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第四章

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 窓の外から早朝の白んだ光が薄く差し込んでくる。5時頃だろうか。

 半円形の窓には鉄格子が入っただけであり、潮風を房内に吹き入れるままにしていた。

 有村加恋はほとんど眠ることができなかった。

 前日の性的暴行からの身体の痛みはもちろんだが、友人の体調が悪化していたためである。

 櫻井亜里沙は顔面を蒼白にして流れるような汗をかいていた。

 以前から下腹部の痛みを訴えていたが、朝になると痛みは治まるどころか悪化し始めたのだ。

 加恋は必死にだれかを呼んだ。

 「誰かいないの?亜里沙の身体が良くないの!誰か来て!」

 牢の中から声を張り上げるが、シンとした房内の静けさが彼女の声を吸い込んだ。

 亜里沙は突っ伏したまま呻き声を強くしていき、それに押されるように加恋は外に向かって声を上げた。

 結局、見回りの男が現れたのは日が昇り切ってからしばらく経った7時のころだった。

 「待って、話を聞いて!亜里沙が怪我をしているの。お腹を押さえたままでずっとうなされてるのよ!」

 やっと見回りの男は気づき、事情を聴く前に誰かを呼びに行った。それからしばらく経った。

 「早くしてよ!亜里沙が死んじゃったらどうするのよ!」

 加恋は鉄牢越しに叫び続けた。やがて現れたのは医者のような風体の男だった。

 下男たちがスタンガン付き警棒で加恋を威嚇した後、医者風の男は彼らに亜里沙を牢から出すように言った。

 「膣内に傷口ができて化膿しているかもしれんな。」

 男らの呟いた声に聞き耳を立てて、加恋は昨日の凄惨な暴行を思い出した。呼吸が落ち着かなくなった。

 あんなひどいことをされて体がただで済むはずがない。怪我をしないわけがないのだ。

 加恋は自身の性器から流れ落ちた血の色を思い出し、ここにいる男たちに殺意を覚えた。

 「医療室に運んでくれ。」

 医者風の男は亜里沙の手枷を引いて牢から出した後、下男が肩に持ち上げて連れて行った。

 「亜里沙…。」

 加恋は亜里沙が治療を受けられることにホッとした半面、一人で房内に残される心細さを知った。

 そして気が付いた。加恋だけ手枷を嵌められていないということに。
 


 松嵜世啻人の催した宴の二日目が始まった。

 朝食はバイキング形式で豪華な食事が並んでいた。

 朝食後、世啻人と蝶子が話をしている。二人はまるで祖父と孫のように見えるのだった。

 松嵜蝶子は、世啻人の息子である松嵜文司と貴族の母との間に生まれた。

 名前の通り蝶よ花よと可愛がられて育てられた。

 母親は蝶子を抱きながら、いつも家にいない父親の話をした。

 あなたのお父様は大事な仕事があるからお家に帰ってこれないの。

 だけど、お父様はあなたに期待をしているのだから、誇りを持って振舞うんですよ、と。

 やがて父からの仕送りが減り、大丈夫だと笑う母の顔が日増しにやつれていくのが蝶子にもわかった。

 自分は誇りある松嵜の血筋を引いた人間なのだ。いつか父親が迎えに来てくれるまで、心身を気高く持つのだ。

 そして十四歳になった今、松嵜家の祖父から迎えが来た。

 祖父の世啻人は言った。金は人心を屈服させるためにある。

 幸せは他人の不幸の上に成り立っている。だから持つものが持たざる者から奪うのだ。

 お前たち松嵜の人間には遠慮なく支援をしよう、と。

 祖父の話はなんて素敵なんだろう。私は誰かを踏みつけにして、そして幸せになろう。

 他人から奪われる側ではなく、奪う側になろう。私は選ばれた人間なんだ。蝶子はそう思った。
 
 「お爺様…私のお父様はどのような人だったんですか?」

 「ああ…文司か。あいつはわしの孫の中でも大したことのない男だったな。」

 「え…?」

 突然の冷たい言葉に蝶子の声が凍った。

 「文司はあろうことか、どこぞの斜陽貴族の娘との間に子を作った。金でどうにか口止めをしていたが、女の愛情が強すぎて別れることもできなかった。」

 「…あの、お爺様。お父様とお母さまが分かれるとはどういう意味ですか?」

 蝶子の顔面が張り付いたように震えだした。

 「愚鈍な娘だな。お前の父親、文司の妾腹の子がお前なのだ。松嵜の人間でもない小娘が何でここにいると思う?」

 世啻人は立ち上がり、兎のように震える蝶子の目を鷹のように睨んだ。

 「それはお前が金の代わりに売られたからだ。」

 松嵜蝶子まつざきちょうこ、いや早乙女蝶子さおとめちょうこは、松嵜文司まつざきぶんじ早乙女奈津子さおとめなつこの間にできた隠し子だった。

 早乙女という母の性は駆け落ちの際に作った偽名であり、もはや貴族でもない。

 母親である奈都子の愛情は妾であるだけでは満足できず、文司に幾度となく手紙を送ったりするなど妄想の域に達していた。

 文司は正式な家庭を持つ男である。自信の不貞が公になるのを恐れ、口止めを兼ねて金を送っていたがどうやら奈都子に別れる気はないらしい。

 あわてて文司は世啻人に泣きついた。そして奈都子と娘の蝶子の二人を殺すように要求した。

 若い命は惜しい、娘のほうは引き取ろう。世啻人はそういった。

 こうして蝶子は世啻人の家に二束三文で売られたのだった。

 真相を聞いた蝶子は着物を着物の袖を垂らし、涙を流していた。

 「…そんな、嘘よ。ねえ、お爺様?嘘なんでしょ。」

 「お前のもの知らずは見ていて可笑しかった。しかし我らの名を騙った奢りは醜悪であったな。蝶子よ。」

 蝶子の表情が絶望に変った。が、少女はその場から急いで逃げ出した。

 松嵜から捨てられても生き残る手段を探して館を走る執念。蝶子には生きようとする信念が備わっていた。
 


 松嵜龍児は個室で休んでいた。

 龍児は以前の金の無心を繰り返すだらしない男ではない。過去のトラウマも払拭した松嵜の後継者だ。

 体に自信が漲った。何者が立ちはだかったとしても捕食してやろう。無惨な目に合わせて奪ってやろう。

 松嵜一族の覇道とは、詰まるところ世啻人や龍児といった人でなしが成せる業なのである。

 コンコン。ノックの音が聞こえる。

 「はい、どちらさまでしょう。」

 龍児がドアを開けると、そこには振袖に身を包んだ松嵜蝶子がいた。

 彼女は年齢よりも幼く見える。母親より受け継いだ美貌をすでに開花させ、怪しげな印象までもたらした。

 着物からのぞく白磁の肌はうなじから爪の先まで美術品を思わせた。

 「龍児さま?いらっしゃいますか。」

 龍児は思った。こいつは魔性だ。

 蝶子は涙を潤ませてこちらを見ている。その目は男を取り込み飼いならすことを本能で知っている。

 並みの男ならば蝶子を抱き寄せていただろう。しかし龍児は女性が嫌いだった。

 嫌いだからこそ壊してしまいたくなる矛盾した性の発露。龍児の本性はサディストだった。

 「私の気持ち、わかってるんでしょう?」

 蝶子は個室のベッドに滑り込むと龍児の目の前で着物をはだけた。

 二次成長期を迎えてないような細い肢体をさらけ出した。指先は淫靡に着物の襟を広げていく。

 薄く膨らんだ乳房には淡い朱色の乳首がピンと尖り立っていた。

 豪奢な着物から這い出た蛇、もしくは人を誑かす狐狸の類である。

 蝶子は身体をのけ反らせ、膨らみかけた乳房を愛撫する。

 黒い瞳は妖幻な蛾の蠱惑。やがて着物の裾をたくし上げると下には何も履いておらず、恥丘に浮かび上がった一筋の性器が龍児を誘惑するのであった。

 蝶子の小さな手は美しく手入れされた爪を動かして龍児のズボンのチャックを開いていく。

 そして、赤く火照ったペニスをするすると持ち上げてしまう。

 振袖を腹部に巻きつけるようにして乳房と下腹部をさらした姿は陶磁器のように美しかった。

 そして自らの密壺に男の屹立した男根を誘導するのである。

 ちゃぷっ。水のはねる音が響いた。蝶子の膣内は溶けるように濡れており、龍児の陰茎を包み込んだ。

 暖かく締め付ける水の壺。そこに蝶子本人が上下に動き始める。

 締め付ける動きと上下の動きが同時に生まれ、快感が龍児の快楽中枢をカチカチと刺激する。

 馬乗りになって動く蝶子は、龍児を愛しい目で見つめながら、おかっぱの髪を揺らす。

 乱れた髪は白磁の美貌と対比されたゾッとするほど性的な唇に咥えられている。

 乱れた前髪は顔を半分隠したままに蝶子の嬌声が上がり始めた。

 自らの体重を乗せながら膣内でペニスをスライドさせる。腰を回しながらふんだんにグラインドする。

 呼吸に前後する腹部がのたうつ。天に向かって立つ乳首と胸元が発汗して朱色に染まる。

 蝶子は龍児の絶頂が近いと見て、ピストンを浅く速くに切り替える。

 陰茎のカリ先を刺激して最後のオルガスムに導いていった。

 龍児の陰茎が射精し膣内を満たしていく。

 蝶子は思った。これで松嵜の後継者は私なしでは生きていけない体になる。松嵜龍児を魅了して世啻人の手から逃げ伸びることができる。

 「女狐が、餓鬼の分際で私の相手ができるつもりか?」

 龍児は目の前で馬乗りになっている蝶子に向かって言った。

 彼がベッド横の電話を鳴らすと館の下男たちが部屋に駆け込み、蝶子を束縛した。

 着物をへそまで崩した蝶子は困惑して目を白黒させる。

 館の中の下男を引きつれる権力を持っているのはお爺様だけのはず。それを何でこの男が?

 「この宴は私を松嵜の次期後継者にするための試練なんだ。」

 龍児は世啻人のように表情のない鷹の目で蝶子を見た。

 「お前の相手など畜生で十分だ。犬の妾にしてやろう。」

 下男たちは蝶子を拘束して連行していった。



 
 蝶子は真昼の光も届かない暗い拷問部屋の中、裸のまま鎖で釣り上げられていた。

 体位は尻を突き出した後背位。両腕と両足にはラバーの手枷・足枷が付けられ、金具によって固定される。

 両腕を股間を通して両足に固定することで、身体をうつ伏せに拘束して動けなくするのだ。

 両手で両足首を持って足を開いてみるといい。上半身を上げようとすると締め付けられ、休めようとすればするほど尻が突き出される。

 さらに強固な鉄の丸棒を、公園の鉄棒のような形に組み上げてそこから腰を鎖で吊り上げる。

 どこからどう見ても犬が交尾をするときの姿勢だ。拷問部屋にいるメンバーは龍児と世啻人だけだった。

 「さぁ、今回のメインディッシュの蝶子ちゃん。俺の期待に応えてね。」

 龍児が言うと、下男が大型犬を連れてくる。

 どの犬も発情期を迎えており、興奮剤を打たれて非常に息を荒くしている。

 蝶子の恥部や尻の穴にもフェロモン剤がたっぷり塗られた。

 発情した犬どもが放たれる。犬たちはすぐさま目の前にある蝶子の性器に向かって走り寄り、その凶悪な爪が娘の背中を引き裂いた。

 悲鳴が響き渡る。獰猛なピットブルが自らの黒々としたペニスを屹立させながら飛びついたせいだ。前足の鉤爪はまるで黒い鉄杭である。

 犬のペニスは雌を逃がさないように返し針のような突起が付いている。

 それが差し込む場所を探して犬の腰から飛び出してくるのだ。

 蝶子は正気を失いそうだった。捕食者と被食者、片方の命が潰える営みが今ここで繰り広げられているのだ。

 甲虫の生殖器を思わせる黒く怒張した竿は、上下の穴に狙いをすませる。

 そしてその真っ白い肌の小さくて赤く咲いた尻の蕾をターゲットに定めた。

 切り裂くような犬の陰茎が打ち込まれる。

 蝶子の喉は戦慄した。顔は苦悶に歪み、手足は力いっぱいの痙攣を繰り返す。

 やがて肛門は血にまみれ、トゲのような返しのある犬のペニスで薔薇の花のように内壁が飛び出していた。

 犬どもは次々に蝶子の尻に群がってくる。

 肛門と性器を凶器と化した剛直で掘り返していく。

 最初は犬どもに罵詈雑言をぶつけていた蝶子も、徐々に犬畜生に命乞いをくり返し、世啻人にも命乞いし、それが通じないとわかると恐怖と絶望に泣き叫んだ。

 数時間後、少女の目はすでに焦点が合わず、口をパクパクとくり返し開閉し、身体は太腿から手首までビクビクと痙攣していた。

 龍児はつぶれたカエルのようだと思った。

 蝶子の勝ち気で気丈な顔は二度と拝めないだろう。悲しいな、と世啻人がいう。

 「上も下もめくれてますね。これは犬の穴だ。俺はいりませんね。」

 壮絶な獣姦が終わった後で龍児はそう言い放った。
 
 蝶子は島田義一たちに処分させることになった。

 義一たちは獣姦された蝶子の有様を見て気を抜かれていたが、海に重りを付けて沈めることにした。

 ただ、島田岳斗だけは恐怖の目で現実を直視していた。

 「このままでは…有村たちが殺されてしまう。」

 有村加恋を逃がす。それは父親を裏切ることだ。

 それでもここで有村を見捨てるのは嫌だ。せめて恥ずかしくない人間として生きたい。

 昔のこと、岳斗は誰でもない、有村加恋に人間として憧れた。

 本土に出て就職するとか言っている恥ずかしい奴。それが岳斗の加恋への最初の印象だった。

 だがそれは間違いだった。自分の意見を通すためには大人とも争う。

 自分が間違っていると思ったら教師たちとも口論する。

 器の違いを見せつけられた。だから、せめて加恋の人生を応援してやりたいと思った。それは自分の励みにもなるからだ。

 ジョギングのコースは彼女の顔を少しでも見たいという気持ちの表れだ。

 真っすぐには見えない。星のように美しい存在。岳斗が少女に持ったひとつだけの恋心だった。
 
 父親を裏切ってでも有村を助けたい。岳斗の真の感情が沸き上がってきた。

 腰に下げたナイフに手を当てる。

 「どうか俺に勇気を与えてくれ。有村を助けるための勇気を…!」
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