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一つ目の代価
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闇に呑まれ音も光も閉ざされた深く冷たい海底に一筋の光が差し込んでくる。
闇に包まれる世界は不思議と心穏やかでいられたのに、僕は一筋の光に手を伸ばしてしまった。
だって、光を背に僕に差し伸べる手が闇を纏ったあの天使だったから。
僕はその手に抱かれたい、その翼に包み込まれたいと願ってしまったから。
ふわふわの翼に包まれて浮上する意識、重い瞼を開いていく。
柔らかい薄い水色のカーテンが風を受け踊り友紀の視界を覆う。
頬を撫ぜる風、暑さを含んだ蝉の声。
『あぁ、僕はまだ生きていてもいいんだな。母さんは許してくれるだろうか?』
怠く重い身体を起こそうとするが、思うように動かない。
『此処はどこ?』
戸惑い、不安な思いが体を締め付ける。
突然、サァッとカーテンが開かれ、そこに現れた知らない女の人と目があった。
「あら、お目覚めね。良かった、少し顔色も良くなってきたわね。」
コロコロと転がる様な軽快な声と共に優しい手が友紀の頭を撫ぜている。
「ココはドコ?」
「病院よ。安心していいのよ。もう大丈夫だからね」
でも、友紀にとって優しく労られる言葉や手は初めての感覚で自然と体が固まる。
そして、出かける時に母親が言った言葉が蘇る。
「お母さんが帰って来たら、僕がいないと……」
母の機嫌が悪くなる。外に出るなときつく言われたのに。
「お家に帰る!」
友紀の頭の中は、これ以上母親から嫌われたくないと思う事だけで占められていた。
でも、ベットから降りようとした友紀は自分では身体を起こす事さえ難しい程弱っていた。
「駄目よ、ベットに寝ていないとね、お願いよ。」
肩を押さえベットに戻される。
大きな声が病室から聞こえていたからだろう、白衣を着た大きな男の人が病室に顔を覗かせた。
「どうした?」
その男の人はベッドで女の人と揉めてる僕をベッドに寝かせ頭を撫ぜながら、
「大分と顔色も良くなったね。柔らかいものから少しずつ食べて元気になろうね。直ぐに身体も動ける様になるし、普通食も食べられるようになるよ。」
「お医者さんなの?」
「そうだよ」
「僕、お家に帰りたいの。」
「もう少し元気になったら帰ろうね。」
「お母さんが怒るよ。僕、お家から出ちゃダメなの。だから、お家に帰して!」
先生は、優しく笑って、
「お母さんにはちゃんと言ってあるから大丈夫。お母さんもね、君が元気になるのを待っているよ。」
お母さんが、僕の事心配してくれてる?そんな事有り得ないと思うけど、もしかしたら死にかけたから母親の気を引けた?と自虐的な考えが浮かんだ。
「早く元気になるよ。お母さんに心配かけないように。」
嬉しそうに笑う友紀に「そうだね」と笑いかけられ頭を撫ぜてくれた。
母親が見舞いには来てくれないだろうと諦めてはいる。
それでも、友紀は母親が少しでも自分の事を心配してくれていると医者の言った言葉を信じた。一生懸命ご飯も食べ、元気になれば母親が喜んでくれる。
母の愛を初めて感じてもいいのだと思いたかった。
🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️
暦の上ではもう秋なのに、居残りを決め込んだ夏はまだまだ暑さを提供しつつあった。
一人で散歩が出来るまでに回復した友紀は、風が吹き抜ける屋上が気に入っていた。
今日もいつもの日陰のベンチに座り、空を眺めていた。
「もう大丈夫なのか?」
不意に声をかけられびっくりして振り向いた。
「ごめん、驚かすつもりじゃなかったんだ。元気になって良かった。」
優しい声で話しかけてきた少年、友紀は誰だろうと思いながらも「ありがとう」と笑った。
「隣に座ってもいい?」
「うん」
「ありがとう。あの時は本当に俺、びっくりして何も出来ないでウロウロするばかりで、気になってたんだ。元気な顔見れて良かったよ。」
少年の言葉に友紀の胸がドキンと高鳴った。もしかしたらこの少年があの天使様かもしれない。優しい眼差し、笑みが僕の心を包み込んでいく。
「お兄ちゃんが僕を病院に連れてきてくれたの?」
「えっ! ごめん。病院に運んだのは父さん、僕は君を見つけて、父さんに知らせただけで何も出来なかった。野球のボールが窓ガラスを破ってしまったんだ。慌てて謝りに行った部屋で君を見つけた。あの時はホントにびっくりしたよ。」
少年は辛そうな笑みを見せ、友紀の頭を撫ぜながら 独り言のように「元気になって良かった。」と囁いていた。
星が降って来たと思ったのは、ガラスの破片だったんだ。でも、それがあったから僕は今も生きているんだ。
嬉しい様な悲しい様な複雑な感情がなだれ込んでくる。
急に黙って俯いた友紀に少年は慌てて、
「ねぇ、君の名前教えてよ。俺は葛城 愁、6年」
僕は目の前の凛とした男らしい大人びた少年が小学生なんだとびっくりして、
「うそ、中学生だと思った。」
「あぁ、よく言われる。老け顔だって。」
「そんな事ないよ。凄くカッコいい。」
友紀は憧れの天使様に会えた嬉しさで興奮し頬を赤く染めていた。
そんな友紀の素直な言葉に愁の頬も赤みを帯び、「ありがとう。」と照れ隠しに俯きながら返した。
友紀は想い人の愁の名前を心の中で噛み締める様に何度も呟いていたが、自分の名前を聞かれていた事を思い出し、慌ててしまい吃った名乗りになっていた。
「僕、僕の名前、御坂友紀で9歳」
「じゃ3年かぁ、どのクラス?」
「えっ!僕、学校行った事ないからわからない。」
僕は普通じゃないって思ったら悲しく俯いてしまった。
「ごめん。学校行ってなくても友紀は何も悪くない。いい子だから。」
優しい腕はそっと僕を抱きしめてくれた。
その腕の中は思った通り暖かくて友紀を幸せにしてくれていた。
闇に包まれる世界は不思議と心穏やかでいられたのに、僕は一筋の光に手を伸ばしてしまった。
だって、光を背に僕に差し伸べる手が闇を纏ったあの天使だったから。
僕はその手に抱かれたい、その翼に包み込まれたいと願ってしまったから。
ふわふわの翼に包まれて浮上する意識、重い瞼を開いていく。
柔らかい薄い水色のカーテンが風を受け踊り友紀の視界を覆う。
頬を撫ぜる風、暑さを含んだ蝉の声。
『あぁ、僕はまだ生きていてもいいんだな。母さんは許してくれるだろうか?』
怠く重い身体を起こそうとするが、思うように動かない。
『此処はどこ?』
戸惑い、不安な思いが体を締め付ける。
突然、サァッとカーテンが開かれ、そこに現れた知らない女の人と目があった。
「あら、お目覚めね。良かった、少し顔色も良くなってきたわね。」
コロコロと転がる様な軽快な声と共に優しい手が友紀の頭を撫ぜている。
「ココはドコ?」
「病院よ。安心していいのよ。もう大丈夫だからね」
でも、友紀にとって優しく労られる言葉や手は初めての感覚で自然と体が固まる。
そして、出かける時に母親が言った言葉が蘇る。
「お母さんが帰って来たら、僕がいないと……」
母の機嫌が悪くなる。外に出るなときつく言われたのに。
「お家に帰る!」
友紀の頭の中は、これ以上母親から嫌われたくないと思う事だけで占められていた。
でも、ベットから降りようとした友紀は自分では身体を起こす事さえ難しい程弱っていた。
「駄目よ、ベットに寝ていないとね、お願いよ。」
肩を押さえベットに戻される。
大きな声が病室から聞こえていたからだろう、白衣を着た大きな男の人が病室に顔を覗かせた。
「どうした?」
その男の人はベッドで女の人と揉めてる僕をベッドに寝かせ頭を撫ぜながら、
「大分と顔色も良くなったね。柔らかいものから少しずつ食べて元気になろうね。直ぐに身体も動ける様になるし、普通食も食べられるようになるよ。」
「お医者さんなの?」
「そうだよ」
「僕、お家に帰りたいの。」
「もう少し元気になったら帰ろうね。」
「お母さんが怒るよ。僕、お家から出ちゃダメなの。だから、お家に帰して!」
先生は、優しく笑って、
「お母さんにはちゃんと言ってあるから大丈夫。お母さんもね、君が元気になるのを待っているよ。」
お母さんが、僕の事心配してくれてる?そんな事有り得ないと思うけど、もしかしたら死にかけたから母親の気を引けた?と自虐的な考えが浮かんだ。
「早く元気になるよ。お母さんに心配かけないように。」
嬉しそうに笑う友紀に「そうだね」と笑いかけられ頭を撫ぜてくれた。
母親が見舞いには来てくれないだろうと諦めてはいる。
それでも、友紀は母親が少しでも自分の事を心配してくれていると医者の言った言葉を信じた。一生懸命ご飯も食べ、元気になれば母親が喜んでくれる。
母の愛を初めて感じてもいいのだと思いたかった。
🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️ 🔳▪️
暦の上ではもう秋なのに、居残りを決め込んだ夏はまだまだ暑さを提供しつつあった。
一人で散歩が出来るまでに回復した友紀は、風が吹き抜ける屋上が気に入っていた。
今日もいつもの日陰のベンチに座り、空を眺めていた。
「もう大丈夫なのか?」
不意に声をかけられびっくりして振り向いた。
「ごめん、驚かすつもりじゃなかったんだ。元気になって良かった。」
優しい声で話しかけてきた少年、友紀は誰だろうと思いながらも「ありがとう」と笑った。
「隣に座ってもいい?」
「うん」
「ありがとう。あの時は本当に俺、びっくりして何も出来ないでウロウロするばかりで、気になってたんだ。元気な顔見れて良かったよ。」
少年の言葉に友紀の胸がドキンと高鳴った。もしかしたらこの少年があの天使様かもしれない。優しい眼差し、笑みが僕の心を包み込んでいく。
「お兄ちゃんが僕を病院に連れてきてくれたの?」
「えっ! ごめん。病院に運んだのは父さん、僕は君を見つけて、父さんに知らせただけで何も出来なかった。野球のボールが窓ガラスを破ってしまったんだ。慌てて謝りに行った部屋で君を見つけた。あの時はホントにびっくりしたよ。」
少年は辛そうな笑みを見せ、友紀の頭を撫ぜながら 独り言のように「元気になって良かった。」と囁いていた。
星が降って来たと思ったのは、ガラスの破片だったんだ。でも、それがあったから僕は今も生きているんだ。
嬉しい様な悲しい様な複雑な感情がなだれ込んでくる。
急に黙って俯いた友紀に少年は慌てて、
「ねぇ、君の名前教えてよ。俺は葛城 愁、6年」
僕は目の前の凛とした男らしい大人びた少年が小学生なんだとびっくりして、
「うそ、中学生だと思った。」
「あぁ、よく言われる。老け顔だって。」
「そんな事ないよ。凄くカッコいい。」
友紀は憧れの天使様に会えた嬉しさで興奮し頬を赤く染めていた。
そんな友紀の素直な言葉に愁の頬も赤みを帯び、「ありがとう。」と照れ隠しに俯きながら返した。
友紀は想い人の愁の名前を心の中で噛み締める様に何度も呟いていたが、自分の名前を聞かれていた事を思い出し、慌ててしまい吃った名乗りになっていた。
「僕、僕の名前、御坂友紀で9歳」
「じゃ3年かぁ、どのクラス?」
「えっ!僕、学校行った事ないからわからない。」
僕は普通じゃないって思ったら悲しく俯いてしまった。
「ごめん。学校行ってなくても友紀は何も悪くない。いい子だから。」
優しい腕はそっと僕を抱きしめてくれた。
その腕の中は思った通り暖かくて友紀を幸せにしてくれていた。
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