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第24話
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「このタイミングで電話か……さすが、彼氏様だな。」
鼻で笑うように言い放つ細川は、「出たら?」と言わんばかりに目を向けた。
「……ちょっと……すみません。」
雛実は慌てて出ようとしたが、呼び出しバイブは切れてしまった。そして、すぐ後に、短く震えてメールの受信を知らせた。
『ごめん、今どこ?』
という簡潔な文章は、雛実の状況をわかってのものだろう。
『橋渡ったの。コンビニが見える』
雛実も咄嗟に目についた手がかりとなる場所を報せる。木浦はこの土地を知っているかどうかわからなかったが。
「デートの約束でもしてた?」
偉くご機嫌な声の細川は、何を期待しているのか、雛実には恐怖以外なかった。
「は、い……だから、困ります。ちょっと話すだけだったはずなのに、こんな遠くまで……」
緊張して、うまく言いたいことが伝えられない。(早く帰りたいから戻ってほしい、でなければ警察呼ぶ)とでも強気で言えたならどんなに楽だろう。
道幅が急に狭くなり、対向車とギリギリの通行が続く。
違う意味の緊張も高まり、雛実は木浦にメールで危険を知らせたくても、指先が震えてうまく打てない。
「メールなら止まってから打てばいい。」
全てわかりきったかのような細川の言動に、もはや逃げ道はないのだと思った。
こんな細川でも、ほんの少し前までは憧れていた。仕事ができて、会話力もあり、誰からも信頼されている(いや、嫁からはどうだろう……)スマートな身のこなしに悪くはない顔。きっと未婚ならば、雛実も恋人になりたいと願ったかもしれない。
でもダメだ。
彼は、既婚者なのだ。
その時、雛実は「はっ」として口を押さえた。
もしかしたら、この状況も、見る人が見れば”不倫”中に見えるのではないか?
もし自分が細川の嫁だったら、若い女子社員と2人きりで夜にドライブしている夫を見て、どう思うだろうか?
答えは明快。
”不倫”中だ。
「ほ、細川さんっ!やっぱりおかしいですよ!こんなの、こんなのってダメですよ!」
胸が押しつぶされそうになり、雛実は叫んだ。
「私……耐えられませんっ!早く、早く出してください!」
スピードを緩めない細川を睨みつける。
ここは田舎道で、信号もない。目的地に着くまでは、運転手がブレーキを踏む気にならなければ止まることはない。
「雛実ちゃん!大丈夫だから、ほら、もうすぐ着くからさっ、暴れないでっ!」
「酷いっ、酷いよ、細川さん……」
涙が溢れてボロボロの化粧を纏う雛実を見て、細川は改心してくれるのだろうか?
きっと女の涙など、見慣れているのだろうが。
辺りが一層闇に包まれて、ポンっと現れた電球色の明かりは、まさに雛実が恐れていた場所を示すものだった。
雛実は《ホテルブランシェⅡ》という看板を見つけ、これから自分の身に起こることを考えると気が動転した。
いくら雛実でも、少し前までは彼氏がいた身だ。名前は聞いたことがある。行っことはないが。
「ーーっ!やっ、やだ!細川さん!ここはやめて!無理だから!ほんとにやめて!」
「雛実ちゃん、とにかく一回じっくり話そう。ゆっくりと、時間をかけて、俺のことを理解してほしいんだ。」
「何を理解するんですか?!私は、何も知りたくないし、とにかく嫌なんです!」
「本気なんだっ!本気で雛実ちゃんが好きなんだよ!だから、聞いてほしい。」
「ええっ?!」
細川の突然の告白に、雛実がパニックになった隙に、細川は部屋毎に別れたパーキングに止め、慣れた手つきで自動シャッターのボタンを押して、駐車場を閉鎖した。
なるほど、こういうシステムのホテルなら、館内で知り合いに鉢会うことはないし、車種やナンバーや個人を限定されることはない。
いわば、隠れてヤりたい人物には格好の場所だ。
雛実は猛烈に後悔していた。
なぜ車に乗ってしまったのだろう。
なぜ細川と飲みに行ったのだろう。
なぜ疑わなかったのだろう。
車から降りずにいると、細川は、
「だったらカーセックスでもいい」
と、過激な言葉を発した。
「なっ、細川さん、お願いです。考え直してください。本当に、辛いです。」
「だったら降りて、話を聞いてくれないか?場所に抵抗はあるだろうが、こういう場でないと話せない内容なんだ。雛実ちゃん以外には聞かせられないんだ。」
切羽詰まった様子は細川も同じで、眉毛は垂れ下がっていた。
ーー私以外に聞かせられない話ってなんだろう?きっと上手いこと言ってるだけ……騙されるな、騙されるな……
鼻で笑うように言い放つ細川は、「出たら?」と言わんばかりに目を向けた。
「……ちょっと……すみません。」
雛実は慌てて出ようとしたが、呼び出しバイブは切れてしまった。そして、すぐ後に、短く震えてメールの受信を知らせた。
『ごめん、今どこ?』
という簡潔な文章は、雛実の状況をわかってのものだろう。
『橋渡ったの。コンビニが見える』
雛実も咄嗟に目についた手がかりとなる場所を報せる。木浦はこの土地を知っているかどうかわからなかったが。
「デートの約束でもしてた?」
偉くご機嫌な声の細川は、何を期待しているのか、雛実には恐怖以外なかった。
「は、い……だから、困ります。ちょっと話すだけだったはずなのに、こんな遠くまで……」
緊張して、うまく言いたいことが伝えられない。(早く帰りたいから戻ってほしい、でなければ警察呼ぶ)とでも強気で言えたならどんなに楽だろう。
道幅が急に狭くなり、対向車とギリギリの通行が続く。
違う意味の緊張も高まり、雛実は木浦にメールで危険を知らせたくても、指先が震えてうまく打てない。
「メールなら止まってから打てばいい。」
全てわかりきったかのような細川の言動に、もはや逃げ道はないのだと思った。
こんな細川でも、ほんの少し前までは憧れていた。仕事ができて、会話力もあり、誰からも信頼されている(いや、嫁からはどうだろう……)スマートな身のこなしに悪くはない顔。きっと未婚ならば、雛実も恋人になりたいと願ったかもしれない。
でもダメだ。
彼は、既婚者なのだ。
その時、雛実は「はっ」として口を押さえた。
もしかしたら、この状況も、見る人が見れば”不倫”中に見えるのではないか?
もし自分が細川の嫁だったら、若い女子社員と2人きりで夜にドライブしている夫を見て、どう思うだろうか?
答えは明快。
”不倫”中だ。
「ほ、細川さんっ!やっぱりおかしいですよ!こんなの、こんなのってダメですよ!」
胸が押しつぶされそうになり、雛実は叫んだ。
「私……耐えられませんっ!早く、早く出してください!」
スピードを緩めない細川を睨みつける。
ここは田舎道で、信号もない。目的地に着くまでは、運転手がブレーキを踏む気にならなければ止まることはない。
「雛実ちゃん!大丈夫だから、ほら、もうすぐ着くからさっ、暴れないでっ!」
「酷いっ、酷いよ、細川さん……」
涙が溢れてボロボロの化粧を纏う雛実を見て、細川は改心してくれるのだろうか?
きっと女の涙など、見慣れているのだろうが。
辺りが一層闇に包まれて、ポンっと現れた電球色の明かりは、まさに雛実が恐れていた場所を示すものだった。
雛実は《ホテルブランシェⅡ》という看板を見つけ、これから自分の身に起こることを考えると気が動転した。
いくら雛実でも、少し前までは彼氏がいた身だ。名前は聞いたことがある。行っことはないが。
「ーーっ!やっ、やだ!細川さん!ここはやめて!無理だから!ほんとにやめて!」
「雛実ちゃん、とにかく一回じっくり話そう。ゆっくりと、時間をかけて、俺のことを理解してほしいんだ。」
「何を理解するんですか?!私は、何も知りたくないし、とにかく嫌なんです!」
「本気なんだっ!本気で雛実ちゃんが好きなんだよ!だから、聞いてほしい。」
「ええっ?!」
細川の突然の告白に、雛実がパニックになった隙に、細川は部屋毎に別れたパーキングに止め、慣れた手つきで自動シャッターのボタンを押して、駐車場を閉鎖した。
なるほど、こういうシステムのホテルなら、館内で知り合いに鉢会うことはないし、車種やナンバーや個人を限定されることはない。
いわば、隠れてヤりたい人物には格好の場所だ。
雛実は猛烈に後悔していた。
なぜ車に乗ってしまったのだろう。
なぜ細川と飲みに行ったのだろう。
なぜ疑わなかったのだろう。
車から降りずにいると、細川は、
「だったらカーセックスでもいい」
と、過激な言葉を発した。
「なっ、細川さん、お願いです。考え直してください。本当に、辛いです。」
「だったら降りて、話を聞いてくれないか?場所に抵抗はあるだろうが、こういう場でないと話せない内容なんだ。雛実ちゃん以外には聞かせられないんだ。」
切羽詰まった様子は細川も同じで、眉毛は垂れ下がっていた。
ーー私以外に聞かせられない話ってなんだろう?きっと上手いこと言ってるだけ……騙されるな、騙されるな……
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