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声が聞こえる(3)

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 頭の切れるジネットは、妹の説明から、自分たちの置かれている状況を正確に把握していった。
 しかし、黒隼の騎士が王太子から受けていた命令については、さすがのジネットも驚きを隠せなかった。
 これまでひた隠しにしていた、自分たちとセナンクール家の秘密が、王太子にまで知られているとは、思わなかったらしい。
 自分たちの巻き込まれている事態の大きさに、しばらく口もきけないようだった。

『ジジ?』
『……分かった。じゃあ、わたしもこっちの状況をさぐってみる。何か分かったことがあったら知らせるわ』
『うん。どこにいるか分かったら、すぐに助けに行くから、待ってて!』
『もう……。そんなところが心配なのよ。分かってる? 今の状況で、いちばん危険なのはレナなんだから、それを自覚して! 絶対に、無茶なことをしたらだめよ!』

 そう強く言いおいて、姉の声は途切れた。

 とたんに、日差しの強さや、緑の匂い、木々のざわめきを五感に押し寄せてくる。
 レナエルはゆっくりと目を開いた。

「レナまで、あの男と同じことを言うんだから……」

 ぼやきながらも、姉が自分を気遣ってくれていることが分かるから、口元に笑みが浮かんだ。
 とりあえず無事でいてくれたことにほっとする。

 ゆっくりと立ち上がり、体中についた土や枯れ草を払い落とした。
 しばらくじっとしていたおかげで、疲労感もかなり軽くなっていた。

 側にいたはずのジュールはいつの間にかいなくなっていた。
 きょろきょろと辺りを見回すと、彼は愛馬の蹄の具合を調べていた。

 レナエルが近づいていくと、まだかなり距離があるのに、彼はこちらを振り返った。
 睨むように見る眼にせかされた気がして、慌てて駆け寄る。

「話は終わったか」
「うん、大体のことは聞いたし、こっちの状況も説明しておいた。ジジはね……」
「お前の姉はどこにいる」

 説明しようとした言葉を強引に遮られ、レナエルはむっと眉を寄せた。

「……今は、分からない。カーテンを引いた馬車で、どこかに移動してるって言ってた」
「そうか」
「それで、ジ……」
「居場所が分からないのなら、それ以上の説明は後でいい。先を急がないと、宿がある村に着く前に日が暮れてしまう。すぐ出るぞ」

 さらにレナエルの言葉を遮ってそう言うと、ジュールは馬に飛び乗った。
 高い位置からの威圧的な視線。無言の圧力。
 あまりの傲慢さに呆然としていると、彼は馬の鼻先をもと来た方向に向けた。
 ぐずぐずするなら置いていくぞと、言いたいようだ。

 なんなの、この真っ黒男!
 黒隼の騎士の二つ名が似合いすぎて、吐き気がする!

 腹立たしさに叫びだしたい気持ちを必死に押さえながら、レナエルは自分の愛馬に跨がった。
 そして、彼とは正反対の方向に馬を向ける。

「森をこっちに真っすぐ抜けると、道に出る! この方が早いわ」

 そんなことも知らないくせに、偉そうに!

 彼に背を向けて、そう胸の内で激しく毒づきながら、レナエルは馬の腹を蹴った。
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