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一つ目の代価
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彼が言った様に教室の中は何時もと変わりなかった。何時も通り上靴は昨日の昼休みに洗っておいた筈なのに、泥だらけだし、机の落書きは所狭しと書かれている。ホントに懲りないなぁと乾いた溜息だけが溢れる。
「お前、辛くないのか?こんな事までされて。」
昨日の彼が友紀の側に立って落書きだらけの机を眺めてぼやいている。
「こんな出来事で辛くはないよ。だって、身体は何処も痛くはないだろ?」
「でも身体にも痣があっただろ、暴力も振るう奴いるんだろ。」
「いるよ。でも、小さな子供が振るう暴力なんてたかが知れてる。大人の男の人が振るう暴力の方が痛かったよ。それさえも僕は我慢出来るからね。心配してくれてありがとう。でも、僕とお話ししてると君までイジメられるよ。僕は何とも思ってないから大丈夫。」
にっこりと笑みを溢し、友紀は席に着き授業の準備を始めた。
仕方なく彼も自分の席に着いた。周りは彼にキツイ視線を送って来たが、彼もまた彼らを睨み返していた。
朝の挨拶には担任ではなく教頭が顔を出した。
担任は体調を悪くしてお休みを頂くとのことだった。
今は、皆んなその言葉を信じているけど、直ぐに噂が飛び交う事だろう。その噂に友紀が加わらない事を今は願うしかない。
何時もと変わりなく授業が終わり、帰路に着いていた友紀は、アッと思い出した事があった。
「また、彼の名前を聞くのを忘れた!」
明日こそは聞こうと今は思っている。
🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️
俺は、坂下広海、小学校4年、親の離婚で兄と俺が親父と共にこの街に引っ越して来た。
兄はこの街の近くの大学に入学したから丁度いいと俺と親父に着いてきた。母親は小さい妹を連れて行った。
大人の事情なんか俺には解らない。養って貰っているのだから口を出す事でもない。
俺は、この街の清美小学校に編入した。
教室に入って思った事、それは最悪の教室だと言う事だ。
担任の教師を含めクラスの奴らが一人のクラスメイトをイジメているからだ。
教師が見ている前でも平気で暴力を振るった時には、俺は思わず立ち上がってしまっていた。だが、イジメをされている彼は、何とも思っていないのか無表情でいる。彼からは悲しみも怒りも何も感じない。
彼は、目を見張る程、綺麗な顔をしていた。
彼の目には、クラスの奴らは誰も映っていない様に思えた。勿論俺もだ。全くと言っていい程に興味がないのだと思う。
そんなある日、朝教室に着いた俺は、彼を見てびっくりした。額から血を流しているのに平然とした姿に、思わず声をかけてハンカチで血を拭った。
机の落書きが増えていたのか、ぼんやりと眺めている彼をヘラヘラ笑っている奴らに怒りが湧いて、彼に文句を言ってしまった。
それだけではない、彼の椅子が絵の具と水でびしょ濡れなのに、知っていながら担任が無理矢理座らせている。
何も言わない彼にも怒りが湧いたが、それ以上に教師に対して怒りが湧き、怒鳴り声をあげてしまった。少し大きな声をあげた俺を迷惑そうに見るクラスの奴らが鬱陶しくなり、教師に嫌味を言うだけで引き下がった。
放課後に担任が彼を準備室に呼びつけているのを何事だと彼に視線を向けて驚いた。
その時初めて彼から教師に対して拒否感とか恐怖感をいだいてると感じた。
だから、行くなと声をかけたのに、彼は悲しそうに行くよって言葉を残して行ってしまった。
俺も着いていこうとしたが、俺だけでは大人相手にダメだと家に急いで帰って兄貴を連れて学校に戻った。
教師は彼に最低の事をしていた。兄貴は思い切りぶん殴っているのを目の端に捉えたが、俺は腕の中で涙を流して震える彼を思い切り抱きしめた。
俺を見上げた濡れた瞳の彼を、俺は絶対に守る。俺だけが彼を守る事ができる、そして彼は、守るべき者だと認識した。
その後、彼を家まで送って行った。彼が施設で暮らしている事を初めて知った。
🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️
担任がいなくなり、代わりに教頭が教壇に立っている。
その影響なのか定かではないが、イジメが少なくなっていた。
あまり気にしていなかったので、どうでも良い事だった。
彼に名前を聞こうと思った時は、何時も彼は友達に囲まれていた。
またの機会にでも良いかと何度も同じ事を繰り返していた。
彼も友紀に声をかけてくる事は無かった。
「お前、辛くないのか?こんな事までされて。」
昨日の彼が友紀の側に立って落書きだらけの机を眺めてぼやいている。
「こんな出来事で辛くはないよ。だって、身体は何処も痛くはないだろ?」
「でも身体にも痣があっただろ、暴力も振るう奴いるんだろ。」
「いるよ。でも、小さな子供が振るう暴力なんてたかが知れてる。大人の男の人が振るう暴力の方が痛かったよ。それさえも僕は我慢出来るからね。心配してくれてありがとう。でも、僕とお話ししてると君までイジメられるよ。僕は何とも思ってないから大丈夫。」
にっこりと笑みを溢し、友紀は席に着き授業の準備を始めた。
仕方なく彼も自分の席に着いた。周りは彼にキツイ視線を送って来たが、彼もまた彼らを睨み返していた。
朝の挨拶には担任ではなく教頭が顔を出した。
担任は体調を悪くしてお休みを頂くとのことだった。
今は、皆んなその言葉を信じているけど、直ぐに噂が飛び交う事だろう。その噂に友紀が加わらない事を今は願うしかない。
何時もと変わりなく授業が終わり、帰路に着いていた友紀は、アッと思い出した事があった。
「また、彼の名前を聞くのを忘れた!」
明日こそは聞こうと今は思っている。
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俺は、坂下広海、小学校4年、親の離婚で兄と俺が親父と共にこの街に引っ越して来た。
兄はこの街の近くの大学に入学したから丁度いいと俺と親父に着いてきた。母親は小さい妹を連れて行った。
大人の事情なんか俺には解らない。養って貰っているのだから口を出す事でもない。
俺は、この街の清美小学校に編入した。
教室に入って思った事、それは最悪の教室だと言う事だ。
担任の教師を含めクラスの奴らが一人のクラスメイトをイジメているからだ。
教師が見ている前でも平気で暴力を振るった時には、俺は思わず立ち上がってしまっていた。だが、イジメをされている彼は、何とも思っていないのか無表情でいる。彼からは悲しみも怒りも何も感じない。
彼は、目を見張る程、綺麗な顔をしていた。
彼の目には、クラスの奴らは誰も映っていない様に思えた。勿論俺もだ。全くと言っていい程に興味がないのだと思う。
そんなある日、朝教室に着いた俺は、彼を見てびっくりした。額から血を流しているのに平然とした姿に、思わず声をかけてハンカチで血を拭った。
机の落書きが増えていたのか、ぼんやりと眺めている彼をヘラヘラ笑っている奴らに怒りが湧いて、彼に文句を言ってしまった。
それだけではない、彼の椅子が絵の具と水でびしょ濡れなのに、知っていながら担任が無理矢理座らせている。
何も言わない彼にも怒りが湧いたが、それ以上に教師に対して怒りが湧き、怒鳴り声をあげてしまった。少し大きな声をあげた俺を迷惑そうに見るクラスの奴らが鬱陶しくなり、教師に嫌味を言うだけで引き下がった。
放課後に担任が彼を準備室に呼びつけているのを何事だと彼に視線を向けて驚いた。
その時初めて彼から教師に対して拒否感とか恐怖感をいだいてると感じた。
だから、行くなと声をかけたのに、彼は悲しそうに行くよって言葉を残して行ってしまった。
俺も着いていこうとしたが、俺だけでは大人相手にダメだと家に急いで帰って兄貴を連れて学校に戻った。
教師は彼に最低の事をしていた。兄貴は思い切りぶん殴っているのを目の端に捉えたが、俺は腕の中で涙を流して震える彼を思い切り抱きしめた。
俺を見上げた濡れた瞳の彼を、俺は絶対に守る。俺だけが彼を守る事ができる、そして彼は、守るべき者だと認識した。
その後、彼を家まで送って行った。彼が施設で暮らしている事を初めて知った。
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担任がいなくなり、代わりに教頭が教壇に立っている。
その影響なのか定かではないが、イジメが少なくなっていた。
あまり気にしていなかったので、どうでも良い事だった。
彼に名前を聞こうと思った時は、何時も彼は友達に囲まれていた。
またの機会にでも良いかと何度も同じ事を繰り返していた。
彼も友紀に声をかけてくる事は無かった。
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