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第10話
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あれやこれやと細川の元には資料やら伝票やらが届けられる。
ようやく決めたお店に早く雛実を連れて行きたいのに、なかなか思うように退勤できないでいた。
「細川さん、聞いてます?」
「えっ、あぁ、まぁ、その件は明日でもいいでしょう。ちょっと今日は体調もすぐれないから退勤させてもらうよ。」
婦人服売場の主任は、以前ちょろっと細川に気に入られていたことがある。だから、細川に所用ができた時は一度お手洗いで紅を引き直してから向かうため、他の売場の主任に比べて報告が遅くなっていた。
いつもなら納得いくまで話を詰めてくれる細川だが、今日はやけにソワソワして落ち着かない。
最後は『退勤する』とまで言われ、自分の顔を見もせずに事務所を去ってしまった。
ーーっ、な、なんなの?怪しいわね……。
細川の噂はよく知っている。
自分も手をかけられそうに、いや、唇を掠めそうになったこともあるのだから。
だが、本当に体調が悪いのかもしれない。
(やめやめ!)
不倫の側道を歩んだことのある自分は、本線に踏み込む勇気などない。それは、重々わかっている。
あの夜、細川が近づいた時に感じた危なさを受け入れられるほど自分は恋愛の経験は多くない。
とはいえーーー。
(ひょっとして誰か……。)
新たに細川の張り巡らした蜘蛛の巣に引っかかった女がいるのかもしれない。
そう思うと、キリキリと歯が鳴る。
婦人服売場主任高垣玲香33歳。
誰よりもマネキンに近いスタイルを保ってきたが、最近では若干腰回りがゴムタイプのスカートを好むようになってきた。既にママとなっている周りの友人達のペタ靴スリッポンが似合う服装に感化され、この春は油断してしまった。
(ああ、誰かいい人いないかしら…!)
そんなことを考えながらコツコツとヒール靴を鳴らして歩いていると、
「今日の話聞いた?沢口さん行く?木浦さん幹事の飲み会。」
「無理無理ー、突然すぎだし、先約あるしぃ。」
「よねー、木浦さん急すぎっ!行く人いるのかなぁ。まあ、気にしても仕方ないかぁ。」
と、婦人服売場の若い女性販売員達の声が聞こえてきた。
(飲み会?今日?木浦さんって、確かあの食品部門のイケメンじゃない?)
「ちょっとあなた達!」
「はい?ぅわっ!主任!わ、私達に何か?」
普段は鬼主任と影で言われている高垣に、いきなり呼び止められ、沢口達は直立不動となった。内心ヒヤヒヤである。
「さっきの話、どういうことか説明なさい!」
そんな彼女達の心情を知ってか知らずか、高垣は木浦率いる今夜の飲み会の話を詳しく聞き、
「いいわね。私、行くわ。だからあなた達から木浦君に連絡しておいてちょうだい。」
と、一方的に参加を決めてしまった。
「あっ、あのぅ、この飲み会は、同期で……」
「何?いいじゃない、私が混ざってたら良くない理由があるの?」
「い、いえ、わかりました!連絡しておきます!失礼しました!」
高垣に睨まれたら明日からの仕事に影響する。そう確信した2人は、すぐさま木浦に連絡して高垣の参加を伝えた。
『意外だね。了解です。』
と、木浦はあっさり了承した。
木浦にしてみれば、雛実と細川の間に座る人選に迷っていた中、高垣さんが来るという情報はありがたかった。
(あの人、細川さんと何かあったっぽいからな。)
鋭い観察眼を持つ木浦。
高垣と細川のこともなんとなくだが勘づいていた。
ようやく決めたお店に早く雛実を連れて行きたいのに、なかなか思うように退勤できないでいた。
「細川さん、聞いてます?」
「えっ、あぁ、まぁ、その件は明日でもいいでしょう。ちょっと今日は体調もすぐれないから退勤させてもらうよ。」
婦人服売場の主任は、以前ちょろっと細川に気に入られていたことがある。だから、細川に所用ができた時は一度お手洗いで紅を引き直してから向かうため、他の売場の主任に比べて報告が遅くなっていた。
いつもなら納得いくまで話を詰めてくれる細川だが、今日はやけにソワソワして落ち着かない。
最後は『退勤する』とまで言われ、自分の顔を見もせずに事務所を去ってしまった。
ーーっ、な、なんなの?怪しいわね……。
細川の噂はよく知っている。
自分も手をかけられそうに、いや、唇を掠めそうになったこともあるのだから。
だが、本当に体調が悪いのかもしれない。
(やめやめ!)
不倫の側道を歩んだことのある自分は、本線に踏み込む勇気などない。それは、重々わかっている。
あの夜、細川が近づいた時に感じた危なさを受け入れられるほど自分は恋愛の経験は多くない。
とはいえーーー。
(ひょっとして誰か……。)
新たに細川の張り巡らした蜘蛛の巣に引っかかった女がいるのかもしれない。
そう思うと、キリキリと歯が鳴る。
婦人服売場主任高垣玲香33歳。
誰よりもマネキンに近いスタイルを保ってきたが、最近では若干腰回りがゴムタイプのスカートを好むようになってきた。既にママとなっている周りの友人達のペタ靴スリッポンが似合う服装に感化され、この春は油断してしまった。
(ああ、誰かいい人いないかしら…!)
そんなことを考えながらコツコツとヒール靴を鳴らして歩いていると、
「今日の話聞いた?沢口さん行く?木浦さん幹事の飲み会。」
「無理無理ー、突然すぎだし、先約あるしぃ。」
「よねー、木浦さん急すぎっ!行く人いるのかなぁ。まあ、気にしても仕方ないかぁ。」
と、婦人服売場の若い女性販売員達の声が聞こえてきた。
(飲み会?今日?木浦さんって、確かあの食品部門のイケメンじゃない?)
「ちょっとあなた達!」
「はい?ぅわっ!主任!わ、私達に何か?」
普段は鬼主任と影で言われている高垣に、いきなり呼び止められ、沢口達は直立不動となった。内心ヒヤヒヤである。
「さっきの話、どういうことか説明なさい!」
そんな彼女達の心情を知ってか知らずか、高垣は木浦率いる今夜の飲み会の話を詳しく聞き、
「いいわね。私、行くわ。だからあなた達から木浦君に連絡しておいてちょうだい。」
と、一方的に参加を決めてしまった。
「あっ、あのぅ、この飲み会は、同期で……」
「何?いいじゃない、私が混ざってたら良くない理由があるの?」
「い、いえ、わかりました!連絡しておきます!失礼しました!」
高垣に睨まれたら明日からの仕事に影響する。そう確信した2人は、すぐさま木浦に連絡して高垣の参加を伝えた。
『意外だね。了解です。』
と、木浦はあっさり了承した。
木浦にしてみれば、雛実と細川の間に座る人選に迷っていた中、高垣さんが来るという情報はありがたかった。
(あの人、細川さんと何かあったっぽいからな。)
鋭い観察眼を持つ木浦。
高垣と細川のこともなんとなくだが勘づいていた。
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