倫としましょう

koyumi

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第22話

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 雛実の緊急事態に、木浦は急いで閉店業務にとりかかる。食品部門は他の売場よりも30分閉店時間が遅い。しかも今日は半日勤務。パートの女性が2人も子供の都合で休むことになり、急遽駆り出された身だ。

「木浦君、商品移動の印鑑揃ってないのがないかチェックしてくれるか?」

 ようやく退勤できると思っていたら、食品売場の松村主任に言われてしまった。仕事を早く終わらせたらこれだ。次々に業務を言い渡される。
 ここの労働組合はどうなっているのだろうか。

 素早く伝票をチェックし、案の定何枚か印鑑が足りない。しかも、己の部署ではなく、外商部の課長印が足りない。
「いるのか?こんな時間に行ったって……」

 期待せずに外商部の入る事務所に行く。大抵この時間、外商課長は退勤している。その代わり、細川が待機していて、課長印を持っているのだ。
 雛実の話から、その細川も既に退勤すみだろう。主任にその旨を伝えても良かったが、変に勘繰られても困る。人の揚げ足をとっては面白がるこの主任は、好きではない。きっとすぐに、雛実との仲を囃し立て、可笑しくでっちあげるはずだ。彼女を巻き込みたくない。

「先週の伝票もあるじゃないかよ。」

 まるでこのタイミングを待っていたかのように、印鑑不備をこしらえた伝票にムカムカする。

 階段を上がり、長い廊下を行くと、外商部の事務所についた。
(やっぱり……)
 ガランとした事務所を見ると、仕事してんのか?と疑いたくなる。だが、彼らが自分より朝早くからせっせと出て、売りさばいていることは周知のこと。地方の上客は年配者が多く、午前中や、昼間の商談を好む為、外商部の朝は早いのだ。

『伝票未処理』と書かれた箱に、持ってきたものを入れ、側にあるファイルに、今日の日付と時間、自分の印鑑を押す。

 そしてそのまま食品事務所に内線を入れ、退勤することを伝えた。
 主任はまず電話を取らない。立場上、それは下の者が応対するべきだと思っている。だが、教えてやりたい。そんなことをしているのはお前だけだと。どこの課長も部長も、我先にと受話器を取る。”店長”から抜き打ちで内線があることを恐れているからだ。
『ハンコ押ししかしてない奴が何をのんびりしてるんだ!用があるのはお前達なんだからサッサと電話にでんか!』
 と、昨年末、店長が怒鳴ったのだ。
 松村主任は今年度からこの店舗に転勤してきた身だからそのことを知らない。
 この内線も、多分たまたま事務所にいたんだろう。お酒売場の女性販売員が出た。だから、これ以上主任と話さなくて済むし、仕事を振られなくて済む。
 だがいつか、店長に怒鳴られる日がくればいい。

(よし。急ごう……)

 雛実は既に館外に出ているだろう。
 細川に見つかっているかもしれない。
 既に捕らわれているかもしれない。

 木浦は身支度を整えると、乱れた髪を気にもせずにエレベーターに飛び乗った。
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