチアーノは、平然と続けた。

「本当ですよ? パッソーニのような宦官ではございませぬが、私は男しか愛せないのです。このマスミは、私の治療係であると同時に、将来の伴侶と決めた相手。寝室も、すでに私の隣へ移しました」

 公の場で披露され、真純は真っ赤になるのを感じた。王族の女性数名が失神したのが視界に入ったが、気に懸けるどころではない。

「そこで、私が出した結論です」

 皆は口をつぐみ、ルチアーノの言葉を待った。ルチアーノが、おもむろに告げる。

「当然ながら、男同士で跡継ぎは作れませぬ。そして、ファビオ殿下を蔑ろにしたくもございません。ですので、このような案はいかがでしょう。私がいったん王位を継承させていただき、ファビオ殿下が二十歳になられた時点で、殿下に王位をお譲りする、というのは」

 真純は、クオピボでのルチアーノの台詞を思い出していた。あの時彼は、こう言っていた。

  ――妃は迎えぬ。マスミ、そなたが私の伴侶だ。
 ――私の子に王位を継がせなけば、ということは無い。
 ――ファビオ殿下こそがミケーレ二世陛下の跡を継ぐのが、本来のあり方。たまたま殿下がお小さかったゆえ、私が間に挟まっただけ……。

 あの時は、とても信じられなかったけれど。ルチアーノは、本気だったのか……。

「大変素晴らしいご提案だ!」

 最初に発言した、高位らしい王族が叫ぶ。それを皮切りに、他の王族たちも次々と賛同の意を表明し始めた。 

「その通り。ミケーレ二世陛下のご意志も尊重でき、ファビオ殿下のお立場も保障される」
「ルチアーノ王太子殿下万歳!」

 パチパチ、と誰かが手を叩き始めた。拍手が、あっという間に広がっていく。ボネーラもフィリッポもダニエラも、満面の笑みを浮かべてルチアーノを見つめていた。じわりと、心に温かいものが流れ込むのを、真純は感じていた。
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