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血の鎖につながれて

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カーテンから漏れる日差しが閉じた瞼を照らす。夢の中、一人取り残された俺、何かを欲し得られない渇きにすべてを諦めようとしていた。俺は何を探しているんだろう・・・。

目を開けようとしたが、瞼が重く痛い。呻き声をあげる口にも痛みが走る。なんなんだ、起き上がろうとしたが、体のあちこちが悲鳴をあげ、身動きすることもできない。自分の吐く息さえ熱く感じる。
辛うじて動く腕を支えに体の向きを変えようと重く腫れぼったい瞼を開けると、包帯を巻かれた自分の腕が見えた。何があったんだ、俺は?
「おい、まだ動くな」
低い男の声が聞こえそちらを見ると、ワイルド系の男が立っていた。
誰だろう?と見ていると
「俺の事も忘れたか?」
「・・・・」
何かを言おうと声を出そうとするが喉がカラカラで息が洩れるだけだった。
「どうした?体が辛いか?」
頷くしかできない俺にその男は手に持つ水のボトルを翳し、飲むかと言う。頷き手を差し出そうとするが、その男は自分の口に水を含み唇を重ねた。
半開きになった唇に舌と少し温もった水が入ってくる。水を欲した喉はごくりと与えられた水を素直に飲み込み、舌は名残惜しそうに俺の唇を舐め離れていった。
「何をするんだ!」
真っ赤になった顔で文句を言う俺の声は、少し潤ったせいか掠れてはいるが出るようになっていた。
「可愛いな。熱で潤んだ瞳も色っぽいし、続きをするか?」
(はっ?俺が可愛い?色っぽい?続きってなんだ?)
痛みに顔を顰めながらも狼狽える俺に
「俺は、木島亮。お前の男だったんだがなぁ」
ニヤリと意味深に笑うと大人の色気が出て、益々俺は顔が赤くなるのがわかった。
「なんだ?マジ可愛いな」
「や、や、やめてください。冗談で揶揄うのは」
「揶揄ってないさ。お前は俺に抱かれていたんだからな。腕の中でのお前も可愛かったが今のお前も違う意味で可愛いぜ」
目を眇め俺を見る男の獲物を見るような目にゾクリと背筋に冷たいものが走った。
(俺はこんな男に抱かれていたのか?ウソだろ!)
と惚けた顔で男を見上げる俺の唇を塞ぎ舌を絡ませ、最後にチュッと唇を啄ばみ離れた。
「ご馳走様」
「ば、ば、ば、か、やろう、何をするんだ!」
殴ろうとして、動かした腕の痛みに呻き体を丸める。
「ほら、寝てろ。熱が下がらないぞ」
「お前が変なことするから!」
「お前じゃない、亮だ」
甘い顔でそう囁かれ、赤くなる顔をプイと逸らした。
くすくすと笑いを堪えてる声に、話を逸らそうと忘れかけてた疑問を口にする。
「えっと…亮…さん、俺は何で包帯だらけなんですか?」
「はぁ?お前がふらふら外に出るから暴漢にあったんだよ。大人しくベットに寝てろよな」
呆れたという声で言う亮に俺も何を言ってるんだといぶかしむ視線を向けた。
「ちょっと待ってください、俺は外になんて出てないです。ちゃんとベットで寝ました、朝まで…」
亮の言葉に慌てて反論するが、俺の反論を聞く亮の表情が険しくなり、そして、泣きそうに歪むのを見て言葉が続かなくなってしまった。
「ほんとに外に出た事、覚えていないのか?」
亮が、さっきまでの余裕のある表情が消え、鋭さの感じる視線で問われた事に、この人は嘘を言っていないと感じた。なら、俺は、ほんとに外をふらふらしていたのか?覚えていない。
覚えていないと独り言のように呟きながら首を横に振る俺を、もうわかったからと抱きしめる亮の腕が、何故か懐かしく感じると同時に、この腕を求めてはいけないと囁く声も聞こえる。
夢の中でも聞こえた声、僕以外を欲しがらないで、ヒロは僕だけのもの。
ぼんやりと人の形をしたそれは、真っ赤な血を滴らせた手で俺の頬を撫ぜる。
俺は血塗られていく。
亮の腕の中、動きが止まり天井を見つめる俺の瞳は、闇の中、差し出される手を必死で求めていたが、実際のヒロの瞳には何も写していなかった。

さっきまで亮という男と話しをしていた。
それなのに俺はまた裸足で歩いてる。帰らないと早く帰らないとと、そればかりが俺の頭を支配する。どこへ帰るんだ?帰った先に何があるというのか?解らない・・・・それなのに何を欲しがっているんだ俺は・・・・。

見覚えのないマンション、ここはどこだろう?何となく懐かしいような不思議な感じがする。
俺はここに帰りたかったのか?
『ヒロ』
誰かに呼ばれた気がして振り向くが誰もいない。
『ヒロ、今日の夕飯は何にするんだ?』
えっ!誰なんだ!
『ヒロさんの作るご飯は美味しいですから何でも』
さっきとは違う声が耳に飛び込んでくる。周りを見渡すが誰もいないのに声が聞こえてくる。
やめてくれ!消えろ!話しかけるな!
『ヒロ、一緒に行こう』
どこに行くんだ?黙れ!黙れ!黙れ!
『駄目だよ、ヒロは僕だけを見て。僕だけを欲しがって』
誰なんだ?
優しく甘えた声が懐かしく体も心も見つけたと歓喜しているのがわかる。喜びに頬を涙が流れていく。
「俺はお前を探していたのか?お前は誰なんだ?教えてくれ!」
『ヒロ』
俺を呼ぶ声、俺の頬を優しく包む手が頬を滑り、首に腕が回され抱きしめられる。
俺は、涙を流し目に見えぬ幻に囁く、それは呪縛の言葉。
「俺は何も欲しがらないよ、お前以外は・・・だから、もっと俺を抱きしめてくれ・・・俺を一人にするな・・・お前も俺だけを欲しがれ」
『僕だけのヒロ、離さないよ・・・』
「あぁぁ、ミユキ・・・俺を離すな・・・俺はミユキだけ・・・」
自分が何を欲していたか気づいた時、俺は血の雨に濡れ、身も心もミユキと共に赤く染まっていくことを願っていた。
『ヒロ、愛してる』
「ミユキ・・・俺も愛してる」

俺の体は意識を手放しマンションの前、道路にどさりと倒れていった。
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