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第27話
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荒い息遣いに引いてしまう。
彼氏でもない、好きな人でもない、それなのに、何故私はこの人とベッドで戯れているのだろう。
「やめてっ、や、やだ!」
「雛実ちゃん、寸止めしたっていい、試したいんだっ。」
「私は人間ですからね!生身のっ!こ、心ってものがあるんですよ!」
ああ、もうわけわかんなくなってきた。拒否する言葉を言い過ぎて、何か哲学的な要素に思考が食いつきそうだ。
誰がいいだろう、ソクラテス?カント?バークリー?いやいや、誰も違う。
今、細川さんの思考を揺るがすのは……この手を引っ込めてくれるのは……
《プルルルル、プルルルル、》
この空気を引き裂く正義の呼出音。
「っな、こんな時に!」
《プルルルル、プルルルル、》
「出ないんですか?」
《プルルルル、プルルルル、》
「……はっ、何なんだよっ!タイミング悪すぎ…………っぅえ?」
しつこく鳴り続ける細川の携帯電話。すぐ側に脱ぎ捨てられた上着のポケット内にあるようだ。
最初は無視していたが、あまりにも長い着信音にしびれを切らし、ようやく細川は内ポケットから電話を取り出した。
そしてその液晶画面に表示された相手の名前を見て、驚愕した。
「出た方がいいんじゃないですか?」
「ぅ……ぁ、はぁ~~」
うな垂れた細川は雛実に跨ったまま受話した。
『もしもし、君は今どこにいるんだっ!?外商部が誰もいないから伝票が滞ってるんだがっ!』
「あ、はい、すみません。今日は既に退勤済みで…」
『はぁーっ??明日がなんの日かわかってるのかっ?副社長が来るんだぞ!今日中に判子揃えておかにゃならんことくらいわからんのかっ!?ったくあの課長は当てにならんし、君がいないと外商関係の伝票が回らんだろっ!今すぐ来い!わかったなっ!!』
「……申し訳ありません。わかりました。では、30分後くらいには行きますから。」
電話の相手は販売部長だった。
明日は急遽副社長が来て、店を巡回する予定なのだが、伝票チェックなど注意項目にあっただろうか。
眉を顰めながらも、細川は渋々雛実の上を離れなければならなかった。
あの販売部長の声を聞いて、萎えない訳がない。
「……大丈夫、じゃないですね……」
「あぁ、全くヤバイな……雛実ちゃんの願いが通じたのかな、誰かさんにさっ」
「願いが?あぁ、まぁ、もしかしたら」
「フッ、まあ、いいさ……また次があるし。はぁ、それにしても、まさかな……はぁ~~」
動揺を隠せない細川は、上着を着て、身なりを整えると、雛実に手を差し出した。
雛実も、細川が離れたことでようやく自由になり、乱れた衣服をササっと整えていた。
「行こうか。」
「いえ、手は、大丈夫です。」
「……そう」
雛実は細川の手を取らなかった。
これからあの販売部長の怒号と付き合わなければならないと思うと、頭がクラクラする細川は、雛実に拒否されたが執拗になれなかった。
ついさっきまでのギラギラした目は、すでに燻んでいた。
駐車場に停めてある車に入る。
キーが解除されるや否や、雛実は後部座席に乗り込んだ。
できれば細川の車に乗りたくはなかったが、こんな田舎でタクシーを拾う自信はない。バス停がどこにあるかも検討がつかない。
だから、不本意ではあるが細川の車に乗ることにした。助手席だけは御免だった。
「……雛実ちゃん……諦めないからね。」
そんな雛実の姿を見て、ボソッと呟いた細川に、雛実は少しだけ胸がチクっと痛んだ。
そこに雛実の携帯電話がメール受信を知らせる。
『雛実ちゃん、手は打ったから安心して。きっと大丈夫。駅で待ってるから。』
木浦からだった。
彼氏でもない、好きな人でもない、それなのに、何故私はこの人とベッドで戯れているのだろう。
「やめてっ、や、やだ!」
「雛実ちゃん、寸止めしたっていい、試したいんだっ。」
「私は人間ですからね!生身のっ!こ、心ってものがあるんですよ!」
ああ、もうわけわかんなくなってきた。拒否する言葉を言い過ぎて、何か哲学的な要素に思考が食いつきそうだ。
誰がいいだろう、ソクラテス?カント?バークリー?いやいや、誰も違う。
今、細川さんの思考を揺るがすのは……この手を引っ込めてくれるのは……
《プルルルル、プルルルル、》
この空気を引き裂く正義の呼出音。
「っな、こんな時に!」
《プルルルル、プルルルル、》
「出ないんですか?」
《プルルルル、プルルルル、》
「……はっ、何なんだよっ!タイミング悪すぎ…………っぅえ?」
しつこく鳴り続ける細川の携帯電話。すぐ側に脱ぎ捨てられた上着のポケット内にあるようだ。
最初は無視していたが、あまりにも長い着信音にしびれを切らし、ようやく細川は内ポケットから電話を取り出した。
そしてその液晶画面に表示された相手の名前を見て、驚愕した。
「出た方がいいんじゃないですか?」
「ぅ……ぁ、はぁ~~」
うな垂れた細川は雛実に跨ったまま受話した。
『もしもし、君は今どこにいるんだっ!?外商部が誰もいないから伝票が滞ってるんだがっ!』
「あ、はい、すみません。今日は既に退勤済みで…」
『はぁーっ??明日がなんの日かわかってるのかっ?副社長が来るんだぞ!今日中に判子揃えておかにゃならんことくらいわからんのかっ!?ったくあの課長は当てにならんし、君がいないと外商関係の伝票が回らんだろっ!今すぐ来い!わかったなっ!!』
「……申し訳ありません。わかりました。では、30分後くらいには行きますから。」
電話の相手は販売部長だった。
明日は急遽副社長が来て、店を巡回する予定なのだが、伝票チェックなど注意項目にあっただろうか。
眉を顰めながらも、細川は渋々雛実の上を離れなければならなかった。
あの販売部長の声を聞いて、萎えない訳がない。
「……大丈夫、じゃないですね……」
「あぁ、全くヤバイな……雛実ちゃんの願いが通じたのかな、誰かさんにさっ」
「願いが?あぁ、まぁ、もしかしたら」
「フッ、まあ、いいさ……また次があるし。はぁ、それにしても、まさかな……はぁ~~」
動揺を隠せない細川は、上着を着て、身なりを整えると、雛実に手を差し出した。
雛実も、細川が離れたことでようやく自由になり、乱れた衣服をササっと整えていた。
「行こうか。」
「いえ、手は、大丈夫です。」
「……そう」
雛実は細川の手を取らなかった。
これからあの販売部長の怒号と付き合わなければならないと思うと、頭がクラクラする細川は、雛実に拒否されたが執拗になれなかった。
ついさっきまでのギラギラした目は、すでに燻んでいた。
駐車場に停めてある車に入る。
キーが解除されるや否や、雛実は後部座席に乗り込んだ。
できれば細川の車に乗りたくはなかったが、こんな田舎でタクシーを拾う自信はない。バス停がどこにあるかも検討がつかない。
だから、不本意ではあるが細川の車に乗ることにした。助手席だけは御免だった。
「……雛実ちゃん……諦めないからね。」
そんな雛実の姿を見て、ボソッと呟いた細川に、雛実は少しだけ胸がチクっと痛んだ。
そこに雛実の携帯電話がメール受信を知らせる。
『雛実ちゃん、手は打ったから安心して。きっと大丈夫。駅で待ってるから。』
木浦からだった。
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