白と黒の天使

YUKI

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一つ目の代価

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甘える事を知らない、優しくされた事もないそんな友紀にとっては、愁の優しさは触れてはいけないものの様に感じられ、恐怖に近い感情を抱いていた。
一度でもその優しさに触れてしまえば、その腕の中の暖かさに包まれてしまえば、愁は友紀にとって唯一無二の存在になってしまうだろう。それにもし、二度と会えない状況にでもなったら、きっと友紀は壊れてしまうと、まだ小さな子供なのに本能で感じている。
それを感じてはいても、今の友紀の弱い心が愁の事をお兄ちゃんと呼び、温かい腕を求めてしまっている。
愁もまた、本当の弟の様に可愛がり、学校の帰りランドセルを背負ったまま友紀に会いに来る事が常となる程に。
まるで、磁石が引き合う様にどちらもがお互いを求め惹かれあってる。
怖々と甘える友紀を愁が優しさ全開で受け止めるのが当たり前の様になり、友紀の中で愁への思いがどんどんと大きくなっていた。
それはまだどちらも恋心とは違ったものだったけれど、いつか時が経てば運命の様に惹かれあったその心は花開く事だろう。それが苦しい恋になるかどうかはまだまだ先の話。


🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️


いつの間にか蝉の声が聞こえなくなり、秋は足速に過ぎて冬がやってくる。
友紀は、病院から施設に移っていた。
母は、今度こそ友紀を捨てた。

退院が決まってお世話になった先生や看護師に挨拶を済ませ、友紀は施設に来ていた。
やはり、母は一度も病院に顔を出す事はなかった。
もう会う事はないだろうと思っていたのに、施設の待合室の椅子に派手な衣装で足を組み煙草を燻らす母がいた。

会えないと思っていた母が目の前にいる。
友紀の事を忘れていなかったんだと、会いに来てくれたと喜ぶ思いに頬を涙が流れる。

そんな友紀を見た母は、
「なんだ、生きてたのね。死んでれば良かったのに、中々しぶといわね。私はいらないわよ、押し付けないでよね。こんな歪な生き物、私には邪魔なのよ、貴方達にあげるはよ。売り飛ばせば少しぐらいの金にはなるんじゃない。」

それだけ言うと僕を置いて施設を出て行ってしまった。

会えた時は嬉しくて涙が出たけど、いらないと言われて悲しい涙は不思議と出なかった。愛されてなどいない事をホントは解っていた、でも、少しだけでもと夢を見てしまった。
施設の人が僕を抱きしめる手が震えていた。
この人は何故、こんな僕のために涙を流すの?

「泣かないで、僕は大丈夫だから。僕は悲しくも辛くもないよ。だから泣かないで。」
一生懸命笑った。

施設で生活する様になった事で、愁お兄ちゃんのお家から少し遠くなって毎日は会えなくなった。
でも、会えない間の寂しさより、会えた時の嬉しさが何倍も大きかったから、僕はいつも笑顔でいられる。
会えない間の色んな話をするのが楽しみ。
愁お兄ちゃんのお誕生日を教えてもらったから、施設のシスターにケーキを作ってもらう約束までした。少しでも僕も手伝えたらいいなと楽しみがまたひとつ増えた。

でも、その約束は果たせなかった。
愁お兄ちゃんのお父さんが大阪に転勤が決まって、お誕生日より前に行ってしまうから。でも、ケーキは渡せなかったけど、シスターに教えてもらって小さなマスコットをフェルトで作ったのを、出発の日に会いに来てくれた時に渡す事ができた。

「愁お兄ちゃん、お誕生日まだ先だけど、これね、僕が作ったの。お守り代わりに持っていてくれたら嬉しい。」

「友紀、ありがとう。約束を守れなくてごめん。学校が休みになったら会いに来るから。絶対来るから。会えない時は電話で声を聞かせて、お願い。」
って、額に約束のキスを残して行ってしまった。
僕は、約束ねと赤く頬を染め笑顔でバイバイした。
もう会えないかもしれないと思っても、僕の事、忘れてしまったとしても、僕は忘れない。大好きだから。
そんな事を考え、グッと涙を我慢したのに、その日のうちに愁お兄ちゃんからの電話がかかってきた。

『今さっき着いた。泣いてないか?』

我慢した涙が溢れそうになり、泣き笑いの声になってしまった。

 「泣いてないよ。僕、そんな子供じゃないもん。愁お兄ちゃんこそ泣いてない?」

 『友紀は見てたのか?俺、少し泣いた。』

 「そうなの、愁お兄ちゃん大きいのに泣いたの?僕も泣いてもいいの?」

 『いいさ、寂しい時も悲しい時も嬉しい時だって、俺には隠す必要なんてないよ。』

 「でも、泣くとお母さんは叩いたよ。時々来る男の人も泣けば泣くほど躾だって、蹴ったり殴ったりしてくるよ。泣くのはいけない事なんでしょ。」

 少しの間を置いて

『男は、涙を我慢しないといけない時もあるけど、泣く事がいけない事なんかじゃない!』
 
「愁お兄ちゃん怒った?」
 『友紀に怒ったわけじゃないから、大きな声出してごめんな。』
 「愁お兄ちゃん、電話ありがとう。嬉しかった。」
 『また、かけるから。』
 「うん」
バイバイと受話器を置いた。
 嬉しいけど、寂しい。

 週末には電話で愁お兄ちゃんとポツリポツリと話をする様になった。
 学校に行くって話したら、良かったなと喜んでくれた。だから頑張ろうと思った。

 でも、学校に一度も行った事のない友紀にはまだ早かったのかもしれない。
集団で行動する事に慣れていない友紀は、先生やクラスメイトが言ってる事がよく解らなかった。初めのうちは話しかけてくる子もいたけど、すぐに言葉が出てこない友紀に、とろいヤツと吐き捨て、そのうち誰も寄ってこなくなった。
 授業もよくわからないから、先生からもよく注意されるようになった。
友紀が一度も学校に行った事がない旨を学校側に伝えてなかった事もあり、何度も注意をしても理解しない友紀に担任の先生が、大人として言ってはいけない言葉を言ってしまった。
 「幼稚園からやり直した方がいいんじゃないか?そんなに馬鹿だから親に捨てられるんだ。」

 教室中で笑い声が広がった。

 『僕が馬鹿だから捨てられたの、お母さんはだから必要ないって言ったんだ。』

 友紀は先生の言葉にショックも受け、恥ずかしさと悲しさで顔を上げる事が出来なくなった。
その日から、クラスの皆んなから揶揄われ、教科書やノートを隠されたり、落書きをされたりと小さなイジメが始まった。
体育の時間にはボールをぶつけられるのはいつもの事になり、掃除の時は箒で叩かれたり、バケツの水をかけられたり、担任の見てる前でも何も変わりはしなかった。
担任公認のイジメとなっていた。
馬鹿だからイジメられるのだと思った友紀は、必死で勉強をしてテストでクラス3位になった。
だが、職員室に呼び出された友紀は、担任以外の先生達がいる中で担任にカンニングをしたと罵られ、テストの点数は無効とされた。
友紀は、此処ではどんなに頑張っても無駄なのだと悟った。誰も友紀の言葉を信じないのだから。

愁お兄ちゃんが喜んでくれたけど、友紀にとって学校は楽しい所では無かった。
それでも、辛い顔をしてると施設のシスターたちが心配して悲しむからいつも笑っていよう、誰も悲しまないように。
そう誓ったのに友紀から笑顔がどんどん消えていってしまった。辛うじてシスターの前では笑みを作る事が出来ていると思っていた。

こんな事は愁お兄ちゃんにもシスターにも内緒にしないと駄目なんだ。
友紀は一人で頑張ろう、皆んなに心配かけない様に。
どんどん友紀は壊れていっているのを自覚できてなかった。

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