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Break the Chain ―鎖を断つ音―
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夜の港は、黒く濡れた背中を静かに上下させている。潮の匂いは昼間より濃く、鉄と油のささやきが混ざる。街の紫がかった明かりは波に砕け、細かい光の屑が水面に漂う。新堂玲央は、消波ブロックの上に腰を下ろし、拳を膝に置いた。骨の内側に宿った熱は冷めきらず、鼓動は意図的に落としても、深いところで密やかに鳴り続ける。空は墨色、遠くの稲光が一瞬うす青を走らせ、音はまだ届かない。届かない時間は、思考を研ぐ。
足音が背後から近づく。砂利を踏む音は軽いが、節々に重みがある。藤堂颯真が、缶コーヒーを二つ指に挟んで現れ、片方を玲央へ放る。空中で冷えた金属が短い音を鳴らし、手のひらに吸い付く。プルタブを引く音が重なる。港の薄闇に、金属の匂いがひとしずく落ちる。
「やつら、動いてる」
藤堂の声は乾いている。けれど乾きの奥に湿度を隠す。濡れる場所を知っているから、表面は乾く。
「SonicEdgeの“内部資料”ってやつ、見せてもらう」
玲央は言い、缶の口に触れる。甘さは弱い。眠気を殴るには足りないが、神経の縁に薄い膜を貼るくらいの仕事はする。
「黙ってろって顔、するなよ」
「似合わないか」
「似合わないな」
「なら、淡々と読め」
無愛想なやり取りの隙間に、ゆるく笑いが滲む。その笑いは、拳の骨を柔らかくする。柔らかい骨は折れにくい。折れにくいが、曲がる。曲がる強さは、戦いの中でいちばん役立つ。
コンクリートの上に広げられたクリアファイル。薄い紙束。印字は整然、余白は狭い。企業の言葉は、余白を嫌う。余白は呼吸で、呼吸は自由だから。藤堂が指先で紙を押さえ、風にさらわれないよう半身を傾ける。読み取れる単語がいくつも浮かび、沈む。
――リズム同期装置:校正関数の手動調整
――観客センサー:上位候補への露出最適化
――リアルタイム補正:プロファイルごとの閾値設定
――ハードリミッタ:出力ピークカット、フェイルセーフ
玲央は眉を寄せない。眉を寄せるのは、感情を表に置くやり方だ。いまは内側で燃やす。紙の角に触れる指先が熱を帯び、夜風がその熱を薄く剥ぎ取る。
「――悠真は、これを見たのか」
「一度。二年前、内部告発を試みたやつが“いなくなった”頃にな」
藤堂の視線が港の暗がりへ流れる。過去の輪郭は、夜の水面に似る。覗き込めば揺れ、手を入れれば飲まれる。飲まれない方法は、足場を複数用意すること。人の手、音、笑い。どれも足場になる。
「俺たちの“負け”は、数字で描かれた負けだった。描かせたやつがいる」
「いる。ほんの数人。けど、やつらの後ろに、金と空白に耐えられない大勢がいる」
金と空白。紙の上の単語より重い二語が、夜気の中で薄い光沢を帯びる。空白に耐えるために、数字に頼る。数字に頼り、音を痩せさせる。痩せた音は従順で、従順は管理しやすい。
「――で、行くのか」
「行く」
「単純に言うなよ」
「単純なことほど複雑だろ」
藤堂が鼻で笑い、足先で転がした空き缶がコツンと鳴る。遠くの波頭が細かく砕け、その音が遅れて届く。遅れてくる音は、静かに心臓の鼓動へ沈む。
背後から、さらに足音。軽い、速度のある歩幅。呼吸に迷いがない。銀の髪が夜の光を拾い、榊悠真が防潮壁の影から姿を見せる。彼の目は暗がりで色を失わず、むしろ光を集めてやわらかく灯る。手には薄いノートPC。手首の同期バンドは黒いテープで覆われ、ディスプレイは見えない。
「遅かったな」
「回り道をした」
「誰に見られた」
「見られた。けど、見せた」
玲央の心拍が一つだけ深くなる。悠真は、言葉で説明しない。説明は音でする男だ。だが今日は、音を抑えている。抑えた音が背骨の奥で太り、目に濃度を与える。
「内部ログ、抜いた。少しだけ。次の大会のサーバー、管理室にデータが集約される。夜のスタジオ二号棟、管理室C。明日、メンテ」
悠真がノートPCの画面を開き、地図を示す。モノクロの図面。通路。鍵の記号。セキュリティゲート。監視カメラの円錐が綺麗に重ねられ、死角はほとんどない。ほとんど、だ。完全は、いつも嘘を含む。
「三十分が限界。藤堂、外でノイズを撒けるか」
「撒ける。俺の“ビート・シールド”を逆相にして、ドーム全体のセンサーに薄い霞をかける」
「霞の厚みは」
「お前の名前を呼ばれたら増す」
返す皮肉に笑いが混じる。笑いがある限り、戦いは生き物だ。笑いを失った戦いは儀式に堕ちる。儀式は誰かの都合に奉仕する。奉仕は似合わない。
計画は短く、無駄がない。正面からではない。音で鍵をずらす。観客センサーのダミーを挿し、ログ出力を外部にミラーリングする。証拠は音と数字の両方で捉える。数字だけでは裁けない相手だから。音だけでは届かない場所だから。
「――その前に、俺の腹の内も見せとく」
悠真が目線を落とし、拳を一度だけ握り開く。関節の白さが薄い灯りで浮かぶ。
「俺が消えたのは、脅されたからだけじゃない。玲央、お前を遠ざけることで、もう一度音を純粋にしたかった。間違いだった」
音が胸骨に当たって跳ね、燻っていた熱が育つ。育った熱は、怒りじゃない。余計な言い訳を燃やし尽くす種類の火だ。玲央は拳をひとつ鳴らし、短く頷くだけにした。長い言葉は、今日の空気に似合わない。
――夜。スタジオ地区。二号棟の周囲は人の気配が薄く、石畳は黒く艶めいている。裏手の非常口から、冷たく乾燥した空調の匂いが吐き出される。壁面の蛍光灯は一定間隔で配置され、その影は規則正しく地面に並ぶ。規則正しさは気持ち悪いほど美しく、そこにひびを入れたい衝動がうずく。
玲央はフードを浅く被り、指先にバンテージを巻き直す。手首の内側の鼓動が布越しにかすかに震え、布の繊維がそれに合わせて呼吸する。藤堂は少し離れた電柱の影に立ち、耳に小型のレシーバーを当てている。彼の周囲の空気がわずかに歪む。音波が盾になる直前の、薄い透明の層が張られていく感覚。悠真は短いコードをポケットから出し、非常口のパネルに触れる。カチ、と乾いた音がして、鍵の向こうが一瞬だけ眠る。
「十七秒」
悠真の囁き。十分すぎる猶予。だが、余裕はいつも罠になる。玲央は足音を消し、廊下に滑り込む。床は樹脂、反発が少ない。壁に沿って設置されたセンサーの点滅は緑。天井のダクトからの風が一定のテンポで吐息を漏らす。吐息の間隔に、呼吸を合わせる。呼吸を合わせれば、存在は薄くなる。薄くなった存在に、床が少しだけ優しくなる。
角を二つ曲がり、非常灯の薄い青が視界に染みる。管理室Cのドアは曇りガラス。室内に人影が二つ。椅子の音が小さく軋む。カップにスプーンが当たる音。眠気を誤魔化す砂糖の撹拌。悠真が顎で反対側の壁を指し、玲央はうなずく。音の薄い囁きが耳へ滑る。
「三拍後、入る」
「二拍目で左の足を止める」
「一拍目で視線を切らせる」
短い設計図が空気に描かれ、呼吸がそれを染める。三、二、一。悠真が指先でドアの蝶番に触れ、透明な糸をかける。玲央はドアノブを一瞬だけ押し、押し込みと引き戻しの中間に置く。蝶番の金属が、無音で諦める。開いた隙間から冷たい光が漏れ、室内の気配が鮮明になる。
椅子の男が振り向く前に、床板が微かに鳴る。視線がそちらへ流れる。玲央は二拍目で左足を止め、視線の軸を外す。男の視線が追いつく前に、悠真の音が彼の足元へ薄い鎖をまとう。鎖は柔らかく、だが確かに動きを遅らせる。玲央の手はすでに男の手首へ軽く触れ、指の付け根の神経を押さえる。力は最小でいい。体は力の方向で従う。男は抵抗を覚える間もなく、椅子に戻る。隣の人影は驚愕で固まり、言葉を作る前に藤堂のノイズが小さな機械の受信部を満たす。警報は鳴らない。鳴らない音が、最良の音になる。
キーボード、タワーPC、計測モニタ。壁のラックには同期装置のサーバー。天井の隅にカメラ。黒い目玉は気づかないふりをしている。振りは、誰かの指示で成立する。
「外の霞、二割増し」
藤堂の低い声がレシーバーに乗る。空気の粘度がわずかに高まる感覚。玲央はラック前に立ち、モニタのログを追う。細かい数列。波のように刻まれた拍の軌跡。そこに、人為の痕跡がある。関数が不自然に切り替わる位置。閾値が人間の直感と矛盾する瞬間。数字は、時々、正直に嘘を吐く。吐いた嘘の縁は鋭く、触れると切れる。切れた場所から、真実の匂いがにじむ。
悠真は腰を落とし、裏ポートから小さなデバイスを差し込む。画面にミラーリングが始まり、ログが外部のストレージへ滑り出す。滑る音はしない。けれど、確かに何かが動く気配。画面の隅に、見慣れた名前が一瞬だけ現れ、消える。
――ICHINOSE AKARI:SUPPORT STAFF ENTRY
玲央の背筋が冷える。呼吸が半拍だけ遅れ、すぐに戻る。悠真と目が合う。彼も見た。見たが、動きは崩さない。崩さない理性は褒めるべきか、殴るべきか。殴るなら、敵を。理性は味方だ。
「……朱莉が、ここで」
声は作らない。喉の奥で形だけ。音にすると刃になる。いま刃を増やす場面ではない。ラックの上段のランプが一瞬だけ黄色く変わる。センサーは眠い。眠いセンサーは、嘘を見逃す。眠りを深くするには、優しい子守唄が要る。藤堂のノイズが、まるで海鳴りのように低く遍在し、金属の梁を伝う。
ログの複製は半分を超える。汗が手のひらに染み、バンテージが重くなる。重さは悪くない。重さが、現実の輪郭になる。あと三十秒。二十。十。ゼロ。悠真がデバイスを抜き、コードを巻き取る。空気の粘度が戻る。戻る直前、ドアの外の靴音が早い拍で近づく。走る音。走るときの呼吸の高さ。小柄。軽い。知っている音。
ドアが開く。飛び込んできた肩が扉の縁にぶつかり、鈍い音を立てる。キャップ。ポニーテール。首に下げたカードキー。息を飲む音が、短く高い。
「ごめん――!」
朱莉が、そこにいた。額に汗。目の縁が少し赤い。唇は固く結ばれ、頬は白い。白さは恐れの色じゃない。責任の色だ。彼女の背後で、SonicEdgeの職員が二人、息を整えながら追いつく。腕に灰色のバンド。目は笑っていない。笑っていない目は、安い。
玲央の体は動かない。動かせば、何かが壊れる。壊したくないものは、目の前に全部いる。悠真が、先に声を出す。
「朱莉」
名前は短い。短い名前は、祈りに似る。祈りの高さで響く。
「違うの、私――」
言葉が続かない。喉が詰まるのは悲しみのせいじゃない。何を先に言えば壊さずに済むかを測っているからだ。測る時間は、敵にとって好機だ。職員の一人が前に出ようとする。出る瞬間、藤堂のノイズが一段階深くなる。機械の耳が一瞬だけ迷子になり、職員のインカムがシャッという不快な音を吐く。
「止まれ」
玲央の声は低い。低さは怒りを包む毛布の厚さ。職員は二の足を踏む。それでも、彼らの背中には組織の温度がついている。規則の温度。責任の温度。人間の温度ではない。
「彼女は、内部の“オペ”に入っている。出場者のスケジュール調整、データのラベリング、露出の最適化――」
悠真が職員の視線を切るように言い、朱莉へ目を戻す。朱莉は一度だけうなずく。その頷きは、懺悔ではない。状況の共有だ。
「やらなきゃ、私……学校にも、ここにも……居場所、なくなるって」
言葉の端が震える。震えは涙じゃない。声帯の筋肉が緊張で細かく痙攣しているだけ。玲央は一歩だけ近づく。近づく足音は柔らかい。柔らかさは、攻撃ではない証明。証明しないと、彼女の呼吸が浅くなる。
「話はあとでいい。今は――ここを片付ける」
「片付けるって、どうやって」
職員のひとりが鼻で笑いかけ、音の途中でやめる。藤堂のノイズが、彼の聴覚の一部を侵したを撫でたから。撫でられた耳は、思わず目を細める。目を細めると、世界は狭く見える。狭く見えれば、余計な勇気は少しずつ減る。
「簡単だ」
玲央は拳をわずかに上げる。上げただけ。殴らない。殴るのは、最後の選択に残す。拳の影が蛍光灯の下で短く震え、その影を見つめた職員の喉仏がひとつ上下する。震えの音が、室内の空気に薄く混ざる。
そのときだった。管理室の奥のラックが、微かに唸った。唸りは低く、機械の喉の奥から出る声。天井の蛍光灯がほんの一瞬、点滅する。冷たい空気の流れが乱れ、紙の端が震える。次いで、玲央の手首の下で何かが熱を帯びた。黒いバンドの裏、皮膚の薄いところに、針の先でつつくような痛み。痛みはすぐに熱に変わり、じわりと広がる。
「玲央」
悠真の声が低く沈む。胸の中心が乱れる前に、呼吸を長く取れと言っている。理性の声。理性は好きだ。だが、間に合わないことがある。
手首から走った熱が、尺骨の内側を駆け上がり、肘の内側で花開く。花は赤い。赤は音になる。音は波になる。波は、制御されないと街を壊す。街が壊れる前に、体が先に裂けそうだ。内側から押し広げられる膜。皮膚の下、骨の周囲、筋肉の繊維が一本ずつ響く。響きが共鳴に変わる。共鳴は爆ぜる寸前の薄い膜を張り、そこに指をかけてくる者がいる。
――装置だ。
「やめろ」
誰に向けた言葉か、自分でも分からない。分からないが、声は出る。出た声が、自分の鼓膜を打つ。打たれた膜が、身内の音で震える。震えが気持ち悪い。気持ち悪さを、拳に逃がしたくなる。
バンテージの内側で、血管が膨らむ。心拍は数にして測れる範囲を超え、波形の密度でしか表せない形に崩れる。崩れた波形は、美しい。美しいものほど危険だ。危険は、魅力だ。魅力に体が引かれる。
「落ち着け、玲央。呼吸。俺を見ろ」
悠真が前に出る。距離が一気に詰まり、視界が銀の睫毛で満たされる。彼の手が頬に触れる。指先は冷たい。冷たいはずなのに、触れたところから熱が逃げる。逃げた熱が彼の手首に移り、今度は彼の皮膚が薄く赤くなる。痛みは小さな星のように瞬き、消えるタイミングを見失う。
「制御信号が入ってる。バンドの中の欠片から。切る」
悠真は玲央の手首を取って、黒いバンドの縁に指をかける。外すには、専用の器具が要る構造。だが、器具は要らない。要らなくする。指先で空気を鋭く弾き、音の刃でラバーの薄皮を割く。ミリ単位。血は出ない。代わりに、熱が逃げる道が細くできる。
「藤堂、ガードを俺たちに集中」
「上げる」
空気の厚みが変わる。耳がつまる感覚。圧の方向が限定され、装置からの信号が少し鈍る。鈍った刹那に、玲央は深く息を吸い込む。肺の底が熱を受け止め、吐く息に赤い光が混じる錯覚。錯覚は、今は真実の代わりとして役に立つ。
――しかし、波は一段と大きくなる。床が微かに震え、ラックのネジが鳴る。天井の蛍光灯が連鎖的に明滅し、目の奥の膜に白い棘が刺さる。朱莉が息を呑み、職員の一人が慌てて無線に手を伸ばす。
「離れて」
玲央は己の声を信じ、扉へ向かって一歩踏み出す。踏み出した足の下で樹脂床が低く悲鳴を上げ、ひびが蜘蛛の巣のように走る。ひびの走る音は美しい。美しさを味わう暇はない。拳が勝手に上がる。上げないはずの角度まで上がる。上がるところまで上がった拳は、空気の皮膜を裂き、赤い波動を吐く。波は壁に当たり、金属が呻き、ガラスが疲れ、スクリーンがひとつ、パリンと割れる。
「玲央、戻せ」
悠真の声は命令ではない。祈りに近い。祈りは、時に命令より強い。玲央は、拳を握り直し、肘から先をゆっくり下げる。筋肉の一本一本に意識を通す。意識は針になる。針は暴れる獣の皮膚を縫い止める。縫い止める作業は繊細で、時間がいる。時間はない。
「守れ、朱莉を」
玲央の言葉が息と一緒に出る。朱莉は一歩後ろへ下がり、背中を壁につける。壁は頼りになるが、逃げ道を奪う。奪うものから力を借りるには、体幹をゆっくり壁に預ける技術が要る。彼女は知っている。やり方を知っている人間は、美しい。
職員が叫ぶ。何を言っているのか、音の輪郭は拾えるのに、意味が滑る。滑る意味は、いま必要ない。必要ないものを脳は捨てる。捨てたぶん、視界が鮮明になる。視界の鮮明は、危険の鮮明。玲央は、その危険に正面から目を合わせる。
「落ち着け。俺が護る」
悠真の両腕が、玲央の背中から回り込む。抱き止める、というより、暴れ馬の鼻面を両手で包むように、前に回す。彼の胸の音が、玲央の背骨に伝わる。音は青い。青い音は火を弱めない。火の輪郭を丸くする。丸くなった火は、燃やし方を選べる。
「触るな――」
玲央の喉が短く唸る。唸りは獣の音に近い。近いが、獣ではない。獣に憧れる人間の音。憧れは危険だ。危険を抱えたまま、悠真はさらに密着する。密着は、戦いの距離でもある。戦いの距離で、息を合わせる。息が合うと、間合いが変わる。間合いが音の色を変える。
焼ける匂い。皮膚の表面で空気が焦げる臭気が一瞬立ち上がる。悠真の前腕に赤い線が走り、皮膚が薄く泡立つ。痛みは彼の顔に出ない。出さない訓練が骨にまで染みている。染みた訓練は冷たい。冷たさは、玲央の中の熱へ吸い寄せられる。
「痛ぇな。けど、これは俺の音じゃない」
彼の呟きが、玲央の耳のすぐ後ろで震える。玲央は、目を閉じる。閉じた瞼の裏に赤い波がひろがり、その波の端から青い線が伸びてくる。青い線は悠真の音。音は線であり、布でもある。布が赤の上にそっと重なり、燃え方が変わる。ゆらぎが一定になる。一定のゆらぎは、自由の最小単位だ。
「藤堂、今だ」
悠真の声。藤堂のノイズが旋回の向きを変える。機械の喉が咳をするように一瞬止まり、制御の針がわずかに飛ぶ。バンドの欠片が皮膚の上で微かに外れ、ラバーの下からひとすじの冷気が染み入る。冷気は炭酸水の泡のように皮膚の下で弾け、熱の表面を洗う。洗われた熱は中心へ戻る。戻ると、燃える場所がまとまる。
「落とせ」
悠真の掌が玲央の胸の中心に軽く当てられ、圧が一拍分だけ入る。入った圧が、心臓の拍をほんの一ミリ深く下へ押す。押された拍は戻るが、戻り方が変わる。戻り方の違いは、波形の端にだけ現れる。端が滑らかになる。滑らかになった端から、赤い波が少しずつ薄れる。
「……いける」
玲央は息を吐き、拳を下ろす。肩の力が落ちる。落ちた肩の上で、汗が冷える。冷えた汗は、現実に戻す。現実は容赦ない。でも、優しいときもある。今は、その中間。
その瞬間――銃の安全装置が外れる小さな音。空気が瞬き、管理室の入口に黒い影が四つ滑り込む。黒い制服。胸のバッジ。目の上の影。武器の先は向けられない。向けられたのは、彼らの視線。視線が冷たい。冷たい視線は、音を削ぐ。
「手を上げて離れてください」
無機質な声。命令の高さ。高さは、恐怖で測られる。玲央はゆっくり両手を上げる。バンデージの白が薄闇で鈍く浮く。悠真は顎をわずかに上げ、彼らの後ろの空気を観察する。脱出口はない。ないからこそ、彼は選ぶ。選んだ顔になる。
「俺を連れていけ」
静かに、まっすぐ。彼の声の芯に、薄い震え。震えは恐れではない。決断の名残。名残は、刃を丸くする。
「条件がある」
職員の一人が鼻で笑う前に、悠真が続ける。
「彼には触れない。彼女にも。連れていくなら、俺だけ」
「何の保証がある」
「保証は音だ」
ふざけた答えに聞こえる。だが、ふざけていない。玲央の喉が、ひとつ縮む。縮みは、叫びの予兆。叫べば砕ける。砕けた破片は、朱莉に刺さる。刺さる未来は許さない。
「ふざけてねぇぞ」
玲央の声は荒れない。荒れないまま、床の下の低音を拾う。低音は、抵抗の足場。足場があると、真っ直ぐ立てる。
「悠真」
名前は短い。短い名前は刃物になる。刃物で切れるのは、覚悟の膜。薄く切れた膜の向こうに、彼の目がある。目は揺れない。揺れないまま、柔らかい。柔らかさの中に硬さが一本、芯のように通る。
「大丈夫。お前が、俺を見つける」
「ふざけんな」
「ふざけてない」
視線が絡み、離れない。離れるのは、彼の身体の方だ。黒い影が彼の両腕を取り、出口へ導く。導く、という言葉は優しいが、実際は粗い。粗さは、音に出る。出た音は、耳に棘を残す。棘は、後で役に立つ。
「朱莉、行け」
玲央の声に、彼女は一瞬躊躇い、すぐに頷く。頷きは小さいが、確かだ。彼女はカバンから何かを取り出し、玲央のバンデージの中へ押し込む。薄いシールのようなもの。触れるとひやり。ひやりは、電子の匂い。
「緊急遮断のダミー。今のは本線じゃない。これで少しは自分で切れる」
「どうして」
「私が……私のせいで、あの装置、ここに運ばれたから」
言葉が終わる前に、黒い影の一人が朱莉の腕を掴む。掴んだ指は太い。太い指は、丁寧さを忘れる。忘れた指は、骨を傷つける。玲央の内側で何かが跳ねる。跳ねたものは拳に乗る。乗りかける。だが、悠真の視線が止める。止めるというより、凪にする。海が風を飲み込み、波を半歩遅らせるあの凪。
「行け」
玲央が繰り返す。朱莉は息を飲み、足を後ろへ引く。藤堂が廊下の影から手招きし、彼女はそちらへ滑り込む。黒い影の注意が一瞬そちらに向く。向いた注意の隙間に、悠真は自分の足を半歩前へ置く。置いた足が床に薄い音を印し、その音が玲央の胸骨の裏へ残る。
「俺を連れていけ。そいつらではなく、俺を」
「判断は、上がする」
「上がするなら、上に言え。俺の“音”が欲しいんだろ」
言い切った瞬間、空気の温度が一段下がる。管理室の奥で、無機質なスピーカーがカチリと鳴り、合成音声が短く返答する。
『対象、榊悠真。拘束を優先』
冷たい判断。冷たいほど、信頼できる。信頼したくないが、信頼できる。玲央は唇の内側を噛む。血の味は鉄。鉄は道具。道具は使い方だ。
黒い影たちは悠真を左右から挟み、連行を始める。踵のゴムが床を擦る音が規則正しく重なり、通路の蛍光灯がひとつ、またひとつ、彼らの頭上を過ぎてゆく。影が遠ざかる。遠ざかる音は、嫌いだ。嫌いだから、胸の中の何かが赤くなる。
「――やめろ、行くなよ」
声があふれる。止められない。止めるべきじゃない声もある。止めなかった声は、天井で薄く反響し、耳へ戻る。戻った声が、胸の奥で小さな爆発を起こす。爆発の火花は涙の形に似るが、溶けて流れない。流れないなら、燃料になる。
悠真は振り返らない。振り返らない勇気は、残酷だ。残酷さは、愛の一部だ。彼の横顔の輪郭だけが、最後に一度だけ光の端で白く際立ち、そして消える。消えた場所に、薄い音が残る。名前を持たない拍。
静寂。管理室に、機械の冷却ファンの音だけが薄く続く。続く音は、神経をすり減らす。すり減らされた神経の縁に冷たさが溜まり、舌の上で金属の味が広がる。玲央は、拳をゆっくり開く。掌に刻まれたバンテージの跡が赤い網目になり、網の下で血がまだ熱い。
「――助ける」
言葉に飾りをつけない。誓いは短い方が強い。藤堂が影から現れ、目の奥に火を入れる。
「だから、生き延びろ。燃え尽きるな。お前の“熱”は武器で、同時に罠だ」
「分かってる」
「分かってない顔だ」
「分かってる」
藤堂は鼻で笑い、肩をすくめる。笑いが、背中の硬さを少しだけ溶かす。溶けた硬さは、必要な筋肉へと流れる。
外へ出ると、夜風が胸の汗を一気に冷ます。冷たさが、集中を取り戻す。港の灯りは数を減らし、タラップの鎖がゆっくり軋む。遠くで救急車のサイレンが細く鳴る。誰かの夜が別の色で進む。世界は同時にいくつも走り、衝突せず、残酷に平行だ。
「玲央」
朱莉の声が小さく呼ぶ。彼女の手の中で、カードキーが震えている。震えは恐れではない。怒りだ。自分に向けた怒り。無力に向けた怒り。怒りは正しい方向へ向けなければ意味を持たない。
「私が連れてこられた会議室、SonicEdgeの中枢の図面、少し覚えてる。紙にもメモを取った。隠してある」
「どこに」
「学校のロッカー。ねじの下」
玲央は頷く。頷きは約束だ。約束を重ねすぎると重くなる。だが、重さは必要だ。足場になる。足場が増えれば、跳ぶ高さが増える。跳ぶ場所はひとつ。SONIC DOME。本社。
その夜、玲央は眠らない。ベッドに体を置いても、呼吸は眠りの波形にならない。窓の外で港の灯りが瞬き、風がカーテンの裾を揺らす。目を閉じれば、銀の髪の動き、青い音の線、赤い波の縁、朱莉の小さな頷き、藤堂の薄い笑い、それらが順番に浮かび、沈む。沈まないのは、ひとつ。悠真の視線の温度。温度は数字にならない。ならないものがいちばん強い。
明け方前、空が濃い群青に染まる。鳥の鳴き声はまだなく、街は息を止めたように静かだ。静けさは、戦いの直前の音。玲央は起き上がり、冷たい水を飲む。舌の上に広がる無味が、逆に味わいになる。鏡の前で手首のバンテージを巻き直し、朱莉から渡された小さなシール型デバイスをバンドの内側へ貼る。貼った瞬間、微かな振動が皮膚に触れ、内部の信号の流れが別の道へ逸れる感覚。逸れた信号が肩口まで来る前に弱まり、消える。
学校。朝の空気は薄く冷えて、廊下の床は昨夜の湿度を僅かに抱いたまま乾く途中だ。靴の音が長く伸び、掲示板のポスターの隅が捲れ、風でぴくりと震える。ロッカーの扉の蝶番に指先をかけ、ねじの一本を外す。固い。固さは誠実。力を斜めに流し、ふと緩む感触の直後、ねじが音を立てて回る。薄い紙束が出てくる。朱莉の字。走り書きなのに美しい。美しさは性格だ。図面の隅に小さな矢印。非常階段。搬入口。非常用電源。保守用ハッチ。いくつものルートが細い線で示され、赤い丸が三つ打たれている。
――露出最適化室
――観客センサー中継
――意図的閾値調整端末
意図的。意図は、刃物だ。刃物は鈍くしても刃物。鈍くした分、傷が広がる。
「行くぞ」
放課後、体育館で短く身体を起こし、藤堂と合流。朱莉は長い髪を結び直し、目の下の小さな影を隠さない。隠さないのは、選択だ。選んだ顔は、強い。
日が傾く。SONIC DOMEは白い巨体を夕陽で薄く染め、ガラスの肌は周囲を歪めて映す。中枢へ繋がる導線は美しく管理され、余白は計算され、雑音は排除されている。排除された場所では、音が痩せる。それでも音は生まれる。生まれ続ける。
――侵入の夜。三人は音を殺し、影を跨ぎ、白い廊下を滑る。靴の底が樹脂の床に置かれるたび、ごくごく薄い音が世界に加算される。加算された音は、藤堂の霞の中で溶ける。監視カメラの黒い目は、予定された映像のループを見ているふりをし、実際には眠っている。眠りの中心に、誰かの意図。意図は薄く、しかし確か。
露出最適化室。壁一面のスクリーン。リアルタイムで流れる観客の反応曲線。拍手、歓声、SNSの言及、滞留時間、再生回数の推計。すべては数字に変換され、数字は色のない美しさで整列する。美しすぎる。冷蔵庫の中の果物みたいに色が失せる。朱莉が端末から端末へ視線を走らせ、キーボードに指を置く。置いた指の腹が白くなる。白さは緊張の証拠。証拠は、燃料。
観客センサー中継室。天井から何本も垂れ下がる線が、透明な管を通ってラックへ吸い込まれている。管の中で光が走る。光は速い。速い光に音は追いつけない。追いつけないものには、追い越す別の道が要る。道は、作る。
意図的閾値調整端末。四角い画面に小さな数式。if、else、threshold。人間が決めた論理。論理は道具。悪用される前に、証拠に変える。朱莉がポケットから小さなストレージを出し、端末に挿す。画面の隅に、記録中の表示。玲央の喉が乾く。乾きを舌の裏で転がし、呼吸のリズムを落ち着ける。
「――来る」
藤堂の声。空調の向きが変わる。風が一瞬だけ止まり、次の瞬間、別の方向から吹く。吹き方を変えさせた意図がある。足音。硬いゴム。二人。武器の匂い。二人は通路を過ぎるだけ。過ぎる音が遠のく。遠のいた直後、別の足音。軽い。躊躇う気配。朱莉の歩幅に似た間合い。だが違う。違うのは肩の振れ。肩が強張っていない。つまり、敵ではない。
「戻ったら、怒る」
玲央の声は冗談の形。冗談は防御の布。布の裏で、拳は硬く握られている。握りの中に、悠真の名前がある。名前は、熱の芯になる。芯があれば、炎は形を保つ。
露出最適化室のログが、朱莉のストレージに吸い込まれていく。観客センサー中継室の裏口の保守パネルが、藤堂の指で一瞬だけ眠り、小さなスイッチが二度だけ呼吸する。閾値調整端末が、実行中の関数の履歴を吐き出す。履歴の中に、固有名詞。三嶋。さらに上の役職の名。連絡先。契約の断片。数字に値段。値段に人間の顔はない。
「これで、足りる」
朱莉の声が乾く。乾いた声は、脆い。脆さを支えるには、となりの音が要る。玲央は短く答える。
「足りる」
二文字の重さが、床の反発で確かめられる。その時――通路の端で誰かの低い声。名前を呼ぶ。玲央。反射でそちらを向く。目に入るのは黒い帽子の陰。声の主は笑っていない。笑っていないが、怒ってもいない。怒りを外側で消費する訓練。訓練の匂い。
「退路を変える」
藤堂が言う。図面の隅に書かれた保守ハッチへ目線が走る。鈍い金属の蓋。ねじ。手持ちの工具で足りるか。足りる。朱莉がカードキーで非常用電源を一瞬落とし、非常灯の青が濃くなる。その青の影で、三人は滑り込む。滑り込み、蓋が閉まる直前、廊下を走る靴音が二つ、素通りする。
狭いハッチの中は熱い。配線が壁を這い、ケーブルの皮膜が甘い匂いを出す。汗が背中に貼り付き、呼吸が内側で大きくなる。大きい呼吸は、音になる。音を小さくする。肺の縁を狭め、息を長く薄く吐く。吐いた息に、金属の味が混じる。混じる味は、戦いの味。
進む。金属の響きが足の裏に伝わる。足の裏は、嘘をつかない。角を曲がるごとに温度が変わり、空気の密度が僅かに違う。違いの小ささで、距離感を測る。測る技術は、舞台で育つ。舞台は、戦場の訓練所だ。
ハッチの出口を押すと、夜の外気が流れ込む。涼しさが皮膚を一気に奪い、筋肉の表面が鳥肌を立てる。SONIC DOMEの裏側の駐車スペース。白い壁。高い外灯。人影はない。ないのに、視線の気配はある。気配は、空気の圧で分かる。見られている。見せている。選んだのは後者。
「――今日のは、ただの序章」
玲央は呟き、指の関節を伸ばす。骨が小さく鳴る。鳴る音は、目に見えないが、手の内で確かだ。朱莉はポケットのストレージを握りしめ、胸に当てる。心臓の拍とストレージの角が軽く当たり、そのカドが疼く。疼きは生の証拠。藤堂は空を見上げ、薄く笑う。
「本番は、連れて行かれたやつを取り返してからだ」
「取り返す」
「当然だ」
三人の短い会話の隙間に、南から風が吹く。潮の匂いが薄く、代わりに街のアスファルトが温度を吐く匂いが濃い。季節は秋へ傾こうとして、まだ夏の端を手放さない。手放さない世界に、燃やすべき鎖がある。鎖は冷たく、重い。重いものを切る音は、鋭く短い。
夜の空は、群青から黒へ移り変わる最中で、星は少ない。少ない星の間を風が通り抜け、音もなく戻る。戻る風の中で、玲央の内側の拍は、赤ではなく深い橙色でゆっくり脈打つ。橙は炎の中心の色で、長く燃える。短い火ではない。長い火だ。長い火で、鎖を焼き切る。
――そして、翌日。日向シティの朝は少しだけ冷たく、商店街のスピーカーは早い時刻から明るく喋る。BATTLE RHYTHM FESTIVALの告知は昨日よりも増え、看板のロゴは色を増し、街のガキどもは腕に黒いバンドを巻いて走る。数字は街へ降りる。降りた数字が、人の呼吸を律する。律されて、笑うやつもいる。笑えないやつもいる。
体育館。床の匂い。埃と木と汗と洗剤。いつもと同じ。だから、違いが分かる。違いは空気の粘度。朱莉の足音の軽さ。藤堂の肩の線。玲央の拳に宿る温度。指先に細く残るひやり。貼った小さな遮断デバイスが、皮膚の下で淡く脈打つ。
「練習、いつもどおり」
朱莉の声は短く、芯がある。芯は、折れると危ない。だから、まわりの布で守る。守りすぎると弱る。弱らせない布の巻き方を、皆が少しずつ学ぶ。
ステップ。呼吸。拳。音。重ねる。重ねて、落とす。落として、拾う。拾って、置く。置いた場所に、昨日よりも深い足場。足場が深いと、跳ぶときに恐れが薄い。恐れが薄いと、狙いに迷いがない。
「玲央」
名前が呼ばれる。いつもより少し筆圧の低い声。振り返る。朱莉が、まっすぐ見る。まっすぐな目は、問いを抱える。抱えた問いは、彼女自身へ向かっている。
「私――悠真くんを連れていかせた日に、逃げた。ごめん」
「逃げてねぇ」
「逃げたよ」
「逃げてない。選んだだけだ。選ばなきゃ、俺たちは今ここにいない」
沈黙。沈黙がいつもより軽い。軽さは罪悪感を薄める。薄くなった罪悪感は、役に立つ後悔に変わる。役に立つ後悔は、未来の筋肉だ。
「取り返すために、全部使う」
朱莉の手がストレージを握り、白くなる。白さは、決意の色。決意は音に乗せやすい。音に乗った決意は、舞台で倍になる。
窓から南の風が入る。風は湿り、熱、塩、過去の音、これからの音を一緒に運ぶ。高校のチャイムが鳴り、体育館の天井のファンが気怠く回り、誰かの笑いが遠くで三拍半ズレて弾ける。ズレは音楽の母親だ。ズレを愛せるやつだけが、自由になる。
――午後。SONIC DOMEに向かう準備。藤堂は薄い防具を着け、朱莉は帽子のつばを深くし、玲央は拳の布を新しく巻く。新しい布は、硬い。硬さは馴染ませる。馴染ませるほど、音が通る。通った音は、殴り方を教える。
出発の直前、玲央は一度だけ空を見上げる。雲は薄く、光は白い。白い光は、嘘を浮かび上がらせる。浮かび上がった嘘の輪郭に、拳の影を重ねる。影は軽い。軽さは、前触れ。前触れで十分だ。本番は、殴るだけ。
南風が吹く。匂いが変わる。夏はまだ、終わらないふりをしている。ふりを見抜く殴り方を、体は覚えた。覚えた殴りで、鎖を焼く。焼けた匂いが空に溶け、空の端で光が跳ねる。
――音は、戻ってくる。名前のない拍で。燃える色で。重なり合う温度で。ここから、すべてを断ち切るために。
足音が背後から近づく。砂利を踏む音は軽いが、節々に重みがある。藤堂颯真が、缶コーヒーを二つ指に挟んで現れ、片方を玲央へ放る。空中で冷えた金属が短い音を鳴らし、手のひらに吸い付く。プルタブを引く音が重なる。港の薄闇に、金属の匂いがひとしずく落ちる。
「やつら、動いてる」
藤堂の声は乾いている。けれど乾きの奥に湿度を隠す。濡れる場所を知っているから、表面は乾く。
「SonicEdgeの“内部資料”ってやつ、見せてもらう」
玲央は言い、缶の口に触れる。甘さは弱い。眠気を殴るには足りないが、神経の縁に薄い膜を貼るくらいの仕事はする。
「黙ってろって顔、するなよ」
「似合わないか」
「似合わないな」
「なら、淡々と読め」
無愛想なやり取りの隙間に、ゆるく笑いが滲む。その笑いは、拳の骨を柔らかくする。柔らかい骨は折れにくい。折れにくいが、曲がる。曲がる強さは、戦いの中でいちばん役立つ。
コンクリートの上に広げられたクリアファイル。薄い紙束。印字は整然、余白は狭い。企業の言葉は、余白を嫌う。余白は呼吸で、呼吸は自由だから。藤堂が指先で紙を押さえ、風にさらわれないよう半身を傾ける。読み取れる単語がいくつも浮かび、沈む。
――リズム同期装置:校正関数の手動調整
――観客センサー:上位候補への露出最適化
――リアルタイム補正:プロファイルごとの閾値設定
――ハードリミッタ:出力ピークカット、フェイルセーフ
玲央は眉を寄せない。眉を寄せるのは、感情を表に置くやり方だ。いまは内側で燃やす。紙の角に触れる指先が熱を帯び、夜風がその熱を薄く剥ぎ取る。
「――悠真は、これを見たのか」
「一度。二年前、内部告発を試みたやつが“いなくなった”頃にな」
藤堂の視線が港の暗がりへ流れる。過去の輪郭は、夜の水面に似る。覗き込めば揺れ、手を入れれば飲まれる。飲まれない方法は、足場を複数用意すること。人の手、音、笑い。どれも足場になる。
「俺たちの“負け”は、数字で描かれた負けだった。描かせたやつがいる」
「いる。ほんの数人。けど、やつらの後ろに、金と空白に耐えられない大勢がいる」
金と空白。紙の上の単語より重い二語が、夜気の中で薄い光沢を帯びる。空白に耐えるために、数字に頼る。数字に頼り、音を痩せさせる。痩せた音は従順で、従順は管理しやすい。
「――で、行くのか」
「行く」
「単純に言うなよ」
「単純なことほど複雑だろ」
藤堂が鼻で笑い、足先で転がした空き缶がコツンと鳴る。遠くの波頭が細かく砕け、その音が遅れて届く。遅れてくる音は、静かに心臓の鼓動へ沈む。
背後から、さらに足音。軽い、速度のある歩幅。呼吸に迷いがない。銀の髪が夜の光を拾い、榊悠真が防潮壁の影から姿を見せる。彼の目は暗がりで色を失わず、むしろ光を集めてやわらかく灯る。手には薄いノートPC。手首の同期バンドは黒いテープで覆われ、ディスプレイは見えない。
「遅かったな」
「回り道をした」
「誰に見られた」
「見られた。けど、見せた」
玲央の心拍が一つだけ深くなる。悠真は、言葉で説明しない。説明は音でする男だ。だが今日は、音を抑えている。抑えた音が背骨の奥で太り、目に濃度を与える。
「内部ログ、抜いた。少しだけ。次の大会のサーバー、管理室にデータが集約される。夜のスタジオ二号棟、管理室C。明日、メンテ」
悠真がノートPCの画面を開き、地図を示す。モノクロの図面。通路。鍵の記号。セキュリティゲート。監視カメラの円錐が綺麗に重ねられ、死角はほとんどない。ほとんど、だ。完全は、いつも嘘を含む。
「三十分が限界。藤堂、外でノイズを撒けるか」
「撒ける。俺の“ビート・シールド”を逆相にして、ドーム全体のセンサーに薄い霞をかける」
「霞の厚みは」
「お前の名前を呼ばれたら増す」
返す皮肉に笑いが混じる。笑いがある限り、戦いは生き物だ。笑いを失った戦いは儀式に堕ちる。儀式は誰かの都合に奉仕する。奉仕は似合わない。
計画は短く、無駄がない。正面からではない。音で鍵をずらす。観客センサーのダミーを挿し、ログ出力を外部にミラーリングする。証拠は音と数字の両方で捉える。数字だけでは裁けない相手だから。音だけでは届かない場所だから。
「――その前に、俺の腹の内も見せとく」
悠真が目線を落とし、拳を一度だけ握り開く。関節の白さが薄い灯りで浮かぶ。
「俺が消えたのは、脅されたからだけじゃない。玲央、お前を遠ざけることで、もう一度音を純粋にしたかった。間違いだった」
音が胸骨に当たって跳ね、燻っていた熱が育つ。育った熱は、怒りじゃない。余計な言い訳を燃やし尽くす種類の火だ。玲央は拳をひとつ鳴らし、短く頷くだけにした。長い言葉は、今日の空気に似合わない。
――夜。スタジオ地区。二号棟の周囲は人の気配が薄く、石畳は黒く艶めいている。裏手の非常口から、冷たく乾燥した空調の匂いが吐き出される。壁面の蛍光灯は一定間隔で配置され、その影は規則正しく地面に並ぶ。規則正しさは気持ち悪いほど美しく、そこにひびを入れたい衝動がうずく。
玲央はフードを浅く被り、指先にバンテージを巻き直す。手首の内側の鼓動が布越しにかすかに震え、布の繊維がそれに合わせて呼吸する。藤堂は少し離れた電柱の影に立ち、耳に小型のレシーバーを当てている。彼の周囲の空気がわずかに歪む。音波が盾になる直前の、薄い透明の層が張られていく感覚。悠真は短いコードをポケットから出し、非常口のパネルに触れる。カチ、と乾いた音がして、鍵の向こうが一瞬だけ眠る。
「十七秒」
悠真の囁き。十分すぎる猶予。だが、余裕はいつも罠になる。玲央は足音を消し、廊下に滑り込む。床は樹脂、反発が少ない。壁に沿って設置されたセンサーの点滅は緑。天井のダクトからの風が一定のテンポで吐息を漏らす。吐息の間隔に、呼吸を合わせる。呼吸を合わせれば、存在は薄くなる。薄くなった存在に、床が少しだけ優しくなる。
角を二つ曲がり、非常灯の薄い青が視界に染みる。管理室Cのドアは曇りガラス。室内に人影が二つ。椅子の音が小さく軋む。カップにスプーンが当たる音。眠気を誤魔化す砂糖の撹拌。悠真が顎で反対側の壁を指し、玲央はうなずく。音の薄い囁きが耳へ滑る。
「三拍後、入る」
「二拍目で左の足を止める」
「一拍目で視線を切らせる」
短い設計図が空気に描かれ、呼吸がそれを染める。三、二、一。悠真が指先でドアの蝶番に触れ、透明な糸をかける。玲央はドアノブを一瞬だけ押し、押し込みと引き戻しの中間に置く。蝶番の金属が、無音で諦める。開いた隙間から冷たい光が漏れ、室内の気配が鮮明になる。
椅子の男が振り向く前に、床板が微かに鳴る。視線がそちらへ流れる。玲央は二拍目で左足を止め、視線の軸を外す。男の視線が追いつく前に、悠真の音が彼の足元へ薄い鎖をまとう。鎖は柔らかく、だが確かに動きを遅らせる。玲央の手はすでに男の手首へ軽く触れ、指の付け根の神経を押さえる。力は最小でいい。体は力の方向で従う。男は抵抗を覚える間もなく、椅子に戻る。隣の人影は驚愕で固まり、言葉を作る前に藤堂のノイズが小さな機械の受信部を満たす。警報は鳴らない。鳴らない音が、最良の音になる。
キーボード、タワーPC、計測モニタ。壁のラックには同期装置のサーバー。天井の隅にカメラ。黒い目玉は気づかないふりをしている。振りは、誰かの指示で成立する。
「外の霞、二割増し」
藤堂の低い声がレシーバーに乗る。空気の粘度がわずかに高まる感覚。玲央はラック前に立ち、モニタのログを追う。細かい数列。波のように刻まれた拍の軌跡。そこに、人為の痕跡がある。関数が不自然に切り替わる位置。閾値が人間の直感と矛盾する瞬間。数字は、時々、正直に嘘を吐く。吐いた嘘の縁は鋭く、触れると切れる。切れた場所から、真実の匂いがにじむ。
悠真は腰を落とし、裏ポートから小さなデバイスを差し込む。画面にミラーリングが始まり、ログが外部のストレージへ滑り出す。滑る音はしない。けれど、確かに何かが動く気配。画面の隅に、見慣れた名前が一瞬だけ現れ、消える。
――ICHINOSE AKARI:SUPPORT STAFF ENTRY
玲央の背筋が冷える。呼吸が半拍だけ遅れ、すぐに戻る。悠真と目が合う。彼も見た。見たが、動きは崩さない。崩さない理性は褒めるべきか、殴るべきか。殴るなら、敵を。理性は味方だ。
「……朱莉が、ここで」
声は作らない。喉の奥で形だけ。音にすると刃になる。いま刃を増やす場面ではない。ラックの上段のランプが一瞬だけ黄色く変わる。センサーは眠い。眠いセンサーは、嘘を見逃す。眠りを深くするには、優しい子守唄が要る。藤堂のノイズが、まるで海鳴りのように低く遍在し、金属の梁を伝う。
ログの複製は半分を超える。汗が手のひらに染み、バンテージが重くなる。重さは悪くない。重さが、現実の輪郭になる。あと三十秒。二十。十。ゼロ。悠真がデバイスを抜き、コードを巻き取る。空気の粘度が戻る。戻る直前、ドアの外の靴音が早い拍で近づく。走る音。走るときの呼吸の高さ。小柄。軽い。知っている音。
ドアが開く。飛び込んできた肩が扉の縁にぶつかり、鈍い音を立てる。キャップ。ポニーテール。首に下げたカードキー。息を飲む音が、短く高い。
「ごめん――!」
朱莉が、そこにいた。額に汗。目の縁が少し赤い。唇は固く結ばれ、頬は白い。白さは恐れの色じゃない。責任の色だ。彼女の背後で、SonicEdgeの職員が二人、息を整えながら追いつく。腕に灰色のバンド。目は笑っていない。笑っていない目は、安い。
玲央の体は動かない。動かせば、何かが壊れる。壊したくないものは、目の前に全部いる。悠真が、先に声を出す。
「朱莉」
名前は短い。短い名前は、祈りに似る。祈りの高さで響く。
「違うの、私――」
言葉が続かない。喉が詰まるのは悲しみのせいじゃない。何を先に言えば壊さずに済むかを測っているからだ。測る時間は、敵にとって好機だ。職員の一人が前に出ようとする。出る瞬間、藤堂のノイズが一段階深くなる。機械の耳が一瞬だけ迷子になり、職員のインカムがシャッという不快な音を吐く。
「止まれ」
玲央の声は低い。低さは怒りを包む毛布の厚さ。職員は二の足を踏む。それでも、彼らの背中には組織の温度がついている。規則の温度。責任の温度。人間の温度ではない。
「彼女は、内部の“オペ”に入っている。出場者のスケジュール調整、データのラベリング、露出の最適化――」
悠真が職員の視線を切るように言い、朱莉へ目を戻す。朱莉は一度だけうなずく。その頷きは、懺悔ではない。状況の共有だ。
「やらなきゃ、私……学校にも、ここにも……居場所、なくなるって」
言葉の端が震える。震えは涙じゃない。声帯の筋肉が緊張で細かく痙攣しているだけ。玲央は一歩だけ近づく。近づく足音は柔らかい。柔らかさは、攻撃ではない証明。証明しないと、彼女の呼吸が浅くなる。
「話はあとでいい。今は――ここを片付ける」
「片付けるって、どうやって」
職員のひとりが鼻で笑いかけ、音の途中でやめる。藤堂のノイズが、彼の聴覚の一部を侵したを撫でたから。撫でられた耳は、思わず目を細める。目を細めると、世界は狭く見える。狭く見えれば、余計な勇気は少しずつ減る。
「簡単だ」
玲央は拳をわずかに上げる。上げただけ。殴らない。殴るのは、最後の選択に残す。拳の影が蛍光灯の下で短く震え、その影を見つめた職員の喉仏がひとつ上下する。震えの音が、室内の空気に薄く混ざる。
そのときだった。管理室の奥のラックが、微かに唸った。唸りは低く、機械の喉の奥から出る声。天井の蛍光灯がほんの一瞬、点滅する。冷たい空気の流れが乱れ、紙の端が震える。次いで、玲央の手首の下で何かが熱を帯びた。黒いバンドの裏、皮膚の薄いところに、針の先でつつくような痛み。痛みはすぐに熱に変わり、じわりと広がる。
「玲央」
悠真の声が低く沈む。胸の中心が乱れる前に、呼吸を長く取れと言っている。理性の声。理性は好きだ。だが、間に合わないことがある。
手首から走った熱が、尺骨の内側を駆け上がり、肘の内側で花開く。花は赤い。赤は音になる。音は波になる。波は、制御されないと街を壊す。街が壊れる前に、体が先に裂けそうだ。内側から押し広げられる膜。皮膚の下、骨の周囲、筋肉の繊維が一本ずつ響く。響きが共鳴に変わる。共鳴は爆ぜる寸前の薄い膜を張り、そこに指をかけてくる者がいる。
――装置だ。
「やめろ」
誰に向けた言葉か、自分でも分からない。分からないが、声は出る。出た声が、自分の鼓膜を打つ。打たれた膜が、身内の音で震える。震えが気持ち悪い。気持ち悪さを、拳に逃がしたくなる。
バンテージの内側で、血管が膨らむ。心拍は数にして測れる範囲を超え、波形の密度でしか表せない形に崩れる。崩れた波形は、美しい。美しいものほど危険だ。危険は、魅力だ。魅力に体が引かれる。
「落ち着け、玲央。呼吸。俺を見ろ」
悠真が前に出る。距離が一気に詰まり、視界が銀の睫毛で満たされる。彼の手が頬に触れる。指先は冷たい。冷たいはずなのに、触れたところから熱が逃げる。逃げた熱が彼の手首に移り、今度は彼の皮膚が薄く赤くなる。痛みは小さな星のように瞬き、消えるタイミングを見失う。
「制御信号が入ってる。バンドの中の欠片から。切る」
悠真は玲央の手首を取って、黒いバンドの縁に指をかける。外すには、専用の器具が要る構造。だが、器具は要らない。要らなくする。指先で空気を鋭く弾き、音の刃でラバーの薄皮を割く。ミリ単位。血は出ない。代わりに、熱が逃げる道が細くできる。
「藤堂、ガードを俺たちに集中」
「上げる」
空気の厚みが変わる。耳がつまる感覚。圧の方向が限定され、装置からの信号が少し鈍る。鈍った刹那に、玲央は深く息を吸い込む。肺の底が熱を受け止め、吐く息に赤い光が混じる錯覚。錯覚は、今は真実の代わりとして役に立つ。
――しかし、波は一段と大きくなる。床が微かに震え、ラックのネジが鳴る。天井の蛍光灯が連鎖的に明滅し、目の奥の膜に白い棘が刺さる。朱莉が息を呑み、職員の一人が慌てて無線に手を伸ばす。
「離れて」
玲央は己の声を信じ、扉へ向かって一歩踏み出す。踏み出した足の下で樹脂床が低く悲鳴を上げ、ひびが蜘蛛の巣のように走る。ひびの走る音は美しい。美しさを味わう暇はない。拳が勝手に上がる。上げないはずの角度まで上がる。上がるところまで上がった拳は、空気の皮膜を裂き、赤い波動を吐く。波は壁に当たり、金属が呻き、ガラスが疲れ、スクリーンがひとつ、パリンと割れる。
「玲央、戻せ」
悠真の声は命令ではない。祈りに近い。祈りは、時に命令より強い。玲央は、拳を握り直し、肘から先をゆっくり下げる。筋肉の一本一本に意識を通す。意識は針になる。針は暴れる獣の皮膚を縫い止める。縫い止める作業は繊細で、時間がいる。時間はない。
「守れ、朱莉を」
玲央の言葉が息と一緒に出る。朱莉は一歩後ろへ下がり、背中を壁につける。壁は頼りになるが、逃げ道を奪う。奪うものから力を借りるには、体幹をゆっくり壁に預ける技術が要る。彼女は知っている。やり方を知っている人間は、美しい。
職員が叫ぶ。何を言っているのか、音の輪郭は拾えるのに、意味が滑る。滑る意味は、いま必要ない。必要ないものを脳は捨てる。捨てたぶん、視界が鮮明になる。視界の鮮明は、危険の鮮明。玲央は、その危険に正面から目を合わせる。
「落ち着け。俺が護る」
悠真の両腕が、玲央の背中から回り込む。抱き止める、というより、暴れ馬の鼻面を両手で包むように、前に回す。彼の胸の音が、玲央の背骨に伝わる。音は青い。青い音は火を弱めない。火の輪郭を丸くする。丸くなった火は、燃やし方を選べる。
「触るな――」
玲央の喉が短く唸る。唸りは獣の音に近い。近いが、獣ではない。獣に憧れる人間の音。憧れは危険だ。危険を抱えたまま、悠真はさらに密着する。密着は、戦いの距離でもある。戦いの距離で、息を合わせる。息が合うと、間合いが変わる。間合いが音の色を変える。
焼ける匂い。皮膚の表面で空気が焦げる臭気が一瞬立ち上がる。悠真の前腕に赤い線が走り、皮膚が薄く泡立つ。痛みは彼の顔に出ない。出さない訓練が骨にまで染みている。染みた訓練は冷たい。冷たさは、玲央の中の熱へ吸い寄せられる。
「痛ぇな。けど、これは俺の音じゃない」
彼の呟きが、玲央の耳のすぐ後ろで震える。玲央は、目を閉じる。閉じた瞼の裏に赤い波がひろがり、その波の端から青い線が伸びてくる。青い線は悠真の音。音は線であり、布でもある。布が赤の上にそっと重なり、燃え方が変わる。ゆらぎが一定になる。一定のゆらぎは、自由の最小単位だ。
「藤堂、今だ」
悠真の声。藤堂のノイズが旋回の向きを変える。機械の喉が咳をするように一瞬止まり、制御の針がわずかに飛ぶ。バンドの欠片が皮膚の上で微かに外れ、ラバーの下からひとすじの冷気が染み入る。冷気は炭酸水の泡のように皮膚の下で弾け、熱の表面を洗う。洗われた熱は中心へ戻る。戻ると、燃える場所がまとまる。
「落とせ」
悠真の掌が玲央の胸の中心に軽く当てられ、圧が一拍分だけ入る。入った圧が、心臓の拍をほんの一ミリ深く下へ押す。押された拍は戻るが、戻り方が変わる。戻り方の違いは、波形の端にだけ現れる。端が滑らかになる。滑らかになった端から、赤い波が少しずつ薄れる。
「……いける」
玲央は息を吐き、拳を下ろす。肩の力が落ちる。落ちた肩の上で、汗が冷える。冷えた汗は、現実に戻す。現実は容赦ない。でも、優しいときもある。今は、その中間。
その瞬間――銃の安全装置が外れる小さな音。空気が瞬き、管理室の入口に黒い影が四つ滑り込む。黒い制服。胸のバッジ。目の上の影。武器の先は向けられない。向けられたのは、彼らの視線。視線が冷たい。冷たい視線は、音を削ぐ。
「手を上げて離れてください」
無機質な声。命令の高さ。高さは、恐怖で測られる。玲央はゆっくり両手を上げる。バンデージの白が薄闇で鈍く浮く。悠真は顎をわずかに上げ、彼らの後ろの空気を観察する。脱出口はない。ないからこそ、彼は選ぶ。選んだ顔になる。
「俺を連れていけ」
静かに、まっすぐ。彼の声の芯に、薄い震え。震えは恐れではない。決断の名残。名残は、刃を丸くする。
「条件がある」
職員の一人が鼻で笑う前に、悠真が続ける。
「彼には触れない。彼女にも。連れていくなら、俺だけ」
「何の保証がある」
「保証は音だ」
ふざけた答えに聞こえる。だが、ふざけていない。玲央の喉が、ひとつ縮む。縮みは、叫びの予兆。叫べば砕ける。砕けた破片は、朱莉に刺さる。刺さる未来は許さない。
「ふざけてねぇぞ」
玲央の声は荒れない。荒れないまま、床の下の低音を拾う。低音は、抵抗の足場。足場があると、真っ直ぐ立てる。
「悠真」
名前は短い。短い名前は刃物になる。刃物で切れるのは、覚悟の膜。薄く切れた膜の向こうに、彼の目がある。目は揺れない。揺れないまま、柔らかい。柔らかさの中に硬さが一本、芯のように通る。
「大丈夫。お前が、俺を見つける」
「ふざけんな」
「ふざけてない」
視線が絡み、離れない。離れるのは、彼の身体の方だ。黒い影が彼の両腕を取り、出口へ導く。導く、という言葉は優しいが、実際は粗い。粗さは、音に出る。出た音は、耳に棘を残す。棘は、後で役に立つ。
「朱莉、行け」
玲央の声に、彼女は一瞬躊躇い、すぐに頷く。頷きは小さいが、確かだ。彼女はカバンから何かを取り出し、玲央のバンデージの中へ押し込む。薄いシールのようなもの。触れるとひやり。ひやりは、電子の匂い。
「緊急遮断のダミー。今のは本線じゃない。これで少しは自分で切れる」
「どうして」
「私が……私のせいで、あの装置、ここに運ばれたから」
言葉が終わる前に、黒い影の一人が朱莉の腕を掴む。掴んだ指は太い。太い指は、丁寧さを忘れる。忘れた指は、骨を傷つける。玲央の内側で何かが跳ねる。跳ねたものは拳に乗る。乗りかける。だが、悠真の視線が止める。止めるというより、凪にする。海が風を飲み込み、波を半歩遅らせるあの凪。
「行け」
玲央が繰り返す。朱莉は息を飲み、足を後ろへ引く。藤堂が廊下の影から手招きし、彼女はそちらへ滑り込む。黒い影の注意が一瞬そちらに向く。向いた注意の隙間に、悠真は自分の足を半歩前へ置く。置いた足が床に薄い音を印し、その音が玲央の胸骨の裏へ残る。
「俺を連れていけ。そいつらではなく、俺を」
「判断は、上がする」
「上がするなら、上に言え。俺の“音”が欲しいんだろ」
言い切った瞬間、空気の温度が一段下がる。管理室の奥で、無機質なスピーカーがカチリと鳴り、合成音声が短く返答する。
『対象、榊悠真。拘束を優先』
冷たい判断。冷たいほど、信頼できる。信頼したくないが、信頼できる。玲央は唇の内側を噛む。血の味は鉄。鉄は道具。道具は使い方だ。
黒い影たちは悠真を左右から挟み、連行を始める。踵のゴムが床を擦る音が規則正しく重なり、通路の蛍光灯がひとつ、またひとつ、彼らの頭上を過ぎてゆく。影が遠ざかる。遠ざかる音は、嫌いだ。嫌いだから、胸の中の何かが赤くなる。
「――やめろ、行くなよ」
声があふれる。止められない。止めるべきじゃない声もある。止めなかった声は、天井で薄く反響し、耳へ戻る。戻った声が、胸の奥で小さな爆発を起こす。爆発の火花は涙の形に似るが、溶けて流れない。流れないなら、燃料になる。
悠真は振り返らない。振り返らない勇気は、残酷だ。残酷さは、愛の一部だ。彼の横顔の輪郭だけが、最後に一度だけ光の端で白く際立ち、そして消える。消えた場所に、薄い音が残る。名前を持たない拍。
静寂。管理室に、機械の冷却ファンの音だけが薄く続く。続く音は、神経をすり減らす。すり減らされた神経の縁に冷たさが溜まり、舌の上で金属の味が広がる。玲央は、拳をゆっくり開く。掌に刻まれたバンテージの跡が赤い網目になり、網の下で血がまだ熱い。
「――助ける」
言葉に飾りをつけない。誓いは短い方が強い。藤堂が影から現れ、目の奥に火を入れる。
「だから、生き延びろ。燃え尽きるな。お前の“熱”は武器で、同時に罠だ」
「分かってる」
「分かってない顔だ」
「分かってる」
藤堂は鼻で笑い、肩をすくめる。笑いが、背中の硬さを少しだけ溶かす。溶けた硬さは、必要な筋肉へと流れる。
外へ出ると、夜風が胸の汗を一気に冷ます。冷たさが、集中を取り戻す。港の灯りは数を減らし、タラップの鎖がゆっくり軋む。遠くで救急車のサイレンが細く鳴る。誰かの夜が別の色で進む。世界は同時にいくつも走り、衝突せず、残酷に平行だ。
「玲央」
朱莉の声が小さく呼ぶ。彼女の手の中で、カードキーが震えている。震えは恐れではない。怒りだ。自分に向けた怒り。無力に向けた怒り。怒りは正しい方向へ向けなければ意味を持たない。
「私が連れてこられた会議室、SonicEdgeの中枢の図面、少し覚えてる。紙にもメモを取った。隠してある」
「どこに」
「学校のロッカー。ねじの下」
玲央は頷く。頷きは約束だ。約束を重ねすぎると重くなる。だが、重さは必要だ。足場になる。足場が増えれば、跳ぶ高さが増える。跳ぶ場所はひとつ。SONIC DOME。本社。
その夜、玲央は眠らない。ベッドに体を置いても、呼吸は眠りの波形にならない。窓の外で港の灯りが瞬き、風がカーテンの裾を揺らす。目を閉じれば、銀の髪の動き、青い音の線、赤い波の縁、朱莉の小さな頷き、藤堂の薄い笑い、それらが順番に浮かび、沈む。沈まないのは、ひとつ。悠真の視線の温度。温度は数字にならない。ならないものがいちばん強い。
明け方前、空が濃い群青に染まる。鳥の鳴き声はまだなく、街は息を止めたように静かだ。静けさは、戦いの直前の音。玲央は起き上がり、冷たい水を飲む。舌の上に広がる無味が、逆に味わいになる。鏡の前で手首のバンテージを巻き直し、朱莉から渡された小さなシール型デバイスをバンドの内側へ貼る。貼った瞬間、微かな振動が皮膚に触れ、内部の信号の流れが別の道へ逸れる感覚。逸れた信号が肩口まで来る前に弱まり、消える。
学校。朝の空気は薄く冷えて、廊下の床は昨夜の湿度を僅かに抱いたまま乾く途中だ。靴の音が長く伸び、掲示板のポスターの隅が捲れ、風でぴくりと震える。ロッカーの扉の蝶番に指先をかけ、ねじの一本を外す。固い。固さは誠実。力を斜めに流し、ふと緩む感触の直後、ねじが音を立てて回る。薄い紙束が出てくる。朱莉の字。走り書きなのに美しい。美しさは性格だ。図面の隅に小さな矢印。非常階段。搬入口。非常用電源。保守用ハッチ。いくつものルートが細い線で示され、赤い丸が三つ打たれている。
――露出最適化室
――観客センサー中継
――意図的閾値調整端末
意図的。意図は、刃物だ。刃物は鈍くしても刃物。鈍くした分、傷が広がる。
「行くぞ」
放課後、体育館で短く身体を起こし、藤堂と合流。朱莉は長い髪を結び直し、目の下の小さな影を隠さない。隠さないのは、選択だ。選んだ顔は、強い。
日が傾く。SONIC DOMEは白い巨体を夕陽で薄く染め、ガラスの肌は周囲を歪めて映す。中枢へ繋がる導線は美しく管理され、余白は計算され、雑音は排除されている。排除された場所では、音が痩せる。それでも音は生まれる。生まれ続ける。
――侵入の夜。三人は音を殺し、影を跨ぎ、白い廊下を滑る。靴の底が樹脂の床に置かれるたび、ごくごく薄い音が世界に加算される。加算された音は、藤堂の霞の中で溶ける。監視カメラの黒い目は、予定された映像のループを見ているふりをし、実際には眠っている。眠りの中心に、誰かの意図。意図は薄く、しかし確か。
露出最適化室。壁一面のスクリーン。リアルタイムで流れる観客の反応曲線。拍手、歓声、SNSの言及、滞留時間、再生回数の推計。すべては数字に変換され、数字は色のない美しさで整列する。美しすぎる。冷蔵庫の中の果物みたいに色が失せる。朱莉が端末から端末へ視線を走らせ、キーボードに指を置く。置いた指の腹が白くなる。白さは緊張の証拠。証拠は、燃料。
観客センサー中継室。天井から何本も垂れ下がる線が、透明な管を通ってラックへ吸い込まれている。管の中で光が走る。光は速い。速い光に音は追いつけない。追いつけないものには、追い越す別の道が要る。道は、作る。
意図的閾値調整端末。四角い画面に小さな数式。if、else、threshold。人間が決めた論理。論理は道具。悪用される前に、証拠に変える。朱莉がポケットから小さなストレージを出し、端末に挿す。画面の隅に、記録中の表示。玲央の喉が乾く。乾きを舌の裏で転がし、呼吸のリズムを落ち着ける。
「――来る」
藤堂の声。空調の向きが変わる。風が一瞬だけ止まり、次の瞬間、別の方向から吹く。吹き方を変えさせた意図がある。足音。硬いゴム。二人。武器の匂い。二人は通路を過ぎるだけ。過ぎる音が遠のく。遠のいた直後、別の足音。軽い。躊躇う気配。朱莉の歩幅に似た間合い。だが違う。違うのは肩の振れ。肩が強張っていない。つまり、敵ではない。
「戻ったら、怒る」
玲央の声は冗談の形。冗談は防御の布。布の裏で、拳は硬く握られている。握りの中に、悠真の名前がある。名前は、熱の芯になる。芯があれば、炎は形を保つ。
露出最適化室のログが、朱莉のストレージに吸い込まれていく。観客センサー中継室の裏口の保守パネルが、藤堂の指で一瞬だけ眠り、小さなスイッチが二度だけ呼吸する。閾値調整端末が、実行中の関数の履歴を吐き出す。履歴の中に、固有名詞。三嶋。さらに上の役職の名。連絡先。契約の断片。数字に値段。値段に人間の顔はない。
「これで、足りる」
朱莉の声が乾く。乾いた声は、脆い。脆さを支えるには、となりの音が要る。玲央は短く答える。
「足りる」
二文字の重さが、床の反発で確かめられる。その時――通路の端で誰かの低い声。名前を呼ぶ。玲央。反射でそちらを向く。目に入るのは黒い帽子の陰。声の主は笑っていない。笑っていないが、怒ってもいない。怒りを外側で消費する訓練。訓練の匂い。
「退路を変える」
藤堂が言う。図面の隅に書かれた保守ハッチへ目線が走る。鈍い金属の蓋。ねじ。手持ちの工具で足りるか。足りる。朱莉がカードキーで非常用電源を一瞬落とし、非常灯の青が濃くなる。その青の影で、三人は滑り込む。滑り込み、蓋が閉まる直前、廊下を走る靴音が二つ、素通りする。
狭いハッチの中は熱い。配線が壁を這い、ケーブルの皮膜が甘い匂いを出す。汗が背中に貼り付き、呼吸が内側で大きくなる。大きい呼吸は、音になる。音を小さくする。肺の縁を狭め、息を長く薄く吐く。吐いた息に、金属の味が混じる。混じる味は、戦いの味。
進む。金属の響きが足の裏に伝わる。足の裏は、嘘をつかない。角を曲がるごとに温度が変わり、空気の密度が僅かに違う。違いの小ささで、距離感を測る。測る技術は、舞台で育つ。舞台は、戦場の訓練所だ。
ハッチの出口を押すと、夜の外気が流れ込む。涼しさが皮膚を一気に奪い、筋肉の表面が鳥肌を立てる。SONIC DOMEの裏側の駐車スペース。白い壁。高い外灯。人影はない。ないのに、視線の気配はある。気配は、空気の圧で分かる。見られている。見せている。選んだのは後者。
「――今日のは、ただの序章」
玲央は呟き、指の関節を伸ばす。骨が小さく鳴る。鳴る音は、目に見えないが、手の内で確かだ。朱莉はポケットのストレージを握りしめ、胸に当てる。心臓の拍とストレージの角が軽く当たり、そのカドが疼く。疼きは生の証拠。藤堂は空を見上げ、薄く笑う。
「本番は、連れて行かれたやつを取り返してからだ」
「取り返す」
「当然だ」
三人の短い会話の隙間に、南から風が吹く。潮の匂いが薄く、代わりに街のアスファルトが温度を吐く匂いが濃い。季節は秋へ傾こうとして、まだ夏の端を手放さない。手放さない世界に、燃やすべき鎖がある。鎖は冷たく、重い。重いものを切る音は、鋭く短い。
夜の空は、群青から黒へ移り変わる最中で、星は少ない。少ない星の間を風が通り抜け、音もなく戻る。戻る風の中で、玲央の内側の拍は、赤ではなく深い橙色でゆっくり脈打つ。橙は炎の中心の色で、長く燃える。短い火ではない。長い火だ。長い火で、鎖を焼き切る。
――そして、翌日。日向シティの朝は少しだけ冷たく、商店街のスピーカーは早い時刻から明るく喋る。BATTLE RHYTHM FESTIVALの告知は昨日よりも増え、看板のロゴは色を増し、街のガキどもは腕に黒いバンドを巻いて走る。数字は街へ降りる。降りた数字が、人の呼吸を律する。律されて、笑うやつもいる。笑えないやつもいる。
体育館。床の匂い。埃と木と汗と洗剤。いつもと同じ。だから、違いが分かる。違いは空気の粘度。朱莉の足音の軽さ。藤堂の肩の線。玲央の拳に宿る温度。指先に細く残るひやり。貼った小さな遮断デバイスが、皮膚の下で淡く脈打つ。
「練習、いつもどおり」
朱莉の声は短く、芯がある。芯は、折れると危ない。だから、まわりの布で守る。守りすぎると弱る。弱らせない布の巻き方を、皆が少しずつ学ぶ。
ステップ。呼吸。拳。音。重ねる。重ねて、落とす。落として、拾う。拾って、置く。置いた場所に、昨日よりも深い足場。足場が深いと、跳ぶときに恐れが薄い。恐れが薄いと、狙いに迷いがない。
「玲央」
名前が呼ばれる。いつもより少し筆圧の低い声。振り返る。朱莉が、まっすぐ見る。まっすぐな目は、問いを抱える。抱えた問いは、彼女自身へ向かっている。
「私――悠真くんを連れていかせた日に、逃げた。ごめん」
「逃げてねぇ」
「逃げたよ」
「逃げてない。選んだだけだ。選ばなきゃ、俺たちは今ここにいない」
沈黙。沈黙がいつもより軽い。軽さは罪悪感を薄める。薄くなった罪悪感は、役に立つ後悔に変わる。役に立つ後悔は、未来の筋肉だ。
「取り返すために、全部使う」
朱莉の手がストレージを握り、白くなる。白さは、決意の色。決意は音に乗せやすい。音に乗った決意は、舞台で倍になる。
窓から南の風が入る。風は湿り、熱、塩、過去の音、これからの音を一緒に運ぶ。高校のチャイムが鳴り、体育館の天井のファンが気怠く回り、誰かの笑いが遠くで三拍半ズレて弾ける。ズレは音楽の母親だ。ズレを愛せるやつだけが、自由になる。
――午後。SONIC DOMEに向かう準備。藤堂は薄い防具を着け、朱莉は帽子のつばを深くし、玲央は拳の布を新しく巻く。新しい布は、硬い。硬さは馴染ませる。馴染ませるほど、音が通る。通った音は、殴り方を教える。
出発の直前、玲央は一度だけ空を見上げる。雲は薄く、光は白い。白い光は、嘘を浮かび上がらせる。浮かび上がった嘘の輪郭に、拳の影を重ねる。影は軽い。軽さは、前触れ。前触れで十分だ。本番は、殴るだけ。
南風が吹く。匂いが変わる。夏はまだ、終わらないふりをしている。ふりを見抜く殴り方を、体は覚えた。覚えた殴りで、鎖を焼く。焼けた匂いが空に溶け、空の端で光が跳ねる。
――音は、戻ってくる。名前のない拍で。燃える色で。重なり合う温度で。ここから、すべてを断ち切るために。
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