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一つ目の代価
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愁お兄ちゃんは、中学生になって部活が忙しくて中々電話で話す事が出来なくなっていた。
仕方がない事だと解っていてもやはり寂しかった。
僕が学校に行くよって言った時、愁お兄ちゃんが喜んでくれたから僕は頑張れる。
クラスの皆んなからされてる事なんて些細な事なんだ。
だから、怒ったり、悲しんだりするのは僕の我儘なんだ。
だって、この怒りも辛さも悲しみも何処にぶつけたらいいか解らないんだ。
誰にぶつけたらいいか解らないんだ。
解らないからどんどん友紀の中に溜まって、重くて重くて身体が思う様に動かなくなってきてる。
『愁お兄ちゃん、僕の身体変なの。病気でもないのに身体が怠いの。ボールや箒で受けた所がいつまでも痛いの。どうしちゃったのかな?昔みたいに殴られて熱を出してる訳でもないのに。愁お兄ちゃん、助けて!』
愁との電話で友紀がいつも『大丈夫だから』と言う言葉の影に友紀の心の叫びが隠されていた。
誰も気づかない間に、学校での友紀に降りかかるイジメの火の粉がどんどん大きな炎になって友紀を焼き尽くそうとしていた。
いつもと同じメロディで友紀は、目を覚ました。
友紀が暮らす施設は、小さな子ばかりで友紀が一番年長となり、あっという間に友紀に可愛い弟と妹がたくさんできた。
だから、朝はとても忙しい。シスターと朝ご飯の支度を手伝い、弟、妹達を起こし歯を磨かせ、顔を洗い食卓の椅子に座らせる。
大変だけど、笑顔が沢山ある幸せを感じる時間でもあった。
この時間があったからこそ、友紀の心は救われていたのかもしれない。
「シスター、皆んな行ってきます。」
満面の笑顔で施設を出た友紀、学校に近づいて行くにつれ、笑みは消え無表情へと変わっていた。無意識のままに。
友紀が靴箱を開けて目にしたのは、泥だらけの上履き。
仕方なく靴下のまま教室に向かうしかない。
いつもの可愛い嫌がらせ。
2階の教室への階段、後一歩という所で足をかけられて下まで落ちた。必死で頭を庇ったから背中や足や腕だけが痛いだけで済んだ。
額から少し血が流れているみたいだけどそのまま教室の戸を開け席に着く。
毎日机の落書きが増えていると、ニヤニヤと笑う数人の生徒がいるのが目に入る。
あの人達は何が楽しいのだろう?無視をするに限る。
「おい!お前額から血が出てるぞ!」
一人の男の子が慌てた様子で友紀の額にハンカチを当ててる。
『えっ!』
初めての触れ合いに友紀は固まってしまった。
「その汚い机、お前のなんだな。あそこでニヤニヤしてるヤツの仕業だろ?解ってるのになんで怒らないんだ!」
こんな事を言われたの初めてだし、睨まれた子達がバツの悪い顔をしてるのも初めて。
初めてづくしで、言葉が出ない。
「なんだよ?無視してんじゃねぇぞ!」
「ごめん、ありがとう。」
「なんだよ、変な返事するな。」
お互い気不味い空気に黙り込んでしまったが、天の助けの様に担任の声が教室に響いた。
「チャイム鳴ったぞ、皆んな席に着けよ!」
ガタガタと皆が先に着く中、友紀は椅子を見て溜息を溢していた。
友紀の椅子は絵の具と水でビチャビチャだった。
「御坂、早く席につきなさい。」
渋っていると担任は友紀の所まで来て、無理矢理席に座らせた。
いつもの担任からの嫌がらせだ。
「先生、何やってんだ?座れる状態じゃなかっただろうが?雑巾で拭くぐらいしてからでも良かった筈だろ!このクラスは先生含めて皆んなでイジメをやってるのか?最低だな!
お前も黙ってないで怒れよ!」
「何を偉そうに先生に向かって言ってるんですか?」
「何?今度は俺をイジメるのか?やるならやれよ!俺は黙ってやられたりはしないからな!倍にして返してやる。」
「君は何も解ってない様ですね。私は先生で、貴方は生徒。立場を考えなさい。」
「ふん~ん、立場ね。それを考えるのは先生だよ。まぁ今はいいや、早く授業しようぜ、せ・ん・せ・い!」
「くそ!生意気なガキだ。」
舌打ちをしながら教壇に立った先生は授業を始め出した。
『僕は触らぬ神に祟りなし』とばかりに関係ないとそっぽを向いていた。
頭の中はズボンの絵の具とれるかなぁ?どうしようかなぁとシスター達にバレない様にどうするか考えていた。
今日もいつもと変わりないぐらいの嫌がらせで済んで良かったと、後はこのホームルームが終われば帰れると思っていた。
「御坂、後で準備室に来なさい!」
「はい。」
何でだよ。嫌な予感満載で行きたくない、でも行かない選択肢はない。
担任は教室を出て行った。この後、友紀に起こる事を想像して面白がる顔が、あちらにもこちらにも、薄ら笑いを浮かべながら帰って行く。
荷物を纏めて準備室に向かおうとしていた友紀に例の男の子が話しかけてきた。
「おい!ホントに行くのか?何されるか解らないぞ。行くな!後の事は俺が何とかするから。」
不思議な感覚。嬉しい様な面倒くさい様な。
「行くよ。」
にっこり笑って彼の横を擦り抜け教室を出て準備室に向かった。彼は追いかけては来なかった。
友紀は、残念な様な安心した様な、またまた不思議な感覚を味わった。
仕方がない事だと解っていてもやはり寂しかった。
僕が学校に行くよって言った時、愁お兄ちゃんが喜んでくれたから僕は頑張れる。
クラスの皆んなからされてる事なんて些細な事なんだ。
だから、怒ったり、悲しんだりするのは僕の我儘なんだ。
だって、この怒りも辛さも悲しみも何処にぶつけたらいいか解らないんだ。
誰にぶつけたらいいか解らないんだ。
解らないからどんどん友紀の中に溜まって、重くて重くて身体が思う様に動かなくなってきてる。
『愁お兄ちゃん、僕の身体変なの。病気でもないのに身体が怠いの。ボールや箒で受けた所がいつまでも痛いの。どうしちゃったのかな?昔みたいに殴られて熱を出してる訳でもないのに。愁お兄ちゃん、助けて!』
愁との電話で友紀がいつも『大丈夫だから』と言う言葉の影に友紀の心の叫びが隠されていた。
誰も気づかない間に、学校での友紀に降りかかるイジメの火の粉がどんどん大きな炎になって友紀を焼き尽くそうとしていた。
いつもと同じメロディで友紀は、目を覚ました。
友紀が暮らす施設は、小さな子ばかりで友紀が一番年長となり、あっという間に友紀に可愛い弟と妹がたくさんできた。
だから、朝はとても忙しい。シスターと朝ご飯の支度を手伝い、弟、妹達を起こし歯を磨かせ、顔を洗い食卓の椅子に座らせる。
大変だけど、笑顔が沢山ある幸せを感じる時間でもあった。
この時間があったからこそ、友紀の心は救われていたのかもしれない。
「シスター、皆んな行ってきます。」
満面の笑顔で施設を出た友紀、学校に近づいて行くにつれ、笑みは消え無表情へと変わっていた。無意識のままに。
友紀が靴箱を開けて目にしたのは、泥だらけの上履き。
仕方なく靴下のまま教室に向かうしかない。
いつもの可愛い嫌がらせ。
2階の教室への階段、後一歩という所で足をかけられて下まで落ちた。必死で頭を庇ったから背中や足や腕だけが痛いだけで済んだ。
額から少し血が流れているみたいだけどそのまま教室の戸を開け席に着く。
毎日机の落書きが増えていると、ニヤニヤと笑う数人の生徒がいるのが目に入る。
あの人達は何が楽しいのだろう?無視をするに限る。
「おい!お前額から血が出てるぞ!」
一人の男の子が慌てた様子で友紀の額にハンカチを当ててる。
『えっ!』
初めての触れ合いに友紀は固まってしまった。
「その汚い机、お前のなんだな。あそこでニヤニヤしてるヤツの仕業だろ?解ってるのになんで怒らないんだ!」
こんな事を言われたの初めてだし、睨まれた子達がバツの悪い顔をしてるのも初めて。
初めてづくしで、言葉が出ない。
「なんだよ?無視してんじゃねぇぞ!」
「ごめん、ありがとう。」
「なんだよ、変な返事するな。」
お互い気不味い空気に黙り込んでしまったが、天の助けの様に担任の声が教室に響いた。
「チャイム鳴ったぞ、皆んな席に着けよ!」
ガタガタと皆が先に着く中、友紀は椅子を見て溜息を溢していた。
友紀の椅子は絵の具と水でビチャビチャだった。
「御坂、早く席につきなさい。」
渋っていると担任は友紀の所まで来て、無理矢理席に座らせた。
いつもの担任からの嫌がらせだ。
「先生、何やってんだ?座れる状態じゃなかっただろうが?雑巾で拭くぐらいしてからでも良かった筈だろ!このクラスは先生含めて皆んなでイジメをやってるのか?最低だな!
お前も黙ってないで怒れよ!」
「何を偉そうに先生に向かって言ってるんですか?」
「何?今度は俺をイジメるのか?やるならやれよ!俺は黙ってやられたりはしないからな!倍にして返してやる。」
「君は何も解ってない様ですね。私は先生で、貴方は生徒。立場を考えなさい。」
「ふん~ん、立場ね。それを考えるのは先生だよ。まぁ今はいいや、早く授業しようぜ、せ・ん・せ・い!」
「くそ!生意気なガキだ。」
舌打ちをしながら教壇に立った先生は授業を始め出した。
『僕は触らぬ神に祟りなし』とばかりに関係ないとそっぽを向いていた。
頭の中はズボンの絵の具とれるかなぁ?どうしようかなぁとシスター達にバレない様にどうするか考えていた。
今日もいつもと変わりないぐらいの嫌がらせで済んで良かったと、後はこのホームルームが終われば帰れると思っていた。
「御坂、後で準備室に来なさい!」
「はい。」
何でだよ。嫌な予感満載で行きたくない、でも行かない選択肢はない。
担任は教室を出て行った。この後、友紀に起こる事を想像して面白がる顔が、あちらにもこちらにも、薄ら笑いを浮かべながら帰って行く。
荷物を纏めて準備室に向かおうとしていた友紀に例の男の子が話しかけてきた。
「おい!ホントに行くのか?何されるか解らないぞ。行くな!後の事は俺が何とかするから。」
不思議な感覚。嬉しい様な面倒くさい様な。
「行くよ。」
にっこり笑って彼の横を擦り抜け教室を出て準備室に向かった。彼は追いかけては来なかった。
友紀は、残念な様な安心した様な、またまた不思議な感覚を味わった。
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