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<番外編>
<乙女ゲームヒロインの母になりました。 1/2>
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「うそ、でしょ…」
貴族の夫人として相応しくない声が思わず漏れてしまったけれど、掠れていて誰にも聞こえなかったから、許して欲しい。
何、これ。
まさか。
「お母様!」
笑顔で手招きをする愛娘はとても可愛いのだけれど、私の頭の中では今、荘厳なオーケストラの演奏が鳴り響いている。
勿論、幻聴で、私達母子の周辺には、私達同様、入学式に参加する為に集まった貴族しかいない。
けれど。
先程の愛娘――イリスの発した言葉は、私にはもう、台詞にしか聞こえなくなっていた。
『わぁ!此処が学園なのね!どんな毎日が送れるのかしら。楽しみだわ。私、頑張るねっ』
そう、イリスが言うと同時に風が吹き、何処から来たものやら、桃色の花弁が舞い上がる。
ふわふわした柔らかなピンクブラウンの髪が風になびいて、眩しそうに空色の瞳を細めながら、こちらを振り返り、微笑むイリス。
その背景に、私達ハークリウス王国の貴族子女が全員通う事を求められている学園の、壮麗な門。
そして流れ出す、オーケストラの妙なる響き――…。
イリスの視線の先に、母親がいるなんて描写は何処にもなかったけれど。
これ、は…乙女ゲーム『Au-dessus de l’arc-en-ciel』、通称『虹の彼方に』のオープニングじゃないの…!!!
私、セレナ・フェルナンディスには、前世の記憶がある。
物心ついた時から、ずっと自分とこの世界に違和感があった。
爵位こそ子爵だけれど、フェルナンディス家は貿易で財を成した家。
遅くに出来た一人娘である私を、父は、それはそれは可愛がって育ててくれた。
高齢出産となった母が、幼い頃に他界したのも理由の一つだろう。
まぁ、所謂、贅沢三昧だったわけだ。
けれど、自分で言うのも何だけれど、我儘令嬢になってもおかしくなかったのに、私は寧ろ、父を諫める側だった。
「お父様。ドレスはもう、十分に持っていますわ」
「お父様。こんなに髪飾りがあっても、つけていく場所がありませんわ」
「お父様。どうか、私に使うよりも領民の為にお使い下さい」
お金はあるから、家には使用人も大勢いて、そんな彼等と自分の境遇の違いが、どうにも気持ち悪かった。
身分、って何。
同じ人間でしょう?
たまたま、生まれた家が貴族か平民かってだけで、こんなにも待遇が違うの?
『貴族令嬢の嗜み』とされるものを身に着ける事自体は苦ではなかったけれど、その違和感は、喉に刺さった小骨のように付きまとう。
何故、生まれながらの貴族である筈なのに、貴族社会で生きていくのが、こんなにも息苦しいのか。
考えているうちに、自分の中に、もう一つの記憶がある事に気が付いた。
その人生で、私は、貧富の差はあれども、身分制度のない国で暮らしていた。
ハークリウス王国よりも衛生的で、娯楽も多い国で、私は人生を楽しみ、恋をし、家族を作り、そして、恐らく、天寿を全うして死んだ。
恐らく、なのは、死の瞬間の記憶があるわけではないからだ。
私が、ハークリウス王国の社会に馴染めないのは、前世の価値観を併せ持っているからなのだ、と気づいてからは、大分、生きやすくなったと思う。
だから、なのだろう。
私が好きになった人は、貴族ではなかった。
代々、フェルナンディス家の庭師として勤めている家に生まれたサムソン。
二つ年上の幼馴染の彼が、私の中でその存在を大きくしていくのに、時間は要らなかった。
サムソンは決して、十人中十人が振り返るような美形ではないけれど、多分、十人中五人は、格好いい、と言うだろう。
平民だから勉強する機会には恵まれなかったものの、私が復習がてらサムソンに説明していたら、いつの間にか私よりも問題を解くのが早くなって、逆に教えてくれるようになったから、地頭はいいと思う。
庭仕事で自然に鍛えられた体は逞しいし、剪定鋏を握り慣れた手の大きさが好きだ。
けれど…私にあれだけ甘かった父は、サムソンとの結婚を決して認めようとはしなかった。
サムソンは平民、そして、私は下位ではあっても貴族。
貴賤結婚、と呼ばれるものになる事は理解していたけれど、父だってサムソンを気に入っていたのだし、多少驚いたとしても、認めてくれると高を括っていたのに。
父が気に入っていたのは、「使用人」としてのサムソンであって、私の配偶者として、ではなかったわけだ。
父は激昂して、諦めるように迫ったけれど、恋に落ちた若い二人を止められるものではない。
私はサムソンと手と手を取り合い、駆け落ちした。
市井で暮らす中で生まれたのが、一人娘のイリスだ。
ピンクブラウンの髪に、空色の瞳は私に似ているけれど、好奇心旺盛な大きな瞳はサムソン似。
両親のいいとこどりで、自分の娘とは思えない位に、可愛い。
私達家族三人は、決して裕福ではなかったものの、いつでも互いの気配が感じられる小ぢんまりした家での生活を、楽しんでいた。
サムソンは、庭師の仕事をメインに、街の便利屋さんみたいな仕事をして生活を支えてくれた。
私は、計算が出来るから、街の小さな商店の帳簿付けを頼まれた時に引き受けていた。
楽しんではいたし、後悔は一つもしていないのだけれど…いざ、駆け落ちしてから気が付いたのは、この国で暮らす以上、身分制度をきちんと理解していた方が、傷つかない、と言う事だった。
平民の娘が貴族の子息に見染められた際に起きる問題は、市井で暮らしていれば幾らでも耳に入る。
まず、正妻になれるものではない。
妾として手当てを貰える娘は、ごく一部。
殆どは、いつ来るか判らない恋人を、ひっそりと待っているだけだ。
逆のパターンで、貴族の令嬢が平民男性と恋に落ちて市井で暮らすと言うのも、簡単な話ではない。
私の場合は、前世の記憶もあり、貴族の生活に慣れ切っていなかったから苦ではなかったけれど、生活水準を落さざるを得ないのは事実。
それに耐えられずに、駆け落ちしたものの、別れて実家に戻ったご令嬢の話も聞いた。
けれど、事実婚状態にあったご令嬢がその後、貴族社会でどのような扱いを受けるか考えると…実家に戻ればいい、と言うものではない。
私は、イリスには幸福な人生を歩んで欲しい。
私が決断したように、全てを引き受ける覚悟の上での貴賤結婚ならともかく、ただ、夢を見た結果ならば、お互いに不幸になる。
イリスは、平民の娘として育てた。
貴族と平民の違い、貴族の中でも爵位による扱いの違いについては、割としっかりと教えた。
いい、悪い、ではなく、この国には身分制度があるんだよ、と言う立場で教えたつもりだ。
育てるのが私だから、貴族の知識がベースにはなっているけれど、平民の暮らしは肌で感じているものだし、困る事はない筈だ。
…そんな風に過ごす事、およそ十三年。
その間、私は、自分に前世の記憶がある事は受け入れていても、今、暮らしているこの世界が、自分が前世で知っていた世界だとは、欠片も思いもしなかった。
年老いて、先の事を考えた父が、私達を探し当てた時も。
サムソンを遠縁の養子にして、婿入りさせる形で私達がフェルナンディス家を継げるように手続きしてくれた時も。
イリスが、貴族子女全員が通う学園に入学する事が決まった時も。
入学式に向かい、イリスが『虹の彼方に』のオープニングムービーと同じ台詞を言うまで…全く、考えもしなかったのだ。
まさか私が、乙女ゲームヒロインの母になった、だなんて。
娘の名は、夫のサムソンが付けた。
イリスが生まれたのは豪雨の翌朝で、窓から綺麗な虹が見えたから、と言うのがその理由。
『イリス』とは、虹の女神の名前なのだ。
乙女ゲームのヒロインの名前を、初期設定名のままでプレイするか、変更するかは個々人によると思うのだけれど、前世の私は、自分の名前に変更するタイプだった。
だから、『イリス・フェルナンディス』が、『虹の彼方に』のヒロインの初期設定名だと言う事を思い出せなかったのは、仕方がないと思う。
ヒロインは、自宅から学園に通学している事になっていたし、自室の描写もあった。
でも、両親の姿はシルエットのみで、顔は出て来なかったのだ。
ハークリウス王国、と言う名も…設定資料集とかには出てたのかな?と言う位、記憶にない。
そもそも、私も学園には通ったけれど、こんな外観ではなかった。
数年前、王子殿下が入学される際に、少々くたびれていた門が、建て替えられたらしい…気づくわけないよ…。
『虹の彼方に』は、虹の七色になぞらえたイメージカラーを持つ七人の攻略対象者と恋愛を楽しむ、女性向け恋愛シミュレーションゲームだ。
まずは、思い出せるだけの記憶を掘り出してみよう。
ヒロインの初期設定名は、イリス・フェルナンディス。
そう、私の愛娘。
彼女は、下位貴族令嬢の母親(私だ)と、使用人(サムソンだ)の間に生まれ、市井で育った。
一人娘が貴賤結婚する事に反対していた父親は、冷却期間を置いて、娘一家を探し出し、家に受け入れる。
ヒロインは、元・平民の身分ながら、貴族の一員に加わった事で、王国の貴族子女全員が通う学園に入学するのだ。
ゲームの舞台となる学校の事を、私達はただ、『学園』と呼んでいる。
学園で、ヒロインは大いに学び、交流し、能力を高め、魅力を磨いていく。
それが、基本。
乙女ゲームではあるけれど、ヒロインを育成する部分が主軸だ。
「教養」、「知識」、「言語」、「運動」、「美容」、「社交」の六つの分野を学び、パラメータを上げていく。
どの分野を学ぶかによって、攻略対象者との遭遇頻度が変化し、好感度に影響が現れる。
ヒロインのパラメータ、攻略対象者との会話で出た選択肢、実施されたイベントの結果を踏まえて、エンディングが分岐していくのだ。
このゲームは舞台となっている期間が、ヒロインの入学から卒業までの六年間と長い。
ヒロインを育成しながら、攻略対象者との仲を深めていくのだけれど、その過程がとても自然…と言うか、リアルで、人気があった。
どのような経緯を辿っても、エンディングはヒロインの卒業式だ。
最も好感度が高く、必要なイベントを全てクリアした攻略対象者に、イメージカラーの花束と共に求婚される恋愛エンド。
一定以上の好感度はあるものの、条件が満たされなかった攻略対象者に、花一輪贈られる友情エンド。
全員の好感度を一定以上に上げた場合は、全員から一輪ずつ花を贈られる逆ハーレムエンド。
全員の好感度が不足している場合は、立派な貴族令嬢となって卒業するだけのノーマルエンド。
攻略対象者達は、いずれもイケメンである事は間違いないのだけれど、皆、少しずつ、癖がある。
イメージカラー緑の、シド・ハルクシュール。
彼は、「教養」パラメータと関係が深い正ヒーロー。
すっきりとうなじで切り揃えられた茶色の短髪に緑の瞳と、七人の中では些か地味な色合いのシドだけれど、顔は正統派王子様の美形。
ゲームのジャケットでは、最も目立つ場所に鎮座していた。
ヒロインの同級生なので、遭遇率も高い。
五公爵家と言う、ハークリウス王国の貴族の中でも、王家の縁戚である家に生まれたシドは、ヒロインの学年の中で、一番、身分が高い。
その為、常に注目を集めているのだけれど、隙一つ見せない品行方正な優等生として知られている。
貴族はその地位にある以上、しっかりとした教養を身に着けるべきだ、と考えていて、貴族として新参者のヒロインへの指導も、熱心に行ってくれる。
ルールに雁字搦めになってしまっている節があり、五公爵家の人間として規則を守らねば、と言う思いと、何もかも破壊して自由になりたい、と言う思いの挟間で揺れている。
恋愛エンドでは、
「君の泣き顔は本当に可愛いね。でも、君を泣かせていいのは、私だけだよ?」
と、穏やかではない台詞を言われる。
虐めまではいかないものの、他の生徒にきつく当たられてヒロインが泣いていると、何処からともなく現れて慰めてくれたけど、どう考えても、タイミング的に泣かされる前から見てた筈なのよね。
わざと泣き顔を見ているのでは?と、プレイ中に「もしかして、S…?」と思っていたのを、確信したエンディングだったな…。
イメージカラー青の、アイク・フォートナス。
彼は、「知識」パラメータと関係が深いインテリ。
少し長めの青い髪をオールバックにして、きつい印象の灰色の瞳を眼鏡の奥で光らせている同級生。
幼少期から神童と呼ばれていたアイクは、学園入学時点で卒業までに必要な学習を全て終えているとの噂がある。
貴族子息である以上、仕方なく通学していると言う態度を隠そうともせず、同級生ばかりか上級生も、話し相手にならない、と馬鹿にしている。
元・平民のヒロインは、同級生と比べて学習面での遅れがあるので、追いつくためにアイクに教えを乞うのだけれど、どれだけ馬鹿にしても嫌味を言っても食いついてくるヒロインに、勉強だけが人間の価値ではない、と気づいていくのだ。
普段は自分も冷たく接しているのに、ヒロインを下に見る同級生達を、理路整然と論破する姿が人気だった。
恋愛エンドでは、
「…別に、お前じゃなきゃダメ、ってわけじゃない。貰い手がいないだろうから、仕方なく、だ」
と、顔を真っ赤にして言われる。
ツンデレかな?
イメージカラー藍の、ロルフ・キッスリング。
彼は、「言語」パラメータと関係が深いコミュ障。
藍色の長い髪で顔を隠した上に、常にフード付きのローブを着ていて、ロルフの顔が判るのは恋愛エンド以外にはない。
ヒロインの一つ下の下級生であるロルフは、五公爵家の一つの生まれだけれど、人前に出る事を恐れ、引きこもっている。
一方で、外国語への興味関心が高く、学園の教師も舌を巻くレベルの言語能力を持つ為、ヒロインは彼の元に通い詰めて、半ば強引に、外国語の指導をしてもらう。
人とのコミュニケーションを恐れているロルフは、物怖じしないヒロインと接していく中で、ヒロインに対してだけは、態度が変化していく。
恋愛エンドでは、初めてローブを脱ぎ、長い髪をばっさり切って、
「…初めてちゃんと見るのは…貴女の顔が良いから…」
と、微笑んでくれるのだ。
初めて見せた瞳の色は、黒曜石のように輝く黒。
想定以上に美形で驚いたけれど、ヒロイン以外とはコミュニケーション取る気がないんだよね…。
イメージカラー赤の、アルバート・マーティアス。
彼は、「運動」パラメータと関係が深いスポーツマン。
由緒正しい騎士の家柄で、アルバート自身も騎士を目指している上級生。
燃えるような赤い髪に、真っ青な瞳、きらりと白い歯が輝く笑顔…と、一見すると爽やかな好青年で、ヒロインともスポーツを通じて交流を深めていく。
けれど、関係が深まるにつれ、母親に対する捻じれた憧憬を持つらしい事が判っていくのだ。
アルバートは、父子家庭で育った。
はっきりとした説明はないものの、様々な情報を総合するに、どうやら、物心ついた頃に母親と引き離されてしまったらしい。
そんな経験から、ヒロインに恋心を抱くようになっても、いつか捨てられるのでは、置いていかれるのでは、との疑いを捨てる事が出来ない。
しかし、ひたすら、包み込むように愛を注ぐヒロインに、少しずつ心開いていく。
恋愛エンドでは、背が高く筋肉質なアルバートに、
「お前は絶対に、俺を捨てないよな…?」
と胸元に縋りつかれる。
…欲しいのは、恋人じゃなくて、ママなのかな?
イメージカラー黄色の、エミリオ・ブライトニー。
彼は、「美容」パラメータと関係が深いショタっ子。
ふわふわの金髪の巻き毛に、琥珀色のうるうるの瞳と言う、あざとい位に天使な容姿のエミリオは、ヒロインの二つ下の下級生。
侯爵家の年の離れた末っ子として生まれたエミリオは、男の子でありながら、その可憐な容姿で周囲をメロメロにさせる、天使な見た目で中身は小悪魔ちゃんだ。
甘え上手で、周囲の人間を上手く乗せて、自分の思う通りに動かす計算高さもある。
貴族令嬢の一人として、ヒロインは自分に似合う服装やお化粧を学んでいく必要があるのだけれど、美容情報の遣り取りをする事で、エミリオとの交流が深まっていく。
とにかく、「可愛い可愛い」と言われて育ったエミリオは、自分の容姿が大人に向かって変化していく事を恐れている。
可愛い、と言われなくなったら、自分の価値がなくなってしまうのではないか、と不安なのだ。
そんな中で、容姿ではなく、努力を継続している事を認めてくれるヒロインに懐いていく。
今のままの容姿ではなくとも、認めてくれる人がいる、と言う事実に、安心感を抱くようになる。
恋愛エンドでは、
「一生、ボクの事、可愛がってね?」
と、ヒロインの腕に腕を絡めて、きゅるん、とした笑顔で言われて、「可愛いなぁ」と思ったけれど…。
…お前が、ヒロインを可愛がる気はないのかー!
イメージカラー橙の、ノア・カーレン。
彼は、「社交」パラメータと関係が深い遊び人。
伯爵家の三男で、家を継ぐ可能性がない為に教師となった。
橙色のウェーブがかった華やかな長髪を肩先まで伸ばし、榛色の瞳はいつも楽しそうに細められている。目元のほくろが婀娜っぽい。
ヒロインは貴族社会に来たばかりの為、貴族の付き合いと言うものに疎い。
そこで、ノアに茶会の作法や、場で提供すべき話題、貴族らしい婉曲的な物言いを学んでいくうちに、交流が深まっていく。
男性らしいけれど細身で威圧感のない容姿だからか、女性と流した浮名は数知れないけれど、ノアは誰かを本気で愛した事がない。
ヒロインに好意を持つようになっても、教師と生徒と言う関係性もあり、攻略対象者の中で最年長でありながら、エスコート以上の接触はないのは、唯一、ノアだけ。
けれど、そんな抑圧の結果か、本気の相手になってしまったヒロインに対して見せる執着と、垣間見せる大人の欲望が凄い。
恋愛エンドでは、
「ここまで俺を本気にさせたんだ。後は…判るよね?」
と、妙に色っぽく迫られる。
ナニ?ナニされるの?
そして、最後の攻略対象者。
イメージカラー紫の、クローディアス・ラーエンハウアー。
通称、『ラスボス』。
何しろ、全てのパラメータを一定以上に上げないといけない高難易度攻略対象者なのだ。
バランスよく育成しないと、好感度が上がった別の攻略対象者がイベントに来てしまって、クローディアスとのイベントが全然進まない。
隠しキャラ、と言う程、隠れていないのに、初回で攻略するのは難しい。
背の中程まで伸ばした黒髪を一つにまとめ、紫の瞳をしたクローディアスは、作り物のように美しい女性的な容姿の持ち主。
人当たりもよく、常に微笑みを浮かべているけれど、どれだけ接触しても好感度が上がらない。
それは、彼が『王子』であり、周囲の人々は皆、自分の地位が目当てなのだ、と冷めた見方をしているからだ。
物事も人も、自分の役に立つかどうか、と言う基準でしか判断しないクローディアスは、これまで彼の周囲にいた人間とは異なる価値観を持ち、めげずに何度も声を掛けて来るヒロインに興味を抱いて、次第に心惹かれていく。
けれど、政略結婚で結ばれ、冷め切った関係の両親に愛されずに育ったクローディアスは、ヒロインを愛し始めている事に気が付かない。
『愛』と言う感情を、知らないからだ。
傍に置きたい、失いたくない、と執着した結果…恋愛エンドで、
「いつか、失ってしまうのならば、今、私の手で閉じ込めてしまおう」
と、権力で囲い込む選択をする。
…ヤンデレかな?
スチルの背景にあった鳥籠が、ヒロインの将来を暗示している、と、ざわついた思い出。
おぉ…意外に、全員、思い出せた。
私の前世の記憶、やるじゃない。
一プレイヤーだった時には、不穏な未来が透けて見えるエンディングであっても、
「きゃー!愛されてるー!」
で、終わったのだけれどね。
それが、愛娘を対象にされるとなると…安心してお任せ出来る人って、いないんですけど…?
だって。
プロポーズは終わりじゃないでしょう、始まりでしょう。
そこから、何十年と言う未来を共に歩む伴侶と思うと、全員、一癖あり過ぎなのよ…!
貴族の夫人として相応しくない声が思わず漏れてしまったけれど、掠れていて誰にも聞こえなかったから、許して欲しい。
何、これ。
まさか。
「お母様!」
笑顔で手招きをする愛娘はとても可愛いのだけれど、私の頭の中では今、荘厳なオーケストラの演奏が鳴り響いている。
勿論、幻聴で、私達母子の周辺には、私達同様、入学式に参加する為に集まった貴族しかいない。
けれど。
先程の愛娘――イリスの発した言葉は、私にはもう、台詞にしか聞こえなくなっていた。
『わぁ!此処が学園なのね!どんな毎日が送れるのかしら。楽しみだわ。私、頑張るねっ』
そう、イリスが言うと同時に風が吹き、何処から来たものやら、桃色の花弁が舞い上がる。
ふわふわした柔らかなピンクブラウンの髪が風になびいて、眩しそうに空色の瞳を細めながら、こちらを振り返り、微笑むイリス。
その背景に、私達ハークリウス王国の貴族子女が全員通う事を求められている学園の、壮麗な門。
そして流れ出す、オーケストラの妙なる響き――…。
イリスの視線の先に、母親がいるなんて描写は何処にもなかったけれど。
これ、は…乙女ゲーム『Au-dessus de l’arc-en-ciel』、通称『虹の彼方に』のオープニングじゃないの…!!!
私、セレナ・フェルナンディスには、前世の記憶がある。
物心ついた時から、ずっと自分とこの世界に違和感があった。
爵位こそ子爵だけれど、フェルナンディス家は貿易で財を成した家。
遅くに出来た一人娘である私を、父は、それはそれは可愛がって育ててくれた。
高齢出産となった母が、幼い頃に他界したのも理由の一つだろう。
まぁ、所謂、贅沢三昧だったわけだ。
けれど、自分で言うのも何だけれど、我儘令嬢になってもおかしくなかったのに、私は寧ろ、父を諫める側だった。
「お父様。ドレスはもう、十分に持っていますわ」
「お父様。こんなに髪飾りがあっても、つけていく場所がありませんわ」
「お父様。どうか、私に使うよりも領民の為にお使い下さい」
お金はあるから、家には使用人も大勢いて、そんな彼等と自分の境遇の違いが、どうにも気持ち悪かった。
身分、って何。
同じ人間でしょう?
たまたま、生まれた家が貴族か平民かってだけで、こんなにも待遇が違うの?
『貴族令嬢の嗜み』とされるものを身に着ける事自体は苦ではなかったけれど、その違和感は、喉に刺さった小骨のように付きまとう。
何故、生まれながらの貴族である筈なのに、貴族社会で生きていくのが、こんなにも息苦しいのか。
考えているうちに、自分の中に、もう一つの記憶がある事に気が付いた。
その人生で、私は、貧富の差はあれども、身分制度のない国で暮らしていた。
ハークリウス王国よりも衛生的で、娯楽も多い国で、私は人生を楽しみ、恋をし、家族を作り、そして、恐らく、天寿を全うして死んだ。
恐らく、なのは、死の瞬間の記憶があるわけではないからだ。
私が、ハークリウス王国の社会に馴染めないのは、前世の価値観を併せ持っているからなのだ、と気づいてからは、大分、生きやすくなったと思う。
だから、なのだろう。
私が好きになった人は、貴族ではなかった。
代々、フェルナンディス家の庭師として勤めている家に生まれたサムソン。
二つ年上の幼馴染の彼が、私の中でその存在を大きくしていくのに、時間は要らなかった。
サムソンは決して、十人中十人が振り返るような美形ではないけれど、多分、十人中五人は、格好いい、と言うだろう。
平民だから勉強する機会には恵まれなかったものの、私が復習がてらサムソンに説明していたら、いつの間にか私よりも問題を解くのが早くなって、逆に教えてくれるようになったから、地頭はいいと思う。
庭仕事で自然に鍛えられた体は逞しいし、剪定鋏を握り慣れた手の大きさが好きだ。
けれど…私にあれだけ甘かった父は、サムソンとの結婚を決して認めようとはしなかった。
サムソンは平民、そして、私は下位ではあっても貴族。
貴賤結婚、と呼ばれるものになる事は理解していたけれど、父だってサムソンを気に入っていたのだし、多少驚いたとしても、認めてくれると高を括っていたのに。
父が気に入っていたのは、「使用人」としてのサムソンであって、私の配偶者として、ではなかったわけだ。
父は激昂して、諦めるように迫ったけれど、恋に落ちた若い二人を止められるものではない。
私はサムソンと手と手を取り合い、駆け落ちした。
市井で暮らす中で生まれたのが、一人娘のイリスだ。
ピンクブラウンの髪に、空色の瞳は私に似ているけれど、好奇心旺盛な大きな瞳はサムソン似。
両親のいいとこどりで、自分の娘とは思えない位に、可愛い。
私達家族三人は、決して裕福ではなかったものの、いつでも互いの気配が感じられる小ぢんまりした家での生活を、楽しんでいた。
サムソンは、庭師の仕事をメインに、街の便利屋さんみたいな仕事をして生活を支えてくれた。
私は、計算が出来るから、街の小さな商店の帳簿付けを頼まれた時に引き受けていた。
楽しんではいたし、後悔は一つもしていないのだけれど…いざ、駆け落ちしてから気が付いたのは、この国で暮らす以上、身分制度をきちんと理解していた方が、傷つかない、と言う事だった。
平民の娘が貴族の子息に見染められた際に起きる問題は、市井で暮らしていれば幾らでも耳に入る。
まず、正妻になれるものではない。
妾として手当てを貰える娘は、ごく一部。
殆どは、いつ来るか判らない恋人を、ひっそりと待っているだけだ。
逆のパターンで、貴族の令嬢が平民男性と恋に落ちて市井で暮らすと言うのも、簡単な話ではない。
私の場合は、前世の記憶もあり、貴族の生活に慣れ切っていなかったから苦ではなかったけれど、生活水準を落さざるを得ないのは事実。
それに耐えられずに、駆け落ちしたものの、別れて実家に戻ったご令嬢の話も聞いた。
けれど、事実婚状態にあったご令嬢がその後、貴族社会でどのような扱いを受けるか考えると…実家に戻ればいい、と言うものではない。
私は、イリスには幸福な人生を歩んで欲しい。
私が決断したように、全てを引き受ける覚悟の上での貴賤結婚ならともかく、ただ、夢を見た結果ならば、お互いに不幸になる。
イリスは、平民の娘として育てた。
貴族と平民の違い、貴族の中でも爵位による扱いの違いについては、割としっかりと教えた。
いい、悪い、ではなく、この国には身分制度があるんだよ、と言う立場で教えたつもりだ。
育てるのが私だから、貴族の知識がベースにはなっているけれど、平民の暮らしは肌で感じているものだし、困る事はない筈だ。
…そんな風に過ごす事、およそ十三年。
その間、私は、自分に前世の記憶がある事は受け入れていても、今、暮らしているこの世界が、自分が前世で知っていた世界だとは、欠片も思いもしなかった。
年老いて、先の事を考えた父が、私達を探し当てた時も。
サムソンを遠縁の養子にして、婿入りさせる形で私達がフェルナンディス家を継げるように手続きしてくれた時も。
イリスが、貴族子女全員が通う学園に入学する事が決まった時も。
入学式に向かい、イリスが『虹の彼方に』のオープニングムービーと同じ台詞を言うまで…全く、考えもしなかったのだ。
まさか私が、乙女ゲームヒロインの母になった、だなんて。
娘の名は、夫のサムソンが付けた。
イリスが生まれたのは豪雨の翌朝で、窓から綺麗な虹が見えたから、と言うのがその理由。
『イリス』とは、虹の女神の名前なのだ。
乙女ゲームのヒロインの名前を、初期設定名のままでプレイするか、変更するかは個々人によると思うのだけれど、前世の私は、自分の名前に変更するタイプだった。
だから、『イリス・フェルナンディス』が、『虹の彼方に』のヒロインの初期設定名だと言う事を思い出せなかったのは、仕方がないと思う。
ヒロインは、自宅から学園に通学している事になっていたし、自室の描写もあった。
でも、両親の姿はシルエットのみで、顔は出て来なかったのだ。
ハークリウス王国、と言う名も…設定資料集とかには出てたのかな?と言う位、記憶にない。
そもそも、私も学園には通ったけれど、こんな外観ではなかった。
数年前、王子殿下が入学される際に、少々くたびれていた門が、建て替えられたらしい…気づくわけないよ…。
『虹の彼方に』は、虹の七色になぞらえたイメージカラーを持つ七人の攻略対象者と恋愛を楽しむ、女性向け恋愛シミュレーションゲームだ。
まずは、思い出せるだけの記憶を掘り出してみよう。
ヒロインの初期設定名は、イリス・フェルナンディス。
そう、私の愛娘。
彼女は、下位貴族令嬢の母親(私だ)と、使用人(サムソンだ)の間に生まれ、市井で育った。
一人娘が貴賤結婚する事に反対していた父親は、冷却期間を置いて、娘一家を探し出し、家に受け入れる。
ヒロインは、元・平民の身分ながら、貴族の一員に加わった事で、王国の貴族子女全員が通う学園に入学するのだ。
ゲームの舞台となる学校の事を、私達はただ、『学園』と呼んでいる。
学園で、ヒロインは大いに学び、交流し、能力を高め、魅力を磨いていく。
それが、基本。
乙女ゲームではあるけれど、ヒロインを育成する部分が主軸だ。
「教養」、「知識」、「言語」、「運動」、「美容」、「社交」の六つの分野を学び、パラメータを上げていく。
どの分野を学ぶかによって、攻略対象者との遭遇頻度が変化し、好感度に影響が現れる。
ヒロインのパラメータ、攻略対象者との会話で出た選択肢、実施されたイベントの結果を踏まえて、エンディングが分岐していくのだ。
このゲームは舞台となっている期間が、ヒロインの入学から卒業までの六年間と長い。
ヒロインを育成しながら、攻略対象者との仲を深めていくのだけれど、その過程がとても自然…と言うか、リアルで、人気があった。
どのような経緯を辿っても、エンディングはヒロインの卒業式だ。
最も好感度が高く、必要なイベントを全てクリアした攻略対象者に、イメージカラーの花束と共に求婚される恋愛エンド。
一定以上の好感度はあるものの、条件が満たされなかった攻略対象者に、花一輪贈られる友情エンド。
全員の好感度を一定以上に上げた場合は、全員から一輪ずつ花を贈られる逆ハーレムエンド。
全員の好感度が不足している場合は、立派な貴族令嬢となって卒業するだけのノーマルエンド。
攻略対象者達は、いずれもイケメンである事は間違いないのだけれど、皆、少しずつ、癖がある。
イメージカラー緑の、シド・ハルクシュール。
彼は、「教養」パラメータと関係が深い正ヒーロー。
すっきりとうなじで切り揃えられた茶色の短髪に緑の瞳と、七人の中では些か地味な色合いのシドだけれど、顔は正統派王子様の美形。
ゲームのジャケットでは、最も目立つ場所に鎮座していた。
ヒロインの同級生なので、遭遇率も高い。
五公爵家と言う、ハークリウス王国の貴族の中でも、王家の縁戚である家に生まれたシドは、ヒロインの学年の中で、一番、身分が高い。
その為、常に注目を集めているのだけれど、隙一つ見せない品行方正な優等生として知られている。
貴族はその地位にある以上、しっかりとした教養を身に着けるべきだ、と考えていて、貴族として新参者のヒロインへの指導も、熱心に行ってくれる。
ルールに雁字搦めになってしまっている節があり、五公爵家の人間として規則を守らねば、と言う思いと、何もかも破壊して自由になりたい、と言う思いの挟間で揺れている。
恋愛エンドでは、
「君の泣き顔は本当に可愛いね。でも、君を泣かせていいのは、私だけだよ?」
と、穏やかではない台詞を言われる。
虐めまではいかないものの、他の生徒にきつく当たられてヒロインが泣いていると、何処からともなく現れて慰めてくれたけど、どう考えても、タイミング的に泣かされる前から見てた筈なのよね。
わざと泣き顔を見ているのでは?と、プレイ中に「もしかして、S…?」と思っていたのを、確信したエンディングだったな…。
イメージカラー青の、アイク・フォートナス。
彼は、「知識」パラメータと関係が深いインテリ。
少し長めの青い髪をオールバックにして、きつい印象の灰色の瞳を眼鏡の奥で光らせている同級生。
幼少期から神童と呼ばれていたアイクは、学園入学時点で卒業までに必要な学習を全て終えているとの噂がある。
貴族子息である以上、仕方なく通学していると言う態度を隠そうともせず、同級生ばかりか上級生も、話し相手にならない、と馬鹿にしている。
元・平民のヒロインは、同級生と比べて学習面での遅れがあるので、追いつくためにアイクに教えを乞うのだけれど、どれだけ馬鹿にしても嫌味を言っても食いついてくるヒロインに、勉強だけが人間の価値ではない、と気づいていくのだ。
普段は自分も冷たく接しているのに、ヒロインを下に見る同級生達を、理路整然と論破する姿が人気だった。
恋愛エンドでは、
「…別に、お前じゃなきゃダメ、ってわけじゃない。貰い手がいないだろうから、仕方なく、だ」
と、顔を真っ赤にして言われる。
ツンデレかな?
イメージカラー藍の、ロルフ・キッスリング。
彼は、「言語」パラメータと関係が深いコミュ障。
藍色の長い髪で顔を隠した上に、常にフード付きのローブを着ていて、ロルフの顔が判るのは恋愛エンド以外にはない。
ヒロインの一つ下の下級生であるロルフは、五公爵家の一つの生まれだけれど、人前に出る事を恐れ、引きこもっている。
一方で、外国語への興味関心が高く、学園の教師も舌を巻くレベルの言語能力を持つ為、ヒロインは彼の元に通い詰めて、半ば強引に、外国語の指導をしてもらう。
人とのコミュニケーションを恐れているロルフは、物怖じしないヒロインと接していく中で、ヒロインに対してだけは、態度が変化していく。
恋愛エンドでは、初めてローブを脱ぎ、長い髪をばっさり切って、
「…初めてちゃんと見るのは…貴女の顔が良いから…」
と、微笑んでくれるのだ。
初めて見せた瞳の色は、黒曜石のように輝く黒。
想定以上に美形で驚いたけれど、ヒロイン以外とはコミュニケーション取る気がないんだよね…。
イメージカラー赤の、アルバート・マーティアス。
彼は、「運動」パラメータと関係が深いスポーツマン。
由緒正しい騎士の家柄で、アルバート自身も騎士を目指している上級生。
燃えるような赤い髪に、真っ青な瞳、きらりと白い歯が輝く笑顔…と、一見すると爽やかな好青年で、ヒロインともスポーツを通じて交流を深めていく。
けれど、関係が深まるにつれ、母親に対する捻じれた憧憬を持つらしい事が判っていくのだ。
アルバートは、父子家庭で育った。
はっきりとした説明はないものの、様々な情報を総合するに、どうやら、物心ついた頃に母親と引き離されてしまったらしい。
そんな経験から、ヒロインに恋心を抱くようになっても、いつか捨てられるのでは、置いていかれるのでは、との疑いを捨てる事が出来ない。
しかし、ひたすら、包み込むように愛を注ぐヒロインに、少しずつ心開いていく。
恋愛エンドでは、背が高く筋肉質なアルバートに、
「お前は絶対に、俺を捨てないよな…?」
と胸元に縋りつかれる。
…欲しいのは、恋人じゃなくて、ママなのかな?
イメージカラー黄色の、エミリオ・ブライトニー。
彼は、「美容」パラメータと関係が深いショタっ子。
ふわふわの金髪の巻き毛に、琥珀色のうるうるの瞳と言う、あざとい位に天使な容姿のエミリオは、ヒロインの二つ下の下級生。
侯爵家の年の離れた末っ子として生まれたエミリオは、男の子でありながら、その可憐な容姿で周囲をメロメロにさせる、天使な見た目で中身は小悪魔ちゃんだ。
甘え上手で、周囲の人間を上手く乗せて、自分の思う通りに動かす計算高さもある。
貴族令嬢の一人として、ヒロインは自分に似合う服装やお化粧を学んでいく必要があるのだけれど、美容情報の遣り取りをする事で、エミリオとの交流が深まっていく。
とにかく、「可愛い可愛い」と言われて育ったエミリオは、自分の容姿が大人に向かって変化していく事を恐れている。
可愛い、と言われなくなったら、自分の価値がなくなってしまうのではないか、と不安なのだ。
そんな中で、容姿ではなく、努力を継続している事を認めてくれるヒロインに懐いていく。
今のままの容姿ではなくとも、認めてくれる人がいる、と言う事実に、安心感を抱くようになる。
恋愛エンドでは、
「一生、ボクの事、可愛がってね?」
と、ヒロインの腕に腕を絡めて、きゅるん、とした笑顔で言われて、「可愛いなぁ」と思ったけれど…。
…お前が、ヒロインを可愛がる気はないのかー!
イメージカラー橙の、ノア・カーレン。
彼は、「社交」パラメータと関係が深い遊び人。
伯爵家の三男で、家を継ぐ可能性がない為に教師となった。
橙色のウェーブがかった華やかな長髪を肩先まで伸ばし、榛色の瞳はいつも楽しそうに細められている。目元のほくろが婀娜っぽい。
ヒロインは貴族社会に来たばかりの為、貴族の付き合いと言うものに疎い。
そこで、ノアに茶会の作法や、場で提供すべき話題、貴族らしい婉曲的な物言いを学んでいくうちに、交流が深まっていく。
男性らしいけれど細身で威圧感のない容姿だからか、女性と流した浮名は数知れないけれど、ノアは誰かを本気で愛した事がない。
ヒロインに好意を持つようになっても、教師と生徒と言う関係性もあり、攻略対象者の中で最年長でありながら、エスコート以上の接触はないのは、唯一、ノアだけ。
けれど、そんな抑圧の結果か、本気の相手になってしまったヒロインに対して見せる執着と、垣間見せる大人の欲望が凄い。
恋愛エンドでは、
「ここまで俺を本気にさせたんだ。後は…判るよね?」
と、妙に色っぽく迫られる。
ナニ?ナニされるの?
そして、最後の攻略対象者。
イメージカラー紫の、クローディアス・ラーエンハウアー。
通称、『ラスボス』。
何しろ、全てのパラメータを一定以上に上げないといけない高難易度攻略対象者なのだ。
バランスよく育成しないと、好感度が上がった別の攻略対象者がイベントに来てしまって、クローディアスとのイベントが全然進まない。
隠しキャラ、と言う程、隠れていないのに、初回で攻略するのは難しい。
背の中程まで伸ばした黒髪を一つにまとめ、紫の瞳をしたクローディアスは、作り物のように美しい女性的な容姿の持ち主。
人当たりもよく、常に微笑みを浮かべているけれど、どれだけ接触しても好感度が上がらない。
それは、彼が『王子』であり、周囲の人々は皆、自分の地位が目当てなのだ、と冷めた見方をしているからだ。
物事も人も、自分の役に立つかどうか、と言う基準でしか判断しないクローディアスは、これまで彼の周囲にいた人間とは異なる価値観を持ち、めげずに何度も声を掛けて来るヒロインに興味を抱いて、次第に心惹かれていく。
けれど、政略結婚で結ばれ、冷め切った関係の両親に愛されずに育ったクローディアスは、ヒロインを愛し始めている事に気が付かない。
『愛』と言う感情を、知らないからだ。
傍に置きたい、失いたくない、と執着した結果…恋愛エンドで、
「いつか、失ってしまうのならば、今、私の手で閉じ込めてしまおう」
と、権力で囲い込む選択をする。
…ヤンデレかな?
スチルの背景にあった鳥籠が、ヒロインの将来を暗示している、と、ざわついた思い出。
おぉ…意外に、全員、思い出せた。
私の前世の記憶、やるじゃない。
一プレイヤーだった時には、不穏な未来が透けて見えるエンディングであっても、
「きゃー!愛されてるー!」
で、終わったのだけれどね。
それが、愛娘を対象にされるとなると…安心してお任せ出来る人って、いないんですけど…?
だって。
プロポーズは終わりじゃないでしょう、始まりでしょう。
そこから、何十年と言う未来を共に歩む伴侶と思うと、全員、一癖あり過ぎなのよ…!
応援ありがとうございます!
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