嫉妬というゲーム ― 見抜きの一閃 ―

冴月練

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第一幕:転がり出したサイコロ

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直君なおくん、この新作どうかな?」
 テレビの有料チャンネルでバスケットボールの試合を見ていると、妻のまどかがノートパソコンを持ってやってきた。
 試合は気になったが、まどかの高揚した顔を見たら、まどかを優先する気になった。
「どれ、見せて」
 まどかからノートパソコンを受け取り、画面を見た。
「うん――いつも思うけど、滑らかできれいな曲線だね」
「線じゃなくて、作品を見てよ!」まどかはご立腹だ。
「だって……わからないんだもの」小さめの声で正直に答えた。

 俺――朝倉直樹あさくらなおきは妻のまどかと二人暮らしだ。俺は34歳、まどかは29歳で二人とも普通の会社員。贅沢はしないから、生活にはまあまあ余裕があった。
 まどかの趣味はパソコンでイラストを描くことなのだが、正直俺にはまどかの感性がわからない。まどかは、なんとも不思議なキャラばかりを描いていた。アイデアが枯れないのはすごいと思う。
 だが感想を聞かれても、何と答えれば良いのかでいつも途方に暮れる。可愛い妻を傷つけたくはないし、嘘もつきたくない。俺は滑らかな線くらいしか褒められない。

 まどかは少しの間不機嫌な顔をしていたが、パッと表情を切り替えた。
「しょうがないなあ。直君は私の感性に追いつけないんだよね」まどかはうんうんと頷いていた。
「感性に追いついてる人いるの?」胡乱な目で尋ねた。
「ひどいなあ。私のフォロワー数凄いんだよ」
 そう言うと、まどかはノートパソコンを操作し、再び画面を俺に向けた。
「え? まどかのフォロワーってこんなにいるの? ある種のインフルエンサーじゃん」
 素直に驚いた。まどかは得意げな顔で口を開いた。
「ふふ。見直した? 世の中には、私の感性についてこれてる人がこんなにいるんだよ」
 物好きが多いな、という言葉は飲み込んだ。
「じゃあ、続き描いてくるね」
 そう言いながら、まどかは部屋に戻って行った。俺は試合に意識を戻した。



* * *



 金曜の夜、リビングでのんびりしているとスマホの通知音が鳴った。見るとLINEの着信だった。家にいるまどかからなのが意味不明だが、アプリを開いた。
「え? なにこれ」思わず声が出た。
「フッフッフ」
 まどかがいたずらっぽく笑いながらやってきた。俺が驚くのを見計らっていたようだ。
「すごいでしょ? 私のキャラのLINEスタンプ」
「ああ、すごい。どうしたの、これ?」
「フォロワーからのリクエストが多かったから、作ってみたんだ。初めてだから、結構手間取ったよ」まどかは嬉しそうに教えてくれた。
「これが副業になったら嬉しいな。子供の教育費として貯金しようかな」
「捕らぬ狸の皮算用だけど、堅実な発想だな」まどからしいと思って笑った。

「ところで、教育費として使うには子供がいる必要があるね」
「そうだねー」まどかはスマホをいじりながらすっとぼけていた。
「“釣りバカ日誌”のハマちゃんとみち子さんについて議論しようか?」
 まどかはスマホを見るのをやめ、俺を見て表情を緩めながら口を開いた。
「じゃあ、ベッド行こうか」
 これが俺たち夫婦の合言葉だ。
 俺とまどかは仲良く寝室へ移動した。



* * *



 一月ほど経ったある晩、まどかがノートパソコンを持って、血相を変えてやってきた。
「直君、たいへんだよ。これ見て」
「え!」
 まどかのノートパソコンに表示されている内容を見て、思わず驚きの声が出た。
「こんなに売れたの? まどかのLINEスタンプ」
「うん。私もびっくりだよ」
 相当な金額だ。
「あれからリクエストの多いキャラのスタンプを追加したのもあるだろうけど、買ってくれたんだ。嬉しいな」
 まどかは本当に嬉しそうに目を輝かせていた。

 まどかのフォロワーの数を考えれば、妥当な数字なのかもしれない。
「そうだ、まどか」思いついたことがあった。
「何?」まどかが俺を見た。
「これだけ売れたってことは、確定申告のこと忘れるなよ」
「あ、そうだね。さすが直君。私、そんなこと考えもしなかったよ」
 まどかが俺を見る視線に尊敬が混じっている気がした。少し気分が良かった。
「背が高いうえに、頼りになる旦那がいて、私は幸せだよ」
「身長はどうでもいいだろ」
 苦笑した。ちなみに俺の身長は185cmある。学生時代はバスケをしていた。
 LINEスタンプは、フォロワーの購入が一巡したら落ち着くだろう。だが、まどかにとっては成功体験だ。
「祝杯にワインでも開けようか?」
「いいね!」
 俺の提案に、まどかは明るい声で賛成した。
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