白と黒の天使

YUKI

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一つ目の代価

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そして夏休みがやって来た。

中学生になった愁は忙しそうで、月に3回程電話で声が聞けただけでも友紀には嬉しかった。

だから、きっと夏休みも会えないと思っていたのに、喜びは突然やって来た。
シスターのお手伝いでお庭のお掃除をしていた時に。

 「友紀、来たよ。元気だったか?」
 突然、諦めていた懐かしい優しい声に僕は、抱きついて泣いてしまっていた。
学校でのイジメやら担任から受けた卑猥な行為やら必死で心の深くに仕舞い込んでいただけで、ホントは辛かったのだと、愁の声だけでなく側にいると思ったら我慢出来なかった。

 「寂しかったよな。ごめんな。」

 優しい手は僕の背中をポンポンと子供をあやす動きをする。
 「お兄ちゃん、僕、赤ちゃんじゃないよ。すぐ子供扱いするんだから」
 嬉しいのに涙の残る目で拗ねた顔をしてしまう。

 「愁、俺の事いつになったら紹介してくれるんだ。」

 突然、友紀の後ろで声がしてビックリして肩が揺れた。
 「 薫、友紀を驚かすな。」
友紀を腕に抱き締めたまま、僕の後ろの人に文句を言っている。

 「なんだよ、俺が悪いのか?俺も友紀ちゃんに、お兄ちゃんって言って欲しいだけなのにさ。」

 少し緩まった腕の中振り返ると、お兄ちゃんとは違ったふわりと優しく微笑む少年がいた。

 「友紀、こいつは真瀬 薫だ。俺の幼なじみだよ。」
 「お兄ちゃんの幼馴染?」
 薫と紹介された少年は、友紀を見つけた時一緒に野球をやっていたんだと笑いかけてくれた。
 「お兄ちゃんが二人になった。」
 嬉しいか?と聞かれ頷いた。
 その日から、友紀は二人の兄と食事をしたり、遊んだり、勉強もいっぱい教えてもらって過ごした。勿論、毎日やってるシスターのお手伝いも忘れてはいない。
楽しかった日々も終わりに近づいて、明日愁が帰る日になり、買い物に出掛ることになった。僕の両手は二人の兄の手に包まれていた。
 「愁兄ちゃん、お土産何にするの。」
 「親父の好きなきんつばでも買うかな。」
 「友紀ちゃん、こんなデカい男二人にちゃん付けは恥ずかしいから愁兄アンド薫兄でお願い出来るかな。」
 愁も薫も身長が180越えである。照れ臭そうに笑う薫兄に、
 「うん、愁兄アンド薫兄だね。僕のことは呼び捨てにしてくれるならいいよ。」
 「よっしや、商談成立。」
 繋いだ手を振りながら笑う薫兄に友紀は満面の笑みを見せていた。
でも、刺すような視線を感じ振り向くと、あの彼とクラスの男子が数人、こちらを見ていた。
 友紀は、初めて彼にキツイ視線を向けられ戸惑った。
 近づいて来た男子達の一人が、
「何ヘラヘラ笑ってんだ、捨て子のくせに、馬鹿じゃないのか。」と、馬鹿にした様に言うのを止めない彼に友紀は少し悲しくなった。今まで一度も彼からはそんな事を言わられた事がないし、言うクラスの人を諌めてもいたから。
彼は、暴言を吐いた子を後ろに下がらせ、愁と薫を睨みつけた。

 「お前誰だ?俺の友紀になんか用事か?用がないなら行け。」
 友紀を抱き締めたままの愁の低い凄みのある声は、見た目の鋭さを際立たせ、近づいて来た少年以外は走って逃げていった。
 愁は、友紀を庇うように肩を抱きしめていたから、薫が少年の前に詰め寄り、
「俺はこの近くが家だ。今度、友紀にちょっかい出したら」
 「出したらなんだってんだ。姫を守るナイトのつもりか?」
と、薫の言葉に被せる様に真っ赤な顔で反撃してきた。
 薫は、真っ赤な顔で食ってかかって来た少年の肩に手を回し拘束するとニタリと悪い笑みを浮かべた。
 「なぁ、お前さぁ、可愛いよな。」
突然、肩を抱かれ可愛いと言われ慣れない言葉に彼は動揺してしまい、薫の罠にハマってしまった。
 「お、お、俺は男だ。可愛いなんて言うな。」

 「可愛いよ。友紀を苛めたら涙を流すほど恥ずかしい事しちゃうよ。」

 耳許で囁く言葉に、この前友紀が教師にされていた事が頭に浮かび、恐怖に座り込んで涙が滲んでしまった。
 「きゃははは、は、は、めっちゃ笑える。お前さ、今度遊びに行こうぜ。この後、飯食いに行くけどお前も来る?」
事件の事を知らない薫は、何故少年が自分の言葉に座り込む程、動揺したのかびっくりして笑ってしまった。
 「薫、お前、勝手に。」
愁は、勝手に話を進める薫に呆れて溜息を溢してしまった。
 友紀は、この間の事を彼が思い出したのが解り、薫に揶揄われ震える彼が可哀想に思えた。
「愁兄、僕はいいよ。」
 「ホントにいいのか?」
 薫は友紀が良いと言ったのを聞き、決定とばかりに座り込んだ彼を立たせ、肩に腕を回し歩き始めた。
「さぁ、行くぞ。それより、お前名前は?友紀ちゃん、知ってる?」
 「えっと………ごめんなさい。」
 「きゃははは、お前可哀想。」
 「薫、いい加減にしろ!」
 肩を抱かれ否応なく歩かされている彼は、歯を食いしばり泣いていた。

 「あっ、悪い。ごめんな。俺がなんでも奢ってやるからもう泣くな。」
 自分が揶揄って泣かしておいて、少年を抱きしめ慰めてる。
そんな薫を不思議な人だなぁと思うが友紀は嫌いだとは思わなかった。
「駅前のファミレスにしようぜ。」
 薫は、そう言うと肩を抱くのを辞め、彼の手を握り上機嫌で歩き出した。
 友紀の隣で愁の大きな溜息がして、僕は珍しく声に出して笑っていた。
ファミレスの席に着くなり、隣の席に無理矢理彼を座らせ、
「なぁ、お前名前は?教えろよ。」
「な、な、なんでだよ。」
手を離されたが動揺は隠せず、吃ってしまっていた。
 「えっ、そりゃお前の事気に入ったし、ずっとお前なんて言われるの嫌だろ。」
 彼は嫌だと悔しそうに下を向いていた。
 「ごめんね。僕、クラスの誰も名前覚えてなくて。教えてもらってもいい?」
 彼は、僕の声に真っ赤な顔を上げた。
 「お前、誰も覚えてないのか?一学期も終わったぞ?」
呆れたと言わんばかりに溜息をつかれた。
それより早くと急かす薫に、
 「坂下広海」
「ヒロミってどんな字書くんだ?」
 薫が胸ポケットに差していたペンとナプキンを彼の前に突き出し、書く様に促す。
 「広い海か、いいな。」
 薫がホントに坂下君が気に入ったみたいで、髪をくしゃくしゃにしたり、肩を抱いたりちょっかいを出してる。
 坂下君も、やめろとか言いながらも、笑ったり、拗ねたり、まるでじゃれあってるように見える。
お店を出て、四人で買い物してゲームセンターまで行った。三人で過ごす予定が何故か四人になり、久しぶりに声を出して笑った。
楽しい時間はあっという間に過ぎて行く。
友紀は愁と腕を組んで歩いている。お別れの時間が近づいて寂しくてたまらないけど、愁兄には笑っている僕を覚えていて欲しくて頑張って最後まで笑顔でいたいと思っている。
 「愁兄お家に着いたらまた電話してね。1人になったら電車の中で泣いたりしないでよ。」
 生意気な事を言ってみたりもした。行かないでって言ってしまわないために。
 「泣かない自信ないなぁ、泣きそうになったらトイレに飛び込むよ。」
 薫が揶揄うように
「愁は強面の割に涙脆いからなぁ。きっと泣くぞ。友紀は俺が側にいるから泣かないもんなぁ。」
 「俺だっているから。」
 広海まで勢い良く言うから、大笑いになった。
 今日は、薫や広海のお陰で少しだけ寂しいお別れでなくなった。

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