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一つ目の代価
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狭間との一悶着があってから一週間が過ぎた。
あの時は咲良が名誉毀損でなどと言葉責めで狭間を退けたが、実際はそんな事をするつもりもなかった。
だが、狭間は学園から姿を消した。俺達が手をくだすまでもなく、あの騒ぎの前から狭間は周りから問題視されていたみたいだ。
要するに嫌われていたと言う事で、あの騒ぎが決定打となった様で狭間自ら学園を去って行った。
だからと言って俺達に非難の視線は向けられる事はなかった。
そんな事よりこの一週間友紀への嫌がらせが何故か止んだ事が不気味で余計に俺達は警戒を強めている。
「友紀、この一週間静かだな。」
何もないと余計に不安になるものだと咲良は友紀につい不安を言葉にして呟いてしまった。
「うん、時々感じていた冷たい視線も感じない。」
友紀も何もないからこそ不安に感じる理解不能な思考に眠れていないのか目の下に薄らと隈ができていた。
「愁さんは何か言ってる?」
「ううん、気にし過ぎないようにって言ってくれるけど………。」
「このまま何もかも嫌な事が終わってくれる事が最高のエンディングなんだけどね。」
「そうなら良いけど。中途半端で気持ち悪い。」
「うん。だよね。」
二人の間に沈黙が続く。今日は広海が職員室に呼ばれて友紀と俺は教室で待っている。
こんな風に静かな時間を二人で過ごすのは初めてかもしれない。
開け放たれた窓から心地よい風が二人の周りを吹き抜けていく。
「友紀、夏休みどうする?何かする事あったり、行く所あったりするか?」
急な話題変化に友紀はびっくりして頭の中でぼんやり嫌がらせの事を考えていたから思考が追いつかない。
「急にどうしたの?エッと夏休みだよね。何だっけ、エッ~と夏休み………。」
「友紀、慌てなくていいよ!俺が悪かった、少し違う事を考えた方が良いかなってね。」
咲良は友紀の慌て振りが可笑しくて声を出して笑ってた。
友紀はそんな咲良を眺め、久しぶりに楽しい気分になり、咲良に釣られる様に声を出して笑っていた。
「夏休みかぁ~忘れてたぁ~咲良はどうするの?」
「弟に会いに行こうと思ってる。出来れば一緒に住みたいから方法を考える為にも向こうの様子を探らないとね。」
咲良から笑みが消えて真剣な顔になっている。僕の事ばかりに時間を割いていたけど、咲良には弟の事が心配だっただろうに。
「咲良、ごめんね。僕の事は良いから弟の事を考えてあげて。」
「友紀、大丈夫だから。弟は今、叔父さんの家から出て弁護士さんの所に預かって貰ってるんだよ。愁さんのお父さんが手を回してくれたんだ。友紀に話してなくてごめんね。」
薄らと笑みを溢した咲良は俯いてしまい友紀から顔を背けた。
「咲良、こっちを見て!何で顔を背けるの?」
「友紀が辛い思いをしてる時に俺は、弟の事を考える時があったから。皆んな友紀の事を考えているのに俺だけ………。」
「何故、そんな顔するの?咲良は何も悪い事してないでしょ。咲良にとって大事な事は何?一番は弟さんの事でしょ。最初に会った時、咲良は自分の命より大事だと言ってたの忘れたの?僕の事より大事な事でしょ。それなのに僕の事まで考えさせてごめんね。」
友紀は咲良の手を自分の手で包み、感謝を込めて微笑み、そして謝る。
「友紀は悪くないけど、その言葉嬉しいよ。ありがとう。」
「エヘヘ、咲良の手は大きいね。この手で守ってあげてね。」
照れ臭げに笑う友紀もその笑みに優しく笑い返す咲良も穏やかな気持ちになっていた。
ほんの少しの時を嫌な事も忘れて、先に訪れる楽しい事を此処に今はいない広海を交えて考えたい思いを強く感じていた。
外を眺めながら、いつの間にか周りの景色が変わっていた事に、気づいていなかった二人は笑い声をあげながら話を広げていた。
「お待たせ!二人ともどうしたんだ?そんなに笑って?」
「あっ!おかえり。だって僕たち桜が散って寂しいねって言っていた頃からあんまり周りに目を向けていなかったねって話していたら可笑しくて。今まで何を見てきたんだろうってね。」
友紀が楽しそうに笑っている姿を久しぶりに見た広海は何故か頬を涙が一筋流れて落ちていった。
「広海?」
「ごめん、なんでもない。大丈夫!へへ、可笑しいな、俺。」
恥ずかしそうに慌てて涙を拭い笑いながら背を向ける広海。
咲良は広海がどれだけ友紀を心配していたか知っているから、友紀の笑顔がどれだけ嬉しいかわかるから、落ち着くまで広海をそっとしておこうとその背に視線を向け、そして不思議そうに首を傾ける友紀に笑いかけた。
「友紀、この夏休みに俺と一緒に行かないか?俺の宝に会いに。」
「エッ!」
突然の咲良の誘いに友紀は広海から咲良に視線を合わせ目を丸くしていた。
「だから、俺が弟に会いに行く時に一緒に行かないか?どう?ホントは会ってほしいって俺の我儘なんだけど。」
「いいの?僕が会っても。」
「勿論!」
「ちょっと待て!俺を仲間外れにするなよ。俺にもわかるように話せ!」
背を向けていた広海が復活して俺達の話に食いついてきた。
咲良は、ニヤっと不敵に笑い、
「何処で話す?この続きの話を。」
「友紀の所で詳しく。」
広海も咲良の意図を読み取り、不敵な笑みを浮かべている。
友紀は話について行けずただぼんやりと二人を眺めていたが、二人の視線が友紀に向けられ慌てる。
「何?何なの?二人して?」
「帰るよ、急いで友紀ん家に。」
「うん、わ、わ、解ったから!」
バタバタと帰り支度を始め、友紀の荷物に手をかける広海、手を取り引っ張る咲良に友紀は、益々慌ててワタワタとしてしまった。
4月に初めて会った時、ずっと一緒に楽しく過ごせる友と出会えて、これから楽しい事がいっぱい待っていると心躍らせたあの時の感覚が戻ってきた様な気がする。
今までの嫌な事は一時忘れて、もう一度、一からやり直そう!
俺達の楽しい中学生活を!
あの時は咲良が名誉毀損でなどと言葉責めで狭間を退けたが、実際はそんな事をするつもりもなかった。
だが、狭間は学園から姿を消した。俺達が手をくだすまでもなく、あの騒ぎの前から狭間は周りから問題視されていたみたいだ。
要するに嫌われていたと言う事で、あの騒ぎが決定打となった様で狭間自ら学園を去って行った。
だからと言って俺達に非難の視線は向けられる事はなかった。
そんな事よりこの一週間友紀への嫌がらせが何故か止んだ事が不気味で余計に俺達は警戒を強めている。
「友紀、この一週間静かだな。」
何もないと余計に不安になるものだと咲良は友紀につい不安を言葉にして呟いてしまった。
「うん、時々感じていた冷たい視線も感じない。」
友紀も何もないからこそ不安に感じる理解不能な思考に眠れていないのか目の下に薄らと隈ができていた。
「愁さんは何か言ってる?」
「ううん、気にし過ぎないようにって言ってくれるけど………。」
「このまま何もかも嫌な事が終わってくれる事が最高のエンディングなんだけどね。」
「そうなら良いけど。中途半端で気持ち悪い。」
「うん。だよね。」
二人の間に沈黙が続く。今日は広海が職員室に呼ばれて友紀と俺は教室で待っている。
こんな風に静かな時間を二人で過ごすのは初めてかもしれない。
開け放たれた窓から心地よい風が二人の周りを吹き抜けていく。
「友紀、夏休みどうする?何かする事あったり、行く所あったりするか?」
急な話題変化に友紀はびっくりして頭の中でぼんやり嫌がらせの事を考えていたから思考が追いつかない。
「急にどうしたの?エッと夏休みだよね。何だっけ、エッ~と夏休み………。」
「友紀、慌てなくていいよ!俺が悪かった、少し違う事を考えた方が良いかなってね。」
咲良は友紀の慌て振りが可笑しくて声を出して笑ってた。
友紀はそんな咲良を眺め、久しぶりに楽しい気分になり、咲良に釣られる様に声を出して笑っていた。
「夏休みかぁ~忘れてたぁ~咲良はどうするの?」
「弟に会いに行こうと思ってる。出来れば一緒に住みたいから方法を考える為にも向こうの様子を探らないとね。」
咲良から笑みが消えて真剣な顔になっている。僕の事ばかりに時間を割いていたけど、咲良には弟の事が心配だっただろうに。
「咲良、ごめんね。僕の事は良いから弟の事を考えてあげて。」
「友紀、大丈夫だから。弟は今、叔父さんの家から出て弁護士さんの所に預かって貰ってるんだよ。愁さんのお父さんが手を回してくれたんだ。友紀に話してなくてごめんね。」
薄らと笑みを溢した咲良は俯いてしまい友紀から顔を背けた。
「咲良、こっちを見て!何で顔を背けるの?」
「友紀が辛い思いをしてる時に俺は、弟の事を考える時があったから。皆んな友紀の事を考えているのに俺だけ………。」
「何故、そんな顔するの?咲良は何も悪い事してないでしょ。咲良にとって大事な事は何?一番は弟さんの事でしょ。最初に会った時、咲良は自分の命より大事だと言ってたの忘れたの?僕の事より大事な事でしょ。それなのに僕の事まで考えさせてごめんね。」
友紀は咲良の手を自分の手で包み、感謝を込めて微笑み、そして謝る。
「友紀は悪くないけど、その言葉嬉しいよ。ありがとう。」
「エヘヘ、咲良の手は大きいね。この手で守ってあげてね。」
照れ臭げに笑う友紀もその笑みに優しく笑い返す咲良も穏やかな気持ちになっていた。
ほんの少しの時を嫌な事も忘れて、先に訪れる楽しい事を此処に今はいない広海を交えて考えたい思いを強く感じていた。
外を眺めながら、いつの間にか周りの景色が変わっていた事に、気づいていなかった二人は笑い声をあげながら話を広げていた。
「お待たせ!二人ともどうしたんだ?そんなに笑って?」
「あっ!おかえり。だって僕たち桜が散って寂しいねって言っていた頃からあんまり周りに目を向けていなかったねって話していたら可笑しくて。今まで何を見てきたんだろうってね。」
友紀が楽しそうに笑っている姿を久しぶりに見た広海は何故か頬を涙が一筋流れて落ちていった。
「広海?」
「ごめん、なんでもない。大丈夫!へへ、可笑しいな、俺。」
恥ずかしそうに慌てて涙を拭い笑いながら背を向ける広海。
咲良は広海がどれだけ友紀を心配していたか知っているから、友紀の笑顔がどれだけ嬉しいかわかるから、落ち着くまで広海をそっとしておこうとその背に視線を向け、そして不思議そうに首を傾ける友紀に笑いかけた。
「友紀、この夏休みに俺と一緒に行かないか?俺の宝に会いに。」
「エッ!」
突然の咲良の誘いに友紀は広海から咲良に視線を合わせ目を丸くしていた。
「だから、俺が弟に会いに行く時に一緒に行かないか?どう?ホントは会ってほしいって俺の我儘なんだけど。」
「いいの?僕が会っても。」
「勿論!」
「ちょっと待て!俺を仲間外れにするなよ。俺にもわかるように話せ!」
背を向けていた広海が復活して俺達の話に食いついてきた。
咲良は、ニヤっと不敵に笑い、
「何処で話す?この続きの話を。」
「友紀の所で詳しく。」
広海も咲良の意図を読み取り、不敵な笑みを浮かべている。
友紀は話について行けずただぼんやりと二人を眺めていたが、二人の視線が友紀に向けられ慌てる。
「何?何なの?二人して?」
「帰るよ、急いで友紀ん家に。」
「うん、わ、わ、解ったから!」
バタバタと帰り支度を始め、友紀の荷物に手をかける広海、手を取り引っ張る咲良に友紀は、益々慌ててワタワタとしてしまった。
4月に初めて会った時、ずっと一緒に楽しく過ごせる友と出会えて、これから楽しい事がいっぱい待っていると心躍らせたあの時の感覚が戻ってきた様な気がする。
今までの嫌な事は一時忘れて、もう一度、一からやり直そう!
俺達の楽しい中学生活を!
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