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一つ目の代価
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準備室へ向かう廊下が歪んで見える。足が重い。
永遠に廊下が続けばいいのに。
永遠に準備室に着かなければいいのに。
正直、怖い。あの先生の目が怖い。今まで暴力を振るってきていた男の人とは違う空気を纏っているんだ。何だろう、暴力に晒される事には慣れていた筈なのに、蹲り膝を抱えてじっとしていたい。
『助けて、誰か、助けて愁お兄ちゃん、助けて』
友紀の心の声が今にも結界を破り溢れそうになっている。
無情にも目の前に準備室の扉がある。辿り着いてしまった。
扉に伸ばした手が微かに震えている。
「扉の前で何をしてるんです。早く入って来なさい。」
友紀が扉の前で躊躇しているのが、楽しいのか友紀を促す声が幾分か弾んでいる様に聞こえる。
ガラガラと地獄への扉が賑やかな音を立て開いて行く。
「入りなさい。」
扉を閉めて一歩だけ前に進む。
「体操服に着替えたんですね。本当なら体操服で体育以外の授業を受けるなど許されない事だと解っているのか?」
「すみません。」
担任は態と大きな溜息をついて、ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、
「体操服を脱ぎなさい。貴方がイジメを受けていると訴えがありました。私が本当かどうか確認してあげましょう。脱ぎなさい。」
先生は何を言っているんだろうか?目の前で何度も暴力を振るわれてるのを見ていたではないか、今更何を確認するんだ?
「私の言っている事が聞けないのですか?仕方ないですね、私が手伝ってあげます。」
ギィギィと椅子の軋む音と共に足音が近づいて来る。
何故か赤ら顔で鼻息荒く薄ら笑みを浮かべ手を伸ばして来る。
「手を上に上げなさい。」
怖くて身体が自分の意思で動こうとしない。先生の命令に逆らえず震える腕を上に上げる。
先生の手が体操服の上着の裾を持ち上げ脱がされる。
下に着ていたシャツも脱がそうとした先生の冷たい手がシャツと共に肌を撫でていく。
「イヤ………。」
小さく声が漏れる。
「嫌じゃないでしょ、ホントはこうやって先生にされたかった筈だよ。」
脱がされたシャツで手首を縛られ、身体のあちこちを撫でる先生の手が気持ち悪くてイヤイヤと首を振り、逃げようと後退りするが扉にぶつかってしまった。
ぶつかった友紀の身体を反転させ扉に押さえつけられる。頬に当たる扉の冷たさと恐怖とが相まって余計に震えが止まらない。
「あらあらホントに痣が沢山あるな。誰がこの綺麗な肌にこんな痣をつけたのやら。」
腰当たりを撫でていた手がズボンと下着に指をかける。
「イヤイヤ、やめて!」
「そうですね、一度に脱がしてしまうのは面白くないですね。いいですね、その泣き顔。あまり感情を出さない貴方だからこそ、もっと泣かせてみたくなりますよ。」
下着だけを残してズボンを膝まで下ろされる。
先生の手が外腿から内腿に伝い下着の上から膨らみの上を緩やかに撫で摩りながら臍から胸へと動いていく。
気持ちが悪いとかそんな感情より恐怖が全てを塗り潰していく。
必死で声を出そうと思うのに、ヒィヒィと息が漏れるだけで声が出ない。
涙でぐちゃぐちゃになった友紀の顔を見ようとした先生は押さえつけていた腕を、扉から友紀の身体を離した時、勢いよく扉が開いた。
「お前、何をやってるんだ!」
友紀と変わらない小さな手が先生から僕を引き剥がした勢いで倒れ込み座り込んだまま、腕の中に囲い抱きしめている。
友紀は抱きしめているのが誰なのか見たくて顔を上げると、今日何度も声を掛けてくれていたクラスメイトだった。
彼は、友紀が教室を出た後、家にいる兄を連れて学校に戻って来て準備室に来てくれたらしい。
まさかこんな事になってるとは思わなくて、びっくりしたと思う。
友紀と少年が抱き合ったまま座り込んでいた間に、彼が連れて来た彼のお兄さんが、先生を殴り飛ばし、警察まで引っ張って行ったらしい。
友紀はその少年に服を着せてもらい、施設まで送ってもらった。
「あの、ありがとう。」
「うん、お前の代わりに兄ちゃんがぶん殴ってたから。今度からは、お前が自分でぶん殴れよ。いいな!男がメソメソ泣くな。」
「うん、解ったけど、きっと無理。」
「ふん、そんなだからイジメられるんだ!」
「ごめんなさい。」
「チェッ!」
と、吐き捨てて彼は帰って行った。
施設まで男の子に送ってもらったのが初めてだったから、皆んなが彼氏なの?とか、愁お兄ちゃんがヤキモチ焼くよとか大騒ぎだった。
シスターは微笑ましく笑みを浮かべているだけだった。
今日の事は出来ればシスターにも愁お兄ちゃんにも知られたくない。
明日の事を考えるとドキドキして中々寝られなかった。
朝方に少しだけ眠る事が出来た。
いつも通りの朝を過ごして、いつも通り笑顔で、
「行ってきます。」と言って施設を出た。
段々と歩く速度が遅くなってくる。
「おい!昨日の事は大人達だけで何とかするんだと。俺ら生徒には言わないらしいから安心しろ!いいな、お前もいつも通りしていろ!」
それだけを言うと友紀を置いて歩いて行ってしまった。
「良かった。」
あんな事知られたら、もっとイジメが酷くなると面倒だと思ってたから。
でも、あのクラスメイトは誰だろう。
興味のない事に無頓着な友紀は、殆どクラスメイトの顔と名前が一致していない。それでも、顔ぐらいはうっすらと覚えている。
友紀にはあの少年の昨日までの記憶が全くなかった。
だから、友紀の頭の中には、
「彼は誰なの?」
疑問符が飛び回っていた。
永遠に廊下が続けばいいのに。
永遠に準備室に着かなければいいのに。
正直、怖い。あの先生の目が怖い。今まで暴力を振るってきていた男の人とは違う空気を纏っているんだ。何だろう、暴力に晒される事には慣れていた筈なのに、蹲り膝を抱えてじっとしていたい。
『助けて、誰か、助けて愁お兄ちゃん、助けて』
友紀の心の声が今にも結界を破り溢れそうになっている。
無情にも目の前に準備室の扉がある。辿り着いてしまった。
扉に伸ばした手が微かに震えている。
「扉の前で何をしてるんです。早く入って来なさい。」
友紀が扉の前で躊躇しているのが、楽しいのか友紀を促す声が幾分か弾んでいる様に聞こえる。
ガラガラと地獄への扉が賑やかな音を立て開いて行く。
「入りなさい。」
扉を閉めて一歩だけ前に進む。
「体操服に着替えたんですね。本当なら体操服で体育以外の授業を受けるなど許されない事だと解っているのか?」
「すみません。」
担任は態と大きな溜息をついて、ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、
「体操服を脱ぎなさい。貴方がイジメを受けていると訴えがありました。私が本当かどうか確認してあげましょう。脱ぎなさい。」
先生は何を言っているんだろうか?目の前で何度も暴力を振るわれてるのを見ていたではないか、今更何を確認するんだ?
「私の言っている事が聞けないのですか?仕方ないですね、私が手伝ってあげます。」
ギィギィと椅子の軋む音と共に足音が近づいて来る。
何故か赤ら顔で鼻息荒く薄ら笑みを浮かべ手を伸ばして来る。
「手を上に上げなさい。」
怖くて身体が自分の意思で動こうとしない。先生の命令に逆らえず震える腕を上に上げる。
先生の手が体操服の上着の裾を持ち上げ脱がされる。
下に着ていたシャツも脱がそうとした先生の冷たい手がシャツと共に肌を撫でていく。
「イヤ………。」
小さく声が漏れる。
「嫌じゃないでしょ、ホントはこうやって先生にされたかった筈だよ。」
脱がされたシャツで手首を縛られ、身体のあちこちを撫でる先生の手が気持ち悪くてイヤイヤと首を振り、逃げようと後退りするが扉にぶつかってしまった。
ぶつかった友紀の身体を反転させ扉に押さえつけられる。頬に当たる扉の冷たさと恐怖とが相まって余計に震えが止まらない。
「あらあらホントに痣が沢山あるな。誰がこの綺麗な肌にこんな痣をつけたのやら。」
腰当たりを撫でていた手がズボンと下着に指をかける。
「イヤイヤ、やめて!」
「そうですね、一度に脱がしてしまうのは面白くないですね。いいですね、その泣き顔。あまり感情を出さない貴方だからこそ、もっと泣かせてみたくなりますよ。」
下着だけを残してズボンを膝まで下ろされる。
先生の手が外腿から内腿に伝い下着の上から膨らみの上を緩やかに撫で摩りながら臍から胸へと動いていく。
気持ちが悪いとかそんな感情より恐怖が全てを塗り潰していく。
必死で声を出そうと思うのに、ヒィヒィと息が漏れるだけで声が出ない。
涙でぐちゃぐちゃになった友紀の顔を見ようとした先生は押さえつけていた腕を、扉から友紀の身体を離した時、勢いよく扉が開いた。
「お前、何をやってるんだ!」
友紀と変わらない小さな手が先生から僕を引き剥がした勢いで倒れ込み座り込んだまま、腕の中に囲い抱きしめている。
友紀は抱きしめているのが誰なのか見たくて顔を上げると、今日何度も声を掛けてくれていたクラスメイトだった。
彼は、友紀が教室を出た後、家にいる兄を連れて学校に戻って来て準備室に来てくれたらしい。
まさかこんな事になってるとは思わなくて、びっくりしたと思う。
友紀と少年が抱き合ったまま座り込んでいた間に、彼が連れて来た彼のお兄さんが、先生を殴り飛ばし、警察まで引っ張って行ったらしい。
友紀はその少年に服を着せてもらい、施設まで送ってもらった。
「あの、ありがとう。」
「うん、お前の代わりに兄ちゃんがぶん殴ってたから。今度からは、お前が自分でぶん殴れよ。いいな!男がメソメソ泣くな。」
「うん、解ったけど、きっと無理。」
「ふん、そんなだからイジメられるんだ!」
「ごめんなさい。」
「チェッ!」
と、吐き捨てて彼は帰って行った。
施設まで男の子に送ってもらったのが初めてだったから、皆んなが彼氏なの?とか、愁お兄ちゃんがヤキモチ焼くよとか大騒ぎだった。
シスターは微笑ましく笑みを浮かべているだけだった。
今日の事は出来ればシスターにも愁お兄ちゃんにも知られたくない。
明日の事を考えるとドキドキして中々寝られなかった。
朝方に少しだけ眠る事が出来た。
いつも通りの朝を過ごして、いつも通り笑顔で、
「行ってきます。」と言って施設を出た。
段々と歩く速度が遅くなってくる。
「おい!昨日の事は大人達だけで何とかするんだと。俺ら生徒には言わないらしいから安心しろ!いいな、お前もいつも通りしていろ!」
それだけを言うと友紀を置いて歩いて行ってしまった。
「良かった。」
あんな事知られたら、もっとイジメが酷くなると面倒だと思ってたから。
でも、あのクラスメイトは誰だろう。
興味のない事に無頓着な友紀は、殆どクラスメイトの顔と名前が一致していない。それでも、顔ぐらいはうっすらと覚えている。
友紀にはあの少年の昨日までの記憶が全くなかった。
だから、友紀の頭の中には、
「彼は誰なの?」
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