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一つ目の代価
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週に2日、愁が空手を習っていた道場で合気道を友紀は習い始めた。
最初は空手を習う筈だったが友紀には合気道が向いていた様で今では合気道に空手の技が混じる様な戦い方をしている。
身を守る為であって攻撃をする為ではないから防御技や攻撃を往なす事を基本にしている。
精神を研ぎ澄ますやり方も心を落ち着かせる練習にもなると言われやっているが中々難しく上手く出来ないでいた。
薫兄にもっと練習する様に言われ、それが危険を避けるのに役立つからなのだと新ためて言われ理解はしているが上手くいっていないので落ち込んでしまう。
証拠も情報も少ない今の状況ではいくら話した所で話は進まず、今回は事実確認だけで解散した。
薫と共に帰路に着く広海は不思議に思った事を聞いてみる事にした。
「薫、何で友紀の被害状況をあんなに詳しく知ってるんだ?俺、二人にバレバレな事以外は話した事無いと思んだけど。情報の入手先ってどこなんだ?」
薫がスーと視線を逸らすのを広海は腕を引き正面にまわり視線を合わす。
「色々とな噂が流れてきただけだよ。」
気まずそうな表情の薫に広海は何となくわかった気がする。
「後輩に優しい声でもかけて情報を流させているんだな。俺にしてるような事他の奴にもしているんだな。何人囲ってるの?」
今にも泣きそうな広海に薫は堪らなく愛しさを感じる。
「そんな事をしていないのはわかっているだろ、ホントは。今俺が何を考えているか解るか?」
「そんなの解る訳ない。もう、薫の事解らないよ。信じて良いのか?こんな気持ちにならない様に信じさせろよ。」
「可愛い広海を早く俺だけの者にしたくて堪らない。早く帰ろう、俺の我慢が切れる前に。じゃないと此処で犯してしまいそうだ。」
「馬鹿なのか?そんな嘘で誤魔化しても駄目だかんな。俺の何処が可愛いんだよ!ふざけんな!」
「あゝ、うるさい口だ。」
薫は広海を腕の中に掻き抱く様に囲い込み唇に噛み付く様に口を塞いだ。
薄く開いた唇に舌を捩じ込み広海の弱い所を責め続け、薫の胸のシャツを握りしめた広海の手から力が抜けるまでそれは続いた。
「少しは落ち着いたか?俺は早く帰って続きがしたい。いいだろう?広海が納得いくまでちゃんと話すから、帰ろう、な?」
「うん。」
腕の中で頷く広海の頭を優しく撫ぜ、肩を抱く手はそのままに家路に着いた。
その後、広海が薫に上手く誤魔化され話が有耶無耶で終わったとしても広海が幸せだと思っているから薫も幸せでいられる。
一方、皆んなが帰って静かになったリビングで愁は友紀の傷ついた手にビニール袋を巻きつけ友紀の風呂に入る準備をしていた。
「これで少しは濡れないと思うが一人で入るのは駄目だよ。一緒に入るのがそんなに嫌?」
愁の厳しい声でなく淋しそうに言われると嫌とは言いづらい。でも、恥ずかしい事の方が上回って頷けない。
「恥ずかしいから一人で入りたい。」
「何を恥ずかしがるんだ?じゃぁコンタクト外して入ろう、それなら友紀には見えないだろ?」
「愁兄には見えるよね?」
う~ん騙されないかぁ~。
「あんまり見ないから、友紀は怪我をした手を上げていないといけないんだから、我慢しなきゃ、ね?」
「わかった、あんまり見たら駄目だよ。」
俯いた友紀から呟かれたオーケーの返事に笑みを見せる愁の瞳には真っ赤に染まった友紀の耳が映っていた。
翌朝、待ち合わせの場所に現れた友紀と広海が、ほんのりと頬を染め幸せそうな表情に咲良は首を傾げていた。
「二人とも何か良い事でもあったのか?」
咲良の問いかけに益々頬を染め黙り込む二人、後ろからそんな二人を眺める兄二人のいつもにも増して愛しそうな暖かな表情を見て追求の言葉を飲み込んだ。
高校の正門で兄達と別れた3人は廊下を肩を並べて歩いていた。
「九鬼君!」
後ろから咲良を呼ぶ声がして立ち止まり振りかえると友紀と咲良のクラスの狭間 尚志が和かに笑みを浮かべていた。
「何?俺に用事?」
「そう、九鬼君に用事があるから。ちょっと付き合ってよ。」
俺達二人が邪魔だと明白な狭間の態度に咲良も顔を顰め、
「此処で話せない事?だったら聞く必要ない。」
「いいの?後悔するよ。」
「誰が後悔するのか教えて貰おうか!」
「お前達がだよ。知ってるんだ、二人が御坂を好きで、御坂が二人を天秤にかけてる事!九鬼は後から御坂に誘惑されただけだから親切に教えてやろうと思ったのに。ふん、御坂の毒牙にもうやられてるってか?高校の先輩二人にも甘えた声出してる淫乱御坂に騙されていろ!馬鹿な奴!」
大きな声で騒ぐ狭間の言葉に泣きそうな辛そうな表情を見せる友紀を広海は腕を捉えその場を離れようと集まった人の間を抜けていく。
残された咲良は狭間に向き合い、
「狭間、君は勘違いをしている。俺には心に決めた人がいる。それは勿論御坂ではないし、この学園の人間でもない。そして、此処にいない坂下にも御坂にも好きな人がいる。だから、御坂が淫乱だとか、ありえない。それに俺達と御坂とは友達以外の関係でもないし、見当違いな事を自信ありげに言うのは君自身の品位を下げる事になるよ。君が喚いた事を取り消し謝罪をするなら今回は許してもいいが、どうする?」
狭間は真っ赤な顔でそれでも取り消す事を拒んだ。
「僕は、ちゃんと聞いたんだ!謝る事はない!」
「そうか、解った。事実無根の事を大衆の前で喚き散らして謝罪もなしと。名誉毀損で訴えさせて頂こう。覚悟をする事だ。」
咲良は、狭間に強い視線を向け訴える事を告げる。
「えっ!」
「弁護士から連絡がいく。そうなると君は此処にはもういる事は出来ないだろう。正しい噂も流しておこう。もう一度言う、覚悟する事だ。」
咲良の毅然とした態度に、嘘を言っているのがどちらなのか周りの人は明らかに理解させられた。
それに友紀と高校生の愁と薫二人の事は毎回周りを気にする事なく繰り広げられてる事だから、友紀が悪く思われるとしたら、それは一方的な嫉妬による逆恨みしかないと周りは理解している。
今回の騒ぎも咲良の態度からも日頃の3人の様子や嫌がらせを知ってる人間からすれば、狭間の行動は醜く、友紀に冷たい視線を向ける者は少ない。
それが解っていても友紀の悲しみは増えるばかり。
嫌がらせが続く中、今回の事は友紀にはかなり辛い事だろう。
折角幸せそうに笑っていたのに台無しである。
狭間はきっと兄達、特に愁さんからの報復は免れないと思う。俺達が許しても。
校舎裏のベンチで広海の肩に顔を埋める友紀の頭を撫ぜる広海はぼんやりとそんな事を考えていた。
最初は空手を習う筈だったが友紀には合気道が向いていた様で今では合気道に空手の技が混じる様な戦い方をしている。
身を守る為であって攻撃をする為ではないから防御技や攻撃を往なす事を基本にしている。
精神を研ぎ澄ますやり方も心を落ち着かせる練習にもなると言われやっているが中々難しく上手く出来ないでいた。
薫兄にもっと練習する様に言われ、それが危険を避けるのに役立つからなのだと新ためて言われ理解はしているが上手くいっていないので落ち込んでしまう。
証拠も情報も少ない今の状況ではいくら話した所で話は進まず、今回は事実確認だけで解散した。
薫と共に帰路に着く広海は不思議に思った事を聞いてみる事にした。
「薫、何で友紀の被害状況をあんなに詳しく知ってるんだ?俺、二人にバレバレな事以外は話した事無いと思んだけど。情報の入手先ってどこなんだ?」
薫がスーと視線を逸らすのを広海は腕を引き正面にまわり視線を合わす。
「色々とな噂が流れてきただけだよ。」
気まずそうな表情の薫に広海は何となくわかった気がする。
「後輩に優しい声でもかけて情報を流させているんだな。俺にしてるような事他の奴にもしているんだな。何人囲ってるの?」
今にも泣きそうな広海に薫は堪らなく愛しさを感じる。
「そんな事をしていないのはわかっているだろ、ホントは。今俺が何を考えているか解るか?」
「そんなの解る訳ない。もう、薫の事解らないよ。信じて良いのか?こんな気持ちにならない様に信じさせろよ。」
「可愛い広海を早く俺だけの者にしたくて堪らない。早く帰ろう、俺の我慢が切れる前に。じゃないと此処で犯してしまいそうだ。」
「馬鹿なのか?そんな嘘で誤魔化しても駄目だかんな。俺の何処が可愛いんだよ!ふざけんな!」
「あゝ、うるさい口だ。」
薫は広海を腕の中に掻き抱く様に囲い込み唇に噛み付く様に口を塞いだ。
薄く開いた唇に舌を捩じ込み広海の弱い所を責め続け、薫の胸のシャツを握りしめた広海の手から力が抜けるまでそれは続いた。
「少しは落ち着いたか?俺は早く帰って続きがしたい。いいだろう?広海が納得いくまでちゃんと話すから、帰ろう、な?」
「うん。」
腕の中で頷く広海の頭を優しく撫ぜ、肩を抱く手はそのままに家路に着いた。
その後、広海が薫に上手く誤魔化され話が有耶無耶で終わったとしても広海が幸せだと思っているから薫も幸せでいられる。
一方、皆んなが帰って静かになったリビングで愁は友紀の傷ついた手にビニール袋を巻きつけ友紀の風呂に入る準備をしていた。
「これで少しは濡れないと思うが一人で入るのは駄目だよ。一緒に入るのがそんなに嫌?」
愁の厳しい声でなく淋しそうに言われると嫌とは言いづらい。でも、恥ずかしい事の方が上回って頷けない。
「恥ずかしいから一人で入りたい。」
「何を恥ずかしがるんだ?じゃぁコンタクト外して入ろう、それなら友紀には見えないだろ?」
「愁兄には見えるよね?」
う~ん騙されないかぁ~。
「あんまり見ないから、友紀は怪我をした手を上げていないといけないんだから、我慢しなきゃ、ね?」
「わかった、あんまり見たら駄目だよ。」
俯いた友紀から呟かれたオーケーの返事に笑みを見せる愁の瞳には真っ赤に染まった友紀の耳が映っていた。
翌朝、待ち合わせの場所に現れた友紀と広海が、ほんのりと頬を染め幸せそうな表情に咲良は首を傾げていた。
「二人とも何か良い事でもあったのか?」
咲良の問いかけに益々頬を染め黙り込む二人、後ろからそんな二人を眺める兄二人のいつもにも増して愛しそうな暖かな表情を見て追求の言葉を飲み込んだ。
高校の正門で兄達と別れた3人は廊下を肩を並べて歩いていた。
「九鬼君!」
後ろから咲良を呼ぶ声がして立ち止まり振りかえると友紀と咲良のクラスの狭間 尚志が和かに笑みを浮かべていた。
「何?俺に用事?」
「そう、九鬼君に用事があるから。ちょっと付き合ってよ。」
俺達二人が邪魔だと明白な狭間の態度に咲良も顔を顰め、
「此処で話せない事?だったら聞く必要ない。」
「いいの?後悔するよ。」
「誰が後悔するのか教えて貰おうか!」
「お前達がだよ。知ってるんだ、二人が御坂を好きで、御坂が二人を天秤にかけてる事!九鬼は後から御坂に誘惑されただけだから親切に教えてやろうと思ったのに。ふん、御坂の毒牙にもうやられてるってか?高校の先輩二人にも甘えた声出してる淫乱御坂に騙されていろ!馬鹿な奴!」
大きな声で騒ぐ狭間の言葉に泣きそうな辛そうな表情を見せる友紀を広海は腕を捉えその場を離れようと集まった人の間を抜けていく。
残された咲良は狭間に向き合い、
「狭間、君は勘違いをしている。俺には心に決めた人がいる。それは勿論御坂ではないし、この学園の人間でもない。そして、此処にいない坂下にも御坂にも好きな人がいる。だから、御坂が淫乱だとか、ありえない。それに俺達と御坂とは友達以外の関係でもないし、見当違いな事を自信ありげに言うのは君自身の品位を下げる事になるよ。君が喚いた事を取り消し謝罪をするなら今回は許してもいいが、どうする?」
狭間は真っ赤な顔でそれでも取り消す事を拒んだ。
「僕は、ちゃんと聞いたんだ!謝る事はない!」
「そうか、解った。事実無根の事を大衆の前で喚き散らして謝罪もなしと。名誉毀損で訴えさせて頂こう。覚悟をする事だ。」
咲良は、狭間に強い視線を向け訴える事を告げる。
「えっ!」
「弁護士から連絡がいく。そうなると君は此処にはもういる事は出来ないだろう。正しい噂も流しておこう。もう一度言う、覚悟する事だ。」
咲良の毅然とした態度に、嘘を言っているのがどちらなのか周りの人は明らかに理解させられた。
それに友紀と高校生の愁と薫二人の事は毎回周りを気にする事なく繰り広げられてる事だから、友紀が悪く思われるとしたら、それは一方的な嫉妬による逆恨みしかないと周りは理解している。
今回の騒ぎも咲良の態度からも日頃の3人の様子や嫌がらせを知ってる人間からすれば、狭間の行動は醜く、友紀に冷たい視線を向ける者は少ない。
それが解っていても友紀の悲しみは増えるばかり。
嫌がらせが続く中、今回の事は友紀にはかなり辛い事だろう。
折角幸せそうに笑っていたのに台無しである。
狭間はきっと兄達、特に愁さんからの報復は免れないと思う。俺達が許しても。
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